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ボス戦前準備

「何かついてきてんな」


そう呟いたのは誰だったか。

30層を目指す中堅3クラン合同の大所帯を追尾している者は砦を出た当初は何人かいた。

それも次第に自分たちの目的地である22層とか途中で離れる。所謂道中の敵排除を先行しているパーティーにさせて消耗を抑える方法だ。

勿論先行する身としては利用されるのは嫌であるがそんなものはどこでも横行している。

逆に砦の人間ならお前たちが大人数で乱獲するから俺達の取り分が無いだろと図太く難癖をつけるくらいはやってのける。むしろこれくらい言い返せないようではここではやっていけはしない。

だからこの人数で動くのなら当然モンスターに遭遇すれば避けるのも無理だから特に目くじらを立てるようなものではなかった。


その中でどこまでも一人で追ってきている者が居た。赤いフルプレートに荷物を背負った男。目立つ格好、一度でも見ればそうそう忘れないだろう。誰の記憶にないのならば新顔だ。

大抵ハイエナ専門のソロだなんて持てる量もリスク管理の面で見ても21層周辺で引き返すのが妥当。

それにハイエナとはいえソロでこれだけストーカー出来るのなら真っ当に稼いだ方がいいだろうに。

もっと奥の層に欲している物があるのだろうか。

パーティーでストーカーしている者もいなくなり、最後はその一人だけが残った。


「偉い根性の入ったハイエナだな」


馬鹿にするように笑い声が上がった。

しかもそのハイエナはこちらに追跡しているのがばれようが関係ないと言わんばかりに隠密も忍ぶこともせずいっそ清々しいくらい堂々と追ってきた。あっぱれ、こりゃあ筋金入りだ。

索敵の上手い者は大抵先頭か後方に居るもので、重い荷物持ち等の役割やいつ戦闘になってもいいよう身構えている者は索敵の任から外れているが、その者達でもそのストーカーのことは気づいていた。

ガチャガチャと鎧の音をたてながら、足音も大きくしかも食べ歩きをしながら着いてきていたからだ。

せめて、せめて食べ歩きはやめろよと。今から激戦に望む俺達がバカみたいじゃないかと。

余りにもその無神経具合がこれから決戦に向かう冒険者達の神経を逆なでた。


「ちょっとビビらせるか」


「おい、よせ。あんなのでもモンスターが後ろから奇襲の時にクッションになる」


敢えて道中戦ったモンスターの死体を、血の匂いが漂うように捨てる。そうすれば周囲のモンスターが匂いを追ってやってくる。勿論そんなことをすれば後方の守りを厚くしないといけないが、まずあのハイエナが襲われるのは明らかだ。少しでも時間を稼げれば御の字、その間に逃げても戦闘準備を整えてもいい。


それから少しして当然、周囲が騒がしくなった。

血の匂いを嗅いで狙い通り敵が集まり、後方からモンスターの唸り声が響いてハイエナのフルプレート野郎が早速襲われているのが見えた。

当然追跡どころでなく、必死に応戦している。

判断が悪い。あの数相手は一人じゃ意味がない。さっさと逃げるべきだ。

こっちに逃げ込んできたり助けてくれと言わなかったのは拍手に値するが、そこは意地でも何でも捨てて助けを求めるべきだった。

たまにあーいうのがいんだよな。ハイエナしてる癖に妙にプライドがある奴。だから仲間ができなくてソロなんだろうけど。

褒めるべくはモンスターがこちらにまで回ってこなかったことだろう。

きっと砦の方に引き連れる形で逃げているんだろう。


「これで砦まで逃げ切れたら中堅として素質あるかもな」


「流石に死んだだろ」


それから一行はそのことを忘れたように道中を順調に進んだ。

行軍は順調だった。三つのクランが初めての協力だというのに中々の連携だった。

というか連携できないような奴はこのレベルでやっていけなのだ。あのハイエナみたく。

このままなら少し前倒しで30層に到着できるかもしれない。遅れないのであれば時間的余裕はプラスだ。

念入りの前準備をしてボス戦に挑めるだろう。

そして程よく進んだところで一行は予定していた中間地点の休憩地点に入った。

荷物を降ろしてクランごとに纏まって分かれてテントを張り、食事や道中での各自の消耗率を確認する。

あくまでただ今回ばかりの打算的な協力だ。最低限のミーティング等はするが干渉する気はないし慣れ合う気も無い。

最悪、道中で裏切るなんてこともあり得る。互いに必要以上に距離を置くのが当然だろう。

当然見張りもそれぞれでたて、交代でいよいよ寝ようという時に少し周囲が騒がしくなった。

見ると、後方の遥か遠くの道に何もなかったように食べ歩きをしながら先のハイエナが歩いてきていたのだ。


「えぇ……マジかよ。普通来るか?」


あの重そうなフルプレートで百歩譲って砦に逃げ帰るのならわかる。あのモンスターの群れを処理してなお追ってきたのか。何て意地汚いハイエナだ。商魂たくましすぎる。

一周回って強いんじゃないかこいつ。

休憩地点ではそれでこそハイエナだと嘲笑と半ばあきれた声が漏れた。








それからそのハイエナは何日も追ってきて遂に29層、ボス手間前までついてきた。その時は誰ももう、追い返す気にはならなかった。


29層と30層を繋ぐ階段は空中浮遊石を渡って辿り着く。空中に浮かぶ島のような岩を渡って人類は次の境界を突き破ってさらなる高みへ望むのだ。

まるで空に浮かぶ月や星を渡るその光景はまさに幻想的で、30階層からは霧というより雲の中に突き出た高い山のようなフィールドが続くという。そのため空気は薄くなり、高所順応を十分に済ませてから戦いに臨むことになる。

ここを越えた者は周囲からの惜しみない称賛と冒険者界の伝説に加わることになる。

終わりのない冒険者活動のある意味の目的、ゴールでもある。その運命が今日決まるのだった。

このまま合併ないしはずっとこの関係が続くのでなければ、最終的には合同でなく単体のクランで攻略できなくてはならないが今回の一戦で得られる情報もモンスターの素材も後に大きな財産となるだろう。


階段下で最後のミーティングが終わった。あとは一時間後に各自のコンディションを整えて一斉に向かうこととなった。

そんな中で三つある中の一つのクランの頭を務める雨宮がチラリと後ろを振り返った。


やはりいた。

集団から少し離れた距離で赤いフルプレートの男が器用に兜から口だけを出して飯をもぞもぞ一人食っていた。顔は窺い知れないが、この数日の観察で決してこちらに害をなそうというのではないと気づいた。

余りにも堂々したその所作はきっと襲うことももしするのなら正面から堂々とするのではないだろうかと思わせる。


「ちょっと話してくる」


「今更? 辞めた方が良いでしょ。ほっときゃいいんだよあんなの」


確かにそうだが、少し引っ掛かりを覚えた。何しにここまで来たのか。

見るとハイエナらしく何かモンスターの死体を漁って持っているわけでもなく、ただこちらを本当にこの何日も追ってきただけなのだ。

ハイエナならわかるが何か得体のしれない者は逆に不確定要素として不安となる。

念のためクランから数人ついてきて雨宮の後を追った。


ハイエナは逃げることも隠れることもせず、堂々と飯を食べていた。きっと不器用なだけで、今更襲ってくる心配はしなかった。


「おい、どういう目的で来た。戦闘中におかしなことをされたらたまったもんじゃないからな」


「……」


どうやら喋るつもりはないらしい。

不気味だ。まるで一つの置物や岩のように沈黙を守っている。

これで仮に集団ハイエナならボスを倒したところで漁夫の利と、最悪なパターンではあるが理に適っているから予想ができる。一人でやるもんじゃない。

なら残る可能性は戦力偵察のような物だろうか。クラン合同の連携とそれぞれのクラン単体の評価。それと30層ボスの情報を持ち帰る事。どこかの企業やクランの使いかもしれない。

だがそれでも腑に落ちない。もっと他にやり用があるだろう。


言葉続けようとしたところで、ついてきたクランのメンバーが懐から代用チョコレートの高カロリーバーを取り出して渡した。


「おい、何勝手にやってんだよ」


「え? だって何か食べてるとこ面白かったから。それに勘だけど彼かなり強いと思う」


フルプレートは一切の躊躇もせずそれを受け取った。そしてもう返さないぞと言わんばかりの勢いで包み紙を破って食べてしまった。

渡したクランメンバーはそれをまるで動物に餌付けしているような感覚でニコニコしながら見ていた。


「ほら、面白いでしょ。きっと何もしないんじゃない?」


「だからって……いいなお前、おかしな真似をしたら真っ先に殺すからな」


毒気を抜かれた。普通は混入物とかを疑って人からもらった物を口にしないだろう。

忠告はした。これで何かあっても最悪殺した場合でも周囲から責められることは無いだろう。

集まりに戻ると他のクランの奴らがにやにや見ていた。


「一緒に戦ってくれーって泣きついたのか?」


「役に立たんだろフルプレートなんて」


まだ下層の雑魚相手になら通用するだろう。だが今回、特にこのボスには通用しないだろう。


そのための対策を自分たちは嫌というほどしている。ほかならぬ自分たちが過去に散々それを思い知らされたからだ。

出来ないでここでの冒険者人生を諦めて他に行った者も知っている。

何人の中堅がここで折れ、散っていっただろうか。それは計り知れない。あの上位陣が異常なのだ。そして今回、自分たちはその足掛かりを手に入れる。

そこにあるのは圧倒的な種族による暴力的な蹂躙。それを越えなければ栄光に届かないのだ。だが、それでいい。強敵。誰でも簡単に倒せるような奴を倒しても意味はない。


「しゃあ、行くか」


その掛け声で武器を掴んだ。輝かしい未来のために。


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