道案内には気を付けよう
冒険者のグループがあった。
一人は重装備で鎧を着こんで盾を持ち、重厚なハンマーを振り回して敵の攻撃を一身に引き付けている。
一人は刀を持って敵の数を減らすメイン火力を務めている。
一人は後方から銃をぶっぱなす後方支援、そして主な司令塔。
一人は敵の中に入ってかき乱しは離脱し、前3人が仕留めそこなった敵を念入りにトドメを刺して場合によっては死体が邪魔にならないよう退ける。
一人は大きな荷物を担いで時に消耗品の補充を務めつつ周囲警戒、余裕があれば死んだ敵から売れる部位を急いで回収をしている。
そしてさらにもう一人が戦闘にも何も加わらず他人事のように後方から眺めている。まあ、これは俺なのだが。
差異はあれどここで、あー安定してんなーって思えた冒険者チームは大抵役割が割り振られていて機能している。だから俺はそういうグループに目をつけて後ろから眺めていた。
一層は敵の数より人間の方が多く、敵も弱くて戦わないで観察している人の方が多かった。だから戦いというほどの戦いは無かった。敵モンスターを倒すことより寧ろ他の人に横取りされないようにする方が難しい具合に思えたくらいだ。
二層も差異はあれどそんな感じだ。何十人もいる人の群れの中に俺も紛れ、周りの人に合わせる集団意識的な物に身を任せた。
されど進んでいくとどんどん人が居なくなる。それぞれの目的階層に到達すると散っていく。ここまでくるとただ貴方と進む道が一緒なんですとは言いにくい。ここまでくればストーカーだが、その同業ストーカーの数も少なくなっていく。
中には敢えてだろうかそれとも目的地だったのか脇道にずれ、時間を潰しつつストーカーの出方を探っている人達もいた。
結構勉強になるもんだ。道中の他の冒険者との駆け引きやストーカーへの対応、特に解体工場で全身をばらすのではなく、戦闘中という緊張感のある中の限られた時間内で貴重部位だけをモンスターの死体からはぎ取るというのは手順も効率もまったく違う。
彼らが戦闘が終わって立ち去った後に俺はモンスターの死体に近付いて見本のようにその解体具合を確認していた。
綺麗に買取単価の高い所を抜き取り、高いけど嵩張る皮は捨てている。
血の匂いで他のモンスターが寄ってくるための対処。その判断も後学だ。
勿論彼らが後方確認の際そんな俺を見てハイエナ行為によくない顔をしていたがそんなもの気にしない。
彼らもこれが集団でストーカーされているのなら追剥に狙われていると考えるのも無理ないが、一人でしかもこんな目立つ全身鎧だから、あ……こいつボッチか。仲間に入れてほしいのかな? でも入れねーよ的な感じで見逃してくれている。
たまについてくんなとかお前動画に撮ったから晒してやるよと、たぶん独特な訛りが酷い田舎流の挨拶をされたが全部無視した。
消耗を抑えるためにもストーカーするが時間も無いことは確かなので、都合の悪い先行冒険者だったらとっとと一人で突き進んだ。
一人で今まで渋谷第三でいたため、こうして人がいることが当たり前のダンジョンで周囲とぎくしゃくしているのも何だか新鮮だ。
けどやっぱり一人がいい。
クンッ‼ と体が沈んで前に動き出す。
これをもし誰かが見たらそれは人の走りでないと言われただろう。
まるで小さな人体に電車や車のような重さがあるそれがモンスターエンジンの馬力で走っているような走行。土煙を高く舞い上げて、重量感がある、あるがそれを思わせないような疾駆。直角で曲がるそこには地面をめくりあげながら慣性でその重い体と鎧を無理やり身体の頑丈さで物を言わせた急制動。驚くべくはその速さと重さを完全に制御できていることだろう。時に飛び跳ね、時に姿勢を低くして障害を難なく潜り抜けていく。
飛び出したモンスターなぞは車のフロントガラスに叩き付けられたカナブンのように吹き飛んでいく。
そのまま俺は永延と走るのだった。
21層、塔内拠点砦。
そこはダンジョンが攻略されるにつれ、休憩所から寄合所、そしてダンジョン22層以上の攻略者が地上まで戦利品を持ち帰るのを専門の仲介業者が買取を行うようになったのと、犯罪を行ってダンジョンに逃げ込んだ犯罪冒険者が武力を提供する形で協力して出来上がった時代背景のある治外法権の世界の果てにあるような場末の建物群だ。
完全な人が住める定住地として完成されたそれであるが、山の天辺にある自販機がアホみたいな値段設定であるのと同じで価格相場は高騰している。
勿論犯罪も起こるし、地上で違法なことも当然のようにまかり通っている。
ここでやっていけるかが中堅になれるかどうかの境目。そんなターニングポイントだ。
21層まで難しいと思われた攻略であったがそこは先人の知恵。依頼者から教えられていたのだ。
9層まで行ければあとは成り行きで21層にいける。10層と20層にいるボスには万が一気をつけてと言われたが。
ボス!? ボスなんてここいるの!? となったがどうやら新宿は10層ごとにボスだけがいる層があるようで、そして10層のボスは雑魚の割りに高く売れるので入れ食いらしい。だから倒さなくてもいい。寧ろ出て来たら速攻で狩られる上、倒したら一か月、下手したら数か月以上現れないので会えるかどうかも奇跡に近いくらい。天然記念物級。
今回21層である合同会も30層ボスを討伐するためのらしい。そして21層の拠点砦は正確には20層から21層の間にあるらしく、20層のボスも速攻で倒されて逆にボスだけしか出ないその階層を拠点として利用されている。モンスターの住処奪って暮らしているだなんて人類っていうのは逞しいな。
そのため、上に登るにつれて冒険者が減っていったが逆に人が次第に増えだした。21層の利用者が近いから下りてきているのだ。実質ここまで障害はモンスターもそこまで強いのは居らず、地形と迷子による時間との勝負であった。
景色のよさそうなところで自撮り写真を撮る為に足止めを食らったし、わき道にそれて物陰で厭らしいことをしているカップルを盗撮したり、それでばれて追いかけられて逆走したり。
時には旨そうな茸を見つけて食べれるか調べて小一時間かかったりもした。
一番の難所は他のことに夢中になりすぎてそもそも何で俺は急いでいたのか思い出すのに時間がかかった。
21層はまるで祭りのように屋台が立ち並び、喧噪の絶えない砦だった。過去の偉人のようにモンスターの侵入を阻む壁建築の偉業を讃えて田中ウォール建築という独特な様式の壁と建物がある。鉄骨が組まれて、二階三階と赤い屋台が立ち並び、壁にはチーズの様に穴が空いて住宅となっている。
屋台には祭りのように飲食できるのもあるが、やはりダンジョンというべきか物騒な武器に弾薬、各種備品がアメリカのように売っている。射的の屋台かと思ったら本物の銃だもんなあ。ここでの買い物はかなり高いが、請求先は依頼人に押し付けよう。
いい香りがしたので屋台に寄って串焼きを買って亭主に話しかける。
「どうもー、今日初めて来たんですけど―」
「あん? あー確かにこんな目立つフルプレートなんてなかなか見ねーな。そうだな……」
言いよどんでいる。何か言いたいことがあるって顔だ。そういうことか。俺は追加で数本串焼きを買う。
一本は譲った。
「ここでやっていくんなら言動に気をつけな。きょろきょろ挙動不振に見ない事も。ここに来て中堅気取りになった初心者は絶好の鴨だからな」
「あーサンキュ。30層目指す合同会? ってどこかわかる?」
来たばかりで30目指すのか? 辞めとけと言われたが場所を教えてくれた。親切だ。だから追加で更に串を買って道を歩いた。
それから同じようにいくつかの屋台で同じことをした。皆が皆親切に場所を教えてくれたが、同じ場所を言っている奴は少数だった。結構な人がバラバラに違う場所を教えやがった。
きっと教えられた場所ではグルの怖いお兄ちゃんが待ち構えているに違いない。
ほーん、そういうところか。なまじ俺はスラム街育ちじゃないんだ。だって俺も似たようなことしたことあるもん。
俺が騙した奴が運送バイトの届け先のゲイバーで働いているところ見かけた時は本気で一晩追いかけられたのも記憶に新しい。彼とそして俺自身の自戒のためにいい教訓だ。
あの串のおっさんは正直者でなかなかいいやつだった。一番旨いし。
その後、合同会についてどのような奴らが集まって会が行われるかの構成メンバー、目的を聞いて回った。案外有名らしくすぐに情報は集まった。
新宿ダンジョンにはまず30層以上に進出できるグループは主に四つあるらしい。その四つは横並びで40層ボス攻略で止まっている。そのうち一つが先日ボスを突破して拮抗を崩して華やかしく前人未到の41層目に足を踏み込み、行方不明になった今回の依頼の目標だ。
馬鹿だなと笑いそうになったが、こんなワルが蔓延っている町だからこそ実力至上主義が尊ばれ、ある種の信仰に近い憧憬があるみたいで笑うのはやめといた。
なら他三つが協力して遭難者探索をすればいいのにと俺としては思うが、そこは利権問題とかあるらしい。別にダンジョンはここだけでないから他にも行っているし、それぞれにも都合がある。特に、この四つは仲がいいというよりライバルなのだ。親友と書くライバルもいれば宿敵と書いてのライバルもいる。ようは仲が悪いのだのろう。
その四つのグループがここでの上位冒険者。
そして今回ここで集まるのは今まで中堅として30層のボスに勝てず燻っていたやつらだ。
上位陣の一角が崩れて席に空き、あわよくばそこに自分たちを売り込もうという魂胆なのだ。たしかに行方不明になるまでそこのグループにあった依頼や企業の提携が他に移っていっている今はまさに商機だろう。
20層までのボスは出て来たら速攻倒されるが30層のボスはそうでない。倒せば暫く現れないがその戦闘力は段違いで強く、これを安定して倒せなければ帰り道ばったり遭遇しようものなら帰れなくなるのは必至だ。
コイツに安定して倒せなければ30層以上ではやっていけないという分岐点のボスなようだ。
つまりはこの会の目的は死んだ可能性の高い行方不明のグループの後釜につきたいと。
それで企業契約を取ってくるためには30層のボスを倒せることが必要だと。俺としてはどこが勝とうが一切興味はない。金さえもらえればいいのだ。
俺はその合同クランの集まりがあるのを遠巻きに見て明日追跡するために顔を覚えるとよさげな宿屋に泊まってその日は寝た。
次の日、合同クランが出発した。一種の祭りのように町からは送り出され、俺のような便乗、ハイエナが続くのだった。




