ダンジョンで寄生行為だなんてする奴は最低だ‼
新宿バベル。それは上に伸びるダンジョンと言われている。たまに渋谷の中を歩いているとチラリとコンクリートジャングルの隙間からその大きな塔がちらりと見えることがある。それほど大きいダンジョンだ。
近くの建物に住んでいる方はさぞ日照権を声を大にして訴えたいだろう。
そんな塔であるこのダンジョンは不可思議な現象が多々ある。まず、外から計測した塔の大きさと中での面積や高さなどが合わない事だ。
所謂異空間もしくは異世界と一説では唱えられているが真偽のほどは定かでない。大きさどころか塔の中だというのに空があったと思えば、海があり、山もあれば新宿どころか東京全体より広い平原もあるとかないとか。
極めつけに塔付近に入口以外からの侵入を拒むような謎の不可思議な力場が展開されている。その空間は塔まで視界を遮るような障害物も何もなく目と鼻の先の距離だというのに迷子になったり、空間がループ、重力が曲がる等の人知の及ばない現象が起きる。過去、様々な試みが行われたが入口以外から侵入するズルを許さないようにそのことごとくが失敗に終わったらしい。勿論それでも乗り越えようと試したものがいるが数か月間遭難してやっと無限回廊から出られたというのもいれば餓死して見つかった者や未だ未帰還の者もいる。
天辺も何故か常に雲一つない晴天の日でも塔の付近だけはエッチなアニメの入浴シーンみたいに雲に覆われ、そこから先が消失したかのように現代科学では理解不明な神秘なベールに包まれている。もしかしたら到底人類には見せられない卑猥な造形をしているのかもな。
そのため誰かが言ったのだ。このダンジョンは奥に行けば奥に行くほど敵が強くなる。そして冒険者も奥に行けば行くほど必然的に強くなる。不可思議な力を手に入れ、身体機能は向上し、老化も遅れる。まるで試練を与えられ、神に近付いているようだ。ここは神に至る為の塔、旧約のバベルの塔だと。全ての答えがあるに違いないとまもとしやかに語られているのだ。
そんな宗教的観念のような、俺としては眉唾だが、一種の狂気と熱気を内包する塔なのだ。
なら、下に行く渋谷第三みたいなオーソドックスなダンジョンの先は地獄にでも続いているのだろうかと思わんでもない。
そんなところに挑む俺であったが、何も無策で行くわけでない。いや、そのつもりだったが依頼者がせめてものバックアップとマニュアル本に各種装備と備品をくれたのだ。門外不出のそれまで所属冒険者が集めた塔攻略情報や手記も強奪に近い形で頂いた。
そして急いで攻略方法とその日程を馬鹿の俺でもわかりやすく教えてくれた。勝手に外出したら追われる身でもある俺に頼むということも相手もわかっていたようで、そこは流石ベテランマネージャーの腕の見せ所だった。うん、これでお前も共犯だ。
「頼んどいてあれだけど本当にもう行くんですか?」
「え? そうだけど。前々から行きたかったから丁度いいかな。あ‼ ここって何がお土産有名?」
「依頼の方を優先してください‼ 頼みますから行方不明者を連れ帰ってください‼」
「死んで骸骨になってたら頭部だけでいい? それともドッグタグで大丈夫?」
「さっさと行け‼」
そうせっつかれた俺はダンジョンに入るのだった。
足に取り付けられたGPSバンドを引きちぎり、ダンジョン一層に入った俺を迎えたのは青臭い草原の匂いだった。頬を打つ風は紛れもなく本物で本当にここが塔の中とは思えない。
上を見上げると建物の中なのにたなびく雲にどこまで済んだ青い空と爛々と輝く太陽が二つあった。二つ?
え? 見間違いじゃない本当だ。太陽が二つある。何て自己主張激しい太陽なんだ。
マニュアル本を開いてみると10層まではほぼ同じような地形が続き、24時間太陽が照らす白夜のような世界のようだ。因みに太陽も正確には3個あるらしい。
太陽が多いくせに暑すぎずちょうどいいくらいの暖かさが渋谷第三とは違うとこだ。お前が流行らないのそういうとこだぞ第三。
ここは暖かくてまるで夏のような日差しであり、モンスターがでるが海もあるみたいで一年中水着の女性が拝めるんじゃないだろうか。
うーんなんかめんどくさくなったし、ビーチに遊びに行こうかな。いや、駄目だった。時間が押しているんだ。
そこで俺は周囲を確認する。ここはダンジョン入り口。俺のような入って来たばかりの人が他にもいる。
マネージャーが俺に攻略チャートを作ってくれたのだ。
まずは21層塔内拠点砦で一週間後に30層に向かうための合同クラン同盟が開かれ、それになんとしても間に合えということらしい。
そこから30層まで行き、そこからは一人で40層まで進んで行方不明者がいるであろう41層で捜索を行ってほしいとのことだ。
ほぇー、ダンジョン内に砦ではあるが人間の住んでいる町があるらしい。
何もかも規模が違う。結構面白いかもしれない。
始めて来た者が一週間以内に21層まで行くのは非常に難しい、実質不可能だが俺のポテンシャルとある事さえすれば可能性があると説明された。
その為には人を見極めろとのこと。周りにはいつぞやの俺のように金に困って冒険者になっただろうみずぼらしい武器らしい武器すら持っていない人がいる。因みに俺は備品を持って行っていいと言われ、クランハウスの飾ってあった鹿とかの首の剥製とか虎の絨毯があった所に何体も鎧があったのでその一式を貰った。それは一応ダンジョンで手に入れた防具で実用性はあるが重さの面で家具として飾られていたものらしい。
確かに普通の人間なら重いかもしれないが金属を食べて金属の体でできている俺にとっては一食分くらいの重さだ。赤くて俺の髪に合うし、軍から正体を隠すために都合のいいフルプレートだというのが気に入った。少し目立つが男子というものは剣とか鎧とか好きだからいいのだ。だって俺以外にも似たような格好の奴は少数だが居ないことも無い。
まずは出来そうな奴と出来無さそうな奴、あんな無課金プレイヤーみたいな装備じゃなくてソシャゲの重課金者みたいなできる雰囲気の人間を見極め、そして貰ったマップを確認して次の階層へと繋がる階段を目指す者の後ろをついていく。
それがすばやく安全に簡単に次の階層に行く手段らしい。
勿論一層なら駆け出しの初心者でもなければ次の階層に向かう。確かに大半の人間が向かっている。俺もそれに何喰わない顔で流れに加わった。
流れに沿って歩きながら持たされたマニュアルを見る。ただしと注意書きがあった。
この行為はどんどん奥に行くと難しくなると説明があった。
有名で横行しているからこその冒険者社会問題。
強い人に先導させてモンスターを倒してもらい、安全を確保してストーカーのようにずっとついていく。雑魚敵でも死体を売れば金になるがベテランにとってはただ荷物を圧迫するだけだから捨てられる。横行しているそのおこぼれを狙う所謂寄生行為やキャリー、ハイエナ行為だ。
勿論先行する者としては自分たちだけ戦って後からきた何もしない奴が持って行くそれはあまり良い思いをしないだろう。特にダンジョン内では法律も無ければ警察もいない。人を殺しても犯人はモンスターかどうかわからない。死体も放っておけばモンスターに食われる。だからモンスターだけでなく人間に襲われることもあるらしい。後ろから誰かが追ってくるというのは戦闘でも集中を割くことになる。だからいっそ……だなんて話もあるとかないとか。
そのため各種クランや冒険者では暗黙の了解がある。
ベテランはストーカーされない程の圧倒的な機動力でモンスターもハイエナも振り切る。それが最も周囲との摩擦なく効率のいい方法みたいだ。
今は俺みたいにスマホを取り出して写真を撮りながら食べ歩きしている緊張感のない奴もいるが、奥に行けば行くほどより強者だけがふるい分けされ人数も少なくなって難しくなる。
一週間で21層を目指すってことは1日3層ってことかな? いや、敵がどんどん強くなって足止めを食らう頻度を考えればそれじゃあ駄目か。でも21階って結構ビルとかマンションなら簡単だよな。地震の時にエレベーター止まって地獄の宅配を経験したことのある俺としては楽そうなんだが。
そうこうしていると階段が見えて来た。
いや、階段と呼べる代物だ。
唐突にそれは見えた。空に穴が開いている。まるで紙に書いた空の絵にそこだけ穴が開いてしまったような光景。しかもそれは酷く遅いがふよふよ移動しているのだ。
そこから何本も紐梯子がたらされて組まれ、人が当然のように昇っていく。俺が加わっている行列の先は紛れもなくそこに向かっている。まるでザイルクライミングに子供の列ができているみたいだ。
どうやらこれがここの常識らしい。
恐るべしダンジョン。そりゃあ何十年も攻略されないもんだ。
慌ててこんなのが続くのかとマニュアルを開くと違うのも当然あり、外国の高山にあるような断崖絶壁の幅数十センチを登る、勿論その途中でモンスターも襲ってくるのがあるが、それでも比較的安全らしい。他は一癖も二癖もあるようだ。
「こりゃあ難しいかもなあ」
俺はロープを掴んで上を見上げるとそう思うのだった。




