閑話
――――――ルームメイト視点
ある日教官に呼び出されて集合した。横を見るとどうも呼び出されたのは自分と同じ能力者学校飛行能力者である同級生だった。ルームメイトで常に同室で寝食を共にしている仲間。ライバルでありかけがえのない戦友。きっと軍に正式配属が決まった後も希少な飛行能力者故に同じ部隊に配属されるだろう将来も末長く縁が続くと思われる仲間たちだ。
他の能力者たちは派閥があって対立もあるらしいが飛行能力者は基本そこらへんの壁が低い、というか飛行能力者らしくそんな壁は飛び越えるそんな揶揄されているくらい飛行能力者はよく言えば高い視野から考えがちでスケール大きくてが自由、悪く言えば大雑把で適当な性格のやつが多いと言われる。本人たちは集まってそんなことねーよなーと互いにいいあっているのだが。
それぞれの顔を見渡すと集合理由を考えた疑問顔。目線で合図を送ると肩をすくめて自分と同じように無言で、誰か心当たりはないか見渡して終ぞわからずじまいだった。
呼び出された理由は誰も心当たりがない。一体何なのか。その探り合いはしばらく続いたが、直ぐにわかることでもあって鎮静していった。
さてと、教官が口を開くのを待っていると勿体つけるようにためを作ると言葉をのたまった。
「喜べ貴様たち、本日より新しい仲間が加わるぞ。こいつは未成年能力軽犯罪者の矯正としてここに来る。基本は一般学校に通いつつ空いている時間にここで貴様たちと一緒にしごかれることになっている」
長ったらしく言っているが転校生のようなものだろうか。数年に一度あるかないかのかなり珍しいイベントとわかると恒例でわーっと周囲は盛り上るのだが今回はやべえと口をついて出た。
基本自分たちのような親から引き継いだ家系能力者は最初からエリートコースとして軍学校、もしくは冒険者養成学校に進む選択をすることとなっている。
このように途中から来るのは大抵普通学校生だ。つまり何がどうすればそうなるのかはわからないが未成年の子供が能力を得るほどまで過去にモンスターと壮絶に戦ったということになる。そんないろいろな事情があるのだろうがつまりは大抵は戦闘経験済みでここに来れば即戦力。まさに祝福されるべきことなのだが、皆の顔からは血の気が引いている。
それはある噂を聞いたのだ。
皆のあこがれだった。彼が学生時代に行った綺麗な円弧を空に描くように築いた軌跡は飛行能力者の模範的な飛行として教本に乗っていたり、少なくない数の学生が彼の動画を見て夢中で真似しているのだ。
実際学校には彼の親族も通っておりその誰もが好成績をたたき出している名門早乙女家。先日の事件でそのトップの早乙女大佐を破りそして
全裸に剥いて縛り上げ無理やりケツを掘った
界隈では女子がドラゴン鷹S○Xとか言って腐臭をまき散らしている例のあれだ。このタイミングだとしたらその例のあの人で間違いないのではないだろうか。
軍のエースを力づくで掘ったゲイ野郎がルームメイトだって? 破滅まで急降下じゃないか。まさにみんな鳥肌を立てて震えた。破滅への足音が聞こえた。
「俺様の時間だぜ‼」
ドアを蹴破って現れたのは破壊神だった。
肩にはトゲトゲしたパット、エリが壮大に立った世紀末風マントに片方乳を曝け出した蛮族の衣。手にはモーニングスターをぶら下げており無駄に高い下駄からはピンクの毒々しいマニュキュアの指が飛び出している。赤く腰まで伸びた長艶やかな髪のツインテールを無骨なでかい業務用洗濯ばさみで結んでいる。極め付けにTシャツがだめだ。Mother Fa○krってそれスペルミスしているぞ。
一目でこれ絶対関わっちゃいけないタイプの人だと自分の中でガンガン警鐘が鳴っていた。
「ちゃんとした格好してこいって言っただろうが‼」
「違いますー。第一印象が大事だから一番高い服を着て来いって―――いった‼ 殴ったなてめぇ‼」
ぎゃあぎゃあぎゃあ‼
殴られてキレた世紀末覇者が一同の前で教官の足払いをすると、止めようとする前に流れるような速さでロメロスペシャルを決めた。見事な出来前に一同は拍手を送った。
そして騒ぎを聞きつけた他の軍人がわらわらと集まると一笑いした後全員で野蛮人を袋叩きにして軍事刑務所に連れられて行った。
登場から退場までまさに一瞬。
そうして彼の名はまだ誰も知らなかった。
彼が戻ってきたのはそれから暫くだった。
一般校からの転校生。正確には彼は元の学校に通っていて塾みたいに余った時間ここに通うらしいのだが。
能力者家系に生まれてエリートとして育ったものが通う軍学校では一般人の普通の交友関係や自由な外の世界での庶民の暮らしというものは見下している偏見を持つ者も居れば逆にどこか憧れに近い感情を持っている者も居るのも確かだ。
だから彼の話というのは新鮮で興味深かった。
自己紹介で彼は独白するように言った。
自分は平凡な人間であること、寧ろここに集まっているエリート集団の中では完全に劣っている自覚がある。だから舐められないためにも、意外と普通の人なんですねと失望されないためにもあんなことをやったんだと説明した。
でも聞いていてその言葉にどこか引っ掛かりを覚えるような感じだった。
まるでサイコパスが普通の人間社会に溶け込もうと人のまねをして、きっと普通の人間ならこんな風にリアクションするんだろうなと打算的に考えているみたいだった。
馬鹿は馬鹿なことしかできないが、頭いいやつは頭いいことができるのとは別にやろうと思えば馬鹿なことができるそれに近いもので、正常な人は基本正常なことしかできないが狂っているけど敢えて今は正常風に装っている狂人なのだと悟った。
だから彼はこう言った。
「皆きっと俺がいかに普通そうにしても信じないだろう。なら狂人のフリをしてもいいよね」
うーん。どんな理論だこんな思考回路のやつがいるだなんて。軍学校の外の民間の学校にはこんな奴がいるのか。
案外一般人の学校ほうが混沌としているのかもしれないな。
やっぱそこまで深入りして知らなくてよかった。寧ろ知りたくなかった。
軍学校には厳格なイメージが周囲に流布されているが、家系能力者故に典型的な金持ち育ちとしての問題児や力に奢った暴力を振るう問題児もいる。機密漏えいを防ぐためにそう言った内容を生徒も含め口外禁止になっているのだ。特に彼のドラゴンのことでは再三にわたって口頭でも書類契約サインでも念を押された。
しかしこいつの場合は既に外で散々問題を起こしているのだ。しかも規模がでかいときた。
学校でちまちまガキのいたずら程度の問題行動を起こしている輩とは一線を画している。鳥系能力者では大丈夫だろうが確実に他の能力者と揉めることは間違いないだろう。厄介な問題児が来た、そう皆が認識を一つにした瞬間だった。
そして遂に聞くべきか迷っていた皆が恐れていたことの真相を聞いた。
これは相手のプライバシーとか色々あるだろう。軍ではそういったのを調査する部門があるから知っているが、レイプ被害者にレイプされたの? とかどういったことをされたのか被害者に再現するよう事細かに事情を聴取しないといけないことがある。かなりデリカシーのないことだとは思っているがそれでも犯罪は犯罪。真剣に取り扱わなくてはいけない。
そして今回の場合こいつは加害者側だ。もちろん加害者だろうとどうだった? などと聞くのはかなり倫理的にも道徳的にも厳しい所があるだろう。
だが聞かずにはいられない。何故ならば同居人として次の被害者が自分たちである可能性があるのならば聞く権利があって当然だからだ。無論それを聞いて必要ならば対策なり、上官に申し出てルームメイトになるのを変えてもらう必要もあるのだから。
「本当に早乙女さんを無理やり犯したの?」
「はあ?」
素っ頓狂な返事とともに、噂の事情を話すと彼はけらけらと幼子のように面白そうに腹を抱えて笑った。
「そんなことになっているのか……否定も肯定も証拠がないからなあ」
そうして彼は一通り悩んだ。自分の株価が下がるの覚悟で早乙女の株価も貶めるか。
決断は早かった。早乙女には可愛い婚約者がいるということを聞いてキレたようだ。
「あーあいつは照れ屋だし否定するかもな。早乙女とは戦闘の中で友情と愛情が芽生えてな。ほら命の危機を感じると昂ぶるっていうのかな。あいつが俺のブラジャーのフックを外そうとしたんだけど中々外れなくて時間がかかってさあー。童貞かよって茶化したら顔真っ赤になって焦らしプレイなんだよって言ってきてさー。そんなダサい言い訳してきてめっちゃわらっちゃって。それで今少し喧嘩気味なんだよ。うん? そうそうちゃんとお互いに合意があって――――痛っ‼ ゲッ‼ 早乙女いたのか‼」
「テメエ‼ このクソガキ‼ 心配だから来てみたらやっぱり……‼ 嘘だからねこいつ適当なことしか言わないから皆もまともに取り合わなくていいから」
そうしてアイアンクローが決まると引き摺って連れ去られていった。この短時間でまた彼は軍事刑務所に入れられたのだった。
それから暫くして彼は何事もないようにまた帰ってきた。
今度はまじめにしないと借金額を増やすと脅されたがどこ吹く風。へらへらしていた。
二階堂さんとも殴り合いをしていたと聞いたので打たれ強さは折り紙付きのようだ。
何も知らないだろうからルームメイトである自分たちが教えてやれと教官に言われていたから早速彼の荷物を置いて施設内設備やルールとかを教えていく。
「僕達飛行部隊だからしょっちゅう違う場所に移動があるから丁寧且つ迅速に行動しないといけないんだ。高尾山の方も西部前線に人が送られたから山の拠点の方で手伝いされたり、ここにも行けって命令されたんだ。鈴木君は……成績は凄く低飛行だけど今のところアイロンがけだけは上手だね」
「おうよずっと一人暮らしだったからな」
「皺だらけだと教官に怒られるだけじゃなくて同期の特に支配系とかが煩いから気を付けてね。彼らプライド高いから特に君はすごい目をつけられると思う」
何故支配系がそんな煩いのかアイロンを動かしながら聞いてきた。当然の疑問であるだろう。
何となく掴みだけをやんわりと説明していく。こういうのは先入観だけで判断するのではなく自分の目で見て知ってほしい。
ダンジョンが大量発生してモンスターが人を襲うようになってそれと同時にあちこちに能力者が現れたんだけど、当時は凄い差別の対象だったんだ。異形な力を持つモンスターと同列視されてメタヒューマンとかミュータントとか言われて。
特に火とかを操る支配系は見た目に変化がないからいいけどアニマル系なんか見た目がもろに代わるからね。一括りに能力者として差別されて獣なんぞと一緒にするなって能力者同士でも争ったんだよ。
それからモンスターの被害が多くて能力者の力を借りないとやっていけない状況に陥って、しかも能力は望む望まないに限らず目覚めるからね。魔女狩りしていた人が気づけば魔女になるみたいに迫害は破綻するのは当然だった。
そしたら手の平返しだよ。一般人がこぞって能力者に助けてくれーって。
だから社会に受け入れられた能力者はまた差別されないためにも物理的にも経済、政治的にも力を求めて影響力を手に入れた。
確固たる地盤を確保して余裕が出来たら今度は自分たちの選民意識とか新人類って言って今度は逆に非能力者差別が始まった。
彼らが信じられるのは苦楽を共にした己の家族。だから家系を何より大切にする。
そんな背景があるから非能力者上がりのアニマルは目をつけられる。そう説明した。
彼はおもむろに立ち上がって真面目な顔で言った。彼がこの差別問題に関してどんな質問をするのか気になった。
「鳩の能力者ってやっぱ鳩胸で大きいの?」
うーん、やっぱり彼は馬鹿なのかもしれない。
その日は荷物を背負ってランニングをしていた。
西部高尾山方面は鉄道網を敷いて予備兵まで引っ張って山を整地武装化して人と物流の行き来が激しい。遂にゴブリン王国からの偵察隊も捕捉されて戦場は次のフェーズに移行しようとしている。
その為かこうして軍学校の生徒も忙しいこととなっている。
新入りの鈴木は不満たらたらで走らされ、時には48時間飛行をして総飛行時間を技能証明制度に向けたプランで飛行訓練を強いられている。あほだからしょっちゅう逃げ出したりしてそのプランが崩れ余計厳しいプランのしわ寄せが自分自身にかえってきているのだが本人はそれでも逃亡を辞めようとしなかった。
「昔からゴブリン王国も人間をまねて粗悪だけど対空砲作っているから武器種の把握に地形観測データをちゃんと覚えないと。特に海岸線は特殊ダンジョンミストが濃いから短距離でも通信が出来なくなりやすい。最悪精密機械が壊れるからね。長距離行軍では風系統の能力者は必須で運用方法が一新されたからミスト払いも踏まえて覚えないと。絶えず変わっていく情勢の中でちゃんと自分でも情報収集しないと」
「ほら鈴木しっかりしろ‼ 飛行禁止エリアはマーカーでちゃんとマークして覚えろ‼ 地理のテスト地形データ入力ミスが目立つぞ‼ 等高線なんて簡単にちゃちゃっと出来るだろ」
「もう無理運動しながら頭も動かすとか俺にはできないって」
平行思考処理。
身体能力が上がった冒険者や軍人は能力あるなしに関係なく今や必須項目の分野だ。自分の中にもう一人の自分がいる感覚で思考するスキルだ。大抵ここにいるのは学生でも技能検定でレベル2か3だ。だから鈴木もそうなのだと思い込んでいたが意外や意外、それができなかった。もしかしたらレベル1以下一般人クラスの思考処理能力しかない。
このスキルの発見はピアノ等で両手を別の動きをするそれから派生してどんどん一度にできること増やして慣れていくしかないのだが時間がない鈴木には何にしても追い込まれていて時間が足りないようだ。覚えることを覚えなくてはいけないのだ。
そんな中あくせく荷物を担いで走り、倉庫扉から出たところで走路に一人の人間が見えた。
あっ、と部隊の人間たちが息をのんだ。初めて見た鈴木なんかは持っていた荷物を隣の仲間の足に落として呆然と見ていた。
千年原瑠璃。
同期の中で一番美人と噂の千年原兄妹の妹だ。銀の鱗粉をまき散らすような美しい艶のかかった白髪のボブカットに凛とした佇まいの双剣の女剣士。その鋭い眼光は睨まれるだけで震え上がるほどの冷たさを孕んででおり、幾人の男がその力強い目に魅了されそして散っていっただろうか。性格は他者を排斥するかのように交友関係もなく二人だけの兄妹である己の兄のみしか信頼せず、仕事は仕事として冷酷に判断している近づきがたい性格だ。個人戦闘もぶっちぎりで強く、未成年能力者による模擬戦では兄妹二人とも片手に入るくらいの強さを誇っている。
実はこうしてランニングしているエリートの飛行能力者である自分たちの中にも彼女に憧れて告白して玉砕したものは少なくない。
「誰あれ……? めっちゃ美人じゃん」
鈴木が思わず口から言葉を零して誰何の声を上げた。
周囲のメンバーが教えると鈴木はおもむろに地図を取り出す。
「彼氏いないんだろ? ナンパしに行こうぜ」
「バカバカ‼ お前ほんと馬鹿‼ 止めとけって‼ あいつ凄い能力に対して偏見あるしいつもスゲーピリピリしてっから」
「おいおいおい、お前等飛行能力者だけにチキンかよー。こういうのはさりげない会話から入っていくんだよ。いいのか同期の美人が新入りのドラゴン様に寝取られる展開はー。正にエロ同人じゃん」
「彼氏居ないから元から寝取るもくそもないぞ」
だが、あの周囲を寄せ付けようとしない氷のような彼女でもドラゴンの炎なら溶かしてしまうのかと思えば何かこう……込み上げてくるものがある。確かにそうなったら悔しい。たぶん今夜は悔しくて熱を出して寝込んでしまいそうなくらい。
果たして彼はどうなるか、皆が固唾をのんで見守る中彼は彼女に堂々と近づいて行った。
「あーすいません俺最近ここに来たばかりでちょっとわからないことがあるんだけどいい?」
「……何?」
おーっとテンプレだー。古い手を使ったー‼ あいつマジで行きやがったよと緊張が走る。突き放すような冷たい言い方にも怯まず彼は立ち向かった。
一方でそれを眺めている自分たちの方こそがより緊張して、固唾をのんでその成り行きを見つめている。
そして何をするかと思えば懐から地図を出してどうやら場所が分からないのを聞くみたいだ。
あの差し殺すような絶対零度の視線に臆すことなく突き進む。間違いなくあいつ度胸だけはある。
「○×ってホテルに行きたいんだけどなかなか道が分からなくてさおっぱい揉んでもいい?」
「それなら……え!?」
「鈴木行きまーす」
……ッ‼ パシン‼
いてえー‼ 何すんだこの暴力女‼
すいませんホントこのバカうちの何で‼ ほら行くぞバカ‼
やっぱり馬鹿だった。考えなしの底なしのばかだった。お高くとまってんじゃねーぞ‼ と今なお負け惜しみを言う顔に紅葉をつけた阿保を数人がかりで引っ張って行く。
あの千年原が取り乱したように珍しく肩で息をしているが追ってくる気はない。これ以上関わるべき相手じゃないと察したのだろう。
「お前勇気だけはあるから困るんだよ。お前だけは童貞で30過ぎたら魔法使いじゃなくて勇者になれるよ」
「○×ホテルってもろラブホだろーが‼ あわよくば連れ込めるとでも思ってたのかあん?」
「離せお前ら‼ 今から逆転するところだったんだ‼ あともう少しでいいところだったのに‼」
「ねーよ馬鹿行くぞ」
鈴木についてわかったこと。五月蠅い、そして無謀なバカ。たった数日でだいたいどういう扱いをすればいいのか学んだルームメイトたちだった。
ルームメイトはモブだけどもしかしたら名前を与えられて絡みが今後あるかも
新キャラ千年原とその兄はそこそこ後で絡みを考えてみたので後で登場する予定




