表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/52

しごかれる

その日、雲一つない晴れやかな晴天の青空。まるで悩み事を抱えていてもこの大空の下では人間なんて矮小でちっぽけだと叱り、そして励ましてくれるような快晴だった。

こんな日は起きるのが億劫になるほど朝日のまどろみが人々を包んで離さない。暖かく仄かに湿る風が埃を巻き上げ、陽光を反射して黄金色が部屋を彩る。

気象情報はこの先一週間までは外出日和の良い天気となるでしょう。経済情報は昨日平均日経株価と比べ右肩上がりで開始。今日も景気が良くて人々の顔も明るい。何でも大手会社は今年のボーナスは期待できるとか。モラトリアムの中で燻っている儕輩連中共はどこそこの就職先に定める指針を必死にあちこち舵取りをしているようだ。

今日も平和で気持ちいい。





だから喧しい盛大な爆音でスピーカーから起床ラッパの音が大音量で流された。


ファッッッッック‼ と昨日まで全力で叫んでいた元気を分けてほしい。俺は音を遮るべく布団に包まれるように巻き込むがその前にわが愛すべき同室連中がこぞってそれを引っぺがしにかかり、無理そうだと分かると今度は一思いに俺を踏みつけ始めた。


「起きろ‼ マジでやべえって、教導隊の連中容赦ないから」


「新入りのくせにふて寝とは態度でかいな‼」


何でこんなことになっているのかは先日を要参考だ。








ドラゴン騒動が落ち着いて俺の生活は劇的に……とは変わらなかった。確かに色々と変わったが基本的にやることは以前とあまりかわらなかった。

二階堂が借金に利子をつけないかわりに俺に言ったのだ。


「正体を隠して活動しろ」


「え? なんで? 能力のことめっちゃ同級生に自慢したいんだけど」


「だからだ。お前は絶対余計なことをする。そのうち外部から来たハニートラップに引っかかるか、他所に引き抜かれるかわかったもんじゃない」


軍部はプロパガンダ、それに使いたいらしい。かなりの注目を一身に受ける俺は利用しやすいようだ。

何ができるのかの性能テストは受けるが、人体実験とか解剖は無いらしい。そも、少ないとはいえ俺以外にも珍しい能力者はいる。そんなことをすれば世論も能力者たちもバッシングをするだろう。

軍としては他に顔を隠してチャリティーパーティーや公開演習場で能力デモンストレーション会を開き、富豪相手に資金集めや国債を売ってもらいたいようだ。

その後は能力開発部で教導隊の元でデータを取りつつ能力を高める能力者専用カリキュラムを受講。アニマル系の最終段階のやり方がよくわからない俺としては嬉しい提案だった。

全面的に俺をバックアップしてくれるらしい。正体を隠すのも。だからあほな真似はするなとも言われた。

前科が無い、もしくは色々やらかした記憶もあるがばれていない俺は、まあ模範的な善良一市民である。親戚関係も皆無でこれ以上ないくらい扱いやすい人材だったのも良かったみたいだ。


何か要望はあるかと聞かれたので俺はおっぱい、とだけ答えた。レントゲン撮ったり電極を張り付ける時に男の奴が俺の体を弄ろうとしたら全力で逃げるからとも付け加えた。

二階堂は何もないんだな、よろしいとだけ言って出て行きやがった。……野郎。



渋谷第三ダンジョンの方は入り口はかなり様変わりしていた。

ミスリル大規模鉱床発見と表には伏せられているドラゴン貢物作戦による暴騰により建設ラッシュ、またミスリルは戦略物資でもある為俺の監視も兼ねて軍の駐屯地が現在も建てられている。

そして儲かって注目を集める会社というのはいい意味でも悪い意味でも注目される。

アホみたいな契約内容でここの専門冒険者になってもいいと半ばヤクザのケツもちのような輩も当然いたようで軍人が立ち寄るのは助かったらしい。治安が悪い地区のドーナツ屋が警察官はドーナツ一個無料ということにしたら買いによく寄ってくれて治安が良くなったという話を聞いたことがあるが、軍が駐屯してドラゴンの能力者がいるここは地理的経済的治安的に優良物件らしい。

問題は建築関係は高尾山にも大規模動員されているし建築建設会社も大量に仕事が入って死ぬほど忙しいらしい。雇用も生まれたがそしたら他所と差をつけるために労働法は守られなくなる。まあ残業代はちゃんと出るので稼ぎたい奴にはよかったみたいだが。


そこに俺が戻るということはそりゃあもう大変な目に合うのは火を見るよりかは明らかだった。

連日の異常なほどの仕事量。俺はバラクラバとサングラスをかけ、靴は冒険者の実用に耐える厚底8センチ以上の靴を履いて他、厳重なチャックの上で第三ダンジョン物資運搬に従事していた。なまじ普通の人より物を運べて足も速いので現場では重宝されたがそれでもきつい。

仕事場では妙な連携感があったのは良かったが、それはつまり同じようにブラックで昼夜働いている者が大量にいて感覚が麻痺しているようなもんだ。


そんな渋谷第三ダンジョンの内部は高速道路のトンネルのような、ちゃんとしたトンネルがちゃくちゃくと作られていった。排気用換気扇のほか、地点ごとに休憩地点として大型空気調整機やクーラーが24時間稼働した断熱簡易シェルターが設けられている。

完全に開通したらトンネル内部は空調設備で温度調整されて改善環境で採掘がおこなわれることになるらしい。

そうなればかなり仕事が楽になり、俺の仕事も軽くなる……筈。そうだと願いたい。なんか馬車馬のようにこき使われている気がする。




ダンジョンから出ると俺は道路を挟んで隣の建物に移動した。

ここが俺が所有している建物だ。

ダンジョン入り口の横で、駐屯地建設に都合もいい空きスペースの土地権利を持っていた会社から貰ったのだ。元は何かの店だったらしいが第一ゴールドラッシュで閉店していたのを改装して利用している。


ここで俺の夢をもう一度確認しよう。女子校近くにおしゃれな喫茶店を作るだ。

もう、そんなこと軍に終生監視の目があるから不可能だと悟った俺はそれを断念してここでわずかな抵抗ながらおしゃれな喫茶店だけは開店することにしたのだ。

ネットで都内の喫茶店の参考画像を模索してここをくれたおっさんに内装に手を加える人員を貸してもらい、おっさんの伝手を利用して閉店する喫茶店から格安で色々器具を融通してもらった。

君も経営の難しさを知ればいいと笑われていたが、困ったら助けるとも言われた。この人には本当に頭が上がらない。娘の管理人なんて、勝手に喫茶店開業の準備をしていたらどこからともなく噂を聞きつけて勝手に自分好みに内装を弄って家具購入代金も俺に押し付け、最終的にふてぶてしく居座るようになったんだから。もう、こいつは追い出すのは諦めた。

まだ開店していないが管理人を辞めた元管理人はここに入り浸るだけの無職になり下がった。

「コーヒー」

帰ってきた俺にお帰りも何も言わず、雑誌を読みながらただそれだけ言った。淹れろということなのだろう。

コーヒーを淹れて渡したらありがとうも言われずまあまあとだけ評価を言われた。自由すぎる。コイツこそドラゴンに向いているんじゃないかな。

一階喫茶店エリアはもはやコイツに占拠され、俺の部屋にしようとしていたバックヤードも奪われ、二階が俺の部屋だ。

正直一階はあの邪知暴虐な女に乗っ取られた。今も何か魔改造を施すみたいで動物園になっても俺はもう感知しないことにした。







そう、ここは俺が貰った俺の所有する家なのだが俺はあまりここに滞在できていないのだ。だから所有者としての威厳も行動も起こせずにいる。ここに来るとしても荷物置きか休憩くらいだけなのだから。

じゃあ普段どこで寝泊まりをしているかといえば当然俺を監視している軍施設でありそして


「おら、もう限界か。情けないぞ」


「もういっそ殺して」


俺は来る日も来る日もくるくる回る椅子の上に座っていた。そして何をしているかというと風圧機の電源をつけてくるくる回っているのだった。

ただそれだけだった。


ドラゴンとして飛行能力を持っている現状の俺は、民間人が免許も資格もないくせに飛行機を持っている状態らしい。だから軍で強制的に飛行能力者の訓練をさせられているのだ。筆記試験は当然のこと実技試験もある。

これをクリアしないと自由に空を飛べないと思いきや、軍事行為か民間でも飛行機みたいにフライトの許可を得ないと飛べないし、電波塔や一部空港や戦闘機等が発着する場所は進入禁止となっている。つまりどうあがいても自由に飛べないのだ。でも試験はクリアしないといけない。これは法律だからだと残酷に告げられた。



これはフィギュアスケート選手ばりに三半規管を強化する訓練だ。飛行能力者は立体的に飛行して例外なくくるくる回転するかららしい。

グロッキーな俺を見て凄い嬉しそうに早乙女が歓声を上げている。正直早乙女のことは舐めていたけどこんな訓練こなしているとは小指の爪ほどだけど尊敬した。


そう俺は軍の中にぶち込まれてしまったのだ。


「うちは飛行能力の家系だから大抵のことはノウハウが揃っている。他の家にも教えているくらいだ。流石にドラゴンは始めてだけど。何か質問あったら答えよう」


「あーじゃあさ、凄い自意識過剰かもしれないけど一部の人に凄い脅えられるんだけど。あと家系ってどういうこと?」


この軍の施設を利用することになって当然他の軍人と何人かと横を通り過ぎたり色々な教官から教えられたりするのだが、なぜか露骨に俺を避ける人がいるのだ。しかも複数で、毎回同じ人。同室に選ばれた連中も最初は偉く緊張していた。

初めてあったような人でも避けられる。勿論それはごく一部で大多数は普通なのだが。


すると早乙女は思い当たる何かがあるのかあー、そういえばそうかと言葉を漏らした。


「アニマル系能力者は動物の力だから、元の動物の特色も当然ある。鳥系は飛行するために運動している面もあるけど細身の筋肉質で目がいい。他にも猫系は身軽だけじゃなくて魚を食べるのが好きとか性格や嗜好そういったのもある。当然戦闘力も羊とかの草食動物より肉食のライオンが強い。それで動物って不思議な本能ってあるだろ、噴火が起きる前にその山から逃げ出したり、動物園育ちの猿が初めて見た知りもしない筈の蛇を恐れたりとか。その本能の部分が各上の生物を恐れるんだよ。俺は鷹だから雀とかにすげー怖がられてる」


あー何か動物番組で見たような気がする。野生の鹿が鉄分を得るのに電車のレールを舐めて牽かれる事故が多発して、動物園のライオンの糞を巻いたら来なくなったっていうのを。

日本じゃ野生のライオンなんて存在しないから鹿もライオンなんて知らないだろうに。匂いに含まれている成分なのかそれともやはりまだ科学でもわかっていない本能とかそういったところなのか。


じゃあ早乙女は俺が怖いかと聞いたら、糞野郎としか思っていないと言われた。コイツまだパンツずり下げて縛って路地裏に放置したの怒ってんのかよ。

小さい男だと言ったら殺されそうだからそれだけは言わなかった。


「家系は能力が遺伝するって噂聞いたことあるだろ? それはあくまでも能力者の子供は親の能力を引き継ぎやすいってだけで絶対じゃない。それでも普通の人間よりか発現率は圧倒的に高い。そんで最も受け継いで発現率が高いのが両親二人が同じ能力者だった場合なんだ。ダンジョンが発生した初期はそりゃあ能力者の人体実験とか闇が深い事件が多かったし排他運動で迫害にもあった。必然と能力者は派閥を作り、家系になったんだよ」


早乙女を含めたアニマルの鳥系能力者はその大半が家系筋の能力者らしい。俺の同室に選ばれた同じ年くらいの子たちもそう言った家系の子みたいだ。俺みたいにゼロから能力を得たのは全体から見て少ないらしい。

鳥の大半は軍で飛行能力者部隊に配属、稀に民間に行くのもちらほら。生まれながらにして一族エリート家系かすごいな。


資料を渡されると犬はお巡りさん、鼠は研磨系で宝石から旋盤とかの関係企業と、なるほどわかりやすく能力家系でその特色が強い職業に分かれていた。こう見てみると面白いかもしれない。

けど逆にあまりにもその特色が強くて、猫系の能力者家系が鼠の能力者家系を脅したりしていたとか肉食系と草食系の家系で摩擦が起きているようだ。それは動物に近づいたアニマル系だけじゃなくて支配・操作系統の火と水を操る能力者の間のいざこざも有名らしい。


「大変だねえ能力者も」


「ああ、特に能力者が関与する事件とかもめ事は大変でな。鳥関係の能力者の問題は一番強い鷹のうちが取り仕切ることになってる」


そう言う早乙女家は代々鷹として空軍能力者の輩出をしており、第一線で常に仲間を率いてモンスターと戦っていたらしい。

俺をたまにこうして飛行のノウハウも教えるのも彼の仕事らしい。

大変だね。俺ならこんなクソガキぶんなぐるのに。え? 俺はぶつけど、俺が他人にぶたれたらそりゃあ烈火のごとくきれるけど? 






話が長くなったなと早乙女は立ちあがって、近づいてくる。終わったのかと思ったらにこりと笑って容赦なく風圧機のスイッチを入れられた。

ぐるぐるぐるー。またもや俺の世界は回りだす。

そっか、次からはもっとうまく話を反らさないのか。

早乙女さんは普通の人には丁寧で優しい言葉をかけます

主人公にだけあたりが強い

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ