一区切り
もうそろそろ最初の落とし穴に嵌った冒険者たちを救助に行くかも
後日談。
俺は高級ホテルの一室で監視下で軟禁されていた。海外で企業の副社長とかが逮捕されたのに状況が似ているかもしれない。
朝昼晩、係の者が食事を運んでくる。頼めばお菓子も持ってきてくれた。豪華な客室に広い部屋、サービスは充実していて大いに寛げた。誰ぞ隣で寝る人もいないのに大きなベッドと枕は俺に虚無感を与えたが。けど底辺で暮らしていた過去を持つ俺としては優雅と言って差支えのない生活は中々飽きなかった。
足にはGPSバンドを取り付けられ、やることもなくテレビをぼーっと眺めつつ余生を過ごすおじいちゃんみたいな生活だった。あまりにも暇だった。
待遇は一般的な市民が犯罪を起こして留置所に入れられるような物でなく、政治家や大きな企業の社長が汚職をして24時間体制で監視されるそれに近いが、不自由しないというのはそれはそれでよかった。
テレビでは連日の高尾山奪還成功の報が続いていた。ドラゴンが立ち去ったのを確認し、軍部は早急に占拠に乗り出したらしい。
どう長年成しえなかったモンスターの巣食う高尾山を奪還したかは完全に嘘の情報を流していたが民衆は本当のことを言ってもそれも嘘だと言いそうだしそれでいいのだろう。
俺としては高尾山奪還支持派である西方方面軍は独断専行で暴走するわ、金を持っていて札束でビンタするのを好むわまるで小説や映画で出てくる意地悪な金持ちのようで嫌いであったが、俺の処遇に関して互いにフォローすることで協力をしたのだ。
彼らとしてはドラゴンが街中に現れて社会が混乱している中、それでもなんとしても高尾山が欲しかった。混沌とする情勢の中で政治家連中や軍の参謀で支持派や説得力ある意見を欲した。
だから俺の軟禁される環境改善及び今後の処遇を出来るだけ便宜を図るように。一方で彼らはいち早く高尾山を奪還する方に議会の天秤を傾けるドラゴン界としての専門的な意見。
だから俺は、ちょっと前に別勢力のドラゴンがここを狙って争っていると証言したのだ。今までいたドラゴンは手出しさえしなければ何もしてこない穏健な奴だが、そいつはかなり好戦的だったと。たぶんそいつに山を取られたらこっちにちょっかい出してくるだろうからさっさと奪還して武装化した方が良い。流石に武装化したら無理に奪いに来ないだろうとも証言した。
軍部としてもそう急ぎ足で高尾山に関して手を入れるのは色々と憶測や意見が飛び交っていたが、このまま何も成果を上げられなければ街中に災害規模のモンスターの進入を許し税金で少なくない謝罪で痛い出費をしただけになる。
それに東京と京都を隔てる都市の間にはモンスターによる支配地コボルト工業地帯とゴブリン王国が並んでいる。例えドラゴンがいなくともこのまま座視すればそう遠くない未来に高尾山は占領され敵の手に渡るのも問題だ。
結果として早急に高尾山を取りに動いたのだ。
都内ではやはり計画停電も行われ、店や会社に学校も休みになった。手が空いた者や学生は危なくない範囲で木々が丸焼きになったところの瓦礫の撤去や土砂崩れを起こしている場で専門家のもとで撤去作業が行われていた。
たまに早乙女が顔を見せにやってくるが彼は飛行能力者部隊として連日偵察に出されたらしい。出て行ったドラゴンがとんぼ返りしないかの遠距離飛行行軍でドラゴンの追跡を行って安全確保、それが終われば高尾山周囲のモンスターの偵察と警戒でデスマーチ状態だと愚痴をこぼした。
ドラゴンに関しては大分遠くまで行って、早すぎて追いつけなくて尾行は諦めたみたいだ。それでもだいぶ遠くまで行ったのを確認して安全を確保したらしい。確か貢物を渡してお別れを言った時に、赤いドラゴン派閥と戦うために緑の一族はどこかに集結すると言っていたのでそこへ向かったのだろう。
二階堂のおっさんは高尾山のダンジョン内に部隊を率いて大規模な間引きをしてスタンピード対策に当たっているらしい。
あとは鉄道網を敷いたり前線となる更なる西方に拠点や陣地と壁を設置したりしないといけないらしく世間の建築関係各所と特に軍部の工兵にあたる施設科は泣きたくなるくらい忙しいみたいだ。
それでももうだいぶ状況は落ち着いたから、今度は俺に関して処遇もおおむね決まったみたいだ。俺としては高級ホテルで怠惰にうまい料理に舌鼓を打つ生活も悪くなかったが、それにキレた二階堂と早乙女が冒険者活動で学業が遅れている俺に対して軍部の教導隊から人を寄越しやがった。他の学生が暇をしたり単位が足りない学生が楽な撤去作業ボランティアでへらへらしている中、地獄の学力向上勉強会が開催されたのだ。
そして俺の処遇が決まった。
その日、二階堂が渋谷第三ダンジョンの管理人とおっさんを伴って訪れたのだ。
ドキリとした。この二人には、会社には多大な迷惑をかけたからだ。きっと家宅捜査とか色々身辺調査でされただろう。
親のいない俺としてはこの二人が間違いなく調査の矛先が向くのはわかっていた。だから顔向けできなかった。
「鈴木、感謝するんだな。保釈金を払ってくれたのはこの人たちなんだから」
「す……すいませんでした。大変ご迷惑かけました。保釈金は……ありがとうございます。誰も払ってくれないと思っていたんで」
管理人はずかずかと歩いてきて頭を下げる俺にビンタをかまして心配かけんなと静かに呟いた。
……勿論鉄の体の俺にとって全く痛くなかったが痛がるそぶりをしといた。
続いておっさんが俺の肩に手を置いて話は聞いたよ、怪我が無さそうで良かったと涙ぐんだ。
俺の主な怪我の要因、お前らの隣に居る二階堂からのなんだけどな。
「すいません、ご心配おかけしました」
「いいんだよ」
「お金とか……一生かかっても……ああ、保釈金って返ってくるんだっけ」
「それもあるけど、君のお陰でミスリル発見で上がった株価は暴落したけど、また上がったんだ。それも以前よりウンと」
ん? どういうことだ。俺は他者が俺のお陰で儲けているのが何よりもいやなんだが。
「議会ではお前の処遇に関しては、裏技に近い前例を引っ張ってきてそれに沿った。百年近く前のダンジョンが大量発生したとき、学徒徴兵による学生運動の反発で未成年能力者による軍への襲撃があったからな。そこで未成年能力者による軍部への妨害行為の法律があるからまだ廃止されていない物は利用できるからそれを利用した。法務部はよくやったよ。内容は当時参考にしたアメリカの法律を真似した社会奉仕だ。今もアメリカでは未成年軽犯罪者は社会奉仕させられているみたいだしな。お前の処遇はこれまで通り学校が終わったら会社に所属しながら冒険者活動及び常に軍の指揮下で活動するように」
社会奉仕。ま、まあ今まで通りなら処遇はいい方か。
「あはは、凄いよ。うちの会社はお咎めなしどころか、企業所属に前代未聞のドラゴン能力冒険者がいるんだ。あちこちの会社から契約やオファーが山のように来てるしミスリルの需要も跳ね上がって株価は天井知らずだよ」
君の保釈金なんてちっぽけだったと笑いながら言われた。
俺も公開株、早めに買うべきだったか。……これって分け前半分くらい、請求できるよね?
「保釈する代わりとして軍が要求したのはまず、GPS信号装置を24時間常に装着すること。渋谷第三ダンジョン入り口には軍の駐屯地も建設されるからそこで生活すること。飛行能力者法案によるプログラムを受けること。軍の要請があった場合直ちに出頭し、命令を聞くこと。これは主に技術検証要員も兼ねているから給料も出る。そして最後に喜べお前は400億貰える」
ん? 400億‼ 一戸建てどころか高層マンションも買えるじゃないか。そんなものもらえるの? 成功報酬?
なんじゃそりゃあ。足のGPSは邪魔で、何日かすれば臭そうになりそうだがそれを補って余りある成果だ。
この若さで億万長者じゃないか。うは、二度と働かねえ。
平日の昼間から風俗行くわ。
「え? マジ? やっぱ町救ったから? 高尾山奪還の功績?」
「負債額な。前例の学生運動した奴も軍への破壊行動による損害額は頭割りだが返済させたとある。お前の場合は一人だから軍用車両の破壊、ラーメン屋への営業妨害、その他色々あるがこれでもかなり負担量を減らしてもらっている」
因みにドラゴンに関しても俺が誘導したように見えなくもなく壊れた各関係物に被害も俺持ちらしい。
……負債額?
何それ、日本語に似てるな。二階堂って知的なイメージもあるけどバイリンガルなんだね。きっと俺の聞いたこともないような外国語に違いない。
「町のために、みんなのためにやったのに?」
「前例の者も同じような発言をしていたらしい」
チラリとおっさんに顔を向けたら、こればかりは自分で払ってと取り付く島もない。
はあ? まだあの癌治療のポーション薬の借金していた時の方がまだいいじゃないか。
「お前は何するかわからんからな。首輪をつけようということになった」
こうして現役学生冒険者の借金返済生活が幕を開けるのだった。
逮捕に関しては海外の前例というか割と最近あったのを少しググって利用しました
小説でこんな展開ってありえないだろっていうのもありますが、案外そういうのは大抵前例として過去に実際にあったことを上げれば読者は許してくれるでしょう(願望




