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我儘というには可愛すぎる

二階堂から釘を念入りにそれはもう深々とさすように告げられた。ドラゴンの巣に謝罪に行くのは悪魔でもいくつかある手段の一つ。開戦前提でもう既に関係各所に伝達が走り、冒険者ギルドにもなりふり構わず応援を寄越させて戦力を集めているらしい。因みにそれでも勝率はかなり低いらしい。制空権はほぼ確実に取られ、あとは一方的に空から蹂躙される。ドラゴンとの交戦は過去の前例では外国含め大半は碌な末路をたどっていない。能力者発展途上国として後塵を拝するわが国では成す術もないだろう。能力者国際会議とかの代表国に入れず、毎年呼ばれないからな。まさに火を見るより明らかな結果にあるだろう。


俺の作戦ができれば、戦わずに済んで御の字。

以後、ドラゴンとの間で貢物で取引ができるようになればいいなーという願望もありもすれど高望みはせず東京の存続を優先する。

そんな状況らしい。





というわけで高尾山までは俺が先頭を歩くことになった。道順を知っているのも当然詳しいのは他にはいないから。

どうも高尾山とは俺にとって因縁深い場所になるわけだ。一回目は債権者グループでドラゴンに襲われ、前回は遺品回収の一人でドラゴンと遭遇し今回もまた人を伴って向かっている。人生何があるかわからないものだ感慨深い。なんかこの短期間で凄い大人になった通り越して老けた感じがしないでもない。人間的には何も成長していなさそうなのがいいことなのか悪いことなのか。




そんな俺はデカい鉄骨を肩に担いでいた。そこに牛を何匹もぶら下げている。背中には辞めると告げた会社におめおめと戻ってサザエと蟹を入れたでかいバッグを背負っている。

会社の方では大勢の軍関係者が詰め寄って忙しなく動いていた。何でも俺が軍に襲撃をかけたものだから居住地であるここはあっさりとばれて捜査されていたらしい。

そりゃあ働いている者があんなことをしたのだから家宅捜査だけでなく会社も検査されるのは当然か。

おっさんと管理人は俺に詰め寄って来たが、説明は後でと二階堂が説得してくれた。

あの二階堂さんが‼ みたいなことでおっさんは感動していた。何でもファンらしくて握手をしていたが、管理人は軍に突入されたのが周囲に知れ渡ったせいで株は暴落したんだけどと苦言を申された。

あいかわらずこの人はマイペースだった。俺の心配は欠片ほどしていないとも言われた。

そんな通常運転なところが味があって落ち着く。良い性格してるよマジで。



食料を担いだ俺の後ろでは白旗を掲げて歩く財務省のおっさんが通信端末と携帯用通信具を担いで歩いている。俺は白旗なんて人間の決めた価値観だから意味ないと思うぞと言ったが、本人が持ちたいみたいだから持たせた。

そして最後尾を歩く二階堂は荷物満載のコンテナを担いで、どこ吹く風で汗一つ苦も無く歩いていた。それ、中にはかき集めた金や宝石が詰まっていて数トンは軽くあるはずなのにな。まあ心配は財務省とか金銭関係の会計士がどうこうするところだろう。そしてまわりまわってそれは国民の税金と。世の中いい感じに責任は弱者がとるようになっているんだね。費用もそうだしこの牛だってA5のだし安くない授業料だろう。

思わず俺が欲しくて手が伸びそうなほどのひと財産だ。





ドラゴンの巣には滞りなく進んだ。

巣が見えてくる以前、それこそだいぶ前もしかしたら壁にあるゲートから出てきた時点で気づかれていたとしてもおかしくない。

この指向性を持った強い意志が俺の体を貫く。中からは外からでも汗が噴き出る様な威圧を感じる。

吹き付ける台風のような熱風と体全身が鉛のように重くなる。

姿は見えてないがやはりここに向かっていたのは大分前から知られていたようだ。


中に入ると早速子供ドラゴンが走って来た。

女の子は二階堂に駆け寄り、コンテナにしがみいて無理やり取っていく。そして強奪したコンテナの中に飛び込んで財宝に頭を突っ込んで見えなくなった。一方男の子は俺が担いできた肉をかっぱらい、ついでに尻尾を俺に巻き付けると俺事連れ去っていった。

相変わらずやんちゃだ。やっぱ女の子は宝石が好きか、そして男は肉か。そうでなくちゃな。俺も好きだよ。


「鈴木‼」


「俺ただの仲介役だから役目はここまで~。交渉は自分たちでして~」


俺は子供ドラゴンに連れていかれ、あとはそこまで静観を貫いて無言だったスフィンクスのように鎮座している親ドラゴンが……あれ? 後ろからもデカいドラゴンが2匹出てきて3匹になった。見間違いじゃない、子供でもない。成体3体幼体2体の合計5匹がここの広場にいる。え? 仮に新顔の一匹が元々ここに居たのの夫婦と仮定してもあと一匹何なんだ?

話が違うぞ‼ みたいな顔で二階堂が振り返ってくるが俺もしらなかったんだ許してくれ。睨んでも俺にはどうしようもないぞ。も、もう俺は知らない‼ 子供の相手するのが忙しいから‼ 俺悪くないから‼

あの財務省のおっさんなんてすげー目をキラキラして見てるんだからお前も根性出せ。


俺は二階堂を見捨てて子供ドラゴンの相手をした。






子供ドラゴンの相手をして1時間くらいだろうか。どこからともなく頭の中に声が響いた。


『来い人間。二人とは話がついたが、それとは別の話が貴様にはある』


「はい‼ 今行きます‼」


俺は腰にしがみついてじゃれついてくる子供ドラゴンを何とか引きづりながら広場の中心に戻って来た。

やはりさっきの見間違いでなく成体のドラゴンが3匹いる。迫力も3倍マシマシだ。めっちゃ怖い。3匹もいるとかもう究極だ。究極竜、つまりお前らがアルティメットドラゴンだったのか。青眼白色でないけど。二階堂たちは一足先に広場から出したみたいだ。姿が見えない。胃袋に収まっていないとかではないのだろう。どうもあの二人には聞かれたくない、もしくは聞く資格がないのだろう。


じろりと大きな瞳六つが上から不躾に探るような視線を送ってくる。


『ほぅ、聞いた通りなんと面妖な。混じっておる』


『このようなことがあるとはな』


『まぁどうでもよいか』


そうだそうだどうでもよいどうでもよいとそれぞれ言葉で同意しつつも猫が玉を転がすようにゴロゴロ転がされた。そしてやはり鷲掴みされ、手の中でぐるぐる転がされた。気分は水洗トイレに落ちたカナブンだ。


『実はな、この地からは去るつもりだったのだ。以前襲ってきた赤い奴らの一族とは我らは長年争っている。子供も大きくなって戦力としても十分育ち、この巣の場所もばれたからちょうどいいし奴らの土地を奪うところだったのだ』


『左様。だが人間に追いやられて出ていくなど我らとしては看過できぬ。ついでに人類を滅ぼすのも一興だが、奴らが逃げ延びてかわりに住まれるのも癪でもある。戦前に貴様ら人類からの貢物を得られるのはまさに僥倖だった』


『高い授業料だと、次からは子々孫々までドラゴンに手を出してはいけないと受け継ぐのだな』


フハハハハハ‼ そう笑い声を響かせてドラゴンたちはぺろりと牛を一頭丸のみにした。

良い性格してるなドラゴンって。

これじゃあ人類が阿保みたいじゃないか。

居なくなる相手にわざわざ手を出して手痛いしっぺ返しを食らっているのか。

他人の失敗はざまあみろとも思うが、あれって税金なんだよね。増税しないといいな。

そんなことを思っていると言葉が続いた。


『誘拐されたことは業腹だが、子供とはいえ人間なんぞに捕まる奴が悪い』


『然り。そもドラゴンは幾多の危機を乗り越えてこそだ。我も敵に捕まったり、噴火する火口に飛び込んだり、落ちて来た隕石を止めたりとよく遊んだものよ』


何やってんだコイツら。周りもなんか懐かしそうな眼をして同意する感じで頷いているし。

俺、絶対生まれかわったらドラゴンだけはやりたくない。

遊び気分で世界を滅ぼしかねないぞこいつら。なんてはた迷惑な奴なんだ。


『良いか、貴様も微力ながらもドラゴンの力を宿したのだ。相応しい振る舞いをせよ。その時はわかっておるな? 我らはそれだけを伝えたかったのだ』


お前らと一緒にすんな。無理だよ、スケール違いすぎるんだから。

強く、美しく、そして強欲に生きろと言われた。


そしてもう帰っていいぞ、とも言われた。これからは夫婦の時間だからさっさとなとも。本当にそのことだけ言いたかったようだ。好き勝手な奴らだ。俺もこれほど好き勝手生きられたらどれほど楽に生きられるだろうか。

これがドラゴンかと戦慄すら覚える。こんなこと果たしてその慎ましさで辞書の慎ましいの項目に例として俺の名前がありそうなくらいのこの俺に出来るのだろうか。無理だな。でも周りから俺という人間はこんな奴らと同類だと思われるのだろうか。

何という風評被害。

俺にはドラゴン界のイメージキャンペーンボーイは無理だな。

もういいや。どうでもいい。なるようになれ。

困ったことが起きたらその時は未来の俺に任せよう。うん、それがいい。


俺は子供ドラゴンたちをがっちりと名残惜しく抱きしめるとああなるなよと言いながら別れた。たぶん既に傍若無人の片鱗が出ているから手遅れだろうけど。






ドラゴンの巣から出ると二人が待っていた。

どうだったか聞いたところ今日持ってきた謝罪料とは別にやはり追加で貢物を要求されたらしい。

それで本当に高尾山を明け渡してくれるのかは聞かなかったらしい。それでいい。これは悪魔でも人間からの一方的な献身。彼らは人間なぞと契約も約束もしない。

貢物を貰えたことで気分が良くなって考えが変わるのを待つことしかできないのだ。

逆に俺に対して何で数が増えているのか聞いてきたが俺は肩を竦めて流した。一応、戦争になるときの下見も兼ねていたらしく、戦略差を鑑みるに開戦は絶望的だ。

貢物に関しては財務省のおっさんが取り出したデカい端末画面にそれらしい貴金属や宝石を映してこれが欲しい、みたいなネットショッピング感で要求されたらしい。


「まだ完全に参謀本部では戦争はしないと決まったわけじゃありません。本当にドラゴンが戦争をふっかけてこないか何の保証もありませんから」


「ドラゴンの数が増えているから敗北は必至だろう。明日になってまた増えていないとも限らない」


何とも軍人というのは難しい事の板挟みだね。なるもんじゃないね。


「でもいいのか? テロに屈するみたいで」


「人間のテロなら屈した前例があれば再度テロが起きる。だから何としても阻止するが、ドラゴンに関しては再発する可能性もあるがそこはもはやどうしようもない。相手のほうがより戦力がある場合はテロでなく戦争だからな」


「上層部でおおよそ、貢物をしてことを治めるように舵取りはむいているようです。なんせあの高尾山を戦争ではなく物資で購入できるのですから。軍部で大きな勢力を持つ奪還を主張する一派は戦力はともかく金は持っていますからね。加えて早速都内では金属回収令を出して回収しているようです」


聞いたところ要求の項目はそこそこ多かったもののなんとか許容範囲。

都内では現在富裕層の一部は別都市に逃亡し、一般市民の他都市集団疎開は諦めてシェルターに避難していたらしい。ドラゴンのことは伏せ、都内全体に毒ガスが漏れ出したことになっているらしい。

同時進行で金や白金、聞いたことのある元素記号の数々にミスリルから全く知らないダンジョン由来の元素のインゴットを集めて回っているみたいだ。


「大変だねえ」


「他人事じゃないぞ。一般市民のシェルター避難はドラゴンの完全退去が確認されるまで最低でも行われる。ひょっこりドラゴンが帰ってくる可能性もあるが、市民全員を収納できる余裕は無い。経済的にも物資的にも限界がある。終わった後もまだ問題は山ほどある」


貢物として少なくなった金属は今後数年は値段は高騰して市場価格は完全に崩壊する。

精製工場は日夜稼働することになるだろう。株を買っておこうかな、ははは。

それにドラゴンが居なくなった高尾山は依然としてダンジョンがある。今までドラゴンがテリトリーを主張して寄り付かなかった近隣から他モンスターの移動、間引きの必要性も当然発生する。

今回のことの発端となった暴走した軍部の高尾山奪還一派の責任者は処分されたらしいがそれはトカゲのしっぽに過ぎない。

奪還一派はドラゴンが居なくなって他モンスターが居つくまでの空白期間のこの期に乗じ、偵察と調査隊を大規模派兵してダンジョンの入り口と境界線を完全に抑え、工兵どころか学生ボランティアという名の学徒徴兵に近いそれで人類活動領域を広めるべく壁の建設を計画しているらしい。

昔もあったね、学生ボランティア。うちの学校も生徒を単位という実質無料のそれで釣って国から補助金を貰ってタダ働きさせていた過去がある。時に運動施設建設だったり、災害ボランティアだったり。

シェルター非難が終わって家に帰れても日常に戻れるとはかぎらない。計画停電も行われるようで学校を含めてあちこちが休みになるだろう。

経済的損失はいくらほどになるだろうか。考えたくもない。


「都内の学校の一部生徒も募集されるだろうが、鈴木はしなくて済むだろう」


「え? マジ? やっぱり冒険者とか今回のことで単位とか欠席の特典貰える感じ?」


「いや、お前は当分軟禁されてその間に今後の処遇を決める会議が開かれる」


うん? どういうことだ?


「え? 俺って町を救ったことで表彰とかあってもいいのに? 何で捕まるの? 司法取引は?」


「誰も司法取引に応じるとは言っていない。お前みたいなアホがあんな力持ってるのに野放しにするわけないだろ」


「…………」


確かにそうだった。それじゃあ俺って……?

バッと振り返って逃げようとしたら二階堂の腕が俺の首に回った。

そのままチョークスリーパーが決まると俺は連れ去られるのだった。

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