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適当な軍のやりとり

その日、軍参謀本部は始まって以来の争議が行われていた。

格式ばった様式の建物のそれだ。大棟に飾るは見事な曲線美の金の魚虎を携え、天と地を支える紅が生える柱の建材は京の伏見稲荷を意識して樹齢幾程か、きっと千の夏冬を超えて生きた証を打ち立てた。

けれど流石に家具は外国製だ。勿論国産の家具もあるが洋式風だ。まれであるが海を越えて外交官を招くのに和式の畳はどうかと問題になってしつらえた最高品質を使っている。

建設されるのにいったいどれほどの血税がつぎ込まれたのか気になるがこういうのはそもそも禄でもない経緯で建てられたのだろう。


政府関係、特に日本の政を代表する総理大臣であるがその実、住まう首相官邸は聞いてて、は? となるような経緯で建てられている。

幼名利助、総理大臣に初めて就任した初代の総理大臣であり、そして44歳という若さで就任したその記録は今現在まで越えられていない後の千円札になった偉人伊藤博文の時に首相官邸は建てられたのだが、総理大臣が住まうにふさわしい場所として建てられたのではない。

伊藤博文のあだ名はほうき。箒で吐いて捨てるほどの数の女と関係を持ったと豪語するほどの女好きで、天皇陛下に注意されてもなんのその。病気で熱にうなされていても寝るときは常に両脇に女を侍らせて寝ていたのだ。

そのため女遊びが行き過ぎて借金で家を取られてホームレスになりそうになったところを流石に総理が家無しは駄目だと作られたのが首相官邸だ。

つまり政府関係の建物であるこの参謀本部もこんだけすごくできているが、その実くっだらない理由で建てられたに違いない。

つまりその下に集うのは……そういうことである。




事の発端は町中で一人の暴徒に軍が襲撃されたことを皮切りに、能力者同士の大規模戦闘、過去にも前例が無いアニマル系ドラゴンの能力者の出現、そして最後にドラゴンが町中に現れる緊急事態が一日に起こった。これほどの厄日はダンジョンが大量発生したあの日以来となるが、その当時はまだ現在の軍は発足されておらず過去にいくつかあった災厄の年もあれど実質これが最大の山場だった。

本当にドラゴンが三日後攻めてくるのかは現場に居合わせた者しかしらない。真偽を確かめるにも直接脳内に話しかけてきたドラゴンの会話は正式な文章でもボイスレコーダーでもない。現場に居合わせた者たちの証言だけというのは何とも不安要素を隠せないが、ドラゴンが訪れたのは紛れもない事実。全員の調書と合致する。


「これはそもそも西方方面軍が功を焦って幼体のドラゴンを捕獲したことが問題の始まりだろう‼ 責任問題だ」


「軍の規則で未知、または希少性のあるモンスターを発見した場合捕獲の優先ないしは討伐にあたってサンプルを持ち帰れとあるだろう‼ ならば責任問題を追及するなら制定した中央軍であろう‼」


「西方攻勢計画が白紙に戻ったなら大人しくすればいいものを」


「あれは貴様らが謀ったのだろうが‼」


いかに責任を押し付けるかが怒声の飛び交う中で会議は踊るされど進まず。

東京の存亡を賭けた一大事だというのに一致団結できずにいた。

北部方面軍はここぞとばかりに仲の悪い西方を叩き、軍上層部の一部の人間は招集を無視して家族関係者を連れてこっそりと東京を離れて別都市に疎開したのもいれば、軍に武器を卸す民間企業などは危機的情報をいち早く収集して既に市場と経済が大きく傾いている。

経済損失で今年の就職は氷河期を迎えそうだ。卒業予定であろう進学しない高校三年生と大学四年生と院卒に見えない激励と奮戦の意を送る。

例えドラゴンをやり過ごしても立て直すには幾ばくか時間を要することになるだろうことは誰でも予想がついた。


ならば如何様に対処するかヒートアップする喧々諤々の論争の最中、二階堂が提案を行った。


「件の重要参考人の鈴木を召喚したい。彼以上ドラゴンに詳しい者はいない。何やら一案があるらしいが、時間は早い方がいいと」


鈴木は念のため十人以上の能力者を監視につけ、治療が終わった今も隣室に監禁させていた。

その本人は終始ゲラゲラと笑い、自分だけは何があっても生き延びる確信をしていた口調だった。まるでこうなることが予想済みなように。










二階堂のおっさんに呼び出された俺は拘束されたまま左右に見張りがついた状態で会議室に入っていった。

どいつもこいつも貫禄と風格のあるおっさん達が一斉に俺に視線を向けるもんだから流石にびびったが、やはりドラゴンの一睨みは勝てない。勝手な決めつけだがそも年を取って滲み出るその凄みというのが頭部の露出面積に比例するものだと俺は信じているからだ。苦労した奴はそれが如実に体にあふれ、クリスマスでもないのに枕元にそっと毎日欲しいプレゼントが置かれているのだ。

さしずめここはいい年したおっさんども共のグループセラピー会場。

大丈夫任せろ。過去に聖職者のフリをして詐欺の片棒を担いだことのある俺だ。昔から楽をして金を稼ぎたがる奴と金を持っている阿呆がいる限り生き続ける、騙すのに使えるこれほど都合のいい存在はいない空想上の生き物のことを神と呼ぶ。今ここに哀れでお粗末な貴様らの頭に神託として俺が迷える子羊どもをだまくらかして導く方法をぶちこんえでやろう。



俺はすぐに調子を取り戻すとそこに居合わせた全員を小馬鹿にするように不敵に笑った。上手くいくかどうかわからないが、最悪俺の案が通らなければ逃げればいい。俺の能力ならほかの都市でも暮らしていけるだろう。東北都市にするかはてさて東京と仲が悪い京都市に逃げるのもいいかもしれない。


「それで参考人としてどのような意見があるんだ」


「あー、まず先に俺の案を受け入れることになったら……あれだ、司法取引ってやつで俺の罪帳消しにしてくんね? たぶんここで一番支持されている案、攻勢計画だろ? 俺の案が通れば誰も傷つかず済む。ただちょっと必要な物があるだけで」


俺の提案を聞いて会議室からは若造が何をと罵倒や、呆れる声、様々な声が上がった。そいつをつまみ出せという声も上がった。おん? やるのか?

戦争になったら真っ先にお前んち燃やして火事場泥棒したるからな。家財一式総まとめでだ。

挑発ともとれる俺の発言を二階堂を含め、数人だけが真面目に聞いていた。おし、今の人顔覚えとこ。有能そうだ。絶対コイツらが後々敵に回した時だるい奴らだろう。

咳払いして清聴を願って俺は続ける。


「まあさ、簡単に言えばドラゴンにとって子供誘拐した前科持ちが近所に居る状態なわけよ。これを人間で考えたら場合によっては引っ越しも考えるよね。勿論ドラゴンはプライドが高いから逃げるくらいならこっちを滅ぼしに来る。これはご近所と結託して犯罪者をここに居ずらくして引っ越してもらうみたいに、三日間がこの引っ越すまでの思考猶予と思ってる?」


子を持つドラゴンの最後の情けみたいにせめて人類の子供を疎開させるだけの時間をくれたとでも?

それとも奇襲でなく正々堂々と戦うためにもあえて準備する猶予をくれたとでも? それを上回ってなおあざ笑うかのように力で蹂躙するのもドラゴンらしいっちゃらしいけど。


俺の予想だと、きっと軍は高尾山で大規模攻勢に出る。

黙ってやられるわけがない。女子供は三日間の間に他都市に集団疎開か頑丈なシェルターに避難させる。それもかなり日数的に間に合わないだろうが。物資も戦闘要員も他都市への護送に少なくない戦力を割くことになる。分割しようが受け入れ態勢も日本で一番多い東京の人口を抱えるのは短期間で不可能だろう。移民難民を受け入れれば待ち受けるのは治安悪化に食糧問題、物価や医療体制の崩壊。

きっと逃げても将来は絶望的だ。


そして戦場にするなら町中は避けたいはずだ。だから打って出るしかない。

だから考えなくてはならないのだ。ドラゴンは何故、この三日間の猶予を設けたのか。俺への借りとして? 子を持つ親としてせめて人間も女子供は逃げる時間を与えるために? それもあるだろうが本命は違う。


「鶏が消化を助けるために胃石として石を食べるように、ドラゴンって鉱石を食うんだよ。

ただそれだけじゃなくて、食べた鉱石の特色が鱗に加わるからそれで自己強化もしているんだ。つまりアイツらは高尾山で肉とか他の食料とか環境の要素もあるだろうけど、主にそれをやっているんだよ。

逆にいえばさ、それが済んだらあそこにいる意味がない。

さっきの犯罪者の例だけど、もし引っ越し代とかより良い新築の建設代がもらえたらさ喜んで引っ越すんじゃない? アイツは謝罪と慰謝料とか引っ越し代の貢物を待っているんじゃないかな」


以上だと告げてギャハハハと笑って俺は連れ出された。

アイツらのあの顔、傑作だった。そういう解決法があるのかと、お堅い軍での頭ではなかなか思いつかないだろう。二階堂だけ険しそうな顔で俺にサムズアップをしていたのが印象的だった。

後ろからはまたうるさくも激しい議論が再開された。俺を連行するように左右に立つ能力者も緊張している面影だ。たぶん戦いになったらここに居る者はほぼ全てあれに挑むことになるだろうから。







そして隣室に連行されて寛いでいるとドアの叩かれる音が聞こえた。はやいなあ。10分もせずに二階堂と、なんだろう貧乏くじを引かされたような気弱なおっさんを伴って現れた。

なんかどことなく人の好さそうだけど幸薄そうで厄介ごとを押し付けられたような人だ。

賭けは俺の勝ちだな。


「財務省関係の窓口として自由にあつかっていいようつけてもらった。鈴木、さっきの話出来そうなのか?」


まさに人柱じゃないか。すげー気まずそうな顔をしている。生きた心地がしないだろうに。


「何? ドラゴン本人に正式な書面にサインでもしてもらえば信じられるのか? あれは気分屋なんだよ。その時の感情で生きている。でも……大丈夫じゃない? アイツらの住処に行った時だけどちらっと財宝みたいなのあったからさ。古来よりドラゴンって財宝が好きでため込むもんじゃん」


信憑性も何もないその俺の言葉に財務省のおっさんが頭が痛そうに抑える。だって仕方ないじゃん。ドラゴンの考えていることだなんてわからないんだから。

俺以上に気分屋で、鉄のように熱くなりやすく冷めやすい性格だ。人間との約束なんて破る以前に結びもしないだろう。

そこにあるのは天災や災害と同じで、時に人はそれを治める為に供物を捧げたり時に自ら進んで貢物を送って庇護を得るのだ。

人間の尺度で測るのは彼らに対して失礼ってものだろう。


「具体的に何を集めればいい?」


「まずは謝罪に行くべきなんじゃない? 見舞金もって。大勢で押しかけるとキレるだろうからこの三人で行ってみる?」


「……行ってみましょう」


意外や意外、即決したのはその気弱そうなおっさんのほうだ。いいね、勢いがある。もっと慎重そうな男な見た目だったのに。

聞いたところ、押し付けられたのもあるが彼はドラゴンをかっこよくて崇め尊敬しているらしい。わからないこともない。遠目で対岸の火事をブレスで起こしている分を見るなら迫力があっていいからな。

成功すれば出世も発言力も上がるとぽつりと零した。中々、良い性格もしているらしい。


「じゃあお菓子もって持って遠足に向かいますか」


俺はそう言って二人と高尾山に向かうことになったのだった。


基本的にこの世界の東京は 東と南が海なので 海軍とか空軍もいるけど北と西に展開する軍が大部分です

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