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そうはならんやろ

俺は遂に能力を明かした。隠すことと能力を発揮することを天秤にかけて傾いたからでもあるがこの男には今出せる全力で戦いたかったという理由が一番大きい。


爆炎の中に佇む人の形に押しとどめられたドラゴンを合間見てそれぞれに違った反応が起きた。

傍観していた能力者は各々恐れ、驚き、なかには目を輝かせて尊敬のまなざしで俺を見ている者がいる。君わかっているじゃないか。

一方早乙女は何でこんなふざけたやつにと驚愕しつつも愚痴をこぼしているが、きっと内心俺に能力の三段階中一段階で舐めプで倒されて人生に絶望しているに違いない。彼が自殺したら俺のせいになりそうだな。

そして肝心の二階堂のおっさんだけは凄いワクワクな戦闘狂の顔をしながらも冷静に道理で連れ去られたドラゴンを助けるわけだと豪快に笑っていた。

俺が調べて簡単にわかった事だがアニマル系能力者はその元となった動物と心通わせることができ、象とかはさすがに室内飼い無理だが大抵犬猫なら共に生活している者が圧倒的多数となっている。


「まさかアニマル系能力のしかもドラゴンとはなあ。モンスターのなぞ聞いたことが無い。お前が幼体の竜を助けた理由がわかったがまた謎が増えたわ」


俺はかつて味わったこともない全能感に酔いしれ、大地を蹴った。

それはまさしく早乙女が俺にした羽を使った加速だ。飛べはしないが奴との戦闘を経てその経験を昇華してやんわりと羽の使い方がわかって来た。

グンっとさらに加速する。残像が残るほどの速度で、燃える様な赤い瞳がテールランプのような赤い残光を残して地を滑るように駆けた。


今まで決して追撃もその場から動こうとしなかった二階堂が遂に走った。

拳の応酬。

噛み合わさった拳で衝撃が走り、地面は砕け空は割れる。

その時、俺は確かに見た。二階堂の体からも俺とは違うが全身から赤い炎が噴き出していたのを。


「お前だけでは不公平というものか、自分の能力も明かさんとな。火の意志それが能力の名前だ」


「火の意志?」


「支配系、しかも火という概念を掌握する力だ」


何だそれ。どういうことだ。ただの火じゃないのか?


「酸素を消費して高温になるただの化学現象じゃない。古来から光あれ、人と獣の境界を分けた存在、太陽、魂、愛や怒りと言った感情、力。そう言った現象を、人類の統合思念を束ねる力だ」


よくわかんねえぞ。


「実は自分もよくわかっていない」


二階堂があっけらかんに笑いながらそう言った。お前もわからんのかい。じゃあ俺だなんて余計わからん。


「曖昧なのは敢えて枠にはめて形をとって制限することで力は増すが、可能性も柔軟性も殺すことになる。逆にアニマルなんかはかなりはっきりしている例だな」


知るか‼ と俺はブレスを吐き出した。

一回目のブレスでコツを掴んだ。アレンジは簡単な事だった。息を吐き出す時、熱い食べ物を冷ますときにやるような口を窄めれば細く勢いのある空気が吐けるのと一緒で、圧力の増加したブレスになる。

一回目の天を焦がすような派手さでなく、収束した一条の光線のようなブレスが迸る。それは圧倒的熱量と光を持って敵を打ち滅ぼす一撃、あまりの威力に周囲の空間が捩じるように熱をはらんで火を伝わらずに地面が音を立てて燃え始める。

だというのにそれを二階堂は片手で止めた。砕くように握りつぶし、後ろに複数に分かれた光が反れる。暴れ狂う力の奔流は世界を震わせて悲鳴にも似た歪な空間湾曲のそれだった。地面が熔解し、地球が血を流しているように赤く染まる。


マジかよ。これも止めるのか。

今まで力に飲み込まれて人間性の喪失を心配していた自分が馬鹿馬鹿しくなった。だってコイツの方がよっぽど人外離れしているから。化け物め、いったいどのようにしてこいつは人の形を保っているのか。


「ぬん‼」


二階堂が片足を軽く上げて踏み出した。衝撃が走る。2重3重に地面が液化現象で波打って爆風が巻き起こり、一面の地面は溶岩のように赤熱して溶けだした。

こいつこそ正真正銘の化け物だ。

俺は爆風で数回転転がされ、慌てて翼を広げて風に乗る。

飛び方はいまいちわからないがこの爆風にグライダーのように乗ることはできる。


俺はまるで嘗てマグマの中を歩いていた自分のように、燃え滾る地面の中で俺を見上げている二階堂を見た。

楽しそうにしているのを見ていらだちが募る。……野郎。

それに周りを見ると能力者の誰一人助っ人として入ろうとしている人間もいない。ドラゴンに関しては驚いていたが今は落ち着いて観戦している。

誰一人二階堂の勝利が揺ぎ無いことを信じているんだ。


「二階堂‼ 本気で戦え‼」


「思い上がるな小僧、お前のそれは未熟だ。全力を出すまでもない」


ブチりと血管が切れた。図星だった。まさに痛いところを突かれた。でも大人が子供を正論で殴るのってよくないと思う。ロジハラだ。世の大人よもう少し子供に寛容になれ、でも子供って沢山いて数が多くて大変だよねだからせめて俺一人に対して寛容になってくれ。


こうなったら何が何でも絶対本気を引きずり出してやる。

急降下して蹴りを放つ。見え見えの蹴りだ。勿論避けられるが、柔軟に動く尻尾で相手の体を捕らえる。

二階堂も俺の尻尾を掴んだ。そこから引き合いになる。


「ダラアアアア‼」


これでいい。この状態で殴られても二階堂に固定された俺はぶっ飛ばないし、衝撃を互いに逃がさず打ちあうことになる。

コイツは絶対接近戦で倒してやると決めていた。相手の得意分野で勝ってこそ俺の勝利が絶対的な物となるから。

防御も何もしなかった。攻撃は最大の防御、そんな生易しいものじゃない。

避けない。きっと俺が避けなかったらこいつも避けないで全てを受ける確信があったから。

ただ、ただアホな男という生き物の力と力の根競べ。


インファイト。互いの連打と連打が続いた。肉を打つ音、金属の体から響く低重音。

殴り、かち上げ、叩き潰す。線香花火の火花の一筋一筋が流星になったような獰猛でしかしどこか儚げに綺麗な拳と拳の混じり合い。


その中で特別な一撃、二階堂の掌底が俺の心臓を打った。

縫うように攻撃を潜り抜け繊細でしかし力の籠った一撃を見舞ったのだ。

手品のような、正面にいるというのに不意打ちを食らうそこに卓越された技術があった。対人戦なんて経験のない俺にはその攻撃を到底理解できなかった。

まさしくハートブレイクショット。口から心臓が飛び出したかと思うほどの衝撃が走り抜け、心肺が止まったように体が強制停止する。

例え一瞬でも止まってしまえば致命傷になる隙だった。


「ガアアア‼」


「な!?」


だから俺は気合を入れて足を地面に打ち込んだ。太ももは第二の心臓とか何とか。ポンプのように膨れて血流が激流のように送り込まれ、止まった体を強制的に動かす。

二階堂にとってもそれは想定外の事態だったのだろう。やっと、逆にここで初めて隙をさらした。ピンチはチャンスってやつだ。

俺の両手の拳を同時に打ち込む山突きが胴を捉え、遂に二階堂の体が浮く。


「仕返し、だああああああああ‼」


ブレスを放った。それは見事に無防備な胸を打った。

遂に一回仕返しが出来た。二階堂がぶっ飛んで後方の壁に激突し、そのまま壁が崩れる。

俺は倒れた相手に攻撃しないだなんて生易しいことはしない。俺は駆け抜けて追撃を――






「きゃあ‼」





それは場違いに聞こえた女性の悲鳴だった。

確か最初、医療班と言われて待機していた女性能力者だ。二階堂がぶっ飛ばされたことで彼女が居たところの壁が崩れ、まさに上から瓦礫が落ち―――「あぶねえ‼」そうになって二階堂が瓦礫から飛び出して彼女を庇う。


「……あれ? ……何とも」


「……ほぅ」


「……チッ」


二階堂は瓦礫から彼女を庇おうと抱きしめた。そこには落ちる瓦礫、追撃する俺が彼の目に映っていた。

そして俺は追撃を諦めて瓦礫を跳躍して止めたのだった。


二階堂が感心したように俺を見た。

俺としては水を差されたことでもイラついたが、顔を真っ赤にして二階堂に熱いまなざしを送る女性の姿にそれ以上にかつてないほどイラついた。


ああ、うぜえ‼ 


二階堂が彼女に怪我がないか心配そうに立たせると、女性は恥ずかしそうに大丈夫です‼ と言って足早に他の医療班の方に駆けていく。医療班は女性が多いのかきゃーきゃー黄色い声が上がる。

ああーなんだこれ、まだ勝負ついてないのに負けた気分だ。何か知らんけど勝てんわこれ‼


仕切り直しで俺達は中央に戻った。

後ろではもう能力者たちが即急に壊れた壁のところを直している。

なんつー気分だ。だが怒りも悲しみもすべて戦うための糧にして俺はまた賢くなる。もし似たようなことが今後起きたら真似をすればいいのだ。


これで毒気なんか抜かれてやる気がなくなられれば困ったものだったが、舞台の中央に戻ると二階堂の様子が変だった。

再度向き合って構えると、何故か嬉しそうな悲しそうな顔をして溜息を吐いた。

仕方ないと表情が物語っていた。


「ほんの少しだけ本気を出してやる」


唐突に、いや……やっと認めたのだろう。

彼に倒したいと思ってもらえたのだ。

それだけがこの上なく嬉しい。あの最強に認めてもらえたのだ。これ以上の名誉はないだろう。

これより先は何て楽しい戦いになるだろうか。

ああ、楽しみだ。


唐突に二階堂が消えた。「―――な‼」この今の状態でも目で追えないだと。圧倒的に反応速度も上がっいるのに。俺はただの勘だけで頭上で腕を合わせた。第六感とでもいうのだろうか。それかちゃんと防げれるように誘導されたのかわからない。

その瞬間二階堂が現れた。腕に雷が落ちたような激痛が走る。骨は折れていないが芯を揺さぶるような一撃で痺れて手が自由に開閉できない。なんつー馬鹿力。

衝撃で土が舞い上がり、一面に黒煙が立ち込める。

そして拳を握って反撃しようと身構えたときには既に姿が見えなくなっていた。


目に頼るな。聞け、嗅げ、感じろ‼ ひゅっと走る鋭い音。奴の匂い、足裏から感じる地面を蹴る振動。

すべてを利用しろ、こいつには己が持つすべてを出し切ってもまだ狭めない圧倒的力の差がある。


「そこだ‼」


走り出し、腕を振るったそれが確かに二階堂を捉えた。衝撃が突き抜け、真後ろの煙がその形に沿って弾けた。

いける、見えてる。俺は戦っていける。まだだ、まだ強くなれる。

奴も拳を突き出す。反撃を、腕だなんてこの先人生使えなくなっても構わわない、捨てる覚悟で防ぐ。


「あはははは」


「ははははは」


俺は笑っていた。二階堂も笑っていた。

互いに走り、時に並走し、交差し、そのたびぶつかり合った。

攻防の繰り返されると火花が散り、黒煙に俺と二階堂の断片的に激突する影が幻想的に映り出される。

やはり戦いというのはゲームというのはある程度強くなって見えてくる世界がある。その世界を楽しめる一握りしか到達できない力が今まさに俺に宿った。

世界はこんな強い男がいるのか。そして俺も自分自身の強さを自覚できた。

楽しかった。凄い楽しかった。これがずっと続けばいいとそう思った。








クライマックスで最高潮に達した。

だが、それは唐突に終わった。まるで劇場の続きを見たいのに残念に幕を引くように、逃れられないそれは必ず訪れた。

足がもつれて俺は転んだ。戦場で致命的な行為だ。何をしていると自分を叱咤して俺はすぐに立ち上がろうとするが腕が動かない。足にも力が入らない。それどころか体のどこを探してかき集めても拳をふるうだけの力が残っていなかった。

動け動けと願うばかりで体は一向に動かない。泣いた。もうあの楽しい時間を過ごせないとわかって涙があふれ出る。

やがて体が痙攣し、口から吐血した俺は地に伏せた。


「はぁ…はぁ…」


「やっと力尽きたか」


いつの間か二階堂が倒れた俺の横に立っていた。

糞、コイツの完全な全力を全然引き出させなかった。武器も使われていないし、俺が満身創痍なのに対してこいつは怪我一つしていなかった。

これほど歴然とした力の差があったとは。やはり俺は漫画の主人公みたいになれないらしい。強敵を倒してからの更なる強敵。激戦の中で進化していく力と覚醒した能力。俺の持てる全てをぶつけて何一つ傷を与えることも出来なかった。


「殺せ」


「あん?」


「殺せ、悔いはない。このまま牢獄か人体実験でもされて生き恥晒すよりかいっそ楽に殺してくれ。あんたに殺されるなら―――――ぶへぇ‼」


二階堂が困ったように俺の頭を引っ叩いた。


「おい、出来れば苦しまず一撃で……」


「アホたれお前は尋問だ。終わっても悪いようにせん。約束する」


戦闘の余韻が冷めていくように赤熱した体から熱が奪われて急激に冷めていく。

息をするたびに上下する胸が肺の痛みを訴えてくる。

敗者の処遇を決めるのは勝者の権利だ。致し方ない、ここは諦めるか。








二階堂が合図をし、終わったのを確認した医療班が走ってきて俺の治療に当たる。担架で運ぼうとするがアホみたいに俺は重いから持ち上がらない。

ここで最低限の治療を行なわれていく。

他にも事後処理や関係各所に連絡をやっているようだ。あわただしく人々が行き交って迅速に対応していく。

顔を横に向けると早乙女も降りてきて俺の事を無遠慮に靴先で突いて反応を楽しんでいる。うぜえ。覚えとけよ。

だが悪くない。こんな雰囲気も。

戦いの後、強敵と分かり合うと言った少年漫画風の場面だろうか。


「いいのか? 俺軍を襲って車壊しちゃったし」


「大丈夫だ」


「ラーメン屋とか周りの人にもすげー迷惑かけた」


「子供のしたことだそれは反省をすればいい」


「早乙女の半裸写真ネットにあげた」


「やっぱこいつは殺しておきましょう」


早乙女が割とガチで殺す気で来たから嘘嘘嘘‼ と叫んで携帯を渡した。

最近買ったばかりの携帯は戦闘で砕けていたが、データは無事だったようで確認されたら最後には粉々に砕かれた。いいのか? 携帯とか襲撃犯の貴重な証拠とかあるだろうに。


「こっちで何とかしておく。損害賠償はあるかもしれんけどな。すべて任せろ」


え? それが一番嫌だったんだけど。


「怒らないのか?」


「ガキが、大人を舐めんな。お前はこっぴどく怒られるさ。そしてその後はちゃんと法律で裁かれて罪を償うんだ。今回の状況がどうだったかわかれば軽くもなる。ちゃんと証言するんだぞ」


「いいのか?」


「ああ」


「本当に?」


「疑り深いな」


俺は顔を隠して、泣きそうなのを堪えて言った。

皆の顔を見れそうになかった。

赦された。いや、受け入れられたのだ。きっとどういう状況で説明とかすればちゃんとわかってくれるはず。だって俺達は戦いを経てこうやって互いにここまで分かり合えたのだから。

戦いの中で友情と信頼が芽生えたのだ。


「……最後にいいか?」


「何でも言ってみろ」


恐る恐る皆の顔を見た。

二階堂が笑顔で俺に微笑んでいた。子供を安心させるような慈愛に満ちた顔だ。

早乙女も何だかんだ拗ねているが、許してくれるみたいだ。

うん、この笑顔を信じよう。きっと大丈夫だ。

だから言おう。


















「今ね、高尾山のデカい親ドラゴンがこっちに来るって言っていたけど許してくれるよね」


「……………は?」


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