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更なる戦闘

豊島ダンジョン。そこはダンジョンが地上に露出し、半ばすり鉢状に変形したその台地は軍の世田谷方面駐屯地となっていた。

広大で在り且つダンジョンの特異な地形は主に軍の能力者総合火力演習場として使われている。

そこに一通の報告がされた。

民間人との市街地戦で早乙女敗れる。

その報告が入って軍は騒然とした。

何が起きたのか。正体不明の能力者との交戦。外壁地区での襲撃。モンスターの目撃情報やドラゴンの噂。様々な情報が飛び交った。


「かーッ‼ てめえら気合足りてねえぞ‼ 立てる奴は居らんのか‼」


その中で一人退屈をしている男の耳にもそれは入った。

男の名は二階堂。動画サイトやネット上では壊し屋とも呼ばれているがもう一つの呼ばれ方の方が有名だった。

日本で最強の男。名実ともに揺るがないその実力。数々のうち建てられた伝説。

皆が口をそろえて彼を最強の男だと言った。


そんな彼は火力演習場で他軍人、能力者も含め周りに集まった全員を相手しながらもなお余裕を保っていた。

飛び交う銃弾、能力者の火球や氷の杭。抜刀して接近戦をする者もいれば組みついて動きを止めようとする者。それをなんのその。まるで痛痒も感じさせられていなかった。

周りは死屍累々と言った感じで能力のガス欠で倒れたものもいれば殴られ、時に蹴飛ばされ、大の男を軽々と赤子のように投げ飛ばしダウンさせていた。

何十、何百といるが誰一人起き上がれる者はいなかった。


「あん? 早乙女がやられた? 随分活きがいいなその襲撃者は」


満身創痍というわけでもなく、ほぼ無傷のまま早乙女は無力化されたらしい。

戦闘後とはいえ自分の足で立って歩いているのが見えた。


「おい、早乙女。そいつのこと、教えろや」


激闘はまだ終わらなかった。










俺は早乙女の奪ったズボンを道端の屑籠に捨てると財布を抜き取って夜の路地を歩いていた。

良い風だ。勝利の余韻に浸りながら熱く燃え上がった体を撫でるように吹く風は心地いい。

嘗てないほど体が滾っている。初めての能力者バトル。たぶん早乙女は飛行能力者なんだからホームベースである空中で戦うことがその本来の実力が発揮されるだろう。こんな密集した建物の狭い裏路地で戦うというのはかなりハンデを負った戦いであっただろうが勝ちは勝ちだ。あいつが油断したというのもあるが俺が有利な地形に引きずりだしたともいえる。

鳥が地に足ついて戦う方が悪いのだ。


少し湿って人気のない裏路地は心地よく足音が響いてそれが落ち着くとはやはり俺は元来お天道様の真下で真っ当に生きるのが難しいのが皮肉にも身に染みてわかる。


俺は公衆電話に寄ると管理人に電話を掛けた。


「すいません。仕事本日で辞めますお世話になりました。もう遅いかもしれないけど大変迷惑をおかけしました」


『はぁ? ちょっとどういう――――』


そこで一方的に言いたいことだけ言って電話を切る。

日本の捜査はハイテクだ。現場に指紋はばっちりだし、姿も撮影もされている。口を隠してフードも被っているが目だけでもデータベースの顔認証で正体がばれるのは間違いないだろう。だって俺この前ミスリル発見者として新聞に出たし。見つかるのは遅かれ早かれすぐ、それこそもうばれていてもおかしくない。


ここまで来たらあとはどうなるかわかる。

あーあ、つまんねえ。俺もここまでか。絶対逃げられないだろうな。

ただ悪あがきをしたかった。シャバでまだやりたいこともあるし童貞だし、好きな人にも告白していない。

犯罪者になってから告白とか絶対重荷になるから意地でもしないけど。

やりたいことや行きたいとこ。まだ沢山あった。

刑務所の冬は寒さが厳しくなければいいなと祈るばかりだ。




既に足音が聞こえる。普通なら聞こえないであろう場所から。もうこの時点でイレギュラーだ。見れば両隣の建物の屋上に人影がある。仕事が早いこったで。

俺はそのまま気にせず道を歩いて、駅に向かう標識を見つけて進む。

別に人ごみに突っ込んで他人を巻き込もうとか人質とか考えていない。

ただ現状出来るであろうことを最後にやっておきたいからだ。


駅前のラーメン屋に寄った。日本一美味いと噂のラーメン屋だ。前々から来たいと思っていたがきっと高いだろうし行けなかったのだ。けれど今日は早乙女の奢りだ。アイツが財布ごと貸してくれたから。いやー人の金で食う人生最後かもしれないラーメンはきっと最高に違いない。


ラーメン屋には行列ができていた。まあ当然か。

俺は先頭の人間に万札を渡して、無理やり列に割って入って店の中に進んだ。


「味噌ラーメンおなしゃーす。餃子とチャーハン大盛りで」


直後に背後から盛大な車の制動音。

この音からしてただの乗用車じゃない。駆動音も正に獣の唸り声のようだ。

そして次々にそれは集まってライトが照射され、のれん越しにまるで昼間のように明るくなる。

外では行列に並ぶ客の騒然とした声が響き、店内に居る客もこれは何かヤバいと思ったのか逃げ始める。


「おい、お前これ手つけてないじゃん。俺貰うよ?」


ラッキーだった。本当に時間が押しているから。改めてラーメンを見る。なるほど噂にたがわぬその迫力。匂いだけでも今まで食べて来たどの食べ物より旨いことがわかる。

内装もTheラーメン屋って感じ。少し落ちつ気はないがいい雰囲気だ。俺好みで悪くない。

割りばしがパチリと割れる。


「いただきまーす」


箸で掬うと黄金のたれが絡んだ細い麺から湯気が立ち上る。迸る肉汁、星の輝きのような胡麻、そこから香る匂いは激戦の後の空腹をこれでもかと刺激した。


「ああああ‼ ……こりゃあ旨い」


調和だ。まさしくこれだったのだ。俺に足りないのはこれだったのだ。戦い方も勉強も生活も人生も何もかもこれが足りかったのだ。その不足を心と共に満たすように体に染みわたる。

まるで牧師が穏やかにそして諭すように俺に語り掛けるみたいだ。まあ神様だなんて電車で便意を催した時くらいしか祈らないし、その後は唾棄して恨みもするけど。



ずるずるとラーメンを啜っていると入口が開く音がする。万年平均以下の成績しかない俺に頭脳戦で負けた馬鹿だ。そんな馬鹿な早乙女が呆れた顔で俺を見ていた。

良かったちゃんと服を着ている。

馬鹿が服を着て歩いているような男が服を着ていなかったらそれはもう手が付けられなかったから。


「発見しました。間違いありません」


後方の誰かにそう伝えると入ってきてづかづかと近づいてくる。

うわーいいとこなのに。めんどくせえ奴。しつこいなまったく。


「君、何をしているかわかっているのかね?」


「お兄さん誰? 初めまして俺は―――」


「鈴木太郎だろう。生年月日も現住所も所属している高校のクラスも出席番号も全てわかっている」


すっとぼけてみたけど駄目だった。この短時間にここまで調べ上げてくるとは日本の捜査力ってスゲー。

もしかして万が一の確率で実は正体がばれていなくて、ただのストーカーっていう可能性はないだろうか。一瞬思考を読まれたのかすげー睨まれた。……やはり無いか。

運命から逃げられないのと同じで早乙女から逃げられない。

以上のことから運命=早乙女ということで机を叩いて手がすり抜けるくらいの確率でストーカー説もあり得る可能性と思ったのに。

きっと逃げられないに違いない。いやその気になれば逃げきれるけど。まだ手はないわけじゃない。

それでもちゃんと少年院法は未成年を守ってくれるか心配だ。


「何だばれてんのか。じゃあ彼女募集も追加してくれ。お前も食うか? 奢るぞ」


「それはもともと私の金だ‼」


早乙女が怒りながら財布を取り上げた。わかるよ、財布って万札はとにかくカードとか紛失すると再発行がめんどくさいからね。カード会社に止めてもらったり、その間保険証無いから病院にも行けないもんね。


「もうちょっと待ってくんね。これ食べ終わったらもう最後だから」


「馬鹿か君は‼ そんなこと―――」


「まだ高校生じゃねえか。あんま強そうに見えんがなあ」


その声を聞いてザワッと全身の毛が逆立った。嘗てない強烈な指向性の持ったプレッシャーを感じた。ドラゴンは俺のことを地を這う虫くらい無視して相手していなかったからこれほどまるで質量を伴ったような重圧を受けたのは初めてだ。

俺の危機管理能力がアラームを全力で鳴らしている。早乙女でさえ屁でもなかったそれを痛いくらいに何か形容し難い衝撃が俺の中を走り抜けた。心臓がうるさいくらい激しく鼓動する。脈動で耳が痛い。

何だこれ。深海の圧力のようだ。迫りくる巨大な力をはっきりと感じた。

ラーメンを噴き出さなかった自分を讃えたい。

何か知らんけど、はよ食べよ。


「……おいおい」


入って来た男は2メートルを越す巨漢だった。丸太の様な腕に浮かぶ血管。

体のあちこちにある傷痕は過去どれほどの激戦を経験したか物語る。

赤い特注軍服に身を包み熊のようなひげを蓄え、目はまるで狼のように獰猛で鋭い。

世情に疎い俺でも東京に住んでいる人間ならみんな知っている。

東京の英雄。


「最強の男……二階堂」


「暇だったからな来てみたんだ。久しぶりに骨のあるやつと戦えると聞いてなあ。未知の能力に、正面からぶつかっていくその戦闘スタイル。大いに期待している」


正直、正直の話ラーメン食ったらもう両手を大人しく出してお縄にかかる気であった。

逃げてもいいけどなんか早乙女は俺を悪く扱う気がしなかったし、それにヤバくなったら振り切ってあの親ドラゴンの所にまで逃げる気だった。

きっと匿ってくれる自信があった。


だが今気が変わった。

あの英雄二階堂と戦える? 握手会なんかじゃない。世界の中心のような男が俺を見ているんだ。こんなチャンスは二度と来ない。きっとこの先俺の人生にこんな幸運は来ないだろう。

正に行幸。

神に感謝する。


「おい、鈴木。流石のお前も勝てないから大人しく投降して良いんだぞ。どうにかこっちで最大限便宜を図るから」


早乙女、わかってねえなあ。だから馬鹿なんだ。


「日本一美味いラーメン屋が在ったら食いたいってのは当然だろ。ボクシングの世界チャンピオンが目の前に居るのに、黙って指をくわえて見るボクサーだなんて負け犬のやることだ。そいつに挑んでこそだろ‼ 男なら一度は目指す最強が目の前に居るんだ。戦わないわけがねえ」


「いいぞ、それでこそ男だ」


期待していた答えだったようだ。二階堂が嬉しそうに笑っていた。俺も笑っていた。

何たる幸運何たるめぐりあわせ。

男というのはどんなに知能で取り繕うが原初の始まりから戦いに惹かれる宿命を背負っているのだ。


ここが一世一代の時だ。人生最大の好機だ。こんな面白いエンターテインメント逃してたまるか。意地でも食らいついてやる。

もう死んでもいい。これで殺されるなら本望だ。このままみじめったらしく死んだような収監生活を送るか逃亡生活を送るよりここで鮮明に命の炎を燃やして派手に散ってみせよう。


「来い。避難警告を出して一帯の人払いは済ませてある。存分に戦え」


「しゃあ‼ やったぜ‼ あんたを倒せりゃあ俺が最強だ。そしたら今回のこと見逃せよ」


「勝てたらな。負けたら大人しく今回の件話してもらおうか。だいたいのことは掴んだがわからないことが多すぎる」


何だ結構軍って緩いとこなんだな。てっきり大勢の特殊装備の突撃隊が店に入ってきて俺を拘束して終わると思っていたのに。まあ早乙女って結構強いみたいだし、それに勝ったから大抵の奴が来ても焼け石に水だったのだろう。


店ののれんを潜ると外にはたくさんの人がいた。

宙に浮いている者、手の平に風が渦巻いている者。様々だ。たぶん全員能力者だ。

それが取り囲むように道路だけじゃない。屋上、壁、足元からも何か下に潜っているのを感じる。

すげー、軍の能力者が大集合って感じ。圧巻だ。間違いなくこんな怪しい集団が普段いたら通報の嵐だろう。俺なら嬉々としてする。


「封鎖」


二階堂の声に反応して複数の能力者が前に出て、手を翳して何かをする。そしてその変化はすぐに表れた。


「おおおおおおお?」


地震と間違えても笑えない。

地面が揺れて断崖のように土が盛り上がる。それだけじゃない。目の前で大きい小さい区別なしで等しく全ての建物がスライドパズルのように移動していく。

信号も道路も移動し、車や自販機が目まぐるしく見えない何かに引っ張られるように飛んでいく。

まさか戦う場を整えるためにこんな大規模工事顔負けの、正直天変地異一歩手前のような事象を簡単に起こすなんて。

常識を覆すような、過去の自分のあり方を否定するような能力者たちの世界が展開されていく。




瞬く間に景色が変わって闘技場のような広場が出来上がり、俺と二階堂だけが舞台に残される。

すげえ。やっぱ能力者ってこんなにぶっ飛んでんのか。スケールが違う。ただのチンピラ一人相手するだけなのにこんなことをするだなんて。そりゃあ皆億万長者になるもんだ。

もしかして俺もそんな凄い能力だと思われているのだろうか。勘違いも甚だしい。あとでがっかりされて恥ずかしい思いをしそうだ。


その能力者たちは広場を作り終えると周囲を囲う壁の上に移行して行く。まるで観客だ。つまり俺は見世物か。

他の能力者たちを動員して大都会のど真ん中を勝手に封鎖及び占拠して、始めるのは決闘。経済損失は如何程か。後で請求されないことを切に願う。それにこれってかなり軍を私物化しているんじゃないだろうか。いいのかそれで。どうなんだ二階堂。ここまで来たら意地でも俺は戦うが。


「じゃあさっさとやるか。先手は譲ってやる」


二階堂に指をくいくいとされていつでも初めてもいいと言われる。武器も抜刀せず舐めてやがるなあ。それだけ戦力に差があるのだろう。

わからんでもない。初めて会ったその瞬間から身に纏う空気が自分との隔絶した差を如実に物語っていたから。

せめてあっと驚かすか……いや、何戦う前から諦めている。気持ちで負けたらもう既に敗北は決定したものだ。これほどの男につまらない戦いはしたくない。

勝つ。そしてこいつからも財布をかっぱらって次は焼き肉にでも行ってやる。


タっと俺は走った。今まで嘗てない全速。しかもちゃっかり早乙女から奪ったミスリルの剣を食ってかつてないポテンシャルで挑んでいる。

その強烈な踏み込みで道路建設業者が泣きそうな陥没とひび割れを起こしながら駆け抜けた。


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