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アルバイトリーダー その名は鈴木‼


「許可できない」



脂ぎった教頭の禿げ頭が一際輝いた。

手垢だらけの眼鏡の向こうからぎょろりとした目玉が睨んでくる。


コイツぶっ殺してやりてえと胸中に燻る暗い感情を抱いたのは、さて本日何度目だろうか。

摩擦の多い昨今の世の中を生きる皆様においてはきっと俺と同様に日常で誰かに対してこう思った方は少なくないだろう。


ではなぜそれを実行しないの? ってなったら本当に殺すわけないじゃんといけしゃあしゃあと俺は言うのだが、実のところそれは法が律しているからだろう。


ただ、人を殺すということ自体は俺の自論だが悪い事ではないと思う。

そも法律がややこしい。

戦争時で敵を殺せば英雄だとか、通り魔を返り討ちにして殺してしまっても正当防衛。

時期や状況によって違う。


銃に関してはアメリカではスーパーで民間人に売っているのに日本では特殊なライセンスや一部の職業の人間にしか所持を許されていない。

酒と煙草と大麻も日本は酒と煙草は許可され大麻は禁止されているが国によっては全部禁止だったり全部合法だったりと場所によっても違う。


一部の偉いやつが自分の都合のいいように決めているんだ。

だけれども法律を犯す行為は起きるべくして起きるのだ。

トロッコ問題なんかは悠久の人類の頭を悩ませる課題ではある。


他には例えばもしこんな状況、崖からぶら下がっている落ちそうな状況の人間が居て、そこに更にもう一人その人の足を掴んでぶら下がっている人間がいるとしよう。

上の人が落ちそうだから下で自分の足にぶら下がっている人間を蹴り落とす。


例えば治療が必要な人間が二人いる。

どちらも生命の危機で助かるには医療を受けないといけないが医療を受けられるのは一人だけ。


ウイルスとかが流行って、患者がたらい回しにされるというのもよくあることだし、場合によっては受け入れ拒否されることもあるのだ。

命の選択トリアージという言葉ができるくらい。


何だったら死にそうなのは自分じゃなくて配偶者や自分の子供だったら。

正直そう言うのは巡り合わせが悪かったと思うしかないだろう。

運命でその人が人を殺す番が来たのかもしれない。


まあ、大半の殺人は事故を除いて利益や怒りや恨みそう言った感情が殺人を犯すペナルティとの天秤で傾いたと言えるだろう。


要するにここまで長々と語ったわけだが何が言いたいかというと殺人は悪い事ではないということだ。

法の穴を点いてすり抜けるか、死体を完全に証拠を残さず処理するか、発覚後に上級国民としてもみ消すなりこっそり国外逃亡出来ない奴が警察に捕まるのが悪いのだ。


そうでなけりゃあ、目の前のこの殺意がふつふつ湧く禿たおっさんに対して天秤が傾かず、そこまでして殺す価値が認められなかったと思うしかやってらんねえってこった。

まあ負け惜しみだ。

でもあえて言おう。


俺は悪くない。

環境とか世の中とか社会が悪い。決して俺は悪くないのだ‼




「そこを何とか……」



だから惨めな思いをするのも耐えなくてはならない。


譲歩してくれないかと、何とも頼りげない声で高校の学ランに包まれたぼさっとした青年が険しい表情で呟いた。




「成績が悪いのにバイト時間延長申請? 学生の本分はね勉強だよ」



見た目は悪者の教頭だが言うことは的をえていた。

この高校では学生のバイトは禁止されていないが、一か月あたり何時間働けるかは規則で決まっている。

だがそれでも言うしかなかった。




「家計が厳しくて。このままじゃ学費も払えません」


「でも払ったところでこの成績じゃ卒業できない。意味がないのではないか?」



じゃあどうしろと言うのだ。

確かに成績は低い。

これは全面的に俺のせいだが皆が学校から帰ってくつろいでテレビ見て勉強している間も俺は必至に働いて金を稼いでいるのだ。


家賃も学費も生活費も何もかも。

この時の俺は運も金もなかった。


無言で黙っていると教頭は二つの紙を取り出した。


『退学届』


そして




「国からも推奨されているからね。これを選択すれば遅刻欠席に単位優遇措置に、勿論学費や税金に対しても一部免除される。私としてもこちらを勧めるよ。これは頭数そろえるための人員確保や優秀な人材を輩出したら国から補助金が出て私の評価が上がるからとかそう言った理由ではなく純粋に君を思ってだ」



絶対お前後者の方しか考えてないだろ。

そう吐き出しそうなのを必死に抑えたが、おっさんがニヤッと厭らしく顔をゆがめたのを俺はしかととらえたぞ。


何つー野郎だ。こんな奴が教育の場に立つだなんて世の中いい感じに狂ってやがる。


俺はどれどれと受け取った紙を手に持った。

渡されたのは胡散臭い勧誘が乗った広告紙だった。





『アットホームな職場だよ。未経験者大歓迎‼ 若い世代が活躍‼ だけど年齢は問わない。学歴も不問で面接も無い‼ 先輩たちが優しく指導‼ 笑顔の絶えない職場‼ チームワークで打倒強敵‼ 頑張り次第で月給100万円以上目指すことも夢じゃない‼ etc……』




何だこれはと口を突いて言葉が飛び出した。

胡散臭い言葉のオンパレード。

色んなアルバイトを渡り歩いたが、ブラック企業が人員募集の広告を出してもこんなひどいものはできないだろう。

呆れを通り越してさも感嘆しそうなくらいだった。


それは年がら年中求人募集をするほど人手が足りない仕事。

何故足りないかは仕事を辞めたり人間をやめたり生きることを止めた人が多いからだ。


仕事をやめない限り定年まで、いやこの仕事には定年だなんて存在せず、殉職率150パーセント(死んだ後もアンデッドとなる場合があって2度殺されるから+50パーセント)を誇るなったら絶対死ぬ職業。


その名は冒険者だった。










――――――数日前。

ガガガガガガガ。ゴトンゴトンゴトン。ガチョンガチョンガチョン。

奇妙な機械音がトタン屋根に囲まれた工場に響いた。


力学者が見れば嘆きそうな油のさしていないお粗末なベルト機構。

照らす光は機械の振動に合わせてしばしば頼りなさげに揺れている。

立ち込める異様な空気に、決して常人ならば纏わないであろう可笑しくもどこか狂気を含んだ人間がその場には何人もいた。


ボーっとしていた俺はハッと意識を覚醒するが今一度考えて別にボーっとしていてもなにも困らなくはないと、深い哀愁が漂う溜息を人知れず騒音にかき消される中吐き出した。

吐き出した息は熱と水分で白く曇って頭上の換気扇に吸い込まれていく。

視線を下ろした先では剥がれ落ちかけた塗装の床材に、薄暗い蛍光灯の光が鈍く反射。



この仕事をしてもう長いこと経つ。

無意識どころか夢にまででてくるこの仕事の一連の作業は洗い落としたいほど体に染みついている。

ボーっと思考停止していてもできる慣れれば単純なタスク。

寧ろ放心のそれが好ましいと言われている。

そうじゃないと心が枯れてしまうから。

現にこの前も新入りが心を病んで辞めてしまった。


俺は自分の恰好を今一度見直してみた。

ぶ厚い防護眼鏡と安さだけが売りの市販性のマスク。

白い帽子にぼさぼさの手入れされていない頭髪が押し込まれ、夏にはげっそりなるような全身用の作業着を着ている。


首を上げて周りを見渡す。

右も左も前も後ろも俺のような格好の人間が何列にもなって立っている。


そして下を見た。

ベルトコンベア。

右から左へと機械に運ばれてくる。

珍しくもない光景。

見慣れたいつも通りの日常の光景だ。


ビチャ‼

俺の作業着に飛び跳ねた血と肉がこびりついた。

これもまあ普通だ。何せここにいるのは全員そうなのだから。


魔物、怪物、化け物、クリーチャー。

年寄りはもののけと言うが俺は気分によって違うがもっぱらモンスターと言っている。

言い方は人それぞれの人類に仇成す敵対生命体が蔓延るダンジョンが世界中に突如として現れてからはや100年近く経った。


そのモンスターの出現に合わせてモンスターに対処する冒険者と言う仕事が作られたり、増えたり減ったり多々色々なことが変わった。

俺が今現在務めるモンスターを解体するこの工場も時代の変革に合わせて生まれたのだ。


皮を剥いで肉を斬り、骨を断ってバラバラにする。

そしてばらしたものは食用品として加工されて箱詰めされ、モンスターの種類と部位によっては薬になったり骨を材料とかに加工するべく別の所に運ばれていく。

そんな場末のような工場で働いていた。


俺は後輩含めたこのレーン15人のリーダーだった。

所謂ここでは解体レーンリーダーとか言われている。

うん、バイトリーダーみたいなもんだ。

あまり凄くないね。

右隣のレーンにもいるし、左隣のレーンにもいる。


だが侮るなかれ。

浮気して慰謝料と養育費の支払いに追われているおっさんとギャンブル依存症のおばさんを副リーダーとして率いる我が最強の解体グループだ。

その実力はこの工場で一二を争う。


そんな俺には夢があった。

解体スキルレベル2を取得して高校を卒業したら正規雇用としてこの工場で正社員になるのだ。


スキルとは冒険者組合、ギルドとも言うがモンスター等に対処するべく発足された組織でそこで英語の検定や自動車学校のように試験を受けて取得する資格や免許に近い、まあ要するに俺みたいなのから金を巻き上げる利益主義に走った産物だ。


他にも戦闘系のスキルだとか色々あるらしいがそれは本職の冒険者が必要な物であって関係なく、俺が欲しているのはこの工場で安定収入兼収入アップを見込める解体スキルだ。

建設工事や解体工事でクレーン等の重機の資格や電気工事系の資格を持っていると優遇されるのと似ていると言えばいいだろうか。


モンスターの解体と言うと平穏な暮らしをしている一般の方々にはなかなか想像が難しいらしいが何もそんな特別なことはしていないし難しい事じゃない。

イメージとしては豚や牛の屠殺場に近い。

牛肉や豚肉を食べるのと一緒で身近で必要な社会システムだ。

勿論モンスター共は息の根を止められて運ばれてきているが。


しかし機械で運ばれてきたモンスターの死体を日々こねくり回しているのには違いない。

ベルトコンベアの機械作業でも気を病むといのに、生きていても見た目グロテスクなのに殺されて余計グロテスクさに拍車をかけたそんな生き物の血と肉に触れるこの仕事は輪をかけて人間性が擦り減る。


向いていない奴はとことん向いていない。

今日もまた一人気を患って辞め、人員補充に違う人が採用されていく。

いつも道理だった。

いつも道理、資本主義の過酷な職場だった。

だが賃金だけは良かった。




「……定刻か。お疲れ様です」


チャイムが鳴るとゾンビのように無気力で働いていた皆が片づけを始める。

備品を元に戻して消耗を確認し、消毒と出荷棚に詰まれる箱に運送先のラベルが記入されているかの仕上げの確認をして戸締りをする。


特にこれと言って面白味のない労働力提供作業。

だが採用条件では前歴も何も問わず学のない俺のような人間でも比較的高い賃金が見込めるのがこれの良い所だ。


皆も片づけが終わった順から各々帰っていく。

俺も帰路に就く群衆に混ざり、まるで周囲に溶け込むように去っていく。


昨日も見た光景。

そのまた前日も同じだった。

同じことの繰り返し。

つまらなくも慣れ親しんだルーチンワーク。


ひとによっちゃあ何がそんなに楽しくてそんなことを毎日してんのと問われるが、そも楽しくなんてねえ。

金がもらえるからやってんだ。

パンを得るために働いている。

端的に言えばパンを得て死ぬだけの労働者生活人生。


でもまあそういうのは偉い人にとっては盲目的な豚のほうが飼いやすくていいのかもしれない。

人によってはそれで家族を養えるから満足しているという人間も世の中にはごまんといるのだ。


いや、それが騙されているとか信じ込まされているとか刷り込みなのかもしれないがバカな俺には分からねえ。

気づけばそこに嵌ってずるずる抜け出せなくて、同じ者同士で傷を舐めあって慰めあういつまでも続く毎日。

それに本人が納得しているんだ。


だからたぶん今日もそうだったから明日も明後日も来週もこんな日々がずっと続いていくのだと俺は思いこむように決めつけていた。

だってそうじゃなくちゃ。

こんな酷い環境でめげずに頑張っているのにそうでなくちゃなんだというのだろうか。





俺、鈴木太郎は何処にでもいる高校生だ。

両親を事故で亡くして海外に居て碌に会ったこともない伯父名義の四畳半のボロアパートに住んでいるが、それはまあここには似た境遇の奴は掃いて捨てるほどいる。


このアパートにはもっと悲惨な奴もいるくらいだ。

狭い廊下ですれ違った同い年くらいの女子がいけない店に入っていって働いているのを見たことだってあるし、男子がゲイバーで働いているところも見たこともある。

通路で横をすれ違った俺より年下の子からは性病の匂いがしたし、中学生のガキは白い粉を丸めた紙で吸っている。


いつも道理だ。

最低で最悪でそんなのが続く我が日常だ。


ここは外壁地区と言われる金持ちや一般的富裕層なら決して近づかない、それこそ居住地を設けるだなんて絶対しない地価が安くて治安が悪いだけの何でもありな地区だ。

無法地帯と言ってもいい。

どっからどうみてもスラムだ。

当然住むのはまともじゃない奴が住んでいた。




約100年前原因不明のモンスターを生み出すダンジョンがあちこちに出現した。

ダンジョンは場所を選ばず森や山から大都会の真ん中にも誕生した。


そしてダンジョンからモンスターがあふれ出て人々を襲い、人類は団結して立ち向かった。

大都会にできたダンジョンはバリケードや陣を設置して安全を確保し、軍や冒険者達が間引きをしつつ中を探索してモンスターに対抗するための有用な物を利用する経済の歯車の一つになっている。

俺が勤める工場もそうして渋谷区に出来たダンジョンの恩恵を利用しているのだ。


だが人がいない森や山の奥地、深い海底にできたダンジョン。

そうしたダンジョンは放置され結果としてモンスターが溢れ出し、人類生存可能領域は狭まれ町は地雷原と防壁を築くようになった。


つまりこの外壁地区は壁を挟んだ向こう側にモンスターがうろついているのだ。

まあ今は安定していて目につく範囲のかなり遠くまで軍によって駆除されているが、俺が生まれてくる前まではよく壁まで攻められたこともあるらしい。

そりゃあ地価も安くなるのも納得だった。



俺はキコキコと油のさしていないさび付いた自転車で工場帰りの坂道を必死に漕ぐ。

行先はスーパーの割引セール。

店員が気分次第で時間帯を遅らせるのが糞だが、安いから面と向かって文句は言わない。


スーパーに着くとそこには既にスタンバイしているくたびれたスーツ姿のサラリーマンや気の強そうなおばさんがいて歴戦の猛者の風格を漂わせている。

まるで将来の自分を見ているようだ。


どいつもこいつも一癖も二癖もある。

乱闘が日常。引っ掻いたり髪を引っ張るは当たり前。

噛まれてばい菌が入って病院に行くことだってある。

だから気合いを入れなければならない。


まったく争い事が苦手な俺としては嫌になる。

嫌になるけど、敗北者は流刑地である3列横のカップ麺に流れ、しけた一食に舌鼓を打つでなく舌うちしながら栄養の偏った将来糖尿や合併症を気にする羽目になる。

そっちはもっといやだ。

俺は今日も今日とて気合を入れて駆け込んで半額シールの入った食べ物に食らいついていく。


カートを人にぶつけるように猪みたく突っ込むババアに不景気に喘ぐ中小企業のリーマンをぶつけ、時にはずらを脱がし、デブの脇腹の贅肉を擽り、切り込んでいく。


良かった買えた‼ 

198円に張られた半額シールが輝く白身魚フライ弁当。

やっぱこれ食わねえと元気でねえわ。


そう破顔して意気揚々とスーパーを出たところで俺の高校と同じ学ランの集団に出くわす。

あるよね、学校で顔を合わせる分はいいが、プライベートでは会いたくないのって。

ただ彼らはチラリと俺を見ると何も気づかずそのまま立ち去って行った。



「……ッ‼」



俺は平凡ではあるが若干劣っている自覚もある。

学校でも底辺の存在なのだ。

だから貧乏臭く割引食品を買い込んでいるこんなところ見られたくなかった。


うわ、明日学校行ったらこれでいじられたらどうしようとか不安になったが、そもそも気づかれもしないなんて悲しすぎた。

クラスメイトなのだから顔くらい覚えろよ。いや、俺も全員の顔と名前覚えてないから人のこと言えないけど。

まあ、何か一声くらいかけてくれてもと思うが同時に話しかけられても困るのも事実だ。




「あと少しだ。正社員になれさえすれば……‼」



人並みの賃金を稼げば贅沢とは言わないが人生を謳歌できる。

ボロアパートを出て普通の人並に幸せを手に入れるんだ‼


猛者たちと争って割引商品は買わなくて済むだろうし、髪も整えて服を買う。

そして将来は治安のいい地区に家を建てて……犬、そうだ犬を飼おう。

地味だけど隠れ巨乳みたいないい感じの彼女を作って毎朝みそ汁を作ってもらう。


それでもう十分なんだ。

十分幸せで十分報われる。

たったそれだけでいいんだ。


今までこれと言って贅沢も、何かを欲しがったり価値のある物を手に入れたことが無い俺だ。

だから、だからこの一つくらいは絶対に欲しかった。

だってそうじゃないと人生不公平じゃないか。


そう俺は決意を燃やすと帽子を深めに被ると、静かに自宅に帰るのだった。









次の日、当然学生である俺は学校に行った。

モンスターが溢れ出して激しい区画整備が行われた結果、学校数は減り自然と一校が有する生徒数は増加した。

またスタンピードというモンスターが大量にあふれ出た際、幾つも学校がある状態では軍の人が守るための人員をより多く割くことになるため小中高大学まで一貫の大きな学園が作られた。

お陰で色々な人間、上を見れば金持ちの子供から俺のような底辺の人間もいる為、劣等感を日々感じながらも集団心理というのか底辺は同じ底辺でつるめて学校での居心地はそこまで悪くなかった。


そんな俺が所属するクラスにはスクールカーストというものがある。

カーストは別のクラスでも他の学校でも、それこそ海外どころか卒業して社会に出てもあるだろう。


俺のクラスでは天辺に野球やサッカー等の部活に入っている活発な男子、そして読者モデルをしているという女子を中心としたグループ。

次にはムードメーカーや勉強ができる者、まあまあな成績を誇っている他部活動生。

そして底辺に俺みたいな帰宅部だったり貧乏学生が置かれていた。


教室の入り口をくぐる。

クラスでは一目で他と群を抜いて顔と体型が整っている女子生徒を中心に子分みたいな女子と、活発な男子が集団を作って話していた。


遠目でそこだけキラキラと輝いているように見えるがその実態は男子はその中心の女子に気に入られようと躍起になり、子分みたいな女子達は蹴落としあったりあわよくば自分が頂点になろうとゴシップを裏から操作する。

その中心にいる読者モデルの女子はそんな彼ら彼女らをおくびにもあざ笑っているのを出さず他クラスにいるダンジョン産業で成り上がった財閥令嬢をあくまでも自分は意識してない体を装いつつ取り込めないか、あわよくば傘下か力を削げないか暗躍している。


うん、怖いね。生きている世界が違うから俺とは関係ないけど。


毎回思うが読者モデルをしている彼女は放課後撮影があったりとすぐに帰る帰宅部なのだがそれと同じで仕事があるから帰宅する俺とどうしてこのような天と地のような差が生じるのだろうか。

まあ彼女は可愛いから俺は許すけどね。そうかそれが原因か。


チラリと彼らを見たが目が合って話しかけられでもしたらたまった物じゃないので不自然なくらいに視線を外して自席を目指す。

俺は平べったい鞄を机にぶら下げて椅子に座って姿勢を崩す。

ああ、愛しのわが定ポジ。

安心する。


そして隣の席のいつもつるんでいる俺に劣らず地味そうな友人におっすと小さい低い声を掛けた。




「どったん? 目の下に隈できてるけど?」


どんよりとした表情の友人に声を掛ける。

彼はネカフェで夜勤シフトで働いている。

ただ俺の様に貧乏学生と言うわけではなく所謂オタクというものでグッズ購入のための資金稼ぎなのだ。

その彼の鞄には今もぶつかり合ってカチカチと音がするほど大量のアイドルの缶バッチが一面に括り付けられているが孤高の戦士である彼は人の視線だなんて糞ほどにも気にしない。




「おお、太郎聞いてくれ。昨日あほなカップルがパコっててうるさくて眠れなかった」


「注意すればいいだろ」


「それがさ、そのカップルの男ががたい良くて。たぶんあれは冒険者だわ」


筋肉は裏切らないもんね。

維持費はかかるけど。

そんな悲しい言葉が聞こえたが缶バッチで武装してお前は体を鍛えているみたいだとは言いにくかった。


陰キャは陽キャに話しかけたくないのだ。

リア充の象徴であるカップルとかは特に。

ただその陽キャの頂点であるようなアイドルには話しかけたがるし恋人が出来ようものなら誰よりも真っ先に罵倒を浴びせるのだからよくわからない生き物である。


そんなあほな会話をしていたら友人がスマホを取り出して動画を見せてくる。

何でも寝れなかったから徹夜で動画漁りをしていたらしい。




「やっぱ時代は冒険者かな? 見ろよ最前線で活躍するアイリスたん。うおおおお痺れる‼」



見ると動画配信サイトで一人の可憐な少女が体から雷を出し、人外じみた動きで鮮やかにモンスターを倒していく。

異能の力。

冒険者の戦うための能力だ。

スキルのような試験会場とかで試験を受けて手に入れる資格や免許に近いものではなく、モンスターと同時期に現れた突然変異の力だ。


詳しく知らないけどどうもモンスターを倒すと所謂ゲーム的な経験値が手に入り、身体能力や身体機能が向上するらしい。

その時に極稀に能力も手に入るみたいだが前例が少なすぎて確かな情報はわかっていない。


ただ能力保持者は火や風とかを操り、人類の枠から飛び出した規格外の強さを誇っている。

そのため嘘か誠か遺伝するとかしないとか多種多様な色々なうわさがあるが、発現した者の大半が一攫千金を手に入れるのは確からしい。


冒険者はビックドリーム。

上位勢はどれもテレビに登場する芸能人並みに知名度あって人気だ。

そんな感じで軍や冒険者はだいたい的に公表している。いるが




「冒険者なんて止めとけ。死亡率だなんて他のどの仕事よりも高い。それに動画配信者なんかよりよっぽど上下の収入格差が激しい。ダンジョン初期だなんて徴兵令が出たくらいだし、こんなに派手に募集しているのはそう言った理由で数が足りないからだよ。俺なら冒険者になるくらいなら潜水溶接になるね。いや寧ろなりたいくらいだ」


「出た太郎の安定収入思考。夢が無いなー。俺も重力とか光とか操る能力があったら人気者になっていたのになあ」


「お前は面が悪いから無理だろう」


「面の悪さはお前には負けるよ」


「ああん?」


「おおん?」


阿保らしい。

冒険者だって? あんなの生き物を殺す野蛮な奴らだ。

工場で運ばれてきた大きなモンスターの死体を解体をしてまじかに観察する機会があるから思うが到底モンスターなんて殺せそうにない。

物理的にもそうだが精神的にも。


広告やテレビCM、はたまた動画配信サイトで華やかに着飾っているがあれは虚構だ。

幾人の屍の上に成り立った殺しで金を稼ぐ野蛮な仕事。

奴らは死と隣り合わせにあって日々恐怖と戦っているが故どこかおかしいのだ。

彼らの恩恵で工場で働かせてもらているが、だからこそ詳しい俺が敢えて言うが、死を商売にするなどもってのほか。

精神異常者と言ってもいいだろう。


生命への冒涜、まさにそれだ。

正直この華やかな姿のアイドルも殺しを美化して正当化しているだけだ。

それでもこうして広めているのは利益と人類存続のため。

進んで必要悪をするだなんて俺にはありえない。

だって一番大事なのは自分なのだから。


俺は冒険者なんて絶対ならない。

というか出来ない。

悪くも俺は平凡だからだ。


だからこれからも工場に勤めるのみだ。

貧乏学生ながらも目立たず控えめに生きる。

何の才能もないが、人間と言うのは人並みに努力すればちゃんと人並みの幸せを掴めるようになっている。


上を目指すのが悪いと言ってるわけではない。

ただ身の程を弁えず身の丈に合わないことをして最低限の幸せが保証されているのを放棄するのが実に愚かだと言っているのだ。

つまらなくて結構。

冒険者になるよりかははるかに勝ち組だ。

安定志向の正社員になってみせる。

俺はここに熱く誓うのだった。

パラレルワールドです。結構地形が変わったり、東京の大きさも違います というか適当な設定ですが関西とかは別にして関東で人類の安定した生存可能区域は東京だけ

各地区の大きさも増減していたり無くなっているのもあれば移動しているのもあります ダンジョンの影響で氷が解けて一部海抜が上がったりしてそれに加えて分厚い壁が多層構造で地雷原ばらまいている設定です

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