表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/52

正義は勝つ

早乙女の声が聞こえた。夜のこの薄暗い中で追ってくるだなんて。なんと熱烈なアプローチ。



直後、声とともに背中に衝撃を食らって転倒する。

その勢いのまま壁にぶつかりながらごろごろと路地裏を何回転がっただろうか。また蹴られたと分かったのは転がっている時に蹴りぬいた早乙女のポーズを見て察した。あの距離をこうも簡単に詰めるとはこりゃあ逃げ切るのは無理かもしれない。


勢いがなくなるまで地面を無様に転がり、仰向けで止まった所で肩に足を乗せられる。見上げると早乙女が俺の横に立って見下ろしている。人様を踏みつけやがって生意気だ。


「全然痛くないね、鳥って飛ぶために軽量化してるらしいからな。お前じゃ相手になんねーよ」


「そうかい? 全力は出していないんだけどこうして君を無様に這いつくばらせることは簡単だ。大人しく捕まった方が良い。君が一人も殺していないのは確認した。まだ引き返せる」


早乙女が懐に手を伸ばし、すーっとまるで気の抜けた音と共に鋭い刀身が顕になる。刀だ。俺に打撃がほとんど通用しないと判断して力不足を埋めるための物だろう。

いちいちかっこつけているのか、ただかっこいいのかわからないムーブで素人目でわかる業物を抜刀した。

恐ろしいほどのキレ味だ。空気を切るだけで何か別のものまで切っている不可思議な力を感じる。この刀身の色。間違いないミスリルだ。


「あん? やる気か?」


「君は何か勘違いしているかもしれないけど剣だけじゃない。アニマル系能力は人間状態、半獣状態、完全獣化の3段階ある。私にはまだ一段階変身を残しているんだ」


戦闘力53万?

……君とは本当に気が合いそうだ。

そんなあほな会話にも乗ってくれた。人柄の良さがなんとなくここまでの会話で理解できた。極力怪我をさせないで捕まえようとしているのもわかった。

こんな形で会いたくなかった。でも違う形じゃ絶対会いもしなかった。

運命っていい感じに絶望できる残酷さだよな。


……頃合いか。

俺は地面を思い切り殴る反動で宙に飛び上がり、壁に指を突き立てて張り付いて相手を見る。

相手も準備が終わったようだ。

首から羽毛が生えて髪質も変わり、目は更に獰猛になり顔は野生味を帯びてくる。

くっそ、イケメンがワイルドイケメンになりやがった。


仕方ない。流石に素手で刃物持ちと事を構えるのは無理だろう。俺は背中に亀の甲羅のように置いていた赤ドラゴンの鱗を取り出して構える。


「何だいソレ? 割れた大皿かい?」


「さっき散歩していて拾ったんだ」


嘘は言っていない。

阿保みたいに固いのは折り紙付きだが。

ミスリルならもしかして俺の体に傷を与えられる可能性があるが、念には念を。これなら流石に斬撃も防げるだろう。


脇構えした早乙女がピタリと剣先と体の動きが止まる。月の光が明るい夜の闇の中、いっそ画家でも呼びたくなるくらい絵になっている。たぶん俺が真似してやったとしてもだめだ。何でかって? こういうのは世間でこう言うんですよ。ただしイケメンに限るってね。


息を吸って、止めた。それに合わせて集中力を全開にしてまるで世界が止まったように神経が研ぎ澄まされる。


タっと早乙女が消えた。スピードが一段と上がっている。一直線の路地裏だというのに目視出来ない、まさに目にもとまらぬ速さだ。

流石だ、すげえじゃん。攻撃を受けるその瞬間までまったく見えなかった。

けど俺は防いだ。早乙女が驚愕した顔で俺を見ている。


「良く防げたね。スピードもそうだけどその壊れかけの盾で」


「ここ一直線だからね先に置いたんだよ。それよかあれれー何で逆刃?」


「君を無力化するのにこれで十分だと判断したんだよ」


舐めやがって。キャン言わせたる。ぶっ飛ばされずむしろこの距離まで近づいたのならあとはただひたすら接近して逃さなければいい。こいつの武器はその圧倒的な軌道力からのスピードが加算された鋭くも爆発的な一撃離脱式。

腕力も体の頑丈さがある分近接は俺の方が有利だ。距離を開けられないよう張り付けば勝機はある。

拳を握って純粋な暴力で襲う。野蛮と笑えばいい。ただそれがお前の最期だ。

まんまと俺の罠に嵌った早乙女に俺のスーパーデンジャラスハイパーダイナマイトウルトラギャラクシーパンチが繰り出される。


「フン‼ フンフン‼ ……あれ? 当んねえなあ」


近づけば勝てると思っていた時期が俺にもありました。何だこれパンチが当たらない。

圧倒的に早さが足りない。加えてボクシングの熟練したスウェーのような動きで避けられる。そして早乙女は時に俺の攻撃のタイミングを誘発しているんだ。だから避けれる。

経験の差。加えて人体で出来ない回避、羽で加速することは勿論、敢えて広げて風の抵抗を受けて急停止をしている。そのトリッキーさに惑わされてかすりもしない。

ただ、ただ俺は躱されるたびに逆に攻撃され、打撲と疲労がたまっていく。


一方で早乙女は華麗に、いっそ観客でもいればまるで見世物のようだと思われるくらい鮮やかにそれをさばいて節々に余裕が見て取れる。気分は闘牛かはたまたサーカスの飼いならされた獣か。

ミノタウロス相手に知恵で翻弄した戦闘をしていたが、今回は逆だ。

こりゃあ正攻法じゃ勝てないな。


「……火花が出た? もしかして体が金属でできているんじゃないか君は。防御特化の肉体強化系でも象系統の皮膚が硬いアニマル系でもこんなことはない」


いっそ弄んでいると言っても過言ではない戦闘の運びのさなか、切り付けたそれを見て早乙女が思案顔で謎の襲撃者の能力の解明をしていた。勝利を確信しているからこその余裕だろう。

俺はその言葉に答える。


「チッ、ばれちまったか。俺の能力は金属操作。強力だが範囲は狭く体内だけだが常人なら致死量の鉄分や他金属を血液に混ぜれる。あんたじゃ勝てないぜ。血が出てもすぐに止まる。骨が折れてもすぐに継ぎ治すからな」


嘘だけど。そんな能力だったら良かったと思いました。

それでも彼は納得するように頷くとニヤリと笑った。何か仕留める秘策を見つけたのだろうか。

ただもう俺はこいつと遊んでやるのに飽きた。とっとと勝利して帰っておしっこして寝る。


「頭きたからもうあんたと遊ぶのもここまでにするわ」


「よくあれだけ食らって頭にきたで済んだね。けれどそれには私も同意だ。ここで終わらせてもらう。あとはゆっくり尋問室で聞くから」


ああ、やっぱりコイツはやりにくい。殺す気でかかってきてくれるならこちらとしても殺す気に踏ん切りがつくというのに。どうしても殺人に対して臆してしまう自分がいる。けどそれはいい傾向だ。最近は何かと力に目覚めて熱くなったり暴走している気質がある。まだちゃんと昔の自分が根っこにあるというのは何とも心強い。自分探しで自分を見失ないがちな俺には大事だ。


俺はとっておきをポッケから取り出す。まさかこのような形でこれを使うことになるとは。

けどこれで勝てるはずだ。

あとは相手の腕前を信じるだけ。うっかり勢い任せて俺が殺されなければいい。

そこは相手の腕の良さは折り紙付きだ。きっと手加減してくれる。今までの攻防で俺が身をもって体験しているから証明済みだ。








なら俺のやることは待つ。

もういっそ清々しいがん待ち。



そうして次は負ける。



それさえすればあとは話術で時間を引き延ばせば俺の勝ちに天秤が傾く。

俺知ってるからこういうやつは相手が変身中は攻撃しちゃいけないルールがあったり、勝敗が決した後に悠長に相手に喋りかけるんだ。

そこが付け入る隙。決定的な敗因だ。



俺は意を決して演技かかったポーズでばれないようあることをしながら盾を身構えた。


暗闇の中、早乙女が息を吐いて吸ったのが見えた。―――来た。やはり見えなかった。遅れて描かれる闇の中に一陣の閃光が走るような軌跡を辛うじて動体視力が捕らえただけだ。この時、間違いなくこいつは音すら置き去りにしていた。

構えた盾に衝撃が走る。だが後退しない。足を杭のように地面に突き刺していたからだ。地面が罅状に砕け、反動を流石に俺は耐えられなくて後ろ向きに倒れる。激しく後頭部を打つがそれだけだ。何とか耐えた。

あとは運と時間が勝敗を決する。

そしてどうやら運は俺が良かったようだ。


ひっくり返った俺の顔に早乙女が剣を突きつける。


「動いたら脳震盪を起こして気絶させる。なんだったら気道を圧迫して窒息でもいい」


おし、これはまあ俺の勝ちだな。ただ念には念をもう少し時間が欲しい。確実性を高めるために。


「君は何か秘策で勝機があるみたいだったけど出せずじまいだったね。それにしてもよく受け止められたね、凄いよその盾。欲しいくらいだ」


「……なあどうして俺の爪ってこんなギザギザかわかるか?」


俺のいきなりの問いかけに早乙女が怪訝そうな顔をする。場違いでいきなりの訳の分からない質問に小首をかしげる。美少女じゃなくてもイケメンがやると絵になって少しかっこいいと思った自分に腹が立った。だが俺の問いかけに疑問を抱いてももう遅い。


「……爪? 何の話だ?」


「俺の能力、あれ嘘な。血液だけじゃなくて体を構成するすべてがまさしく鉄、正確にはそこらへんにある一般的な金属にイリジウム合金とタングステンと人工ダイヤと少量のミスリルと他にもいろいろな物が含まれている」


「な? 何だこれは‼」


今更もう遅い。そこで早乙女は気づいた。己が全く……というほどではないがまるで蜘蛛の巣に捕らえられたがごとく動けないことに。

見ると薄暗闇のこの中に黒い糸が張り巡らされている。それが早乙女に絡みついて身動きが出来なくしているのだ。


「爪切りで切れなくて歯で噛み切ってんだ。勿論髪も。流石に髪は細いから何とか切れるがそれでも鋏がすぐ駄目になる。その長い散髪時間中にこの頑丈な髪って何かに使えるんじゃないかなって思ったんだよ」


つまり俺は髪の毛で作った特製の糸を張り巡らせ、蜘蛛が羽虫を捉えるがごとく早乙女を捉えたのだ。昔は髪の毛で暗殺をしていたらしいしな。問題は早乙女が速すぎて自分自身のスピードで体を傷つけて死なれること。だから悠長に自分という餌で釣って釘付けにしないといけなかったのだ。

俺は地面に張り倒されて痛みでもがいていたんじゃない。倒れながら周到の糸を操っていたんだ。


よっこらせと早乙女の下から脱出すると俺はまだまだのこっている紐を握って残酷な顔をする。一方で驚きと恐怖に染まった早乙女の顔がよく見えた。さあ楽しい楽しいお仕置きタイムだ。


「オラ‼ 今までよくも散々な目に遭わせてくれたな‼ 覚悟しろ‼」


「何をする気だ‼」


「暴れんなよ暴れんなよ。縛られてて敵うわけないだろ‼」


「馬鹿野郎お前私は勝つぞお前‼」


首から紐を伸ばして股を通して首に繋ぐ。あとはお待ちかねの亀甲縛りタイムだ。こんなところを仲間の軍に保護されては彼の輝かしい経歴もここまでだ。

イケメン死すべし慈悲はない。お前には能力もあるんだ。天が二物を与えるなら悪魔が汚点を残してやる。


「もう抵抗しても無駄だぞ‼」


「止めろぉ、何をするぅ……」


彼は途中から抵抗しても無駄だと悟ると笑っているような気がしていた。俺も段々途中から面白くなってきた。完全に縛り上げると右から見ても左から見ても見事なイケメンの亀甲縛りが出来上がっていた。

思わず吹き出してしまったら生きた現代アートが物凄い汚い言葉で罵り始めた。

ふん、敗者の戯言など聞く耳持たぬわ‼


俺は彼の持っていたミスリル製の剣を拾い上げて没収した。縛られている者の近くに刃物を放置しているほど俺は甘くないのだ。

きらりと輝くその剣身はあの激しい攻防でも何一つ変わることなく健在だった。


「思った通り良いじゃないか」


「やはりヤバい‼」


刀を返せ‼ それ給料何年分だと思っているんだと後ろから聞こえるが無視する。もうこの子はうちの子だ。傘パクる時みたいに目の前で柄の所に名前でも書いてやろうかな。名前ばれるからやらないけど。

返してくれ‼ 戦う者の魂だ何だと凄まじく五月蠅い。

だから俺は親指を立てて後ろを指した。


「この先3ブロック先に発展場があるけど」


あそこにいるのは歴戦の猛者だぜー、男の子にも女の子の日があるとこを知りたいかと呟くとプルプル震えだした。

そうして顔面蒼白になって、もってけ馬鹿野郎と早乙女は悔しそうに嘆いた。

だから油断したそこに追撃した。最期にズボンを脱がせて下半身を露出させることに成功すると俺は逃げた。



あー怒ってる怒ってる。もうこっちが怖くなるくらいそれはそれは罵倒してスゲー怒ってる。


これで抜け出しても奴は追ってこられない。もしそれでも仕事に忠実な彼が恥部を露出させながらも追って来たらそれはもう俺の負けでいいや。

多分笑いすぎて戦いにもならないだろうから。

そこでふと思いついた。スマホで撮ったろ。

喜べ最近金ができたから買い変えた最新機種だ、えい! 振り返ってパシャッと撮ると彼は羞恥に顔を赤らめて激昂した。殺すべきだったとさえ言われた。


それを一通り腹を抱えて笑うと最後に俺は足早にその場を去るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ