終わりゆく役目 つまりニートに
果たして会議室に閉じ込められれるのはいつまで続くのか。暇つぶしに何か持ってくればよかった。
ピリピリした空気が流れ、いい年こいておっさんどものこの落ち着きようのなさに機械がじゃこーじゃこーっとコミカルに音を立てて入れられて大人しくしろと茶が入れられる。
くねくねするおっさんたちは見ていて気持ち悪かった。
それは俺からバッグを受け取ったおっさんが会議室に入るまで続いた。
コツコツと廊下に足音が響き、おっさんが厳かに入って来た。汗を流し、目は充血して強く見開かれている。
眉間にしわを寄せ、プルプルしながら扉を閉めて入口におもむろに毅然と立った。
「……」
「?」
皆の注目が集まる中、おっさんはゆっくりと腕を上にあげた。両手を上げ、それはまさしくガッツポーズだった。
「しゃらああああああああああ‼」
「ぴゃあああああああああああ‼」
「ひょえええええええええええ‼」
雄たけびを上げた。それを聞いて泣き叫ぶ愉快な大人たち。ある人は机の上でコマの様に回転し、ある人はありがとうございますと何度も叫びながらカーテンと踊り狂い、互いに抱き合って感極まってキスする男たちもいた。カオスだ。混沌が漏れ出していた。何が嬉しくてそんなことになっているのか。
ただ管理人と俺だけが何もわからずあっけにとられてそれを見ていた。
その饗宴は五分くらい続いてやっと収まった。
俺は何とか唇は守ったが頬やデコに熱烈におっさんどもにキスをされた。拷問されるために閉じ込められたのかと錯覚しそうだった。
「で何だったの?」
管理人が居ても立っても居られないで俺の代わりに口を開いた。俺はハンカチで顔を拭うので忙しかった。
その問いかけにおっさんは嬉しそうに両手に俺がとって来た鉱石とそして
「アミュレット?」
それは確か昨日俺が倒したミノタウロスがしていたのだ。
ただミノタウロスは最近何匹も狩っていて今までに装飾品は何個も手に入っている。過去の冒険者の頭骸骨にひもを通している趣味の悪いのもあればこんな石ころみたいなよくわからんのもある。これはそのうちの一つに過ぎない。
「実は鈴木君が昨日手に入れたこのアミュレットだけ他のと違ったんだよ。これ、X線で成分調べたらミスリルが使われていたんだ」
「ミスリル‼」
「ミスリル?」
管理人は飛び跳ねて驚くが俺にはわからない。全部覚えているわけじゃないから元素記号でそんなのあったかわからない。けどどっかで聞いたことがあるような。
「ダンジョン由来の元素でかなり高価。流通が少なくて市場価格は結構変わるけどグラム単位の値段で最低数万。過去に10万行った時もある。因みに金がグラム単価5千から6千」
「はぁ!?」
そりゃあ阿鼻叫喚するか。なんせ金の鉱脈の何倍の価値のあるミスリスの巨大鉱脈を所有しているダンジョンで見つけたのだから。
さっきまで泣き叫んでいた上層部は今や携帯を出してあちこちに電話したり、訪れるだろう採掘ラッシュに備えて周囲の土地を買ったり関係各所に連絡を取って準備をしているようだ。
「正直半信半疑だった。このアミュレットも過去に居た冒険者の持ち物をミノが拾ってつけている可能性もあったからね。それにミスリルは聖銀と書いてね、文字通り凄い銀と色が似てるんだ。ミスリルを見つけたと思ったら銀だったってことも他のダンジョンではよく聞く話だ。まあ銀でもお金になるけどグラム70円くらいだからね」
そして俺の撮影したカメラ映像が出る。奥まで行かず入口付近だけの映像、しかもその先に繋がっている通路もまだ調査はしていないがかなりの量がある筈だ。
融合結合の測定やX線の測定で採取した鉱石のピークを同定して、ここでミスリルが取れることが確定したらしい。
「あの落ち目の渋谷第一ダンジョンの連中の悔しがる顔が目に浮かぶ‼ 毎回ダンジョン経営者会議で第三は穴を掘って埋めてまた掘るダンジョンって嫌味を言われる日々が終わる‼」
ここ、そんなこと言われていたのか。いやでも確かに暑さに平気な俺でも嫌になる日があるけど。
管理人は一部上場大企業の財閥令嬢になれると目を¥にしてファッション雑誌に載っている全部の服どころか店そのものが買えると喜び、他の皆も目をぎらつかせている。
「鈴木君には悪いけど守秘契約書かいてもらうから。それと機材が揃ったら技術者3人連れてまた行ってもらって精密な調査してもらうから」
「ええ……」
「ミスリル鉱脈の発見だなんてかなりの功績だよ。お金も出るし、学校でも受けられる特典は最高ランク受けられるよ」
マジか。一躍有名人?
「俺国語苦手だけど……?」
「単位、欠席、遅刻、授業料免除全部。何だったら大学も就職先斡旋まで。うちに就職ならエリートコースは絶対! それに発表するにも準備に日数かかるからその間学校にも行けないから」
「やります‼ やらせてもらいます‼」
学校サボって金が貰える。これほど良い事はないだろう。即答だった。
俺は金持ちになる。
数時間後機材を持って上層部のダンジョン経験者を連れて出発となった。
曰く、俺よりかは歴の長い経験者だがペーパードライバーに近いらしくほぼデスクワーク専門らしい。ぽっちゃりとしていて眼鏡をかけている。
筋力も修敏性も俺の方が高いので保冷材やら重いものを持って進む。それでも俺の方が早いし慣れているので少し前を先行する形となっている。
「気を付けてね。ミスリルのアミュレットを身に着けていたということはミノタウロスがどこかに居るのは間違いない。それも溶鉱炉と鍛冶が整っている集団が居る」
そうか、あまり意識していなかったが考えれば腑に落ちる。
何せ事の発覚した発端はミノの持ち物から始まったのだから。
「出来るだけ遭遇しないよう気を付けますが遭遇したら逃げてください。俺が相手しますんで」
「武器に気を付けて。ミスリスの斧だと凄い切れ味がいいから」
「ミスリルって武器にも使えるんですか? 何か金とかと一緒で宝石か電化製品に使うもんかと」
「何にでも使えるくらいすごく性能がいいんだ。武器に使われていたら機材捨てて逃げよう。そん時は外部の専門家に発注するから」
言質取ったからな。
俺は3メートルくらいなら難なく段差を降りれるが調査隊は無理そうだ。それでも慣れている様子で壁にフックを埋め込んだりデカい岩に括り付けてするすると素早く下りてくる。
「そのうちルート考えるか整備しないとですね」
「モンスターに荒らされることもあるけど本格的な調査が始まれば人が出入りして見回りと同じことになるんだ」
今回は掴めれる可能な範囲で全体の資源埋蔵量調査とマッピングを大まかにするだけだから速さ重視で最低限通れればいい。次回からは準備を整えて専用業者や軍の視察とかで上層部が判断することになるらしい。
マグマの川では俺が多めに岩を投げ入れて足場を作り、ワイヤーを持って先に渡って壁に打ち込む。
それを調査隊が安全帯と括り付けて遅れて渡ってくる。
「そんなビビらなくてもここの川そこまで深くないですよ」
「普通の川と一緒にしないでよ」
いい歳こいて臆病なんだから。ぶつくさと危険手当と予算を分捕ってやろうと呟きが聞こえる。案外他の人と冒険するのも悪くない。前回の高尾山が悲惨だっただけで。
あとはここを抜ければ特に何もない。難関なのはそこの川だけだ。
「おほー」
大空洞に到着するとおっさん達が感嘆の声を漏らす。
壁をなぞり、天井を見上げ、落ちている石ころを拾う。
早速荷物を降ろすと3人は各々に写真や調査を始めて俺も助手をさせられる。
一人に小さな機材を渡されて通路に行くよう指示された。赤外線探知機を通路に仕掛けてモンスターの侵入がわかるようにする物らしい。ダンジョン内では基地局が無いのでスマホは外部との連絡ができないがそれぞれトランシーバーは繋がる。本格的に採掘が始まったら電波塔も設置するらしいが今回は簡易的な処置で終わらせるらしい。
これで敵が侵入してきても気付けれるので安全レベルが上がる。場合によってはワイヤートラップを仕掛けるから気をつけてと注意を促された。
地盤が安定しているかもわからないから炸薬の量や崩落の危険性も鑑みて出来れば仕掛けたくないみたいだ。そのぶんきちんと索敵をしないといけない。
でもいいよね、陣地づくり。まるで本格的な秘密基地を作っているみたいだ。
俺がせこせこと指示に従いながら作業していると頭上に奇妙な物が見える。尋ねると。
「あれは観測気球だね。高性能カメラが乗っていて何か所か浮かべて地形データを取っているんだ。他にもドローンを持ってきているけど勿論コントローラーは鈴木君に貸してあげれないからね」
「えー」
「壊したら100万以上かかるからね」
「あ、いいっす」
高速の羽音が空気を揺らして空に飛び立つ。遠目から見えるが高所調査用で飛びながら壁を削ってサンプルを回収できるように専用改造されているらしい。
いいな面白そう。
「埋蔵量かなりあるねえ何十年分だろう。ここだけで第一ダンジョンの埋蔵量の倍はあるよ。あそこはあと2,3年しか埋蔵量無いから職人確保しないと。ヘッドハンティングが楽にできるね。通路の先もまだ続いているみたいだし第2次ラッシュが始まるね」
渋谷第一ダンジョン……。あそこは石油や石炭みたいに毎年ミスリルが無くなると言いつつたまに新鉱脈が発見されて生き延びているらしい。が、いよいよ今度こそ枯渇が濃厚でナウルのリン産業みたいに年間採掘量もひどく落ち込んでいる。それでも一度は行ってみたい、暇があれば見てみよう。
「でもここ熱いから来れますかね?」
「そこだよ。ミスリルはかなり高いけどそれでも費用対効果を考えないといけない。けれどうちの会社には秘策がある。まさかこんなことになるとは予想外だったけど」
「秘策?」
するとおやおや勉強不足だねえ。うちのことなのにとよよよとわざとらしい悲しむ演技をして端末から画像を出す。
何かの燃料みたいだ。
その画像は次々に流れていって車や宇宙ロケットの画像が出てくる。
「わかりやすく例えると……水素燃料の車が今開発されているのは知ってる?」
「あーなんかテレビで見たことあったかなあ……? 環境にいいんだっけ?」
あれだよな、あれ、あと……水素で動く。うん完璧。
その程度の認識かと苦笑いされてしまった。学校で水素関係は化学で習っているはずなんだけど言われるが俺の記憶には寝ている記憶しかない。
「何で最近水素カーが開発されているかというと日本が特許をその分野に関して多数持っているからなんだ。まあ要するにお金だね。けれど問題が沢山ある。高価な白金を使ったり安い水素の保存方法から始まり、車からでる二酸化炭素が少なくて環境に良いって謳っているけど水素を作る過程で石油を使うからどっちみち二酸化炭素は出てしまう。純粋なコストパフォーマンスで石油に勝てない。石油に依存しない方法を考えるとそれこそ無限にある海水から低コストで水素を得る画期的な方法でも見つけられない限りは無理なんだ。その研究費を稼ぐにしても水素カーが売れないといけない。けど研究が進んでいないからどうしても高くなって車は売れない。よくある悩みだね」
つまり、水素で動かす車は開発されているがそれをガソリンで動く車より安くする技術はまだ確立されていないのだ。
費用対効果。コストパフォーマンス。それが大事らしい。
「うちもダンジョン産の燃料で特許があるんだ。逆に言えばそれくらいしかないけどね。それでダンジョン内に空調設備機能を設置するのが目標だったけど何をするにしてもお金が足りなかった。ここに君が見つけたミスリルだよ。お金が集まれば研究が進むし、人が集まれば燃料石を安く手に入る。特に触媒としてのミスリルと燃料石が同時に手に入るのがいい。大量生産大量消費されればいずれは一般家庭に普及するのもあり得る」
彼は熱くなったのか握りこぶしを作って俺に説明していた。それをどこか少し恥ずかしそうにゴホンとせき込むとそんな簡単な話じゃないんだけどね。まだ問題は沢山あるしと加えた。
「へー。じゃあここって繁盛したり会社もおっきくなるんですかね」
「たぶんね。燃料関係の器具生産と一般普及はかなり未来だろうけどこのミスリルの埋蔵量ならかなり先まで安泰だからいつかきっと出来ればいいくらいで考えとけば。当分はトンネルの送風機とか発電機の設置かな。そうしたら鈴木君の方も身の振り方考えるべきかもね」
「俺?」
「このダンジョンは専門の調査隊を組んで人海戦術になる。だから学生である君は有体に言えば仕事がなくなる。発見でお金貰えるからこの仕事は辞めてもいい。続けるなら調査隊の指揮下に入ることになるかな。何だったら学校卒業したらうちに就職してもいい。たぶん君が卒業するくらいには有名になって就職志望者で倍率がとんでもないことになっているだろうからね」
まるで巨大油田が見つかったガイアナだ。
ほえーとつぶやいていると遠くで気球がするすると下りていく。どうやら観測データは集まったらしい。
「無事何も起きなかったな」
「ですねえ」
集合がかかると俺達は帰るのだった。
再度ダンジョンから出たら男3人でシャワーを浴び会議室に閉じ込められた。
無限ループかよといいたくなる。良いことなのだが気分は囚人である。
俺と違ってずっと閉じ込められていた管理人が息苦しいと苦言を漏らすのも無理ない。そんで早速帰ってきた俺に絡んでくる。
まあわからんこともない。他は30以上の男の大人たちで若いのは俺と次に管理人だから苦手なのだろう。
「オフラインだし。何もやることない」
「仕方ないじゃないですか。発表したり色々するために準備がいるって。株も上がるだろうし、周囲の土地とか売れるんじゃないですかね。俺、近くにハンバーガー店ほしいな」
「軌道に乗れば社員みんな金持ちかー。買い出しの時に雑誌と何か遊べるの買ってこさせるので手を打とう」
ハートの3出して。じゃあクローバーの5止めないでくださいよ。そしたら負けるじゃん。逆は俺が負けるんですけど。チッ。二人で七並べするもんじゃないですね。
大人連中は忙しそうな人は忙しなくとって来たデータでマップを吟味したり何か専門的なことをしているし、逆に暇そうなのは麻雀で一人がパンツ一枚になっていたりと彼らは彼らで暇そうにしていた。
見ていたらパン一が振り返ってキリッとした顔で口を開いた。
「君たちは発見者と管理人兼社長の娘だからね。インタビューとか他の会社の食事会に誘われると思うよ。これが終わったら社交界用の服の採寸もしようか」
きゅぴーんと管理人の目が輝いた。きっと高い買い物する気だ。ろくでもないことを考えてるに違いない。俺は出来ればインタビューは辞退したい。めんどくさそうだから。
「管理人職は他に引き継いで贅沢三昧。財布に時計にネックレス、指輪‼ 車はどれにしよう……」
そんな声が聞こえた。
果たしていつまで続くのかという軟禁生活は数日後無事に終わった。正直結構きつかった。
トイレもシャワーも監視付きというかおっさんと一緒っていうのが辛かった。ただ女性のあねさんの方が辛そうだった。だからあねさんは気づけば逃げ出していた。
一族経営の会社だからそこら辺はやはり身内に甘いのだろう。その分功績者ではあるが部外者に変わりない俺の監視は強くなった。
だって君うっかり言いそうだからと言われればなるほどその通りだとしか言えない自分に苦笑した。それでも日数的にはかなり詰めてくれたみたいで守秘義務の契約書に念入りに複数サインさせられて解放された。俺んち、すぐそこのダンジョン入り口横だってのに疑り深かった。
「何だろうあんなに行きたくなかった学校に行きたい。冒険者特典で単位も欠席もやっと手に入れたのに」
「鈴木君は到着した調査団を誘導してダンジョンに潜ってもらえる? それが終われば本当に最後だから。当分潜らなくてもいいしこれから行われるルート確保に拠点づくり、未調査通路の確認にミノの巣の掃討の参加は意志を尊重するよ。他にもこの先ずっと物資運搬系の依頼は出ると思うから」
チラリと横を見る。さわやか笑顔のマッチョたちが怪しく俺を手招きしている。外部に発注したダンジョン専用の建設とかを担う企業の冒険者らしい。
俺にあれに加われと。入り口から続々と人がやってきておっさんたちと打ち合わせしていた。
蝶よ花よと育てられたこの俺にあの荒くれの相手をしろと。
しかも軍上がりの工兵とかいて余計緊張する。
「よろしくな兄ちゃん‼ その年で聖銀の大鉱脈見つけるだなんてやるじゃねえか‼」
「……っす。しゃす‼」
迫力に負けて請け負ってしまった。
俺は兄ちゃんたちを誘導するとダンジョンに入りに行くのだった。
鉱物の同定は肉眼でもそこまで高いようじゃないらしいですね




