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ミノと大空洞

数日後。

俺はミノタウロスと向かい合っていた。今度は襲われるわけではなく、痕跡を見つけて俺から奇襲をかけたのだ。


体調もよく、良質な金属を食し始めてからますます体のキレがいい。専用容器で排泄するのも仕方ないとあきらめの境地にやっと入れたところだ。

新しいことを始めるのは悪いことじゃないと踏ん切りがついた。







よく利用している採取場で痕跡を見つけ、今度ばかりは先手を取らせるかと打って出ることにしたのだ。

敵は3匹。俺は薄暗い洞窟の中をアルパインクライングの要領で体重に耐えられるハーケンを岩壁に突き立て、まるでトカゲのように天井に張り付いて待ち伏せた。

クライミングのプロならたった指一本しかも人差し指の第一関節だけでも引っかかれば全体重を支えられるらしい。俺はもちろんそんなことはできないが後学のために余裕があればチャレンジしてみたい。

暫くじっと獲物が下を通り過ぎるのを待ちかまえ、俺は音もなく上から覆いかぶさるように最後尾の一匹に襲いかかると肩車の形でミノの頭を股で挟んで一思いに首をねじり折った。

思わず耳をふさぎたくなる骨の折れる残酷な音と腕の中から絶命させた確かな感触が始まりの合図だった。


音に気づいて慌てて残り二匹が振り返って戦闘態勢に入るが遅い。逆立ちのように腕から地面に俺は降りると左足の膝裏で挟んで死んだミノの首を持ち上げる。

俺は前回の戦いから進歩していた。前回はあまりにもお粗末で改善点しかなかったからだ。敵に殴られて守りに徹して何もできなかった。仲間もいないのにそれじゃあ一方的にやられるはずだ。痛みと恐怖で蹲ってしまえばそれはもう敵に殺してくれと言っているような物だろう。

だから逆に仕掛ける。攻めて攻めて攻めまくる。そして俺と同じように相手にも恐怖と痛みを与えて動けなくする。

そのために相手が呆気にとられるような普通じゃないアブノーマルな動き。ただものじゃないと思わせる。

凡人ながら戦いに表現を求めてみたのだ。


逆立ち状態からカポエラーのように回転して死んだミノを足に絡めて投げる。以前なら到底できなかったそれだが冒険者として階段を上りドラゴンの力を手に入れたこの体は重心を把握して芯が通った動きを可能とする。

その成果はどうやらちゃんと成功したようで狙い道理意表を突いて出遅れた一匹に投げた死体がぶつかって転倒する。そこでもう一匹が頭が追い付いたようで動き出す。

俺は死んだミノの武器を拾って渡すように放り投げる。以前の俺を見ているようだった。奴はそれを見て一瞬止まった。実はこれミノ同士の練習で流行ってたりする戦法で有効じゃなかったらどうしようと悩んでいたのだが、いざやればミノは手にちゃんと自分の武器を持っているのにそれを落として俺のパスした武器をキャッチしてしまった。

まあわかるよその気持ち。取らなかったらぶつかるし、狭い洞窟でデカい図体じゃ避けれないよう意地悪に投げたし。これの正解は相手が間合いを詰めてくるまでに相手の予想を上回る短時間で打ち払うか上手に避けるかキャッチするしかない。


「こっちは俺が貰うぜ」


今しがた落とした斧を地面に落ちる前に拾うと振るう。

予め戦場の流れを操って予想している俺は途切れることなく正確さをもって流れるような動きができた。一方ミノも咄嗟に何とか反撃しようとしたが斧をしっかり持ち直す暇がなくそんな持ち方じゃあ当然俺に力比べで文字通り押し切られる。

これで2匹。


そこで振り返った俺に拳がめり込む。投げられた仲間の死体にぶつかって転倒し、やっと起き上がった最後の生き残りのミノが怒髪天な表情の不意打ちで一撃を打ち込んできた。だが前回のようなかなり後ろの壁までぶっ飛ばされるような無様は晒さない。足をしっかり地面に打ち込む。心構えができていたからこそたたらを踏む程度で持ち直す。

大丈夫だ痛みは大してない。嘘、やっぱ結構痛い。

それでも空元気でニヤリと笑う。虚勢を張れ。ビビっていると思わせるな。ヤバい時ほど前に踏み出せ。それにこのミノタウロスは致命的なミスをした。焦っている証拠だ。今の攻撃も先の2匹目の仲間ごと俺に斧を叩きこめばよかったのに、フレンドリーファイヤーを恐れて後手後手に回った挙句に無残に仲間も殺されて俺に武器でなく拳で攻撃してしまったのだ。

案外仲間思いとかひょっとしてこいつらは兄弟だったりするのかもしれない。

相手の判断ミスを見つけて焦りと恐怖を手に取るように感じる。場を支配する。戦闘の流れを完全に掌握していた。


俺はこいつにも通用するかなとまたもや斧を投げた。それをコイツは仲間を見て学習したのだろう。打ち払う。まあそんな甘くないか。

しかも奴はその隙に俺が間合いを詰めるのを理解している。最小限の動作で投擲を処理された。そうして俺が距離を詰めるよりミノが次の攻撃のために構えるのが少し早くて俺の接近は紙一重間に合わない。だがミノも全力で振りかぶって溜めた攻撃じゃない。間に合わせの、それでもミノの怪力からなる一撃は大抵の人間を殺せるだろう横振りが放たれる。


勝った。俺は軌道を呼んで斧の腹を片手で弾く。決して有機物である人体と斧の接触ではありえないような金属のぶつかる音がする。流石は金属の体だ。

予想してない現実に直面してミノの顔が驚愕する。その顔を首を絞めて苦痛に染め上げる。

遅い。何もかも遅い。ミノは斧を手放した。振れる間合いじゃないと判断したから。ミノも空いた両腕で俺の首を掴んだ。

互いに恋人のように見つめ合う。まるで運命で生と死で愛だった。

ギリリとミノと俺で首を締めあう。ぜってー負けねー。意地でも殺す。そんな俺の覚悟が決まった顔がつぶらな瞳のミノの目に反射して見えた。




ミノがチキンレースに負けた。俺の首にかけていた手を離して、今もミノの首を締め上げている俺の手の方を剥がしにかかる。




だから頭突きした。そんなこと俺がゆるさない。

当然ミノは怯んだ。その隙に一気に腕に力を込めて首をへし折る。


―――ボキッ‼


最後の抵抗が無くなって手の内側で力が弱まっていくのを感じた。

ビクンビクンとミノが弱弱しく痙攣して動きが小さくなっていく。そしてついに止まった。


「……呆気なかったな。そうかそういうことなのか」


俺はそれを見届けてそうつぶやくとミノを回収しにかかるのだった。














ミノを運搬中、俺はこんなもんなんだろうとひとりごちた。

戦い方、生命を奪う葛藤。

そんなもんは冒険者に関する本やテレビ、特に動画サイトでは腐るほど取り上げられていたのだ。先人、経験者。凡人たる俺は何も自分の中で答えを見つける必要はなかった。それに沿って答えを見つければいい。答えは簡単だったのだ。


今回用いた戦い方は動画サイトで真似が出来そうな人のを見て、自分に合ったアレンジを加えた。そうして他にも引き出しを多くして幾つものパターンを準備する。それだけで勝率は上がる。


精神的問題、葛藤なんかは戦場に叩きこめば嫌でも生き残るために人間は正当化の理由を思いつく。なくても無心で殺す。動画にはたくさんの前例であり訓示であり自戒があった。


俺が学んだ中で一番参考になったのは例え敵とはいえ命を奪いたくなくて敵のトドメを刺せない人がいた。

その結果、隙を突かれて自分のせいで仲間が殺された。

その人の苦悩、後悔、懺悔そんなものは長すぎて割愛するが、果たして行き着いた答えは念入りに敵のトドメを刺すだった。


他にも似たような奴はどこにでもいっぱいいるようようで同じように敵を殺せない奴がいた。だからそいつの分まで仲間が敵を殺す羽目になった。自分のために仲間が手を汚し危険を冒し傷ついていった。だからこの人も容赦せず敵を殺すようになった。

優しい人ほど生命を奪うとでも言えばいいのだろうか。


これだ。理性ある人として義務を、責任を果たすのだ。この混沌とした狂気に身を任せてればよかったのだ。

俺は性悪説を指示する。元来人間というのは残酷だ。やれ頑張っている人を笑うのはいけないと小さいものから始まり、いじめ、殺人、戦争と悪の影は伸びていくが元々原始の根っこかのように遺伝子的に残虐性を秘めているのだ。

インターネットで情報は共有されるようになった。それと同時に人類の醜態は晒されるようになった。

ネット環境が整っていない発展途上国、それどころか世界各地の大昔からその残虐性の脅威を振るっている。肉食獣ですら時に獲物をいたぶってから食す。

何も伝えてないのに、何も教えていないのに、言語も糞もなく生き物は残虐性を発揮する。


簡単な事だったんだ。俺もそれに身をやつせばいいのだ。

正当化、理由、いやそんなものじゃない。もっと低俗で醜悪でそしてちんけな物。

俺は殺す言い訳を欲していたのだ。

だってこんなにもこんなにも戦うことは面白いのだから。


ああ、これだ。俺は生き物を殺すのが残酷で、嫌で怖がっていたのではない。馬鹿な俺は忌避感を持たなくてはあまりにも戦いが好きになってしまいそうなんだ。

俺の中でピースが嵌った。

そうかこれがダンジョンに冒険者にハマるということなのか。











それから、引っ越しをして俺はダンジョン入り口近くに設置したプレハブで暮らしていた。

寝ても覚めてもダンジョン‼ て感じにハマってしまった。暇なときは潜り、夜間の受付では寝るか参考動画漁りをしている。

自分も動画を上げてみようか、いやいややっぱり気恥ずかしいと諦める。

まだ人様に見せれれるレベルじゃない。もっと強くならなくては。

誰かしらの動画を見ては真似をしたり、筋トレ動画を見て筋トレも始めた。

ダンジョンに潜るのも強くなるのもこの時期は何をやっても本当に面白かった。めちゃくちゃ稼いでやろうともチャレンジしてみたがやはり動画にある上位ランキングの足元にも及ばなくて落胆もした。失敗も成功もそのどれもが面白かった。







その日はスポーツ店でプロテインを買ったので牛乳に溶いていた。自意識過剰でなければ筋肉がついてきたと思う。学校の女子がチラチラ見ていたような気がしなくてもない。身長も伸びた。

フレークと日々の稼ぎをダイヤと他の金属を購入したたそれを混ぜてぶち込む。最近はダイヤやインゴットの食感にも慣れてきた。今では癖にもなっているくらいだ。

それをいつも通りむしゃむしゃ食べながら動画で料理番組を勉強していたら管理人がげんなりした顔で俺を見ていた。


「おはござーっす」


「あんたまるでソシャゲ課金者みたいにダイヤ消費してんだね」


「人工ダイヤって結構安いですよ? 業務用ですしカットもいらないなら想像以上にお買い得ですね」


「何かそれ将来恋人に指輪渡すとき、食べ物を渡すみたいな感じになりそうだね」


ケラケラ笑われた。

あんた最近ワークホリック気味だから休みも必要だと釘を刺されるがあねさんはサボりすぎでしょと返しておく。

管理人は隣に座ると雑誌を広げてやはり気だるげに机にだれて読み始める。

俺は社員用の買い置きされてるコーヒーを入れて渡して隣で一緒に飲む。最近会社が羽振りが良くて、お茶菓子の買い出しに行かされる管理人はコーヒーショップで味比べをしている。俺にはさっぱりだが隣で結構飲み慣れている玄人っぽい感想とコーヒーうん蓄を述べる。これが最近の光景だ。


「慣れた? ミノ狩りも3匹からだんだん増えて来たよね」


「そうですね。ただ遭遇率低いから、解体施設稼動代のために5匹以上じゃないと見逃してますね。でも5匹以上だと図体デカくて運ぶのがめんどくさいんだよなあ」


ミノは稼げる。けどそうは何もかもうまくいかない。

往復してその間に死体が痛むこともあれば、他の生き物に食い漁られてたり生き残りの仲間のミノに持っていかれているときもある。


「他のダンジョンならパーティーがいるしサポーターとか雇えるんだけどね」


「命がけの状況で協力とか無理。信頼とか長い時間必要だし。第一今は安定しているから頭割りで報酬減るだけだからなあ」


「ん? さては陰キャだな。彼女とか出来たことないでしょ」


「あねさんも彼氏いないでしょ」


「好きなタイプはアイドル冒険者の水瀬たっくん」


たっくん誰だ。え? 既婚者? それにダンジョンに行ったきり戻ってきてない故人なの? そりゃあ叶わない恋だ。

管理人に軽く恋人ができないことを弄られて朝食に逃げる。そんな俺をいじけるなよーと笑いながら叩く。

そう言うなら誰かいい人紹介してくれ。巨乳の、できれば可愛いの。


食べながら受付のパソコンで勝手に動画サイトを眺めて他冒険者の活動記録ブログも閲覧する。案外人気でなくマイナーで泥臭く堅実に活動している人の方が含蓄があったりするのでチェックしていくとどうしても時間が足りなくなる。しかも冒険活動どころか学校の数学の問題の解き方の動画も最近見始めたので暇人の相手をしている暇はないのだ。

ああ忙しい。けれど俺は忙しさを充実していると勘違いするほどおめでたくない。適度に働き適度に休む。これで堅実に生きていくのだ。



そうやって二人で受付の机にぐでーんとしていたらおっさんからお声がかかった。

けど何か様子がおかしい。いつもなら予算がーとか補助金がーとか言って俺の隣に座って三人でぐでーんとする時もあったのに今日はなぜか少し興奮していた。


「おーけーおーけー、今朝は何か良い夢見たのか知らないけど朝っぱらからはぁはぁされるとこっちがきつい」


「親父気持ち悪い」


するとおっさんはテンション高めに否定した。今までにないテンションだ。

鼻息も凄いし目が血走っている。興奮のあまり動作も少しオーバーだ。


「そうじゃない‼ 昨日は一睡もしてない‼ それよりも鈴木君今すぐ出発してもらえる?」


徹夜明けテンションが上がるタイプの人か。


「いいけどダンジョン? 何か急用で必要なの?」


たまに視察とか取引でお偉いさんが来るからと食材を捕りに行かされることも短い付き合いだが何回かあった。だけど明らかにそれとも様子が違う。


「はっきりしたことはまだ言えないけど緊急で。手ぶらで良いから昨日行ったこのマップのポイント地点に急行してその奥にガンガン進んで。それでもしこの色の石ころとか鉱脈見つけたら最低五個くらい拾って回収してきて」


端末にマップ情報とよくわからん石ころの画像が送られてくる。マップは昨日新しく開拓したところだ。水辺があったのでタコ糸を吊るして釣りをしたが何時間かけても丸坊主で、一匹だけミノを見かけたから腹いせに仕留めて持って帰ったがそれだけで別段特に何もなかったような場所だ。それと送られてきた何かの原石の画像。過去まだ見たことのない、それどころかダンジョン以外でも見たことのない種類だ。


「ダンジョン内は通信できないから危険を感じたり行き止まりを見つけたら自分の判断で引き返しますけど」


「それでいい、出来るだけ急いで。でも出来れば少し無茶して。特別手当出すから」


おっさんに急かされて背中を押されて押し出される。理由は言えないがそれでも後で全部教えると言って。


昨日行ってただ釣りをした場所だ。危険ではない。昨日の感じでは何か危ないものは感じなかった。それにおっさん達はカメラで見ているだけで、現場の判断としては俺の方が正しく把握している。だからだけど特に何もなかったのも事実なんだよなあ。あの先に何があるのかも未知なのだが俺の経験談で言えば他の地形と似たり寄ったりじゃないだろうか。

けど何も見つからなくても手当は出すというので行くしかない。




俺はダンジョンに入ると走った。吹きだす熱湯を潜り抜け、マグマの川に落とした岩を蹴って駆け抜ける。今向かっているところはこのマグマの川で未開拓領域だったところだが俺がデカい岩を拾ってきて落として今は渡れるようにしてある。

そこを駆け抜けると無事目的地に着く。

右を見て左を見て特に何もない。洞窟のただ通過するだけの通路的なスペース以外何物でもないだろう。ただおっさんはここから何かを読み取ったのだ。俺にもわからない。カメラ越しの録画された動画で、しかしおっさんは確信したように何かを見つけたのだ。

わからない。やはりまだ俺には経験が足りないようだ。現場に居るのは俺だというのにその判断材料も微塵もわからない。


でもまだそれでいい。これから学べばいい。今は言われていることをすればいいのだ。

自分を叱咤してその先を進む。

果たしてどこに繋がっているのか。未開拓領域だから慎重に進む。

薄暗い洞窟。湿った地面。まだ見ぬ未知に対してヘッドライトの光を照らす。


何だ、何か変だ。音だ。そうだ音がおかしい。洞窟の音ではない。

足にぶつかった石ころが音をたてて転がる。そうだ反響音が違う。今まで何回かあったから経験でわかる、この先は空洞があるのだ。


ちょっとした斜面を登り、岩が転がって崩れかけていたがどかさなくても余裕で通れるくらいの通路。その先を進んでいく。

果たしてその先に進むとやはり大空洞があった。かなりの広さだ。ドームとかそんなものじゃない。もっと大きい。今までにも他にも大空洞はあったがこれほど大きいのは無かった。


「でもただの大空洞だよなあ」


大きいが、でもだからと言って何でもない。他にもこれより小さかったが幾つもあったのだ。

空洞に入る前に状況の整理。敵の存在、奥は見えないが見渡せる範囲では無し。右を見て左を見て他の繋がっている通路を発見。どこまで続くかはわからないが空洞探索を優先。


「ああ、あるなあ」


おっさんが言った色の石は早速見つかった。一面にあるのだ。こんな目に着くのだ見つからないわけない。逆にあまりにも多すぎてその色を探しているのに果たしてそれで在っているのかわからなくなるレベルである。ここらあたりで何か地形変動か何かの跡があったのだろうか。今まで見たことのない石だ。


それをがりがり削ってバックに仕舞う。いくつか拾ってきてと言われたが、最低限指定はされたが多い分はいいだろう。

カメラの撮影も気にしながらわかりやすいように色のついたところを削ってそれをバッグに詰め、データが取れやすいよう数十メートル歩いた地点ごとに削ってバッグに詰めていく行為を繰り返す。


「こんなもんだろ」


楽な仕事だ。来たことのない所ではあったがそんなものは日常的に行っているから過去のしていることと何ら変わらない。ただ初めて見た鉱石を拾うだけだ。

けどそれもこのダンジョンにはいろんなのがあるし、過去に試しに拾った珍しい石ころとかも価値のないのもあった。何も変わらないんじゃないか? 色だけでこれと断定できるわけじゃないだろうし果たして価値があるということなのだろうか。


強敵と戦ったり、危険な場所に行くわけでもない。ここは何でも無くて何もない。俺はバッグを背負うと大して苦でも何でもないただの採掘仕事にまるで狐に化かされた気持ちで帰るのだった。








ダンジョンから何事もなく無事帰還するとおっさんが入口で今か今かと俺を待ち構えていた。

他にも何人か社員がいたり、管理人の姉さんも集まっている。おっさん含め上層部は何か険しい顔をしているが管理人含めほとんどはよくわかっていないみたいでどうやらこのことを知っているのは一部のようだ。

俺にもわからんがことは大事のようだ。


「鈴木君戻ったか‼ どうだった!?」


「え、はい。確かにありました。えっとですねあの」


「言わなくていい‼ ちょっとそれ寄越して‼」


おっさんが俺から荷物を奪い足早に去っていく。すごい剣幕だった。あっけにとられた。あんな怒るともとれる切羽詰まった態度になるとは。俺は管理人に視線を送るとあちらも肩をすくめて何がなんやら状態だ。ひょっとするとひょっとするんじゃないか。

管理人と更年期かもねとおしゃべりをしてると次に偉い上層部の人も何か話していて頷くと俺を取り囲むように立たれる。

偉い上層部と言ってもこの人たちもしょっちゅう俺と広場で飯を食って談笑している人なのに今日は顔が怖い。ただ、どこか凄く嬉しそうに興奮しているところもある。


「ちょっとごめん会議室きて。それで許可するまで絶対出ないで貰える?」


「え? やっぱり何か凄い事起きてる?」


「まだわからない。ひょっとすると3日かそれ以上出れないから後で着替え持ってく。携帯渡してくれる?」


「ああ、これもしかするともしかしますねえ」


俺は最近新しく買った携帯を渡すと目の前でSIMカードを引っこ抜かれた上で通信遮断処理のされた袋に入れられて同行を促される。

見ると俺以外にも管理人も同じように囲まれて俺と一緒に半ば連行に近い形で連れていかれる。


「あんた何したの?」


「わかんない。言われたことだけしただけ」


上層部の方達と管理人と会議室に入る。会議室は初めて入った。

まあ、中小企業らしく学校とかほど大きくない。こじんまりとしている。予算も無くて半ば多目的室になっているらしいが。

俺が座ると管理人も隣に座って不安げにあたりを見渡している。あのずぼらな管理人すら動揺しているとはよっぽどだ。

上層部の人たちも俺たちに続いて席に座るが落ち着きがない。

座ったと思ったら立ち上がり、貧乏揺すりをしては時計を頻繁に確認している。お茶を飲もうとしても手がプルプルして零している。あののほほんとしているところぐらいが取り柄のこの会社の人たちがここまで慌てているとは見ていてこっちが怖くなる。

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