やっぱり俺が一番すごくて一番かっこいいんですね
「お、結構早く帰っ……おおおおお‼ ミノじゃーん‼」
背負ってきたミノタウロスを見て管理人が仕事を放り出して走ってくる。おっさんも鍋を止めて嬉しそうに蟹の足を咥えて走ってくる。
お前もう食ってたのか‼ パン咥えて学校に登校する女子高生風に走ってくるな。
「大丈夫? 怪我はない?」
「まあ俺にかかれば余裕でしたよ‼ ほぼ一方的に倒せて少し心苦しかったくらいですね」
「ズボン股の部分少し濡れてるけど? ……臭いし」
「………」
「あとはこっちでやっておくからシャワー浴びて着替えてきなさい」
「……はい」
ああどうやら死んだミノタウロスが粗相したのが俺にかかったようだ。死んだり気を失った人は垂れ流しになるみたいに。
おのれー。よくもー。ゆるさんぞー。
お陰で何か皆に勘違いされたじゃないか‼
人員が集まっていく中俺は一人シャワー室を借りて体を洗う。思えばミノに殴られはしたもののはっきりとした怪我はない。痛みはあるがそれも段々と引いていっている。痣や血が出ているところもどこにもない。
服は流石に破けたが、予備もあるしいいだろう。
体を触る。柔らかい弾力とは別に金属の強靭さが組み込まれている。俺は確実に強くなっている。
そう確信すると同時に不安も抱く。
果たしていいものなのだろうか。実戦らしい実戦を始めて行って改めて思う。これはドラゴンの力。棚ぼただ。
一般階級の人間が宝くじを当てて金持ちになったようなものだ。例え金持ち連中に混ぜっても貧乏臭さが染みついて長年の習慣によって培われる品性と教養が身についていないのは隠せない。
幼児に銃や力を持たせた如く俺はこの力を使いこなせない。
一般人を脱却して冒険者だと割り切って行動できない自分がいる。思考そのものが平凡で他冒険者に劣る自覚がある。きっと他の人間ならもっとうまく立ち回れるのがわかる。
明確な差異と劣等感が生まれる。
これはよくない。今はまだいいかもしれないけど絶対いつか将来ボロが出るかへまをやらかす。
加えて頭を冷やしてようやく自分が何をしたのか理解する。あんな大きな生き物の命を奪う。さっきまでは戦闘の高揚感や処理しきれない情報と慌ただしく流れ行く心情で冷静じゃなかったが、今になって分かった。きっと冒険者に向いているのはアフリカとかで像の密漁をスポーツ感覚でやって誇らしげ気にいる連中だ。生き物を殺す時に可哀想とか思わず面白いと思える容赦なさが必要なのだ。
だから俺は決定的に冒険者に向いていない。解体工場で解体するのとはわけが違う。肉体的にはともかく思考や思想が既に駄目なのだ。
出来うる限り俺は早く冒険者なんて引退したい。そのことを再度自分の中で確認する。事務仕事に専念したい。それかお洒落な喫茶店の渋いマスター。
改めて決意を固めると俺はシャワーを止めて体を拭いて出る。新しい服に体を通して気分を無理やり変える。
また新しい服を買わないとなあ。取り敢えず金が溜まれば学校の授業料とは別にプロテクター等を買うのもいいかもしれない。
家も流通に不都合だし立地的に治安が悪い。引っ越しもしたい。休みにどこかいい物件を探しにいかないとなあ。
部屋から出てミノタウロスの解体を見に行く。
大量だったら専用の解体工場に依頼に行くらしいが生憎一匹なのでここでおっさんが解体してくれるらしい。
ちいさなクレーンのようなものにひっかけられてバラバラになっていく。
おっさんが返り血を浴びながらいい笑顔でこちらに手を振ってきた。以前も俺もああだったと考えるとなるほどサイコパスに見える。
「こっちの方で解体進めてるけど大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。何でしたら手伝いますよ」
「いや大丈夫」
おっさんと他数人が解体に戻る。かなり手際がいい。
それを見ていると入れ違いに何か記載していた管理人の姉さんが来る。持っている紙は各査定らしい。
どうやら売るにしてもちゃんと伝手があるから全部任してもいいみたいだ。
「凄い状態がいい。けど数が少ないのがね……。あと5,6匹いれば品評会とかオークションに出せたんだけど生憎一匹だからこっちでやらせてもらった」
「それでいいですね。自分じゃ伝手とかないんで」
サインするところ教えてもらってサインして各金額を見ていく。
結構高いようだ。
「相場だいたい肉だけで200万くらいだね。状態もいいし、大きい個体だから色を付けるよ。一体でうろついているのは群れなくてもやってける強い個体なのによく倒せたね」
「まあ何とか」
200万‼ スーパーのもやしを買い占められるな。
「オークションなら一匹1000万とか余裕で行くんだけどね」
「え? そんなに行くの?」
「ミノじゃなくてただの牛でもそのぐらいいくときはいくよ」
ミノ一匹一千万。余裕で卒業というか、仮に退学しても中卒でやっていける金額だ。
家賃に老後の年金に蓄え余裕で貯まるじゃないか。
前言撤回、やっぱ俺ミノタウロス容赦なく狩れるかもしれない。
管理人の姉さんも父親のあのおっさんと同じである程度知識があるらしくいろいろ教えてくれる。
「角は象牙なんかは一本100~200万するけどミノは短い。けどモンスターだから高値で一本70万前後。頭蓋骨付きで売ればもっと高くなるかな。内臓の方は最近このダンジョンでミノは狩られていなかったからどう生息環境が変わったか調べるためにもうちの会社の方である程度買い取る。皮に関しても服よし鞄よし」
資料を見ると主に肉は食用で内臓も薬等に使い、骨も使い道があるようだ。
「他に耳とか鼻にピアスしてるでしょ。案外ミノタウロスっておしゃれで強い個体とかはタリスマンとかアミュレットもつけてたりするの。酷いのは死んだ人間の頭蓋骨を数珠つなぎしてるのもいるけどね。これも売れるけど自分につけたいなら貰えるよ」
「いやーこいつとはおしゃれの趣味分かり合えそうにないんで」
「だいたい今回はトータル500万ちょい。一匹のために解体施設動かしたから施設利用料と解体料金で低いけど、これから狩る前に事前に言って5,6匹安定して狩ってくれればもっと高めに買い取るよ」
あれをそんなに。倒すのはともかくあのデカい図体を運ぶのが難しそうだ。
「正直君はモンスターと戦って無いからいつかあっさりやられるだろうって思ってたけどこれで最低限冒険者として雇う信用は得られたかな」
彼女はそう言ってミノ買取金額とは別に念願の単位認定に関しての書類を渡してきた。
「これからどうするか考えてみたら」
それは俺が欲しがっていた自由になる書類だった。
その日俺は家に帰って寝るまでじっと書類を眺めていた。
授業料と家賃を取り敢えず支払い、スーパーで奮発して割引の付いていない弁当を買って食べて布団に転がった。
あの割引弁当を野良犬のようなぎらついた目で狙っている猛者たちの前で贅沢に買ったのは思わず声が出るほど愉快爽快だった。お前裏切ったんかみたいな間抜けな顔は面白かった。自分も以前まではああだったというのだから人生何が起きるのかわからない。
布団で見上げたのは手にした件の紙だ。
これからの将来どうするか。進路希望だ。
正直もうミノを狩る必要はない。それどころか今日のミノを含めこの一か月の思わぬ高収入は卒業までの授業料、税金、食費他光熱費家賃にもしも何かあった時の出費分もかろうじてあるだろう。
冒険者も辞めて一般的な学生みたいに普通の就職も大丈夫だろう。
何か金が入用になったら再度冒険者をすればいい。将来病気とか怪我になっていきなりまとまった金が必要になったときのことを考ええればもう少し欲しい所だが。
それに普通の高校生らしい生活をしたい。贅沢は言わないが私服とか買いあさってお洒落もしたいしカラオケとか楽しみたい。テレビや壊れたスマホも買いたい。
ほげーっと紙を眺める。もう何度したことか。持ちすぎて少し紙がよれている。
時計の秒針の音が静かな部屋に響いた。妙にその音が静寂な部屋に響いた。
「もうこんな時間か。寝るか」
時計は頂点を越えようとしていた。悩んでも仕方ないことはもう悩まない。電気代がもったいない。俺は電気を消すと静かに暗闇の中すっと寝息を立てるのだった。
次の日の朝、まるで遠足の日に早起きするみたく早朝に起きた。子供かよと自分をせせら笑った。
窓を開けると朝露の涼しさを含んだ空気が俺を優しく包み込む。
金の心配をしないで済む朝とはなんて楽しい事か。清々しい早朝だった。何もない変哲も糞もない普通の一日だ。自由、それがこれほどうれしい。
贅沢にお弁当箱を用意して冷凍ハンバーグを入れた。それを軽い通学鞄に入れる。
心なしか今日学校に向かう足取りは今までで一番軽かった。
「うおっ‼ 太郎テンションたかっ‼ 気持ちワルっ‼」
友人はいつも通りだった。クラスに入った瞬間からいつもの席についていて、スマホを弄って動画漁り。ただ今日は隈が無い。深夜のネカフェバイトは順調だったのだろうか。
「いやー弁当に冷凍ハンバーグ入れて来たからね‼ 今日は俺無敵だよ」
「なんだそんなことか」
「冒険者の方も一人だけど順調でね。落とした単位も回収できた」
「そか。俺はネカフェバイト辞めたんだ昨日」
は? バイト辞めた? まあ俺がとやかく言えることではないだろう。掛け持ちしてしょっちゅう辞めては新しいのしてたから。最終的に落ち着いた解体工場が一番費用対効果が良かったが。
高校生たるものそんなこともあるだろう。
「ほかにもっといいバイト見つけたとか?」
「いや、アイリスたんのグッズ集め辞めたんだ。コンサートチケットも払い戻した」
何だこれ‼ 重症だ‼ 3か月ごとに嫁が変わるアニオタと違ってこいつはキモくて引くぐらい筋金入りの何とかってアイドル一筋で応援していた筈だ。それを辞めるとは。果たしてコイツからドルオタを引いたら何が残るってんだ。
ゴミだ。以前もゴミだったが使えないゴミだ。入れる専用ゴミ袋が無いのが悔やまれる。
「アイリスたんたぶん死んだ。予定の日程から大幅に遅れてるのに新宿ダンジョンからパーティーの一人も帰ってこないんだ」
「お前俺が死にかけた時はへでもねえ顔してたのにな」
友人はファンサイトやネット掲示板そこのどこでも全て同じ反応だと情け無さそうに吐き出した。
確かにざーっと友人のスマホの画面が移り変わるがどこのまとめサイトや動画、そのアイドルが所属している事務所すら絶望的な報告をしている。
どうもあの東京で一二を争う人気の新宿ダンジョン、その最前線のさらに奥、人類未到達領域に遂に足を踏み込んだところだったらしい。ダンジョン内では携帯も電波は届かず最後の目撃を最後に音信不通。似た前例と比較してもだいたいほぼほぼ全滅らしい。生還の見込みは限りなく低い。
もしかしたらアンデッドになっているかも。まとめサイトでは不謹慎にアイリスのゾンビなら食われてもいいとかすら出ている。俺には理解できない世界の話だ。
「お前もそろそろ現実と向き合うべきだったんだ。丁度いい、眼鏡巨乳教に入信するんだ」
「アイリスたんは二次元じゃないから」
彼は少しやさぐれてしまった。失恋も、死別も生きていくうえでは避けて通れない。
それはどんな人でも事前に覚悟をしていても耐えられるようなものじゃない。
傷つきながらも前に進むしかない。彼も悲しみを知って少し強くなれただろう。だから人は他者に優しくなれる。
気を落とすな、女なんて星の数ほどいる。おっぱいはその倍ある。けれどそんな無限の数の中巨乳はたった一握り。
傷を癒すのは。やはり巨乳しかない。俺はそう思った。
もう行かなくてもいいが、行ってちゃんと仕事をすれば学校での更なる単位優遇、遅刻欠席他授業料免除もあるのでやはり俺はまた渋谷第三ダンジョンで何やかんや冒険者をしていた。
管理人はやはり雑誌を読んでサボっている。この人がもし慌てるようなことがあったら逆によほどやばい事だろうからある意味、見慣れた光景というのはどこかほっとする。それでもここは閑散としていて寂しい。でも知る人ぞ知るマイナーで玄人なイメージもするから結構ここのことは気に入っているのは内緒だ。
他のダンジョンなら入り口で七輪持ってきて飲み会とかできないらしいし。
「あねさん真面目に働かないといけませんよ」
「ん? ああ、いいのいいのー」
そんな適当な会話をして着替えに向かう。インターンの単位取得が終わったもののダンジョン探索は基本的に好きにしていい開放的なところもいい。
今日も今日とて着替えが終わってダンジョンに突入しようとすると、珍しいことに管理人がやってきて待ったをかけられる。
「ちょっとヘルメットにライトとは別にカメラもつけてくれない?」
「カメラ?」
「君、マップにも載っていない所にも行っているからこっちでマッピングしようって。勿論マップ更新代も払うしカメラ壊れてもこっちで持つ。つけるだけでいいし、動画解析して金になりそうな物があったら報告する」
渡されたのは球体のカメラ。所謂360度カメラだ。たまに企業の無人車に乗っけて東京の地図を描いているのを見かけたこともある。
かなり高いだろうに俺もまあ信頼されたものだ。
だがダンジョン内で何をしているのかばれてしまう。当然アッチもそれを織り込み済みだろう。
「これで俺の能力もあわよくば暴こうとか?」
ダウナー気味の気だるけな管理人のジト目が高速で泳ぐ。
図星のようだ。やはり抜け目ない。
「そう言うことも無きにしも非ず」
「いや別にいいんですけど」
「ああいいんだ。結構軽いね」
管理人がケタケタと笑う。面白い人だ。俺の背後に回ってヘルメットを着け、それにカメラの固定作業を行う。重さもそこそこあるのだろうが鉄の体の俺にとってはあまりかわらない。つけても問題はないだろう。
「こっちも交換条件というか欲しいものがあるんですけど」
そう、鉄の体。いい加減ただの鉄では不安だ。能力があるのはばれているが詳細さえばれなければいい。
利用できるものは利用する。それは相手だけじゃない。自分にも当てはまることだ。
「……何?」
「あのイリジウムとか他の金属売ってもらえませんか? 能力で使うんで」
前に回ってきてカメラの固定具合を確認している管理人は不思議そうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。何に使うかよくわからないのだろう。
「サンプルとしてここに少しあるけど使ってみて」
論より証拠だろうか。
俺は管理人からインゴットを受け取るとまるで板チョコレートのようにかみ砕いて咀嚼する。丸かじりだ。鈴木太郎は金のかかる男なのだ。女性よりも宝石が好きです。
「あの……こうやって……。ああ、体は大丈夫です。既に自転車を何台も食べているんで」
「……食べた‼ 何の能力なの?」
「なんとなくわかっているけどはっきりとしたのはわからないですね。取り敢えず金属とか鉱石を食べる能力とだけ」
頬を掴まれて口の中を覗き見られる。かなり恥ずかしい。
ちゃんと飲み込んで無くなっているのを確認されると放される。
そんだけ? ええ、はいと生返事をするとポンッと背中を押されてダンジョンに送り出される。
何かそれっぽいド派手で大迫力な能力のお披露目を期待していたのだろう。
あまりの地味さに興味をなくしている。落胆したようだ。
けれど俺は管理人の意表をつけてしてやたったり顔でダンジョンに向かうのだった。
ダンジョンに来たら俺はなんとなくミノと会った場所に向かった。
戦闘での地面が砕けたところや壁が壊れているのはそのままだ。そこに斧が落ちているのもまた当然だった。
「この斧回収できなかったからなあ。貰っちゃおう」
あらかじめどのくらいの重さかわかって持てば意外と持てる。使いこなせるかは別だが。
これが欲しかったのだ。時間があれば練習してみようかな。それとも売ってちゃんとした武器を買うか。どれもいいかもしれないがやはり先人に聞いてみよう。
俺は武器を回収すると先日の続き、蟹獲りに行く。
近所の川にザリガニ捕りに行く感覚だがこれで金が貰えるのだから馬鹿にできない。ガスが噴き出てマップには毒ガスマークがついているが俺にそんなもの関係ない。
ずかずかと入り込んでいって温泉のような熱湯だまりに腰がけ、ポッケからおっさんの酒のつまみであるスルメを奪ってきたので糸に括り付けてぶら下げる。
指先の感覚を頼りに動かすとすぐにヒットする。
ら、楽勝すぎる。本当にザリガニをつっているみたいだ。炭酸飲料で捕まえるのもいいがこっちでも入れ食いだ。それに改めてデカい。ダンジョンの生命とは不可思議な物だ。
針を出してしめると専用の保存バッグに入れて一丁上がり。これで万札なんだから声を大にして笑いたい。
納品依頼書を見て指定の数を超えたが運搬中に崩れたりしめも難しかったので追加で釣ってから帰る。ダンジョンから出ると管理人に荷物を渡してすぐに戻る。相変わらずこの人はサボっていた。管理人何てほっといて自分の仕事をするべきか。時間があるからまだ稼げるはずだ。
俺はその日、控えめに燃料石と鉱石といくつかのサザエを獲ってくると早めに上がるのだった。
ダンジョンから出ると結構いい時間でおっさん達は既に俺の取って来たのを調理していた。
「シャワーしたら俺も食べまーす。納品分は大丈夫でしたか?」
「今品質管理でチェック入ってるけどたぶん大丈夫かな。大目にあるし悪かったのをこっちで食べてるよ」
やはりいくつかは駄目だったか。これは慣れが必要だろう。その分数でカバーしないといけないが果たして晩飯は蟹だらけになるのだろうか。
幾つも鍋が並んで蟹が煮込まれている。良い香りだ。取り立てが食えるのもこの仕事のメリットだ。
おっさんが手を出してにっこり笑いながら促していた。狸ジジイめ。俺はヘルメを外してカメラを渡す。良い笑顔だ。能力もこれでどんなものか少し検討できるのだろう。まあ一市民である俺に隠すこともたかが知れていてどこかできっとばれるのは間違いない。不利な状況でばれるよりまだましだろう。
「この斧どうしたらいいですかね?」
「ミノタウロスの斧か。使ってもいいけどぶっちゃけ手入れとか維持が難しいかな。スマホとかと一緒で市販のものだと武器も保証書ついてて買った店で修理してもらえるから店で買う方が将来的にいいかな。モンスタードロップは偶に凄いのが手にはいる時もあるけどね」
俺は買取所に斧を置いてそのうち武器専門店の紹介をしてもらうよう頼んでおいた。成分表にもよるが斧もダンジョン由来の素材でできているので高く買い取ってくれるらしい。食べるのもいいかもしれない。
シャワー室に向かうとドラム缶式の洗濯機に服をぶち込む。何でも今現在の俺はここで働いている冒険者だが、3か月の様子見研修期間を経れば卒業後は専門契約を結んで正社員として働いてもらってもいいという仮正社員扱いなのだ。正社員。いいね響きが素晴らしい。
儲けさせてもらっているからと会社側から業務用の洗濯機を買って置いてもらえたし。乾燥付きでうちにあるのより当然高い。私物持ち込みは良心の呵責で止めているが利用できる分はさせてもらっている。
体を洗ってサッと上がると広場では既に食事が始まっていた。
ヘルメにつけられたカメラの動画を検証しているのだろうか。プロジェクターを持ってきてスクリーンでちょっとした撮影会が始まっていた。何か飯食いながら家族団らんでテレビ見る感覚で見られると恥ずかしいな。
食べていたおっさんと管理人他従業員の皆さんが呆れた顔で見ている。
今しがたのシーンは流れるマグマの川を靴を脱いで歩いて渡っているところだ。どうも音声録画機能もあるみたいで緊張感もなく俺があっちぃーと言いながら渡っている。だって仕方ないじゃないか結構熱かったんだから。
「これどうやってマグマ渡ってんの? パイロキネシス系統の能力? いやそれじゃ説明つかないか」
こっちに気づいたおっさんが疑問を投げかけて来た。
周りも少し唖然としていてそれが面白かった。
「いえ、何ていうか環境耐性の強い能力でして。温度とか湿度に毒とかに対してめっぽう強い能力なんですよ」
管理人は何か納得のいったような顔をして神妙に頷きながら言った。
「地味だね」
「そうなんですよね。ただ姉さんに言った通り金属を食う必要があるんですよ」
「代償かエネルギー的な物の充填かわからないけど必要だと?」
「はい。出来れば酸に強いイリジウムとか固い金属がほしいですね。食べたもので少し変わるんで」
おっさんが感嘆したように、堅実でしっかりした君向けの能力じゃないかと褒めてくれた。一方管理人の姉さんはやはり派手な能力を期待していたようで溜息を吐いていた。悪かったな。もしかしたらそのうち本当にドラゴンの能力とか特性が使えるかもしれないがそれはまだ試してないし黙っておく。落胆するのはきっとテレビや動画サイトで派手な能力を見慣れている弊害だな。
俺がテーブルについて料理に手を付ける。上映会はまだ続くようだ。俺が蟹を獲ったりサザエを壁から引きはがしているところが映る。
おっさんは食べ終わったようで地図を作成して色々と書き込んでいく。360度カメラを回転させて周囲を見てどれほど残っているかもチェックしていく。
場面は移り変わって鉱石の採掘では俺が鉱石をつまみ食いしているところまで映っていた。
「既にたくさん持ってきてるけどまだこれほど残っているのか」
おっさんが立ち上がってデスクから何か取り出して持ってくる。
この量が残っているなら先行投資だと何か就職祝いみたいだ。
「うちは採掘でイリジウムとかプラチナも取り扱っているからお世話になっている貴金属店に幾つか貰ってね」
取り出したのは小さいガラスのようなものとインゴットだ。
「人工ダイヤモンドがあるんだ。結構今じゃ安くて数千円で買えるのもあるし採掘マシンのドリルとかにも使われている。こっちのタングステンの合金は戦車とかに使われたりするほど固いし、金と似ていて金の延べ棒に偽装されていることがあるんだ。タングステンと人工ダイヤモンドの指輪もあったりする」
俺はそれを受け取って見ていると、食べてもいいと言われたので食べる。
かみ砕けない。ただ小さいから飲み込める。
牛乳を貰って押し込む。腹の中でちゃらちゃらと音が鳴った。
「ちょっとでも意味あるけどかなりの量が必要なんですよね。鉱石のままだと凄く効率悪くて純度の高い抽出したインゴットは助かりますが」
皆がワクワクしているようで悪いがすぐに効果は出ないし、量が少なすぎる。それに目に見える変化はないのだ。
俺が何も起きませんよと断っておくと途端にみんな落胆する。悪かった地味で。
ただおっさんは意外なことを言ってきた。実にそちらの道の人らしい意見だ。
「太郎君次から排泄行為したらトイレじゃなくて専用の容器に入れた方が良いよ。学校の理科の実験で廃液の取り扱いとか習ったでしょ。たぶん水に流したら金属イオンとか何かしらに法律で引っかかるから」
「え?」
「それに椅子がかなりギシギシしてるし体重も重いでしょ。木造のボロアパートに住んでたよね。そのうち床抜けるよ」
「ファ!?」
なんか最近心霊現象のようなラップ音が酷かったがあれ建物が軋んでいたのか。そこでなぜか今までないほど管理人の目に生気が戻る。今までやる気のある姿を一度も見たことが無いあの管理人の目に輝きが‼
ああ、これ碌な事じゃないな。
聞きたくない。
「ねえ、うちの倉庫にプレハブハウスあるんだけど買ってここで住まない? 仮設トイレも今ならつけるよ」
「本音は?」
「夜勤シフト代わって」
夜勤シフトのための能力じゃねえよ。
やはり裏があったか。
確かダンジョン法だったかなんかで管理する会社は24時間入り口で見張って管理をしないといけないのだ。
「嫌です」
「寝ているだけでいいから‼ 受付に呼び鈴置いて寝ていてもいい。現役冒険者が見張りも兼ねてくれたら国から補助金が出る。寝てて稼げるよ‼」
寝ていて稼げる。これは嘘が多い。
この募集要項だったホテルと風俗店の受付夜勤経験者だから知っているが意外とこれがだるい。ちょくちょく人が来て叩き起こされるからだ。
友人のネカフェの聞いた話もある。まるでネカフェ難民だ。
「水道電気ガス全部持つ」
「……‼ 家賃は?」
「もち」
「いいだろう」
そこまで言われたら仕方がない。
俺は初めて管理人と意気投合して握手を交わす。まあ現在住んでいるところの契約を切って市役所で手続きして少し先のことになるだろうが。
給料から差っ引いて幾つか食べる金属を貰うことも取り付けた。市場経済を経由して中抜きされるより内々で取引してもらうと安上がりで互いにwin-winだ。私財として渡すのは駄目でも冒険者稼業に使うのであれば税金関係をすり抜けられる。案外話してみて良かった。
俺はニヤリとこれからの将来をニヒルに笑うと勝利を確信したのだった。




