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過疎なダンジョン


放課後。俺の留年の一進一退の存亡を賭けるべく、単位を握っている教師の研究室に資金提供している企業への冒険者でのインターシップ計画が幕を上げた。

もうこれ収賄とかそういうのでアイツ逮捕されないかなと首をひねるが何でも合法らしい。揺すろうと法律関係を調べたが他でも結構よくある話と検索してすぐに出て来たのであきらめた。

世の中いい感じで俺に不親切だと溜息を洩らした。だってダンジョン攻略より強請るなり脅すなりしてアイツ攻略するほうが圧倒的に安全で簡単なんだもの。それにしても酷いな、何だこの字面。おっさんを攻略だなんて言葉は。


そんなおっさんから渡された資料に目を通した。

幾つかの候補がある中、出来るものと出来ないものが当然あってまずそれを選別した。護衛依頼レベル3以上とか4以上はもはや無理だ。自動車免許を持っていないのにタクシーの運転手をするようなもの。

そうするとどうしてもダンジョンに潜ることになる。


ダンジョンとはモンスターが巣食う迷宮だ。どうやってできたのかは諸説あるが偉い学者の話は分からん。

ダンジョンは洞窟のようなものがオーソドックスだが、地形変動で地上に露出して平原と一体化しているフィールド系ダンジョンや、まるで塔のように真上に伸びたダンジョンもある。

個別にも特色があって洞窟系から平原、中には氷雪や溶岩と多種多様になっている。勿論そこで取れる素材も違うし出てくるモンスターも違う。特に塔型のダンジョンとかは明らかに外から計測した塔の面積よりも広い内部空間、それこそなぜか海もあったりと空間的に摩訶不思議な現象が確認されている。まあそれを言ったら能力者が火とか風とか操れるのも謎だけど。



俺は今回挑んだのは渋谷第三ダンジョンだ。通称結晶洞窟。レベル制限の入場規制もなく俺でも入れるからだ。だけれでも楽勝なダンジョンかというとそうではない。

渋谷第一ダンジョンが満員御礼で繁盛しているのに比べてここは閑古鳥が鳴くくらい過疎っている。

というか俺以外はいないってくらいで、たまに学者や怖いもの見たさで来る者、観光客くらいらしい。


地域としての活気も渋谷第一ダンジョンが繁盛して付近の地価が高騰して色々な施設が立ち並んで充実しているのに比べ、こちらは入口に安っぽいダンジョンからモンスターがあふれた時のための防衛施設とバリケードが張ってあって、管理人がポツンと一人管理している現状だ。その管理人もやる気がないときている。雑誌を持ち込んで勤務中にせんべいをバリバリと齧りながら茶をすすっている。いいな、俺もそれで給料もらいたい。人も来ないで好きなこと出来るなんて。



そんな渋谷第三ダンジョンには過疎る理由たる訳があった。

渋谷第三ダンジョン。それはメキシコにあるナイカ鉱山のクリスタルの洞窟に似ている。

そこはもう一面結晶、結晶、巨大な結晶のオンパレードだ。天井、壁、足元に至るまですべてがダンジョン由来の鉱物で結晶ができており、絶景スポットとしてたまにテレビで放送されるくらいだ。

その見事さは筆舌しがたいほどの光景で、実はこのダンジョンのことは以前から俺も知っていたくらいだ。君子危うきに近づかず、そして巷で君子と専ら噂であるこの俺ですら以前から入ってみたいと心誘われた。

まるで幻想的な世界。大きな一本の結晶橋を渡るのは何とも写真映えするだろうか。

お菓子の家に住むのもなかなかに面白いがクリスタルパレスには及ぶまい。

それほどに絶景だった。

実際、ここに来るのは俺のような仕事で来るのはほぼいなくて観光目当てだ。


勿論このダンジョンが発見された当初、それはもうゴールドラッシュだ。

何万人もの人が駆け込んで採掘を行った。

ただそれが何故、今こうして過疎っているかは勿論理由がある。



ここ、単純に熱いのだ。

気温は60℃以上で湿度も90%を超える。ナイカ鉱山も似た環境で専用装備で来ないと数分、長くても10分程度で死ぬ。肺に水が溜まって陸でおぼれて死ぬみたいなよくわからない現象が起きるのだ。

たとえ戦闘をしない前提の観光でも長い時間居ようと思えば専用マスクに冷却装置を付けた高価な全身専用装備が必要だ。ぶっちゃけ観光地と言っても死ぬ可能性もあって汗臭くなるこの場はデートスポットには向かないだろう。


それにこのダンジョンは入り口が狭く、竪穴式。モンスターがあふれ出にくいのは利点だが、何とか歩いて通れる程度にしか階段も整備されていないので重い荷物を運ぶには金を払って設置されているクレーンを動かすほかにない。一人ならまだしも大人数で出入りするだけでも時間がかかる。


しかもゴールドラッシュで入り口付近の高価な鉱物も取りつくされ奥まで行かないと採算が取れない。ここで鉱夫をしようものなら熱いのに加えて遠くまで重い装備と採掘道具をもって足場の悪いクリスタルの道なき道を進んでそれでやっと採掘作業。

加えて場所によってはマグマがあったり、毒ガスが出ていてただでさえ高くて重い専用装備に対毒コーティングと酸素ボンベまで持ち込まないといけないのだ。終わったらそれの運搬作業も加わる。

勿論ここはダンジョンだ。悪魔でもそれはただの環境。当然モンスターとも出会えば戦わないといけない。武器に医薬品、食料他エトセトラ。


みんな口をそろえていったよ。

そんな初期費用回収できるか‼ とね。

つまり、所謂詰みだったのだ。勿論遠くまで行けばまだまだ眠っている資源が山のようにあるどころか人類未到達領域も他のダンジョンより多いが、まだ普通に冒険ができる他のダンジョンに人口が流れてしまったのだ。


そんなわけでこのダンジョンは過疎った。

誰もいない。それが俺には都合が良かった。だからこのダンジョンを選んだ。

家で気づいたのだが俺は間違いなくドラゴンの力を有している。鉄の体は固いだけでなく熱に強い。最初は熱い食べ物を食べても火傷しなくてラッキー程度だったが、考えが違った。

暖かくても熱くないのだ。俺が愛用していた学内食堂のアツアツうどん120円が味は変わらなかったが全然熱くなかったのだ。アツアツのできたてほやほやを食べても暖かいだけなのだ。正直いつもほどおいしくなかった。

デメリットだ。ただ今回はそれを利用させてもらう。


俺はダンジョンの入り口で入場許可申請を行う。管理人は若い女性だった。

雑誌から目を上げて胡散臭そうに俺を睨む。


「君一人? 観光?」


「えっとそうですけど先生に言われてこれを……」


この管理人含めてここにいるのが実は依頼を出してきた中小企業の一つだ。ダンジョンも土地だ。重要な物は国が軍で管理しているがあまり有用性のないダンジョンは不動産みたく売られてこうして中小企業が管理している物が幾つもある。

勿論最低限のスタンピードを起こさないよう間引きによる管理が必要だがここは入り口が狭いこともあってモンスターが出てきた前例もなく杜撰な管理状態だ。

どうやらこの企業はもう一山当てれないかと未来を見越してゴールドラッシュ後に投げ売りされていたこの土地を買い、博打に失敗したように見える。

この過疎っぷりがその証拠だ。

何とか利益を得ようと学校機関に研究依頼を行ったり、企業で新商品を開発して特許を得ようとしているらしい。確か今ここの社長をやっている人もうちの高校を卒業してそのままエスカレートで大学に行き、あの単位で脅してきた教師の知り合いらしい。


俺は紙を出して先生から言われて単位がかかっていることを説明した。


「ふーん」


受付の人は俺を品定めするように上から下まで舐めるように見た。当然ガチで採掘する装備に見えないだろう。

何せ俺、ジーパンとタンクトップ姿だもん。


「まあ、無理だろうと思うけど。……五分以内に出てきなさい。あっちに貸し出しのライト着きへルメットと資料があるから。一応保険プランがあって値段によって指定時間以内に出てこなかった場合救助隊が組まれるのがあるけど」


ヘルメと資料は無料貸し出しらしい。

有料なら冷却装備やより良いものも貸し出してくれるらしいが勿論高いしそんな金はない。


「保険は…いいかな。ヘルメと資料は借ります」


俺は棚から結構使い古されたのを取り出して早速ダンジョンに向かい出す。


「ちょっと、絶対すぐに帰ってくるんだよ‼」


「大丈夫です‼」


そう言って俺はダンジョンに入っていった。






―――――


一方それを見ていた管理人だ。

高校生がダンジョンに入って行ってやはりまた雑誌を読み始めた。

いつも暇で、雑誌やスマホを持ち込んで暇つぶしをしているのだが。

チラリと雑誌から顔を上げて時計を見た。先の高校生に注意した時間をとっくに過ぎている。保険に入ってないただの観光だからすぐに環境に音を上げて出てくると思っていた。

助ける義理はない。保険にも入っていない冒険者だ。

だが、死傷者が出てまた生還率が下がれば評判が悪くなる。しかもそれがまだ若い学生となると余計だ。


「クソッ‼ こんな貧乏会社の社長の娘に生まれなければよかった」


彼女は雑誌を閉じると最低限の装備を身に着けてダンジョンに入っていった。

ただ


「あん? 入り口付近に居ない。……あの無課金プレイヤーみたいな装備のクソガキ奥に行きやがったな。……もう知らん‼」


管理人はその高校生の姿を全然見つけられなくて諦めて受付に帰った。わざわざ着替えたのも無駄になったと愚痴をこぼしつつ、死亡記録を書類に書くのだった。






―――――

結晶洞窟に入ってまず俺を迎えたのは熱気だった。ドライヤーのようなうだる熱風。べっとり絡みつくような湿気。まさに熱烈な歓迎。

ああ、こりゃあ皆嫌になるなと開始早々共感できた。

初ダンジョン。それをこんな癖のあるところに決めるのはそういないだろう。ただここで良かった。


俺はまず入り口付近で体調を確認した。脱水症状や手足のしびれを感じたらすぐに引き返す気だったが何ともない。

心地いい春の陽だまりのような温かさだ。

だがそれ以上に


「うおおおおおおおお‼ めっさ綺麗‼」


ヘッドライトに反射して煌めく星の数のような無数の結晶群。まるで宇宙に立っていると錯覚する。

太いトラック程の太さの結晶の上のを歩く。不規則な生成で並ぶ多角形な結晶の連なりは芸術的に綺麗だ。でも下を見たら底が見えなくて怖い。怖いくらいの美しさだ。

そんな真下の暗闇の中ですら浮かび上がる宝石のような光景。

幻想的だ。全部ぶっ壊して持ち帰りたい。

……勿論しないけど。冗談だ。だって入り口付近のは値崩れして売れないって言われたから。


体調に何も問題が無いのを確認すると、資料にあるマップを見る。

結構立体的だ。前にも行けるが下にも行ける。そんな感じのダンジョンだ。


どうもダンジョン由来の金属系の鉱石も取れるが燃料になる燃料石の方が多く確認されているらしい。しかもこの燃料は意外と性能がいいらしい。

ただ世の中採算というのがある。

同じお菓子で100グラム百円と200グラム三百円なら100グラム百円の方を多く買った方が良い。

ここで取れるのは確かに良質な鉱石や燃料石が取れる。取れるが採算を越えたら買われない。

肉体労働及び労働時間、労働環境に危険度その他諸々を見込んだ採算ラインとでも言えばいいのだろうか。

それがまあ綺麗に資料とマップに載っている。それに合わせてマップが開拓されている。



フハハハハ‼ 思った通りだ‼ 流石は火山に住んでいたりとするというドラゴン様様だ。労働環境の悪さはドラゴンの力で何ともない。重い搬送作業も然程苦でもない。何より、


「自転車以外にも金属を食うべきだろう」


環境ストレス耐性をつけるためにも力をつけるためにも都合がいい。人目が無くてバリバリ食えるのがいい。流石に自転車程純度が無くてかなり時間がかかるだろうが。



ダンジョン内を歩く。真っ暗な洞窟の中を照らすだなんて凄い冒険しているって感じがする。

結晶洞窟だが当然ちゃんと土の地面とか壁もある。結晶地帯がインパクトが多くて結晶洞窟とか言われているがその結晶地帯が占める割合は意外と少ない。

それでもモンスターに不意遭遇する危険もあるが半ば観光巡りしている感が抜けない。

特に遠くに見える流れる溶岩の滝。飛沫のように火花が散る大迫力で水の滝もいいが溶岩だとまた違った良さがある。特にほらあの滝つぼの―――


「今何か泳いでなかったか」


モンスターが泳いでいる。溶岩を。わっしゃわっしゃと。

そうか。そう来たか。そりゃあそういうこともあるか。無性に泳ぎたくなるそんな気分もモンスターにもあるよね。そういうもんなんだねダンジョン。そりゃあこんな奴ら相手にしてたら人類も生存領域狭まれるよ。これでモンスター連中が誰が一番速く泳げれるかみたいなものがスポーツ化するぐらい発達してたら人類は滅ぼされていてもおかしくなかったな。恐ろしすぎる。


距離はあるが直に見るモンスター。ドラゴンは規格外で俺の中ではノ―カン扱い。解体工場でも見たがあれはどちらかというと豚肉を見て豚を見ていないに近い。

うん、勝てないな。

でも俺は必ずしも見つけたらぶっ殺さないといけない戦闘狂じゃないし、寧ろ基本は撤退を前提に退路を確保しつつ行動している。

あれはまあ溶岩の中から出てきそうにないし近づかなければ大丈夫だろう。



そこそこ歩いた溶岩だまりの付近を陣取った。

距離、物資運搬の負担も軽い。見開きもいい。

最低限の溶岩明かりに加えて奇襲に気づきやすく逃げやすい場所だ。中々いいが溶岩近くで温度が高い。普通の冒険者なら手が出せなくて皆諦めている。

だが俺は日光浴程度で済んでいる。

まさに俺にうってつけの場所だ。


鉱石は資料によると鉱床に合致する特徴のある蓄積鉱床で判別するのもあるが落ちている石ころを拾うのもアリらしい。

また結晶の特定色を見つければ金になるとある。

値段的には結晶鉱石>鉱石>燃料関係となっている。

結晶は見た目宝石で鉱石は石ころみたいな見た目だからこの関係性もすんなりと頭に入る。

ただ結晶はそりゃあ遠目からでも簡単に判別もついて比較的容易に取れる為、基本的にある程度ゴールドラッシュでとりつくされているらしい。確かにここに来るまで値崩れした結晶は見ても売れるそれっぽいのは見かけなかった。

結晶は見りゃ一発だが、鉱石を判別するには近づいてよく調べないとわからないからな。


手っ取り早いのはボーリング作業で模式地質断面図が作成できれば下に行くのもやぶさかではないが金も物資も枯渇している現状それは無理だ。

ここは地面の断面が露出している。地震の隆起沈降現象のように断層帯が遠くまで続いて成因別鉱石の判断がパッと見でわかる。


「はえー。ダンジョン由来の物資も取れるがやっぱり地球原産のもちゃんと取れるのか」


断層を見て照合する。

資料によると絶対当てはまるわけではないが、比較的冒険者にわかりやすいよう簡単に判別できるようになっている。

縞模様のこれ……ああ、地面に石ころでも落ちている。これは燃料と。

拾ってバックパックに詰めていく。この為に最後の金を振り絞って予備も含めて丈夫で容量のあるのを買ったのだ。因みにこれが失敗したら単位取得を待たずに来季の授業料が払えずに実質的に留年ないしは休学が決まるどころか来月の家賃も食費も無い。背水の陣、いや背溶岩の陣だ。

ある程度石ころを拾うと縞模様のある断層をこれでもかとしこたま殴る。鉄でできた俺の体は丈夫で表面を軽く崩す程度は朝飯前だ。


「うはははははは‼ 金のなる木を揺さぶっている気分だぜ‼」


ボロボロと落ちてくる鉱石を拾って入れる。30分もしないで全部のバックパックが一杯になってしまった。

何て楽な仕事だ。

モンスターとのエンカウント率も低いし、あっても遠目で気づいて事前に逃げられる。

環境耐性が強くて他の人が通常出来ない場所で仕事ができるだけでこれほど楽に仕事ができるとは。


俺はバックパックを持つと走って意気揚々と帰るのだった。







俺はダンジョンから出ると真っ先に管理人に今回の収穫を報告しに行った。

管理人は俺を見るとまるで幽霊を見たようにギョッとしていた。


「生きとったんか」


思わず雑誌を落とし、次に俺の荷物を見てほげーと口を開けている。やったぜこのダウナー系お姉さまの目が大きく目を開けている。


「やるやんけ」


俺は荷物を置いて買取所に置く。

かなりの量で重さも凄い。自慢の成果だ。楽しいよね人にこういう成果を自慢するのも。崇めるがいい。冒険者の醍醐味はやはり異性へのアピールだ。


お姉さんが電話を取り出すとすぐに建物の奥から男性が出てきた。

この出来る感じの雰囲気のおっさんが査定をしてくれるらしい。

……まあそうだよね。女の人に重いの駄目だもんね。


おっさんは胡散臭そうに俺の恰好を見て怪訝そうにしていたがバックを開けておおーと口から漏らして眼鏡をかける。悪かったなジーパンとタンクトップで。無理もない。管理人も最初ゴミを見る様な目で俺を見ていたからな。


おっさんは一通りバックを覗くとその中から一つ鉱石を取り出す。そして小さいトンカチで手の中で石を砕いてみせ、断面を見る。

凄い滑らかできれいな動きだった。職人って動きだ。


「いいねえ、君いいよ。ちょい買取金額決めるまで時間かかるけどどうする?」


おっさんが目をキラキラして見てくる。お前がかい‼ 管理人のお姉さんはやはりダウナー系特有のダルそうな目をしているけど口元はニヤッと笑っている。

できればこっちのお姉さんが美人だからその人に気に入られたかった。おっさんは御免である。

ただ女性を笑顔にできるのはまあ気分がいい。


「それじゃあもうちょい取ってこようかなあ」


俺は張り切って往復するのだった。




おっさんがある程度買取金額を決めてくれた。最後辺りに持ってきた査定は次回に持ち越しらしい。

事務所に通らしてもらい手続きをしてもらう。

普通のダンジョンならそれこそレジ打ち的な感じの速さで処理をしないと冒険者の行列は捌けないが、人気のないこのダンジョンはゆったりと処理している。ある意味破格の待遇だ。

どうもここでは小さい企業ながらも内々にある程度解体から鉱石系の加工も一通り設備が整っているからできるみたいだ。

発展途上国の鉱石採掘場の近くに工場を作るのにも似ている。鉱石のまま運ぶ輸送費をカットして完成品を運んだ方がいい。それに現地の住民も雇えて雇用も生まれる。現地民も技術を貰える。そうすれば経済が向上する。Win-Winだ。


けれど現状このダンジョンは過疎っているから工場では主に外部からの仕事で成り立っている。そこそこ成績のいい工場だが、発掘がうまくいかないのなら業績が振るわないのもまた仕方なかった。

工場を見学してみるかと誘われるが丁重に断った。もう工場はこりごりだからだ。


どうやらここの会社はファミリー会社でほぼ親戚や家族で経営しているらしい。ただ大企業みたいに上層部を牛耳っているみたいではなく従業員もそれほどいなくて上から下までみっちり親戚関係らしい。


「学校の単位が足りなくてここでインターシップしているんだよね。私も学生時代学業は振るわなかった。けれどこうして実物を見ると意外と頭に入る物だよ。君がとって来た鉱石とかもイオン化傾向とか酸化還元を利用するんだ」


「ちょっと、学校以外で勉強の話をされると・・・・・・」


命がけの冒険しながら勉強するのと、安全な学校で勉強するなら学校を選ぶ。こんなところに来てまで勉強はしたくない。


「確かに冒険者は単位優遇される国の方針だから足りない単位を埋める君の行動は別に悪いことじゃない。ただそれでも君の学力が基準に満たないのは変わらない。このまま仕事をしてくれたら勿論単位を貰えるだろうけど現地で勉強してみないか? それもプロジェクトの一環だよ」


「その………はい頑張ってみます」


案外まともなことを言われるものだ。人がいい。ただ解体工場だったり軍の汚い一面を知っている俺としてはだからこそここは小さい一企業として長年燻っているのだとも思う。良い人は損をする。やさしいからつけこまれる。美徳ではあるが甘い人間でもある。野心と情け容赦なさが無い。

俺にとっては都合がいいが。


事務所に座って手続きをしているとおっさんのうん蓄が始まる。居酒屋とかで働いていると説教してくるおっさんがいたが、まあそのぶんこのおっさんの話は俺の単位と収入に直結してくる実のある話だから聞いておく。タダで知識をくれる分は貰おう。


「ダンジョンで取れた鉱石はダンジョン由来の元素もあるけど地球の元素も当然含まれている。鉄から金に銀も。君が持ってきた鉱石はダンジョン由来の元素とイリジウムが取れる」


「イリジウム……あー、あれですね、ほら、あれだ知ってる」


俺の実家の方で流行ってたやつだ。近所のおばさんに近頃の若い子は暇さえあればイリジウムイリジウムしてと小言を言われたものだ。懐かしいな俺も昔は近所の子に交じってイリジウムをイリジウムして近所の駄菓子屋で売り切れが続出したのもいい思い出。買えなかった奴が泣いててみんなで分け合ってたなあ。勿論ここまで来たら何か当然知ってるよ。

え? 何? 疑ってる? 博識が服を着て歩いているこの俺鈴木太郎だよ? まあ最近は壁外で半裸で倒れてるところを軍に回収されたけど。もちのロン当然知ってるよ。


「プラグとかに用いられる元素だね。地球では採掘できる地域は偏りがあったり、主に隕石に含まれていたりする。恐竜が隕石で絶滅した説にも有力な証拠としても挙げられるね。他にも国際キログラム定義で使われている」


あーそうそうそうそんな感じだった。今思い出してきた。

昔は俺結構やんちゃで近所の子たちと一緒に、そう恐竜を絶滅させて遊んでたんだよ。懐かしいなあ。みんな元気かなあ、今頃何やってるんだろう。


おっさんがおもむろに立ち上がって、ブラインドカーテンをカコってやるのをやって外を睨みつける。なんかすごいドラマ的だ。


「イリジウムはプラチナのお友達でね。正直かなり高いんだよ。うちとしても助かるけどそれでも過疎っている現状だ。何が言いたいかわかるかね?」


え? イリジウムってそんな高いのか。指輪とかネックレスに使われる金と白金。その白金のお友達。是非とも俺もそのお友達に入れてもらいたい。


「え? 俺がとってきて嬉しいとか?」


「違う、何故うちに来たのかなと。他にも一般人でも聞いたことがある大企業がある中、お世辞にも繁盛していると言えないこの小さい会社を選ぶ理由がない。そして君だ。ジーパンとタンクトップでダンジョンに潜るだなんて自殺行為だが現実ではちゃんと生還している」


ああ、そう見れば俺って間違いなくおかしいよな。


「何か理由があるのだろう。ただそれは他人に言えないと見た。企業としては安全で安定した冒険者が望ましいが正直何もわからないと君を信じることも出来ない。けれど逃すには惜しい人材だ」


「それは……まあ隠しています。何かは言えませんが取り敢えず能力持ちです。運よく? 手に入れまして……」


さっそくばれたか。結晶洞窟見るのに興奮して思考が単調になっていたとは否めない。狂った格好だったのは仕方ないが言い訳するが、もうこれ以上金がないのだ。シンプルな答えだ。

まあばれているのなら焦らない。全容がばれなければいい。


「能力を言う気はない。そうするとこちらとしては不安なんだ。安定してこれからも活動できるのか。けれど失うのは実に惜しい。本当に難しい人材だよ高校生ってのも相まって」


おっさんはブラインドから手を離すと俺に向き直る。


「この量を簡単にとってこれるなら土日休みで学校帰り一か月働いてくれ。そうすれば単位も十分取得できるだろう。もちろん休日も来てもいい。達成出来たら期限延長で働いてもらってもいい」


「……雇用条件は? 勤務時間と年間休日…あと完全週休二日制は流石に繁盛期きついと思うのでフレックスタイム制……。あと採掘量ってかなり上下すると思うんですよ。歩合制とかはどうなっているのか……」


「取らぬ狸のなんとやらだ。そもそも一か月ちゃんと働けるかすら怪しい。社会ではね信頼が必要だ」


正直この能力は隠しておきたい。何か後ろ盾を手に入れるか最悪ずっと隠しとおす予定だ。何か能力を持っているのはばれているも、はっきりと何かかはわかるまい。単位と給料と他企業とを勘定に入れればだいぶいい労働環境だ。

幸い考える時間は十分ある。今日決めろと言っているのではない。

これからも判断材料は見つかる。難しいがそれこそ単位を貰えなくても他の企業のとこに行って頑張ればいい。ただこの互いを互いが利用し合っているのは大分良い事だ。

正直俺は人を信じられない。親切に対して裏を探る人格だ。


「じゃあ取り敢えず頑張ってみます」


やれるところまでやってみよう。

こうして俺の新しい採掘冒険者生活が幕を上げた。

ナイカ山の結晶洞窟は確か現地の人が盗みに入ろうとして死亡したりしたらしいですね かなり過酷な環境です

確か今は管理会社に封鎖されているとかで現在立ち入れないとかなんとかかんとか

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