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8/12

裸のお付き合い

遅くなり申し訳ありません。

早くも休憩です笑笑

 カムリ家の浴場は、それはそれは豪華なものだ。

 さすがバルト国でも上位にあたる貴族家。

 豪華絢爛な装飾と言い、トロッとした湯質といい、誰であろうとも文句なしだろう。

 とは言っても、湯舟に浸かるのは私も初めてだった。

 この屋敷で働いている頃は、掃除で入ったことはあるものの、実際に使ったことはない。

 と言うよりも、その必要がなかった。

 住み込みで働く者には、屋敷の裏手にある離れに、浴場が用意されてあったからだ。


 それも、キチンとした浴場が、だ。


 他の貴族家ともなると、水しか出ないシャワーだったり、外の井戸から水を汲んで行水したりすることがほとんどだと聞いている。

 住み込みでも主人に認められた者のみ、個室に温水シャワーがあるとかないとか。

 そこを考えると、カムリ家というのは凄く働くものを大切にする貴族であると思う。

 離れでは個室が与えられ、自炊ではあるが共同のキッチンだってある。

 浴場は一箇所で男女で時間が異なっている。

 そういえば、お屋敷の仕事の他に、浴場の掃除や湯沸かしの当番もあった。


 今思えばかなりの好待遇だったんだなぁ。


 まぁ、今の生活に後悔はないけど……


 それにしても、気持ちが良いなぁ。

 足を伸ばして、周りを気にすることなく、ゆったりのんびり入れるなんて幸せだぁぁぁぁぁぁぁぁ……

 私は浴槽の壁に背中を預けて、思いっきり伸びをした。

 その時ーー


「じゃ、背中を流しましょう。エリー」


 お嬢様……!?

 私は声を掛けられて思わず湯船の中に肩までジャポン! と隠れてしまった!


「ちょっとエリー! そんな大袈裟な……!」

「ず、ずびばぜんんんん……」


 お嬢様が私の前にあられのない姿で佇んでいらっしゃる……

 相変わらず美しい裸体だ。


 何がどう美しいかと言うと……


 男性諸君、刮目せずに想像するのだ!

 お嬢様の美しき裸体をーー


「キャーー! エリー!」


 あぁ、お嬢様の叫びが聞こえる。まるで遠くから……

 あれ? なんだかクラっとしている。

 目眩か? フッ、お嬢様の美しき裸体は同性の私でさえクラっとさせるのだな……


 ふふ、ふふふ……


「エリー!」


 そのまま、私の意識は遠のいて行く。


「は、鼻血が出てますわよー!」


 後で聞いた話だが。

 長湯のせいで私はのぼせて鼻血を吹き出しながら湯船にぶっ倒れたらしい……


 情けない……



 ー男湯ー


「いやー、ラグ。まさか君と裸の付き合いをするとはねぇ」

「……」

「あれ? ダンマリかい?」


 おどけた調子で、レオンはラグに話しかけていた。


「らしくないなぁ、元勇者なんだろ?」

「お前には関係ない」

「かーー、もぅ。エリー嬢も苦労するねぇ」


 エリーの名を出すと、ラグはギロリとレオンを睨み付けた。


「エリーが、どうした?」

「いやいや、そんな怖い顔しないでよ……」


 困った表情を見せるレオンを、ラグは横目でまじまじと眺めている。

 服を着ていたせいで分からなかったが、レオンの体躯はかなりガッシリしていた。

 つくところにはしっかりと筋肉がついてついており、絞るところはそれほどに……

 これで剣術を嗜んでいれば、腕前はかなりのものではないだろうか。

 レオンを見て、ラグはそう踏んでいた。


「お前…….」


 今度はラグがレオンに話しかけた。


「なぜあの村を守らなかった?」

「何の話だい?」

「お前がもし剣を扱えれるのなら、あの輩たちは退けられたんじゃないか?」

「よしてくれ。私には無理だよ」


「……」


 ラグがそう言うも、レオンは惚けるようにしてその話題から離れようとした。

 が、ラグはそれを許さない。


「なぜあの村に訪れていた?」

「たまたまさ。言ったろ、旅をしていたって」

「その旅の目的は何だ?」

「だから、たまたま……」

「偶然を装っていたにはあまりにも不自然だ。なぜ夜になって現れた」

「ラグ……」

「答えろ。何が目的であの村に……」

「いずれ話すさ。今はこの時間を堪能したまえよ」


 レオンは強引に話を終わらせると、顎先までお湯に浸かり、目を閉じた。

 それを見て、ラグは小さく息を抜く。

 得体の知れない人間と、彼らは短いながらも旅をした。

 何か問題があった訳ではない。

 むしろ、レオンは気さくな性格で、ラグやエリー、シュウと付き合っていた。

 それは不自然ではなかったが、あの村でのことについては不自然な部分が多かった。


 何故、夜になって現れたのか。

 何故、村の騒動に現れなかったのか。

 あれだけ損害が大きかった村の、どこに隠れていたのか。


 考え出せばキリがない。

 この男の目的は一体何なのか。

 そこでラグは考えるのをやめた。

 自分一人であれこれ考えていても答えなど見えてこない。


 ここはレオンの言う通り、今は湯を堪能しよう。


 ラグもまた、顎先まで深く湯に浸かった。


 そんな時だーー


「キャー! エリー、鼻血が出ていますわよ!」

「お、お嬢……様ぁぁぁぁぁぁ……」


 ガッシャーーーン!!



 女湯はなかなか楽しげな様子だ。


「ふふ、いいね。平和ってのは」


 お湯の中で、レオンはそう呟いた。



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