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記憶の買える店  作者: PeDaLu
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吉谷玲香

「あれ?吉谷さん?だっけ?」


「はい。昨日、この学校に転校してきました。それで、ここの席良いですか?」


吉谷さんは俺の返事を待たずに隣に座ってきた。俺の反対側に座っていた美桜からは睨まれたが、俺の方が何が起きているのかと混乱しているところだ。


「えーっと、吉谷さんでしたっけ?もしよかったら教えて貰えると嬉しいんだけど、紅月とどういう関係なの?」


美桜が敵対心むき出して吉谷さんに食いついている。


「ベイサイドのお客さんと店員さん、ですかね。ところで、こちらの方はなんというお名前なんですか?」


美桜の敵対心なんて我関せず、というような素振りで斜め前に座る一樹の名前を聞いてきた。


「僕は横原一樹と言います。君は1年生かい?」


「はい。なので、みなさん、先輩になりますね」


吉谷さんは周囲を見回して誰かを捜しているようだった。


「あの、笹原さんっていらっしゃらないんですか?」


「ああ、あいつは別の学校だからな。ってか、笹原の名前は知っていたのか」


「名札、付いてましたから」


そんなさぐり合いのような会話を聞いていた夏海が話の整理をしてきた。


「えーっと。吉谷……」


「玲香です」


「吉谷玲香ちゃんは、ベイサイドのお客さんで紅月と奏ちゃんを知っている、で、私とか一樹は知らない、ということ?」


「いえ、ちょっと違います。多分ですけど、横原さんは知っている人のような気がします」


「ようなって……」


不思議子ちゃんすぎるでしょ。でも嘘をついているようには見えないし、口調も落ち着いている。


「あの子、なんでしょうね。なんか僕のこと、知ってるような気がするとか言ってましたけど。僕、全然記憶にないんですよ。そういえば、彼女、美桜さんのことはなにも言及してませんでしたね」


「ちゃんと紅月の彼女です、って宣言しておけばよかったかしらね。変なことになったら大変だし?」


「なんで俺を見るんだよ」


あらぬ疑いをかけられているようだ。奏ちゃんに言われたように先に言っておくべきだったか。

それにしてもいったいどういう事なんだろう。お店でよく見る店員が転校先にいたから声を掛けてきた、ってことなのかな。まぁ、悪い子じゃなさそうだし、しばらくは様子見、かな。

そんなことを考えながらバイトをしていたら、例の吉谷玲子ちゃんがやってきた。


「昨日ぶりです。今日はこのケーキセットをお願いします」


注文を貰ったので、奏ちゃんに伝票を書いて貰って注文されたものを用意していたのだけれど。


「先輩。あの子、なんでホールの私じゃなくて先輩にばかり注文をするんでしょうね」


「たまたま俺が注文しやすいところにいるからじゃないのか?厨房からよく出てきてるから。暇だし」


「そうなのかなぁ。なんか、あの子やっぱり先輩のこと見ているような気がするんですよね」


「そうか。それじゃ、一樹に偵察させてみよう」


「なんですかそれ」


横原一樹。さて、どうやって呼び出したものか。自宅の電話番号なんて知らないし。こういうとき不便だよなぁ。誰にでも外から連絡が出来ればいいのに。あいつ、ポケベルなんて持ってないし。


「あ、いらっしゃいませ~って、美桜か」


「なによ。折角来てあげたのに。あれ?あの子……」


美桜は早々に玲子ちゃんの存在に気が付いた。ってか、お客さんがあの子しかいないしね。


「あ、そうだ。あの子、どんな子なのかよくわからないから美桜、声を掛けて話してきてくれよ」


「なんで私が……」


「彼氏にへんなちょっかい出されたらイヤだろ」


そんなことを言うと、美桜は渋々という感じだったが、玲子ちゃんに声を掛けて同じテーブルに腰掛けた。注文はされていないけど、適当なケーキと紅茶を持って行った。


「あのさ。吉谷玲子、ちゃんだっけ?紅月のことが気になるの?」


こう言うときは直球に限る。美桜はそう思って、いきなり気になっていることを聞いてみた。


「はい。とても。といっても好きとかそういうのじゃなくて、なんか私のよく知っている人にとてもよく似ているな、と思いまして」


「そうなんだ。同じ容姿の人って世界に何人だっけ?いるって言うしね」


「いえ、容姿ではなく、なんというか……、中身です。性格というか行動というか。一言でいうと雰囲気、でしょうか」


俺もカウンターから話を聞いていたけども、やっぱり不思議子ちゃんだ。俺が玲子ちゃんのよく知っている人と同じ用な雰囲気、だとか。あ、目が合ったな。


「私の方からも良いですか?昨日、学食でご一緒した横原一樹さん、あの方はどういう方なのでしょうか?」


「どういう?ちょっと意味が分からないのだけれど……」


「ああ、すみません。どんな感じの雰囲気というか性格というか」


「気になるんだ」


「はい。とても」


「一樹も隅に置けないなぁ。うん、雰囲気ね。一樹はクラスでいつも独りで。静かで。まるで周りを自分から避けているような感じで。でも紅月が無理矢理声を掛けて私たちに引き込んだの。そしてたら案外普通の人で。雰囲気は……そうね。一言で言えば、物静か、かしら」


「物静か、ですか」


「そう」


ちょと声が小さくて聞き取れなかったけども、玲子ちゃんは沈んだ様子だった。玲子ちゃんが帰った後に、話していた内容を美桜から聞いたが、質問と反応の内容がよく分からなかった。翌日に一樹本人にも聞いてみたが、思い当たる節もないらしく困惑した様子だった。


「たしかになぁ一樹はベイサイドにも滅多に来ないし。玲子ちゃん、転校してきてから一樹をみたのは学食の時程度だろうし」


「ほんと、何なんでしょうね」


「ところで、一樹が気になるって玲子ちゃんは言っていたけど、これはチャンスなんじゃないのか?あんな可愛い子が気になるって言ってくれているんだ。逃すのはもったいないんじゃないか?」


「ええ……そんなこといきなり言われても……」


「夏海はどう思う?」


「私?私は反対する要素が何もないけど?」


「そりゃそうか。じゃ、一樹の気持ち次第だな。今日はバイト入ってないけど、ベイサイド一緒に行ってみるか?多分だけど、今日も玲子ちゃん、来るぞ」


あくまでも予感。なんの約束もしてないし。そもそも、勘で行くよりも同じ学校なんだから誘えばよかった、とかお店に入ってから思ったりもしたけど。


「ほらな?」


俺たちが店にはいると、先に玲子ちゃんは席に座っていた。というわけで、隣のテーブルも寄せてみんなで席に着いた。


「確認もしないで集まってすまないな。別にいいよね?」


事後確認だったが、玲子ちゃんは「良いですよ」と言ってくれた。やめてください、とか言われたらさすがにへこんだと思う。


「さて。二回目だから、軽く紹介するね。こっちが如月美桜。俺の彼女。で、そっちが瀬見原夏海。それからこいつが横原一樹。あ、で、今注文を取りに来たこいつが笹原奏」


「なんで私はオマケみたいな紹介なのよ」


「だって別の学校だろうが」


「大丈夫です。奏さんは分かってますから」


玲子ちゃんはそう言って笑っていたが、すぐにまじめな顔をしてこう切り出してきた


「横原一樹、さん。本当に私のこと、知らないんですか?」


「え?僕が?えっと……」


「なんか一樹が困ってるから俺が聞くけど、玲子ちゃんは一樹とどこかで会ったりしてるの?」


「はい。結構昔から。あと、横原一樹さんはこの学校にずっと通っているんですか?」


「そうだけど……」


ふむ。この話の流れから読みとれるのは一樹は昔からの知り合いで、別の学校に通っていたはず、みたいな?誰か別人と間違えているのかな。


「玲子ちゃん、誰かと間違ってない?」


「いえ。間違っていないと思います。これを見て下さい」


そう言って差し出されたのは1枚の写真。


「一樹と玲子ちゃんだな。仲良く手を繋いじゃったりして」


写真は美桜に俺が告白した公園のベンチの前で照れながら二人で手を繋いでいるのを撮影したものだった。


「どういうことだ?ってか、これ、中学生か?」


「はい。そうです。中学校の写真です。横原一樹さん、この写真に見覚えは無いんですか?」


一樹はなにか隠したいことでもあったのかな。でもこの写真が出てきたら隠し通し出来ないだろ。


「一樹、おまえ、中学校はこの制服だったのか?」


「えっと……紅月君は覚えていないと思うけど、僕、紅月君と同じ中学だったよ?中学2年の時は同じクラスだったんだけど……」


「え?マジか。気配消し過ぎだろ。美桜は覚えているのか?って、美桜、どうしたんだ?」


美桜が写真を見ながらひどく悩んだ顔をしている。桜の髪飾りを触りながら。


「美桜?」


夏海もその様子に気が付いたようで心配そうに話しかけていた。


「あのね。私、ちょっとおかしな事を言うけど、この写真の記憶と紅月と一緒に通ってた中学の記憶、両方あるの。なんでだかわからないんだけど……」


「なんだ?美桜も実は記憶喪失のお仲間だったとかなのか?」


なんだかよく分からないことになってきた。一樹はこの写真に関してなんの記憶もないのに、無関係なはずの美桜が見覚えがあるときたもんだ。


「夏海はなんかわかるか?」


「私はなにも」


夏美はそう言って席を立っていった。トイレに向かう途中に奏と何か話していたが、流石に聞こえない。戻ってきてからなにを話していたのか聞いたけど、追加で紅茶を頼んだだけ、とのことで。そんな風には見えなかったんだけどなぁ。


結局、玲子ちゃんが門限があるから、と先に帰ってから俺たちは今の出来事を話し合ったけど、結論なんて出るわけでもなく。最終的には美桜の記憶だよりだし。


その日は帰る前に店長に美桜と俺の誕生日である10月22日はバイトを休むことを伝えてから家に帰った。


「しっかし。いったいなにが起きてるっていうんだ。俺は未来予知みたいなことが出来たし、玲子ちゃんは一樹の事を昔から知ってるとか言うし。でも一樹はそんな記憶はないって言うし。更には玲子ちゃんと一樹が手を繋いでいる写真を美桜は知っている気がするとか言い始めるし」


絡まりまくって意味が分からない。誰かが嘘をついているのか?玲子ちゃんが嘘をついているのなら写真がおかしいし、美桜は嘘をつくメリットがはなにもないし。ってことは一樹か?これは確認する必要がありそうだな。


そして翌日。一樹に玲子ちゃんのことを改めて確認したけど、返事は同じだった。玲子ちゃんに改めて例の写真を見せてもらったけど、確かにそこに写っているのは一樹だった。あと、昨日は気が付かなかったけど、写真を撮影された日付は10月22日と記録されていた。


「あれ?この日、俺と美桜の誕生日だぞ。こんな偶然ってあるんだな?」


「え?紅月先輩と美桜先輩もですか?この写真に写っている一樹と私も同じ日です。この写真、一樹が私に告白してくれた日の写真なんです」


「マジで!?偶然にしても出来過ぎじゃん!一樹の誕生日も同じ日だったりしてな!」


ということで、一樹に誕生日を確認したら、まさかの10月22日。4人とも同じ誕生日。こんなことってあり得るんだな。びっくりだよ。


「それじゃあさ、みんなでどこかに出かけようぜ」


「えー。二人きりじゃないのー?」


「いいじゃん。こんな偶然ってあり得ないんだし。玲子ちゃんも一樹もいいでしょ?」


あとから思えば、あんな誘い方したら断るに断れなかったんだろうなぁ、なんて思いながら待ち合わせ場所で待っていた。一番乗りだ。


「お。一樹。10分前行動、良いことだな」


「紅月君は何時に来たの?」


「20分位前だ。夏休みに美桜との約束をすっぽかしたことがあってな。遅れるわけにはいかないだろ、ってことで」


「そうなんですか。あ、玲子ちゃん来ましたよ」


「お。本当だ。あとは美桜だけだな」


約束の時間に遅れること5分、美桜がやってきてようやく出発。


「で、どこに行く?」


「なに?紅月が言い出したから、どこに行くのか決めてるのかと思ったのに」


「あの。それじゃ浅草、なんてどうでしょうか?」


玲子ちゃんの意見。浅草。行ったことが……。


「なぁ、美桜。俺たち、浅草って行ってことあったっけ?」


浅草寺の大きな提灯を前に美桜に聞く。


「ないと思うよ?ってか、誰と来た記憶よそれ」


「いや、何となく、この提灯を見たことがある気がしてさ」


「観光案内とかテレビじゃないの?有名だし」


なんて美桜と会話をしていたら、玲子ちゃんにカメラを渡されて、写真を撮って欲しいと頼まれた。ファインダーの先は仁王像の前に並ぶ一樹と玲子ちゃん。提灯も入れて下さい、との指示。


「なんだ。やっぱり玲子ちゃん、一樹のことが気になるんだな」


「みたいねー。私たち撮ってもらう?写真」


俺たちも同じ場所で写真を玲子ちゃんに撮影してもらった。までは良いんだけど。


「美桜」


「うん。なにこの感じ」


二人ともなんというか、この場所を知っている、という感情が心の奥底から沸き上がったというか。次はあの大きな草鞋の前で写真を撮影するはずだ。

そう思っていたら、案の定、玲子ちゃんに一樹とココでも写真を撮影して欲しいと頼まれた。


「これは火事の時と同じ予知みたいなものなのかな」


「だとしたら、私もその能力に目覚めた、とか?私は次にあの二人、仲店の人形焼きを食べたいってなると思う」


的中。先もって台本があったんじゃないかってほどに玲子ちゃんと一樹の行動が頭の中に思い浮かぶ。俺だけじゃなくて美桜にも。

当たると思ったチョコバナナも当たって4人でそれを食べながら、さっきまでのことを話した。


「な?不思議だろ?それで次は……」


「あれ?偶然!みんなも浅草に来てたの!?」


夏海と奏。彼女たちはフランクフルトを食べながらこちらにやってきた。これは思い浮かばなかったぞ。


「奏、店はどうなってるんだ?」


「店長ががんばってるんじゃない?なんか新人1人追加したって言うし」


「なんだ?それですねて休んできたのか?」


「べつに?天気がいいなぁって。そしたら駅で夏海先輩に会ったので一緒に」


「やっぱり偶然だったのかな」


「紅月先輩、なにがです?」


「ああ、浅草に来てから次にこうなるってなんか分かる気がしてさ。予知?みたいな。でも奏と夏海がくるなんて分からなかったから気のせいかな。美桜はどうだ?」


「私も」


「え?美桜先輩も予知みたいな体験してたんですか?どれだけ仲の良いカップルなんですか……」


それはそうとして。一樹とあっちこっちで写真を撮影していた玲子ちゃん。あれはやっぱり一樹が気になるからなのだろうか。


「玲子ちゃん、さっきから一樹と一緒に写真を撮影しているけど、そんなに一樹のことが気になるの?」


「はい!」


思いの外、元気な声が帰ってきたのでこっちがびっくりしてしまった。


「ん~。一樹は私が狙っていたんだけどなぁ」


意外なところから声がした。


「夏海が?一樹を?それは意外だな」


「ちょっと!夏海先輩!?」


奏もびっくりしている。当然のように美桜もびっくりした顔をしている。なんだなんだ?こんなところに三角関係発生か?他人のことなら面白く感じる。これがワイドショーか。


奏と夏海が来てからは、予知的なものはことごとくはずれたので、やっぱり気のせいなのだろう。あの大きな提灯から仲店なんて、有名どころを巡るだろうし。偶然だろうな。

その後は水上バスでお台場に行ったりして何となく誕生日らしいというかデートというか。でも6人も集まったので、しっとりした感じではなく、にぎやかな誕生日になった。

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