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記憶の買える店  作者: PeDaLu
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告白

「美桜!聞いてくれ。俺は世界中の誰よりも美桜のことを愛してる。世界中の誰よりも。伝えられないくらいの好きで心があふれてる。だから。俺と付き合って欲しい!って。そんなのを大声で叫ぶものだから、この辺の人たちがみんな振り向いて私の返事を見守ってて」


「それで?なんて返事したの?」


「……わたしも……って……」


美桜は膝に両手を差し込んで下を向きながら小声でそう呟いた。


「拍手喝采だ」


「そうよ。そうなったの。めちゃくちゃ恥ずかしかったんだから。隣に座ってた夏海なんて席を立って、さぁここに座って、なんて両手で席を指してきて。紅月も隣に座ってきて」


「まさか?」


「そのまさか!公衆の面前で……その……キス……された」


「マジか」


「マジ」


聞いてるこっちが恥ずかしい。そんな記憶を俺は無くしているのか!?人生で一世一大のイベントじゃないか。


「じゃあ、やり直すか?」


「え?今から?」


「そ。今から。今なら人もいないだろ?」


「そうだけど……」


「じゃあ、いくぞ」


「え?ちょ!?ま!心の準備が!」


「その時だって心の準備なんてしてなかったんだろ?」


俺は大きく息を吸い込んで一気に叫んだ。


「美桜!聞いてくれ。俺は世界中の誰よりも美桜のことを愛してる。世界中の誰よりも。伝えられないくらいの好きで心があふれてる。だから。俺と付き合って欲しい!」


「~~~!!」


「返事、貰えないのか?」


「わた……しも。お願いします」


「声、小さいな」


「だって!何回されても恥ずかしいわよ。こんなの」


「そうか。で、次は…」


「え!?それもやるの!?ちょっと!それこそ心の準備……」


「もう遅い」


「ん……」


二回目になるらしいけど、これは確かに恥ずかしいな。でも、なんか嬉しいな。そんなことを考えながら唇を離した。


「バカ……」


「美桜、可愛いぞ」


「それはあの時聞いてない」


「聞きたくなかったか?」


「聞きたかった……」


「そうか」


俺はそう言って美桜の頭を優しく撫でた。


「でさ。思い出した?ショック療法」


「ああ。少しな。流石のショック療法だ。俺、そのあと美桜の家に行っただろ。それでスイカを食べた」


そうだ。あの日はあの後に美桜の家に行って、スイカを食べたんだ。で、俺が美桜に告白したって美桜の母さんにも宣言して。夏海は……、あの時は居なかったな。先に帰ったのだろうか。そのへんの記憶はおぼろげだ。


「本当に思い出したの??ねぇ、その時、私、どんな服を来ていたか覚えてる??」


そうか。だから今日はこの格好なのか。そして黒髪にこの長さ。カフェで見ていたなんて言ってたけど、本当は準備に時間がかかったのかも知れないな。


「ああ。今日の美桜はあの時の美桜だ。あと遅くなってすまないが、その髪型似合ってる。そうだ。今日も美桜の家に行ってもいいか?」


「うん!」


美桜の家族も俺の記憶が無いことを知っていたらしく、それが戻り始めていると聞いて、俺の母さんに電話までしていた。

そうだ。あの位置。あそこに俺は座っていた。少し変わっているところもあったけど、自分の記憶のそれと大きくは変わっていない。美桜の母親から聞いたことも全く覚えている、というわけではないが、なんとなくそんなことがあった気がする、程度には感じることが出来た。これは大きな進歩だ。やはりショック療法が効いたのか。さすがの内容だもんな。あんなの俺は本当にやったのか。自分で思い出しても恥ずかしいぞ。

美桜の家からの帰り道でそんなことを考えながらバイト先「ベイサイド」の前を通ったので寄っていった


「あれ?先輩、今日シフトでしたっけ?」


「いや。違うよ。今朝会っただろ。今日は美桜とデートだ」


「すっぽかされなかったんですね。良かったですね」


「うるせぇ」


「あ、そう言えば、夏海先輩、来てますよ」


奏での目線の先を追うと俺に手を振る夏海の姿があった。


「ええ!?あれ、もう一回やったの!?本当に!?うっそ信じられない」


「俺の一世一代のイベントなのになんて言い草だ」


「だって。あんなの普通やらないでしょ!?私だったら恥ずかしくてあの場から逃げ出してたわよ?」


「夏海に惚れてなくて良かったよ」


あんなのやって、相手に逃げられたことを想像したら、恐ろしくて。本当に美桜が逃げ出さなくて良かった。夏海は汗をかいたグラスをナプキンで吹きながら俺の記憶が戻り始めたことについて話し始めた。


「でも本当に良かったよ。このまま何も思い出さなかったらどうしようかと思っていたし。ってか、紅月、私にも告白してたのよ?覚えてる?」


「げ。先輩、そうだったんですか?ちょっと幻滅します。しかもその相手と仲良くお茶してるなんて」


俺が注文したアイスカフェオレを持ってきた奏ちゃんにそう言われたけども、それは流石に覚えていないぞ。


「ほんとのことだと思った?」


「記憶がこんな事になってるんだかから、冗談はやめてくれよ。奏ちゃんから美桜に伝わったらそれこそ事件になる」


「冗談。奏ちゃん、これ、冗談だからね。美桜は小学生の頃から紅月一直線だったんだから。そんなの私が入り込む隙間なんて無かったわよ。だから、紅月は安心して」


本当に心臓に悪い。奏ちゃんは残念そうな顔をしているが、俺はエンタメじゃないぞ。その後も夏海に色々と教えてもらっていたら結構遅い時間になってしまった。家に帰ると母さんから美桜から何回か電話がかかってきていたと聞いて、慌てて折り返した。


「本当だって。夏海とベイサイドにいたんだって。奏ちゃんにも聞けば分かるって」


「待ち合わせでもしてたの?」


「偶然だって。それに、夏海からも色々と聞いて、沢山思い出したことがあるんだって」


まさか浮気を疑われるとは思わなかった。夏海が冗談だと言っていたことは本当は……なんてことはあるのか?ここで美桜に聞けば分かるんだろうが、火に油を注ぐようなものなので聞くに聞けない。


「まぁ、夏海がそんなことするわけないし分かってるんだけどさ。私とデートした後に他の女の子と会ってたのはなんかなって」


言うこと、ごもっともです。思わず受話器を持ったままでお辞儀をしてしまった。これは日本人特有の行動なのだろうか。公衆電話でサラリーマンがやっているのを見てバカにしていたけど、まさか自分もやることになるとは。その後、30分ほど話してから受話器を置いてお風呂に入った。湯船の中で今日、思い出したことを順番に並べてみる。


「なるほどな。俺は幼稚園のころから美桜と夏海、一緒に居たんだな。そんなことを忘れるなんてどうなってるんだ」


部屋に戻ってからは、今日思い出したことをノートに書き出していった。またいつ忘れるかわからないからだ。今日、このまま寝て朝になったら忘れてるんじゃないか、なんて思って不安になったりもした。だけど、このノートがあれば。


「そう言えば、今日は何日だ?」


カレンダーを見ると9月14日の土曜日だ。俺の記憶が高校生に飛んだのは9月9日だから、たったの5日でこんなに思い出したのか。なんだか記憶が消えていたのが嘘みたいだ。


「ん?9月15日?日曜日?」


そうだ。9月15日の日曜日。この日は……この日はなんだ?喉まで出てきているのに出てこない。俺は……何かをしなきゃいけないんだ。

そんな不安が急に俺を襲う。なんだ?何をしなくちゃいけないんだ?さっき美桜をなにか約束をしたか?いや。約束をしなくちゃいけない。しなくちゃだめだ。


「美桜、すまんなこんな遅くに。突然だけど、明日も俺とデートしないか?」


「え?いいけど。どこか行きたいところでもあるの?」


「いや。そういうわけじゃないんだけど、とにかく、明日は俺とデートしなくちゃいけないんだよ」


受話器の先から怪訝な表情が伝わってくるようだ。でもそんなことよりも、明日は美桜を一人にしちゃだめなんだ。


「わかったけど。で?どこで待ち合わせするの?」


「10時に俺が美桜の家に迎えに行く」


「分かった。ねぇ紅月、大丈夫?」


正直、自分でもよくわからない。でも明日、美桜を独りにしたら後悔する気がしたんだ。

翌朝、ベッドから起き出して自分の記憶を辿る。机の上においたノートを見る。大丈夫だ。記憶は消えていない。そして急いで着替えて美桜の家に向かう。


「まだ9時だな。ま、いっか」


なにが良いのかわからないが俺は呼び鈴を鳴らして、出てきた美桜の母親に応対してもらった。後ろから美桜の慌てた声が響いたとおもったら、インターホン越しに美桜が叫んでくる。


「約束は10時でしょ!?なんでこんなに早く来るのよ!準備まだ!そこで待ってて!」


ここで待つのか。家の前で。通報されないと良いけど。

そんなことを考えていたら、30分もしないで美桜が玄関から出てきた。


「なんで約束の時間くらい守れないの!?女の子は時間がかかるって知ってるでしょ!?」


「悪いな。一刻も早く美桜に逢いたくてな」


「そんなこと言ったって!」


「いやか?」


ちょっと意地悪だったかな。軽く謝ってから駅の方に歩きそうとしたが、背中に冷や汗をかくような寒気が走った。


「美桜。今日は出かけるんじゃなくて、美桜の部屋でいいか」


「は!?」

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