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記憶の買える店  作者: PeDaLu
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同じ記憶を持つ二人

「今頃何してるんだろうねぇ」


「九条くん達ですか?」


「そ。なんだかんだ言ってあの二人、進展が鈍いじゃない?あんまり時間もないんだからさ」


「そうなんですか。もう時間があまりないんですね。それじゃ、僕達も……」


「そ。だから心も身体も全てを記憶に留めておくの」


「なんかエッチな感じがしますね」


「私は大人だけどね」


「そうでしたね。僕も大人になれるんですかね」


「なんかエッチ」


「そう言う意味ではなくて……」


「違うの?」


それぞれのクリスマス・イヴ。如月さんと九条くんが今、どこでなにをしているのかわからないけど、時間は余り残されていないって気が付いているのかな。今夜は寒い、雨が降るって予報が出ていたから、もしかしたら雪になるかも知れない。



「だからさぁ。ここはドラマの常設セットじゃないの。なんでここに集まるわけ?あと!夏海は私に見せつけに来たの?腕なんて絡ませちゃって!」


昨晩から降り続いた雪は一面を白く埋めている。そんな中、わざわざベイサイドに来たのは店長に確認したいことがあったからだ。


「店長、この店って現実世界でも存在するんですか?」


「あるよ。ここにあるとは限らないけどね」


「そうですか。それを聞いて安心しました。現実世界に戻ったときの待ち合わせ場所がないと困りますから」


それだけ確認できれば満足だ。この街の風景、場所、多分だけど現実世界には存在しないと思っている。そうじゃないと現実世界に戻ったときに、記憶にない町並みを覚えていては記憶の混濁が起きるからだ。


「それじゃ、行こうか」


約束通りに今日は美桜と玲香ちゃんの三人で出かけることになっている。夏海と一樹はお店に残るようだ。


「行っちゃいましたね。店長。良いんですか?」


「この世界でも、その運命をたどるとは限らないからね。九条くんと彼女たちに任せることにするよ」


「あ、店長、今、面倒だからって思ったでしょ?」


「そんなことありませんよ。だた……」


「ただ?」


「同じ記憶を持つ二人がともに行動したとき、どうなるのか、私はそれが気になるだけですよ。それで、夏海くんと一樹くんはこの後はどうするんだね?」


「そうですね。私たちは私たちの時間を精一杯に楽しみます。もう時間はないですからね」


「あの。さっきからの話を聞いてると、なんだかこの世界は今日まで、というように聞こえるんですが」


「そうだよ。今日で青春を終える人が出るからね。誰か、なのかはこの場では言わない、というより言えないかな。僕にも分からないからね」


「一樹。だから私たちは一生懸命にこの記憶の世界で思い出を作るの。向こうの世界に戻っても忘れないくらいの思い出を」


「夏海、私はもう何も言うつもりはなかったんだけど、一つだけ。あなたは監視者として本来はこの世界の記憶を持って帰ることが出来るけど、今回のイレギュラー、この世界の記憶の人間と関係を持つった場合、分かってると思うけど、あなた本来の過去の記憶を失うことになるわよ。いいの?」


「私はそれでもいい。店長、あとでお願いします」


「分かってるよ。それが私の役目だからね。君の本来の記憶は切り取らせて貰うよ」




「でさ。今日はこの3人でどこに行くつもりなの?」


「水族館。クリスマス仕様のクラゲが展示してあるんだって。玲香ちゃん、それでいい?」


「水族館ってあの海辺の?」


「そう」


「えと……そっちじゃなくて浅草の方の水族館にしない?そっちの方が近いし」


「えー。クラゲが見たいからだーめ」


海辺の水族館。あの場所で私と一樹は運命の瞬間を迎える。でも今の私はそれがいつ、どこで起きるのか分かっている。だから大丈夫。そう言い聞かせて海辺の水族館に向かった。


「さっぶ!」


「そりゃ12月下旬だからな。昨日はこんなに雪が降ったし。滑って転ぶなよ」


「分かってるって。さ、早く行こ?」


この先だ。この先の横断歩道。だから私が九条くんを道路際に立たせなければ良いだけだ。簡単なことだ。


「あの!九条くん。ちょっと寒いから良いかな?」


ちょっと不自然だけど、この際そんなのはどうでもいい。私は九条くんの腕を引き寄せて抱きつく格好を取った。こうすればきっと如月さんもこっちに来て万全の体勢がとれるはず。


「あ!」


そう、それでいい。如月さん、早くこっちに!


「なにも……起きなかった。よかった……」


「なにもって何が?ここで何か起きるよていだったの?玲香ちゃん」


「うん。ここで青信号を待っている時に九条くんが足を滑らせて……」


「!!」


嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!なんで?九条くんは足を滑らせていないのに!


「事故だ!」


「誰か救急車!」

「店長」


「そうですね。青春が一つ、終わりましたね。お疲れ様、奏くん。初の任務、これで完了だよ」


「でも……これで良かったんでしょうか」


「期限を切って終わらせるよりは突然の方が僕は良いと思うよ?」


「冷静ですね」


「今までたくさんの別れを見てきたからね」


「それにあれは良かったんですか?玲香ちゃんの記憶、夏海が持って行くって。確かにあの日に頼まれましたけど……」


「それもいいんだよ。夏海くん、こっちの記憶は監視者の記憶とこちゃ混ぜになってるでしょ。そんな記憶を持って行ったら現実の世界までおかしなことになっちゃうでしょ」


「そうなんですか。夏海が消えちゃうのかぁ」


「別に夏海くんは消えないさ。ただ、イレギュラーを受け入れた彼女は、監視者である記憶も消えるけどね。君も向こうの世界に戻ったら彼女と関わっちゃダメだよ?」


「分かってますって」

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