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記憶の買える店  作者: PeDaLu
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ルールの範囲内

私は結局、九条くんの心をつかまえることは出来なかったけど。でも。私にはやらなくちゃならないことがある。それまでは絶対に諦めない。


「いい加減、帰らないの?もう掃除も終わったんだけど」


「そうですね。いつまでもここにいるのも悪いですしね」


「なんか大丈夫じゃなさそうね。仕方ないから私の部屋に招待してあげる。こっちに来て」


そう言って奏ちゃんは私を手招きしてお店の端っこに進んでいった。


「あれ……どこにいったかな……あ、あった」


従業員室があると思っていた場所には、階段があった。


「あの、ここ、登っても良いんですか?いいの。店長にも許可取ってあるから」


階段を登った先には、もう一枚の扉。奏さんは「私が先に出るから、ドアが閉まったらこっちに入ってきて」と言い残して扉の向こうに消えていった。


「この扉……」


私にはこの扉の向こうに何があるのか想像ができた。きっと現実だ。現実の世界だ。


私がたどり着いたのは公園のベンチだった。例のベンチ。先に出た奏さんはそのベンチに座って私を待っていた。


「もう分かってると思うけど。ここは現実世界。改めて初めまして。笹原奏、です。吉谷玲香さん、よろしくね」


彼女は高校生の姿ではなく、大人の姿になっていた。


「なにを考えているのか当ててあげようか。私、なんで大人になっているんだろう、でしょ」


そう。私は制服を着ていない。それになにか感覚が違う。奏さんに手鏡を借りて確認したら、私は奏さんと同じくらいの年齢になっていた。


「玲香さん、あなた、この世界ではもう存在していないの。今の姿は仮に存在していた場合の姿。店長のサービスだって」


ちょっと期待したけど、そういうこと、か。


「本当の私は、どこにいるの?」


「確認したいの?心の準備は?」


「大丈夫です。全部、覚えてますから」


「そう」


奏さんはそう言ったあとに大通りに歩いていってタクシーを捕まえて行き先を告げた。


「六原霊園まで」


「そうですか。私やっぱり」


「そ。いつなのかは言えないけど、玲香さんはこの歳になる前に亡くなっているわ。なんで死んだのかは何となく察していると思うけど」


そのあとお互いに目的地まで無言だった。色々と考える。仮に九条くんが如月さんじゃなくて私を選んでいたら……。


「ここ」


墓石。


「やっぱりそうなんですね。こうして見ると嫌でも受け入れるしかないですね。そういえば、こっちの世界の一樹はどうしているんですか?」


「そこまでは許可を貰うことは出来なかったわ。でもちゃんと生きてるわよ」


「そうですか」


制限時間が来たとのことで、再びタクシーに乗ってベイサイドへ戻ってきた。


「玲香さん、大丈夫、ですか?」


ベイサイドの前には店長さんが待っていて私に優しく声をかけてくれた。


「はい。でもちゃんと確認できて良かったです」


そうですか、という表情を浮かべて店長さんはお店の中に入って行った。


「私たちも行くわよ。あと、ちょっと不思議な感覚になるから注意してね」


例の扉の階段を登って扉を開くと、再びベイサイド。確かに不思議な感覚だ。それに窓に映る自分は高校生の自分。


「あの。どのくらいの時間が経っているのでしょうか」


「そうね。向こうに1時間くらい居たから10秒くらい?一応、記憶の世界でも歳をとるのよ」


「あの!応えてくれるか分かりませんけど。この世界で足掻けば未来って変えられるんですか!?」


「玲香さん、それは正解でも不正解でもある。すべては貴女次第だよ」


「そうですか。あの、店長さん。一つお願いがあるんですがいいですか?」


「ルールの範囲内であれば」


あの時、店長さんは私次第、って言った。だとしたら、あの現実世界の状況を変えることが出来るのかも知れない。でも、それじゃ一樹はどうなるのだろう。こっちの一樹は夏海さんと付き合っている。今更私の入り込む余地はない。明日はクリスマス・イヴだ。私に残された時間は少ない。明後日のクリスマスまでにはどうするのか決めなくちゃ。


「店長、彼女、どっちを選ぶと思いますか?」


「うーん、どっちだろうね。決めるのは彼女だし、それでなにか起きたら僕が責任を取るよ。あまり良いことではないけどね。それよりも夏海くんはどうするのか僕は気になるけどね」


「そっちですか?重大度で言ったらこっちの方だと思うんですけど」

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