夢の世界
「ねぇ、玲香ちゃん、玲香ちゃんは私のこと、どう思ってるの?」
「どうって?」
「そのさ、私って玲香ちゃん、らしいじゃない?自分と同じような雰囲気を感じたりするの?」
駅ビルの2階にあるカフェで私は確かめた。
「うーん。雰囲気って自分で感じることは出来なからなんとも言えないかなぁ。美桜ちゃんは?私に自分と似たような雰囲気、感じる?」
「雰囲気というかなんというか。同じような考え方をする気がする、ような気がする。でも私は私だし、気にしないことにする」
「じゃあ、なんでそんなこと聞いたのよ」
玲香ちゃんは笑いながらそう言ってカフェオレを飲んでから私にもう一つ、質問をしてきた。
「美桜ちゃん。ちょっと気になっていたんだけど、その髪飾り、それって自分で買ったもの?」
「これ?」
桜の花びらがあしらわれた髪飾り。これは……。
「記憶の中の世界だし、この世界では私はいないみたいだからなんとも言えないんだけど、紅月に貰った記憶がある。小学校の頃に。もしかして玲香ちゃんにも同じような記憶ってあるの?」
「ううん。ないの。だから気になって。いつも着けてるから」
もしかしたら、あの小学校の記憶は私自身の本物の記憶?私は紅月とずっと一緒っていうのは本当の記憶?
「ちょっと、現実世界に戻ったら分かるかも、とか考えちゃだめだからね」
「分かってるって。流石にちょっと気になったけどね。今度、紅月に聞いてみようかな。そしたらなにか思い出して私に親近感抱いてくれるかも」
「あーあ、失敗した。言わなければよかったかも」
これっぽっちもそんな気持ちがないような返事。この子はもしかしたら……。
「ねぇ、もしかして玲香ちゃん、紅月は私に譲ろうとか思ってたりする?」
「なんで?ないわよ?」
今度は本当にそんなことは微塵も考えていない、という反応。どっちが本当の彼女なのだろうか。この際だから、気になったことは全部聞いてしまおう。
「玲香ちゃん、色々と聞きたいことがあるんだけどいいかな」
「いくつあるのか分からないけど、答えられるものは答えるわよ。サービス」
人差し指を頬の横に立てて明るく玲香ちゃんは答えてくれた。
「思いついたものから聞くけど、玲香ちゃんはこの世界のいつ頃からの記憶があるの?」
「え?私は全部の記憶があるよ?流石に幼稚園とかそういう時代のはおぼろげだけど。小学校から中学、高校の今までの記憶が全部。だから急に私の前から一樹がいなくなって焦ったの。それで一樹と一緒にいるのを見た九条くんにベイサイドで声をかけて。お母さんに言って転校させてもらったの」
ちょっと衝撃。
「それじゃ、もしかして私とか紅月の過去も知っていたりするの?」
「それは知らない。だって違う学校だったし。美桜ちゃんにあったのもあの学食が初めてだったし」
「そか」
「えーっと次は……あ、そうだ。昔からの記憶があるってことは未来の記憶もあるの?」
私は彼女が少し動揺したのを見逃さなかった。多分、彼女は未来の記憶、も覚えている。現実世界までの記憶を全部。
「んーっと。ノーコメント」
「それ、知ってるって答えと一緒だよ」
私は笑って答えたけど、反面、彼女は少しだけ悲しい顔をしたような気がした。
「それで全部かな。私からも少し。美桜ちゃん、店長が説明したこと。この世界って本当に存在すると思う?自分自身の単なる夢の世界とか」
「夢の世界?」
「そう。夢の世界。だから私も紅月くんも他のみんなも全部夢の中の住人」
その考えはなかった。だって。あまりにもリアルすぎるから。それにこんなに何日も続く夢って時間的におかしなことになるし。
「そうなると、私は病気か何かでずっと寝ていることになるのかな」
「かも知れないし、すごく疲れて土日にずっと寝ているのかも知れないわね」
なんで玲香ちゃんはそんな事を聞いたのだろうか。質問の意味を確認したけども私が確認したかったから、とだけ答えてくれて、それ以上のことはノーコメントだった。