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記憶の買える店  作者: PeDaLu
19/26

夏海と一樹

「本当にいいんですか?」


「何かしこまってるのよ。いいの。私の彼氏なんでしょ。遠慮しないで上がって」


夏海は一樹を自宅に招き入れている最中だった。マンションのワンルーム。正直、高校生って感じの部屋じゃない。なんだか大人な感じの部屋だ。もしかしてこの部屋は現実世界の彼女の本当の家なのかな。


「ここって……」


「そ。本物の私の家。本当はこっちの世界に用意した家もあるんだけど。家族がいわゆるモブキャラなのよ。そんなの見たくないでしょ」


「モブキャラって……」


「適当に座ってて。飲み物用意するから」


冷蔵庫を開けて飲み物を出すとき、冷蔵庫の中にビールが入っているのが見えた。彼女は現実世界では成人しているってことか。本当の僕は一体何歳なんだろうか。


「本当はビールとか飲みたいんだけどね。ほら、こっちでは正真正銘高校生の身体だから。アルコールは厳禁。あ、いまちょっと女子高生の身体って言葉に反応したでしょ」


「そんなこと……あります……」


「正直な一樹も好き。私ね、こんな高校生活を送るのが夢だったの。だから今、すごく楽しいの。こうして好きな人と部屋でこうして……」


そう言って彼女は手を重ねてきた。とてもいい香りがする。女の子ってなんでこんなにいい香りがするんだろう。僕はその香りに誘われるまま彼女に吸い寄せられて肩におでこを乗せた。


「かわいい……」


女の子に頭を撫でられるなんてはじめての体験だ。とても気持ちがいい。もっと撫でてもらいたい。


「膝枕、いいよ。そのまま横なって」


言われるままに身体を倒す。柔らかい太ももに頬が密着する。この季節にタイツも履いていなかった彼女の足は少し冷たくて。とてもすべすべしてて。


「ちょっと。そんなことしていいって言ってないわよ。スケベ」


「あ、ごめんなさい。すごく気持ちよくて」


「でもいいよ。膝くらいなら許してあげる……。ねぇ一樹。今、幸せ?」


「うん。とっても」


「良かった。私の夢が一つ叶った。膝枕。してみたかったんだぁ。結構恥ずかしいのね、これ。なんだか心がむずむずする感じ」


夏海ちゃんは僕の頭をゆっくりと優しく撫でていて。どんな顔をしているのか気になって。顔を上に向けて。とても優しい顔が見えて。


「あーあ、しちゃった。キュンキュンする。一樹はどう?」


「なにも考えられない。頭が真っ白」


「もう一回する?」


そう言ってもう一度。今度は僕の口の中に夏海ちゃんの舌がゆっくりと入り込んできた。身体中に衝撃が走る。夏海ちゃんは僕の顔を押さえてキスの雨を降らしてきた。


「これが大人のキスなの?」


「今は高校生。二人とも……」


そう言ってお互いに求めあった。彼女は身体の位置を変え、僕に覆いかぶさって来た。


「ここ……」


「あぅ……」


「可愛い声……。この続き、したい?」


「えと……」


「んん?」


「あ……うう……」


「こっち……」


言われるがままにベッドに手を引かれて寝転んだ。僕の上に座った夏海ちゃんは着ていたセーターを脱ぎ捨ててセーラー服の脇の下のチャックを開けてから僕に覆いかぶさってきた。


「ねぇ。こっちの私は初めて、だから……」


耳元でそんな事を言われて身体に電気が走ったような感覚に襲われる。矢継ぎ早に僕のシャツを制服のズボンから引き出して脇腹からさっき温めた右手が入ってくる。思わず声が漏れる。そんな僕を彼女は「かわいい」と言ってキスの雨を降らせてくる。


「夏海……ちゃん……そんな……とこ……」


「もっとしたい?」


もう僕は頷くしか出来なかった。夏海ちゃん、彼女のことが愛おしくて。このまま一緒にいたくて。抱きしめたくて。僕は彼女を抱きしめた。そして彼女はこう言った


「今日はここまで……続きはまた今度、ね?」


「え……」


「ふふ。私、そんなに簡単な女じゃないのよ。ここまでしておいてなんだけど。もうちょっとお互いの気持が近くなってから、かな。って!きゃっ!!」


僕は彼女を押し倒して逆に覆いかぶさった。


「ごめん。そんなつもりじゃなくって……その……ごめん」


すぐに我に返って身体を起こした。


「びっくりしたけど、悪いのは私の方だから。気にしないで」


夏海ちゃんはそう言って立ち上がって乱れた服を直してカーテンを開けて話し始めた。


「私ね。こういうこと、したかったって言ったじゃない?羨ましかったんだ。私も青春時代はこういうのなかったから。とっても羨ましくて。この仕事についたのもそういう時代に戻れるって聞いたから。本当は立場的にこんなことしちゃいけないんだけど。でも自分を止められなかった。本当は一樹くんの記憶の中に私が入り込むことはないはずだったのにね。ゴメンね。私のわがままに付き合わせちゃって」


「そんなことないよ。僕も今、とっても幸せなんだ。だからそんなことは考えないで欲しい。今の僕を見ていて欲しい」


「ありがと。その言葉に甘える」


彼女が向こうの世界でどんな風に生きて、どんな人であっても僕はきっと……。

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