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記憶の買える店  作者: PeDaLu
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元の世界に戻る方法

「皆さん、どうですか?気持ちの整理、ちゃんとつけてますか?」


ベイサイドに全員呼ばれたと思ったら、店長にいきなりそんな事を言われた。俺は大丈夫。他の面々はどうなのだろうか。美桜と玲香ちゃんはお互いの顔を見合わせて美桜が代弁した


「私達も大丈夫」


「そうですか。それは良かった。一樹くんはどうかな?」


「大丈夫です。時間が来るまで僕は夏海ちゃんと一緒にいるつもりです。決して忘れません」


そうか。一樹も時間のこと、知ってるんだな。店長はどう思っているのかな。ここで聞けば時間は後どのくらい残されているのか教えてくれるのだろうか。


「時間のことも聞いている、というか気が付きますよね。青春をやり直してる、って私、いいましたから。でもあとどのくらいの時間が残されているのか気になると思います。だから一つだけヒントを。この時間はこの中の誰かの青春が終わるまで続きます」


「店長。それはつまり、俺達の青春がずっと続けば、この世界には終わりが無いってことですか?」


「そういうことです。九条くん、君は今こう思ったでしょう?美桜さんと玲香さん、どちらかを選んだら青春が終わってしまうのではないか、と」


正直そう考えている。


「大丈夫。それは違いますよ。誰かとお付き合いする、それは立派な青春です。その時、その時間でしか感じることの出来ないことです。ですから安心して存分に悩み、判断して下さい」


安堵と迷い。要するに僕がどちらかを選び続ければ青春は永遠に続く。


「あのね。青春って大概は高校生とか大学生とかその程度までだからね。社会人になってからの恋愛は青春なんて呼ばないから。それは婚活っていうのよ。こ・ん・か・つ!分かる?」


奏がいやに力を入れて俺に忠告してくる。まぁ、長くても大学卒業までの5年間ってことなのだろう。その時間が来るまで存分にこの世界を楽しんでやるさ。


「それでね。今日ここに皆さんを呼んだのはまだお話がありまして。ここからが本題です」


急に店長の顔が真面目になったので皆が注目する。奏も夏海も真面目な顔で店長を見ているから二人共内容は知らないのだろう。


「戻りたいですか」


「え?」


「元の世界に。今すぐに。戻りたいですか?」


「ちょっ!?店長!?それって私達が不合格ってことですか?強制送還ですよね!?」


奏がいやに慌てている。この世界からの強制送還は観察者にとっては不合格の烙印を押されることなのだろうか。


「奏さん。落ち着いて。大丈夫ですよ。この発言は僕の権限だけです。安心して下さい」


そう言ったあとに店長は再び皆を見回して話を続けた。


「皆さん、既にこの世界が記憶の世界であること、有限の世界であることをご存知かと思います。なので、選択肢を設けたほうが公平だと思うのです。あなた達は半ば無理矢理にこの世界に来た、というよりも連れてこられたのです。そして真実を知った。だから現実世界に戻るという選択もあってしかるべきだと思ったのです」


「でも、その選択を誰かがしたら、誰かの青春が終わってこの世界そのものが……」


「そうですね。先程私が言ったとおりです。誰かが現実世界に戻りたいと思った時点で終了です」


「『思った時点』ですか?」


「一樹くんはよく聞いてますね。その通りです。私に宣告せずとも『自分が戻りたい』と思った時点で現実世界に戻ります。同時に他のメンバーも同時に戻ります。そうそう、これは奏くんと夏海くんがそう思っても同じですからね」


「え?」


奏が声をあげた。


「そうです。奏くん、あなたが一番危ないと私は思ってますよ。こんな世界、やってられるか戻りたい、なんて思ったらぶち壊しです」


「えーっと……。なんか、責任重大?なんか私も青春を探したほうがいいのかな?」


夏海が一樹の腕を取った。絶対に渡さない、というポーズだろう。そして俺の方を見ている。いや、3人は流石にだぞ。


「はぁ。わかりましたよ。私はこの5人の恋を見守る傍観者、本物の観察者として楽しませてもらいますぅ」


「はい。そうして下さい。これで私の話はおしまいです。なんだか皆さんを脅しているみたいで申し訳ないのですが、誰か一人でも帰りたいのに他のメンバーがそれを阻止し続けるのは健全ではないと私は考えます。でもきっとあなた達はこの世界で恋をし、その恋を育てるでしょう。心配はいらないと思いますよ」


解散して自宅に戻ってから俺は考える。現実世界に戻った自分は一体どんな生活をしているのだろうか。気になるけども、今はまだ戻りたいとは思わない。この世界が楽しくなってきたからだ。なんとなく俺の記憶の奥底には、学生時代にこんな事を体験してみたかった、そう思っているようなものがある。まさか二人から好意をよせられるなんて思ってもみなかったけども。





「なぁ、奏。この世界って記憶の世界で現実世界じゃないんだよな」


「そうよ。それがどうかした?」


翌日のバイト中に奏にそう確認する。


「例えばだけどさ。空を飛びたいって念じたら飛べるのか?」


「いつか言い出すんじゃないかって思ってたけど。飛べないわよ。現実世界と同じことしか出来ない。夢の世界じゃないの。あ、でも記憶の改変はできるわよ。というよりもそれが目的の世界だから。過去の記憶を塗り替えるための世界。だから楽しまなくっちゃ損だからね。いわば人生をやり直してるのと同じなんだから」


「なるほどな。人生をやり直している、か。あ、そうだ。それじゃこっちの世界に来ている奏も人生をやり直しているのか?」


「そうだといいんだけどね。私達観察者は違うわよ。記憶の上書きなんてしたら任務が全うできないじゃない」


そうれもそうか。でも元の俺の状態をしてて、この世界で変わってゆく俺を見るのは楽しそうだな。機会があったら俺も観察者ってやつをやってみたいものだ。


「やりますか?九条くん」


店長がカウンターの中から話しかけてきた。


「あれ?店長、俺、口に出てましたか?」


「いやいや。私はあなた達の思っていることが分かるんですよ。ほら、でないと昨日いったアレ、分かるはずないでしょう」


ああ、そうか。思ったら、っていってたもんな。それりゃ分かるか。


「誰でもなれるんですか?」


「そりゃ試験みたいなものはあるよ。いつになるのか分からないけど、現実世界に戻って私の言葉を覚えていたら挑戦しに来るといい」


そう言って店長は詳しい内容を教えてくれたけども、その内容は記憶として刻み込まれるものなのだろうか。なんだか、これだけは持ち帰れないような気がする。


「掃除終わりっと。流石にクリスマスが近くなるとカップルのお客さんが多くなって嫌になるな」


「何言ってるの。この時期に2人の女の子から好きなんて言われてるアンタのほうが厭味ったらしい存在だから」


「あ、おまえ、向こうでは独りだろ」


「うっさい!」


図星だったようだ。それにしてもクリスマスかぁ。恋人のいるクリスマスか。どんな感じにあるのだろう。後半月ばかり。それまでに俺は結論を出せるのだろうか。

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