如月美桜編
ベイサイドで一樹と一緒に店長から聞いた事を私は紅月に伝えた。
「なるほど。そういうことか。俺の仮説は惜しいところまで行っていたんだな。俺は美桜と夏海が示しを合わせて例の告白について俺に嘘をついているのかと思ってた。それで、俺の中に一樹が入っているのかなって。で、俺自身、九条紅月の存在はどこに行ったのかなって思ってた」
「なんでそんなに冷静なのよ」
「なんでって。こんな奇妙なことが起きているんだ。現実世界じゃないことくらいなんとなく察していたさ。でもまさか、俺と一樹が入れ替わっていたとはなぁ。だから俺は美桜と玲香ちゃん、両方共気になったのか。合点がいった」
「なんか釈然としないのだけれど。如月美桜という存在の記憶はこの世界に無いのよ?でも私は紅月とこうして付き合ってる。私の中の玲香ちゃんが紅月の中の一樹と惹かれ合って付き合ってるってことなのよ?それについてはどうも思わないの?」
「思うところはあるよ?でも中身がなんであっても俺と美桜はこうして付き合っているんだ。玲香ちゃんが気になる理由もわかったし。これまで通り俺と美桜、恋人を続ければ良いんじゃないのか?それにさ。現実世界に戻ったときにお互いにこの記憶を持ったままだとしたらさ。どこかで出会ったらまたこういう関係になれると思うんだ」
紅月は寂しそうに、でも優しく私にそう言った。現実世界に戻った後の話。そこまでは考えていなかった。こっちの世界の一樹は私の中の玲香ちゃんに惹かれたみたいだけど、そのオリジナルがいるのだったら、写真の通りオリジナルの玲香ちゃんと結ばれるのが一番だと思う。本来の記憶では結ばれるのに、この記憶の世界でその素敵な記憶が消えてしまうのは悲しい。
「ねぇ紅月。私の記憶が玲香ちゃんのものであっても、この世界ではそれが私。紅月の記憶が一樹のものであっても、この世界ではそれが紅月。それをわかった上でも私のことを好きでいてくれる?」
「そうだな。俺が好きなのは如月美桜だからな。中身の記憶なんて気にしないさ。現実世界に戻ったらどうなるのかわからないんだから、この記憶の世界で美桜を思い出を作るさ。さて。全部わかったのなら全員集まろうぜ。一応、みんなどうするのか聞いてみたい」
ここまで分かっているのなら。これ以上こじれることは無いと思う。そうね。場所はベイサイドがいい。