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記憶の買える店  作者: PeDaLu
12/26

監視者

「奏ちゃん、君も結局楽しんでるじゃないの」


「そうですかぁ?気が付かれないようにしたつもりなんですけどねぇ。店長はどう思ってるんですか?」


「ん~、僕?そうですねぇ。なんか掛け違いが起き始めていると思ってますよ。良くない兆候ですが、面白くもある。それに夏海ちゃんもね」


「そんな無責任な……。どうなっても知りませんからね」



その日の夜、今日の一連の話を思い出して整理してみた。ありえないと思うけど、俺と一樹、美桜と玲香ちゃん、この二人が実は同一人物。そう考えるとすべての合点がいく。見た目の問題はあるが、写真があるところをみるとオリジナルは一樹と玲香ちゃん、ということになる。それじゃ、俺と美桜はどういう存在なんだ?



同じ日に美桜は一樹と一緒に出掛けていた。ベイサイドに行こうと思ったけど、知り合いに合いそうだからやめておいた。こんな時間から電車に乗って、っていうのは現実的じゃないから駅ビルの喫茶店かな。窓際の席がお気に入りだけど、誰かに見られるのもアレだし……。


「それでなにから話しましょうか」


「一樹はさ『玲香、聞いてくれ。俺は世界中の誰よりも玲香のことを愛してる。世界中の誰よりも。伝えられないくらいの好きで心があふれてる。だから。俺と付き合って欲しい』って玲香ちゃんに言った、コレは合ってるの?」


「そうみたいです。全部は覚えてい無いのですが。九条くんに言われたときに記憶の断片にその言葉はありました。でもそれだけで僕が玲香ちゃんにその言葉を言ったとか、あの写真みたいに手を繋いで撮影とか、そういうのは記憶に無いんです」


「そうなんだ。そう考えると私と玲香ちゃん、紅月と一樹が同じ人だったって事になったりするのかしら?」


自分でもおかしなことを言っているのは分かってる。窓際の目立つ席じゃなくて奥の席で良かった。こんな話し、他のお客さんに聞かれたらどんな目で見られるか。


「そうですね。それは僕も考えました。正直、僕も昔の記憶はおぼろげなんですよ。でも結構断片的に。それもはっきりと覚えている部分が多くて。だから九条くんみたいな記憶喪失とは違って単純に独りの生活を頭の中から排除して自分で消し去っていったのかなって思ってました」


「でも玲香ちゃんにあの言葉はあなたから聞いたて言われて矛盾が生じてる、そんなところ?」


「そうです。あと、折角の機会なんで僕の正直な気持ちも伝えますね。僕、美桜さんのことが気になるんです。性格的に。とても魅力的で」


面食らってしまった。ここで一樹に告白をされるとは思っていなかった。紅月のことが頭をよぎってすぐに断ろうと思ったんだけど、なぜか即答できなかった。


「どうですか?九条先輩が居るっていうのは分かってます。でも僕のこの気持も知っていてもらいたいんです」


「そう、そうだ。夏海のことは良いの?」


「彼女には悪いことをしたと思ってます。でも正直に考えた結果なんです」


正直困っている。断るべき、なんだろうけど。なぜか私も横原一樹、という人物が気になる。それが好きという感情なのかどうかは分からないけども。この事を紅月に相談したら、全員で合ってみるのが一番なんじゃないか、って事になってベイサイドに集合することになった。


「こんな時間に悪いな。あと店長ぉ。閉店後なのに悪いっす」


「掃除、ちゃんとやっておいてね」


俺たちは閉店後のベイサイドに集まった。俺、美桜、一樹に玲香ちゃん、それに夏海に奏。一連の話の中で出てくる人間全部だ。


「えーっと。まずは……」


「私は一樹が欲しい。一樹は?」


先鞭を切ったのは夏海だった。


「僕は……美桜さんが気になります」


「それじゃ美桜は?」


「私は当たり前だけど紅月」


だよな。なんかホッとしたけど、この後自分が言う言葉は……。


「俺は……、えーっと」


美桜が俺を見ている。当然だろう。でもここは。


「玲香ちゃんが気になる。恋人とかそういうのじゃないんだけど、もう少し知りたい。一樹は?」


「僕は如月さんです。この前、告白しました」


なんと。それは初耳だ。美桜からの何も聞いていない。夏海もびっくりしているから初耳なのだろう。そして。傍観者であろう奏を見ると、今の関係をオーダー用紙の裏面に書き込みながら頭を抱えていた。


「なんだ奏。なにかあったのか?」


「なにかって九条先輩……何なんですかコレ。夏海先輩は一樹先輩を、一樹先輩は美桜先輩を、美桜先輩は九条先輩を、九条先輩は玲香ちゃんを。全員が全員追いかけ合ってるじゃないですか。なんなんですかこれ」


「なんかよくわからないけど、青春してるな俺たち」


「九条先輩、コレは青春というより泥沼って言うんですよ。この場の私以外の5人がなんで喧嘩にならないのか私には不思議ですよ。あと、夏海、あなただけ外にいる感じだったわよ」


ため息混じりで夏海に声を掛ける奏。分かってるわよ、と言わんばかりの夏海。まぁ、とりあえず暫くはこの4人で過ごすのが良さそうだ。不思議と険悪なムードでもないし。試しにその提案をしてみたら、みんな素直に受け入れたし。というわけで、今日はコレで解散。俺がモップを持ったところで夏海が私がやるから紅月はみんなと一緒に帰りなよ、と言ってくれたのでそうさせてもらうことにした。


「で?どうするの夏海」


「このまま成り行きを見るしか無いんじゃないの。店長、それでいいですよね」


「そうだね。それが一番だと思うよ。夏海ちゃんはがっかりしてるかい?なんか振られちゃったみたいだけど」


「店長、聞いていたんですか?趣味が悪いですよ。若い女の子たちの会話を盗み聞きするなんて」


「閉店後の静かな場所で話してたら聞こえちゃうよ。僕だってまだ耳が遠くなるような歳じゃないし」


「私、だから言ったでしょ?夏海は夏海の仕事をすればいいの。余計なことをするからややこしくなるのよ。危うく店長がハサミ使いそうになったんだからね」


「マジで!?」


「そう、マジで」


「危なかったぁ」


「もう、私達は監視者なんだから。対象に恋をするなんで前代未聞よ。店長もなにか言ってくださいよ」


「そうだね。でも君たちも年頃の女の子なんだから、仕方ないんじゃないのかな」


「店長、それ、バカにしてます?婚期を逃した私達に喧嘩を売ってるんですか?」


「そんなわけじゃないよ。君たち二人なら僕はどちらでも歓迎だよ」


「誰が!このクソジジイ」


「そんな口の聞き方だから婚期をのがすのではないですか?」


そう。私達は監視者。私は九条紅月を。美桜は如月美桜を見ている。横原一樹と吉谷玲香という存在がこの世界になぜ居るのかは分からなけど、どうやら九条紅月の記憶が横原一樹に入っているようだ。そして、おそらくだけど吉谷玲香は本人。オリジナルだ。本来であれば店長がハサミを使って切離ずべきなのに、店長は面白がってそれをやらない。挙げ句、夏海がこの世界の横原一樹という人間のことを好きになってしまったとか。監視者失格だわ。もしかしたら横原一樹と吉谷玲香にも私達とは別の監視者が付いていつかも知れないのに。店長はそれを教えてくれないし。まぁ、それはルール違反って分かってるけども。


家に帰ってから美桜に電話をかけて今日の話について確認した。


「なんというか。すまんな」


「良いとは言えないけど、好きとかじゃなくて気になるだけなんでしょ?この一連の不可思議な状況について」


「分かってもらえると助かる。もう少しでなにか分かる気がするんだ。それはそうと美桜はどうするんだ?一樹に告白されたんだろ?」


「そう……、なんだけど。受け入れてもいいの?」


「それは……」


「即答してくれないのがムカつく」


「色々複雑だから考えたんだよ。だって一樹って一応夏海と付き合うとかそういう風になってただろ?それがいきなり美桜が好きって何が起きたんだよってなるだろ」


「それはそうなんだけどさ。私もその辺が気になるから少し一緒に居てみようと思う。別に本気で付き合うとかそういうのじゃないからね!」


「分かってるって」


こっちにも釘を刺したのだろう。それから俺たちはそれぞれの考える行動に出た

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