4話 『 冒険者初日』
俺とステラは、武具屋を出た後ギルドとやらに向かった。
事前に聞いた話によるとギルドの申請を通ることで正式に冒険者として活動でき、依頼……要はクエストを受けることが出来るようになるとか。
「ここか……
まんまゲームに出てきそうな雰囲気だな」
「元々私もここに用があったし、ちょうど良かったけど……申請って何するんだっけ……」
「書類審査らしいけど……
まあ名前やら書けばそれで終わりだろ」
俺とステラはギルドの扉を開けた。
……中は正にゲームの世界だった。
剣や盾を持った様々な種族の男女がホールを埋めつくしていた。鎧を着ている人や魔法使いっぽい格好人なんかもいた。
「多いな……これは予想以上だぞ」
「50人くらい居るわね……
さすがにエルフは居ないみたいだけど」
「本当にエルフって珍しいんだな……
武具屋のおっさんも珍しがってたし」
「まぁ、基本引きこもりの種族だから。
そのくせ寿命は長いんだからつまんないったら無いのよね……」
「だから出てきたのか……
……待てよ、ステラお前今いくつだ」
「ごひゃ……いや、何でもないわ」
「……そ、そうか」
明らかに500って言おうとしたよな……
まあ失礼だと思うしこれ以上は詮索しないが……
雑談をしばらくした後、俺達は受付のカウンターと思われる場所に向かった。
受付嬢……というのだろうか。ギルドの制服を着た数人の女性が横に並んで座っていた。
「すみません、冒険者の登録をしたいんですが……」
「あ、冒険者志望の方ですね?
いやー最近冒険者になりたいって人少なくなってるから助かりますよー……」
「えーと、何をすれば?」
「あぁそうでした。
こちらの書類の要項に沿って記入をして頂ければ結構ですよ」
そう言って出されたのは、名前や年齢といった普通に現実でもありそうな平凡な内容だった。
見たことのない文字だったが、なぜだかスっと頭に入ってきた。もちろん書けもした。
「ご都合主義なことで……」
俺は簡単な書類に筆を走らせ、提出した。
ちなみに出身はトルカと偽ったが……まぁ問題ないだろう。
俺の後でステラも書類を作り、俺達は晴れて冒険者の仲間入りだ。
……思ってたより随分あっさりだったが。
「では、こちらを。
無くさないようにして下さいね。再発行は効きませんので!」
受付嬢が俺達に何やらカードを手渡してきた。
……『ギルドカード』と書かれている。
「これは?」
「ギルド公認の冒険者であるという証です。
これを提示すればこの国のギルド全てでクエストを受けることが出来ます」
「トルカじゃなくても?」
「はい、そうですよ」
要は身分証明書という事だろう。
よく見たらカードには『カイト』と書かれていた。
「因みに、ある程度功績を納めた冒険者の方のカードは、段階によって色が変化するんですよ!」
「今は白だけど……」
「白、蒼、翠、銅、銀、金の順ですね。
因みに、それとは別にF~Sランクで区別されます。
大体の方は頑張っても銅辺りで頭打ちしますね。銀、金の方々は本当に歴戦の強者ばかりです!」
「へぇ……」
ギルドの説明を軽く受け、俺達が受付から離れようとした時、近くで声が聞こえた。
「なぁ良いじゃねぇか。
俺達でパーティ組もうぜ?」
「あ、あの……すみません、そんないきなり……」
「あ?何だ断るのかよ?」
男が俺と同年代くらいの女の子に無理にパーティに誘っているようだった。
「……何だあの野郎」
「冒険者のウッズさんですね……
若い女性冒険者さんをターゲットにパーティに誘いまくってる方です……
いい噂は聞きませんが」
「止めないんですか?」
「こちらも冒険者という職業をやって貰っている以上、強く言えないんですよ」
「…………」
嫌な予感がした。
……ありそうな事だ。あんなのは建前、実際は性的接触を目的とした誘い……
雰囲気で俺は何となく察した。
少なくともウッズという男は、善良な人間ではない。
俺の身体はいつの間にか動いていた。
「おい、アンタ……っ!?」
ウッズに止めるよう言おうとした瞬間、ウッズは腰に携えていたナイフを抜き、俺を刺そうとした。
……咄嗟に後ろに下がって避けたが、それが出来ていなかったら死んでいた。
「……何すんだ」
「お前こそ何だ?邪魔ァしてんじゃねぇよ」
俺達の周りがザワザワとしだした。
「おい、アイツ今刃物を……」
「確実に殺そうとしてたな……」
「……チッ、いつものクセでやっちまったか……
まぁいいさ。冒険者なんぞ辞めても女はヤレる」
「常習犯ってことか……嫌な予感的中」
「……お前はムカつくから殺す」
……しかしマズイ。
相手は手慣れているらしい。
こちとら剣なんぞ初めて持つってのに。
そう考えながらも鞘から剣を抜き、構える。
盾は……使わない。その方が良い。
「ちょっ、カイト!!」
「……黙ってろ。一か八か……やってやる」
「はっ、ガキが舐めんじゃねぇぞ!」
「……っ!!」
俺は後ろに跳んだりしてしばらく防戦に徹した。
(……周りの冒険者は手出しをしない。助けは期待できんか……)
周りの冒険者は腰抜けなのかそれとも野次馬してるだけなのか……
いや、今は関係ないな。
(……奴は盾の代わりに篭手をつけている。恐らく剣のような長い武器対策。
……鎧なんかも着てないが、1度懐に潜ってしまえばナイフは最強の武器に成りうる。だから距離を取る……!)
初めての実戦、負けたら死ぬこの戦いで、俺の脳みそは意外と冷静だった。
異形のモンスターとは違い、相手が人間だからか?
「オラオラどうした!逃げてるだけじゃ勝てねぇぞ!?」
(そう、逃げる。
奴は俺が弱いとタカをくくっている。
確かに、弱い。だが知恵はある……!)
「ここだ!!」
「なっ!?」
俺は防戦から急に攻めた。
相手は反応に多少遅れる……しかし、俺のお粗末な剣技では見切られる。篭手で防がれる。
……ことは分かっていた。計算のうち。
俺がウッズがナイフを持っている方の肩あたりを縦に切りつけようとするも、ウッズは反応し篭手で防ぐ……はずだった。
俺は激突の直前、剣を手放した。
「何っ!?」
「お前柔道って知らねぇよなぁ!?」
俺は素早くウッズの懐に潜り、胸ぐらと腕を掴み、バランスを崩させ、背中に乗せるようにして相手の体重を利用し、投げる。
……ウッズの身体が宙に浮いた。
「……オラァ!!」
「ガッ!?」
そしてウッズは木の床に思い切り叩きつけられた。
手加減も出来ない素人の背負い投げだ。下手したら骨折モノ。
……中学の授業で習ったきりだったが、奇跡的に上手くいった。俺はウッズが倒れた隙にナイフを奪い、倒れているウッズの首に突きつけた。
「……降参しやがれ、クソ野郎」
「チッ……ガキが……!!」
俺とウッズがしばらく膠着状態にあると、1人の男が近づいてきた。
「……オイ、もう大丈夫だ。下がってくれ。」
「……?」
「て、てめぇは……!」
赤い鎧に身を包み、豪華な装飾の槍を持った男……さっきから傍観していた人の1人。
取り敢えず俺は下がることにした。
「……よぉ、ウッズとか言ったな?
ギルドじゃあ殺人は重罪だ。大人しく縄につく気は無いか……?」
「ヒッ……!!
わ、分かった!大人しく捕まる!
だから命は……!!」
「……五月蝿い、消えろ」
男は目にも止まらぬスピードで槍を繰り、瞬時にウッズの首……の隣の床を突いた。
気づくとウッズは泡を吹いて気絶していた。
「……アンタは?」
「俺は……」
「……あれ、『死槍のカイン』だよな……」
「すげぇ、何だあの槍さばき。全然見えなかった……」
「……先を越されたか。
俺はカイン。ま、同業者だ」
「……随分有名なんだな?」
「らしいな……目立つのは嫌いなんだけどねぇ……」
「何で助けなかったのさ」
「明らかに勝算なしって感じじゃなかったからな。退がりながら攻めてる……って感じでよ。
……おぉそうだ、何だよあの格闘技!
あんなの見た事ねぇ!」
そうこう話しているうちに、ステラとウッズに話しかけられていた女の子が近づいてきた。
「ちょっとカイト!
何無茶してんの!ビックリしたじゃない!」
「あ、あの……カイトさん、ですか?
その、ありがとうございます……!!」
「ヒュウ、モテるねぇ、少年。」
「「そ、そんなんじゃない(です)!」」
「全面否定かよ……ま、良いけど」
その後色々話して、カインと俺が助けた少女……リリアのことを教えて貰った。
カインは例の金カードの冒険者で、今日はたまたまこちらに用事があったらしい。
リリアは俺達と同じ新米で、どこかのパーティに入ろうとしたがウッズに声をかけられ困っていたらしい。
見た感じ人見知りっぽいのも原因の一つじゃないだろうか。
「はァ……しかし無駄に疲れたな……
さっさと何処か宿とって休みてぇ……」
「あ……あの、宜しければ私の家に来ませんか?
お礼もしたいですし……あ、もちろんステラさんも……」
「良いのか?ステラはともかく俺は男だぞ」
「だ、大丈夫ですよ。」
「そうか……じゃあ、お言葉に甘えようか」
そうして、俺達はリリアの家を訪ねることになった。別れ際、カインが
「また会った時はあの格闘技の事とお友達との進展具合を教えろ」
と耳打ちされた。
何故進展具合……ステラもリリアもそんなんじゃないのに。
…………俺の冒険者としての初日の仕事は終わった。