2話 『対話』
……俺、佐藤 快斗は放心状態にあった。
いきなり「お前は世界を救う勇者だ」と言われて納得出来るのはゲームの中だけだ。
現実でそんなこと言われてみろ。
信じる信じない以前に訳が分からない。
「いやいやいや!何で俺!?
そもそも戦いなんてした事ないザコだぞ!?」
「実は宮廷魔術師のファウスト様の予言で……」
「予言!?
そんなものを信じて俺に!?」
「そんなもの?
予言……というか占いは当たるものだろ?」
「…………」
こちらの世界では予言……もとい占いは当たるものという常識があるらしい。
やっぱり魔法なんかもあるのだろうか。
「……予言は分かったけど、どうやって世界を救えってんだよ……
さっきも言ったが戦闘経験なんてまるで無いぞ」
「それに関しては私も分かりません」
「無責任な……」
「……ともかく、まずはギルドに向かうべきかと」
「ギルド?」
「各街にある冒険者の集会所じゃないか……
どんな田舎から来たんだ?」
そんな常識知らん……と言いたかったが、余計混乱を広げるだけだと思ってやめた。
この世界の事を少し聞いた後、ヴェルクとやらは用事があると言い残し家を出ていった。
「はァ…………
全く、どうしろってんだよ…………」
ベッド横に置いてあった椅子に腰掛け、頭を抱える。
……分からないことが多すぎる。
そもそもこの世界の住人ではないのでこの世界の常識を知らない。今までの常識が非常識になることも多いだろう。
それは良いにしても俺には冒険者として世界を救う旅に出る度胸も力も無い。
だが何もしない訳にもいかない。
「あー…………考えんの面倒くさくなった…………」
疲労がまだ残っていたのか俺は考え込む内に寝てしまった。
……その夢の中。俺は奇妙な体験をした。
「…………何処だ、ここ」
そこは何も無い空間だった。
地平線すらも見えなくなる一面の白。
自分が立っている地面さえ不確かな物に思えた。
……そこには、俺ともう1人、怪しげに微笑む男が立っていた。
「……誰だアンタ」
「え?
そうだなぁ……君たち風に言えば……『神』?」
「はぁ……
もうここまで来たら驚かねぇぞ……
で、その神が何の用だよ」
「いや何、謝罪と助言をね」
「謝罪?まさかこの転生って……」
「……うん、僕達の不始末ってヤツだね」
「おいおい、まさか俺は手違いでやられたとか言うんじゃないんだろうな!」
「うーん……それは本当に申し訳ない。
君が今生きている世界で英雄視されてるカイトって人、君じゃなくてさらに別の世界に存在するカイトって冒険者なんだよ」
「……もう突っ込むの疲れたんだが」
「……因みにその冒険者の方のカイトは病気で死んでしまう運命にあってね。
それを機に君が今いる世界に送ろうとしたんだけど……
『カイトを転生させろ』なんて単純命令と君の事故死が偶然絡まってこうなった訳だ」
「……御託はもういい
助言とやらをよこせそして消えろこの野郎」
「手厳しいね……無宗教だとこんなにも変わるのか……
……まぁ良い。
助言というのは、君が何をすべきかを教えるって事だ。
今君がすべき事はシンプル。
……君が今いる世界を救うこと。」
「それは知ってる……
どうすればいいのか教えろ」
「……君、ゲームはやったことあるかい?
RPGなんかだとベスト。」
「何で神が人間の娯楽を知ってんだよ……
やったことあるよ。それがなんだ」
「君には今、『レベル』という固有の強さの概念を付与している。
今の君はLv1、文句無しの雑魚。
でも、経験を積むことによって常人より遥かに早く強くなれる。
……まぁ、そこらのゲームよりはずっと上げにくいだろうけど。」
「……つまりはレベルを上げろと?」
「そういう事。
とにかく今は戦えばいい。
ほら、何だっけ?あの……あぁそう、ス○イム。
そのレベルの魔物を倒していけば君でも強くなれるさ。」
「……まんまゲームの世界だな……」
つまりは己の身を賭したRPGゲームに俺は送り込まれたらしい。全く悪質な神もいたものだ。
「……おっと、君の眠りが終わるようだ。
じゃあまたいつか、夢の中で。
僕はそっちにこういう形でしか干渉できないからね。」
「ちょ、まだ聞きたいことが……!!」
次の瞬間、俺の意識は現実に戻った。
結局あの神を名乗る男はレベルを上げろとしか言わなかった。
まだ分からないことだらけだ。
心の中で舌打ちしながら俺は重い瞼を上げた。
……目の前にステラの顔があった。
「うおぁッ!?」
「きゃぁっ!?」
俺は思わず後ろに下がろうとして椅子ごと派手に転げてしまった。
「痛てぇ……」
「ご、ごめん……驚かせるつもりは……」
「あぁいや、別に良いけど……
……もう起きて大丈夫なのか?」
「え、えぇ。おかげさまで……」
「……そうか。それは良かった。」
「…………夢じゃ、無いんだよね…………」
「…………らしいな」
……ステラとノエルは友人だった。
そんな人が目の前で肉塊と化してみろ。
俺だったら発狂する。実際ステラもショックで何も出来ないでいた。
あのまま何もしなかったら俺たち2人も同じ目に遭っていただろう。
「…………これから、どうしたら…………」
「……ステラはエルフの里に戻ってこの世界の現状を伝えてきた方が良い。
なんでも、最近魔凶暴かつ強力な魔物が増えてるらしい」
「……カイトは?」
「俺か……そうだな……俺はだな……」
「?」
「……ちょっと旅に出る。
そんな魔物がうじゃうじゃ出るような世界でこんなザコのままじゃいつ死んでも文句を言えんからな」
「……そう、なんだ」
ステラは俯いて、しばらく考えた後、顔を上げて俺に言った。
「……私もついて行って良い、かな」
突然の提案に俺は一瞬思考停止した。
「……なぜに?」
「な、何故って……
ほ、ほら!カイトには助けて貰った恩もあるし、元々私、里の閉鎖的な空気に嫌気がさしてたし、それに…………」
「それに?」
「え……あ、その……」
ステラが顔を赤くしながら何やら慌てている。
何だと言うのだろうか。
「……か、カイトは弱いから早々に死なないようによ!!
そ、それ以外は無い!」
「えぇ……酷……」
俺の評価はやっぱりクソザコらしい。
……だが、戦闘経験ゼロの俺にとっては願ってもみない提案だった。
最悪スラ○ム相手に死ぬことも有り得るのだ。
戦い方も教えてくれるかもしれない。
「……分かった。
よろしく、ステラ」
俺はステラに握手を求め手を出した。
「こ、こっちこそよろしく…………」
ステラも俺の手を握り返してくれた。
……何か顔が赤い気がするが……
……しかし、やっぱり女の子の手だった。
小さくて柔らかい。とても戦う人の手だとは信じられない。
「……カイト?」
「あ、あぁ、すまん。」
バカなことを考えていたら長く手を握ってしまっていたらしい。
変に気があるとか思われなきゃ良いけど……
……カイトはステラという仲間を手にし、冒険をする準備を整える。
Lv1からの旅は、今始まろうとしていた。