11話 『カイト、疑われる』
カイトは【ギガ・マンティス】の素材をギルドに売り、どのようなクエストがあるのか少し見て、そのままこの日は休もうとしていた。しかし……
「君が噂のFランク冒険者でいいかな?」
カイトに話しかけてきたのは、金髪をオールバックにした、一見細身だが筋肉質な男性だった。
「俺はここのギルドマスターをやってるカザンという者だ。ちょっと話があるんだが、良いか?」
「噂のかは分からないが……カイトだ」
「カイト……そうだ、お前で合ってる。
先ほど【ギガ・マンティス】の素材を持ってきただろう?
それが盗品なのでは、という話が出てな……
いや、俺としては信じてやりたいが、如何せん傭兵の文句が収まりそうにない」
「何で俺が文句を言われる?」
「傭兵も苦しい稼業なのさ。
常に命の危機があるしお世辞にも儲かる仕事とは言えん。むしろ金欠がほとんどだ。弱い魔物の素材は売ろうにも微々たるものでな……Fランク冒険者に大金が入ったのが気に入らんのだよ」
「それはいいけど……俺はどうすればいい?返金か?
十分金は残ってるし別に構わないけど」
「いや、さすがに金を返せとは言えんよ。
その文句を言った傭兵達を待たせてある。そいつらを痛めつけてやれ。荒いが一番手っ取り早い」
「痛めつけるって……」
「まあ、戦って勝て。それでいい。勝負は模擬剣で行う。
命の危険はないが気をつけろよ」
「……ちょっと、本気で受けるの?」
「まあ、ここで信用を獲得したほうが今後便利でしょ」
「カイトさんって、意外と打算的というか……現実的というか……」
「第一、私たちはアンタがギガ・マンティスを倒したことがまだ信じられないんだけど?
本当に一人で倒したの?手練れが数人がかりで倒したっていうのは聞くけど」
「ま、信じろと言われても証拠もないし仕方ない。まあ、行ってくる」
カイトはカザンに連れられ、ギルドに隣接する訓練場に移動した。
そこにはこちらを睨む傭兵集団が10人程。この戦いのことを知っていたのか、ギャラリーもいた。
一見カイトより体格も良く実戦経験も上であり、実際そうである。
しかしカイトには確信があった。「勝てる」と。
魔物と違い名前やステータスは分からないが、俗にいう気迫のようなものを感じる事ができた。
目の前の傭兵達は自分より弱いと直感的に感じたのだ。
スキル【直感】と【気配感知】の賜物だ。
「……じゃあ、始めようか?」
「舐めて余裕ぶってると痛い目見るぞ?ガキ。盗品でイキってんじゃねえよ!!」
傭兵達が模擬剣を一斉に構える。
「ちょ、1対10!?流石に反則でしょ!?」
ギャラリーに回っていたステラが文句を言う。
「本当に彼がギガ・マンティスを単騎で倒したのならあの程度誤差の範囲さ」
そしてそれを諭すカザン。
実はカザンは一目見た瞬間にカイトは強いと感じていたのだ。
そして、傭兵達がカイトに襲い掛かる。
「「「「くたばれええええ!!」」」」
対するカイトは腰に差していた模擬剣を捨て、両拳を握りしめる。
「……試させてもらうぜ。【武術家】……そして特殊スキル【身体強化】」
特殊スキルとは、任意で発動できる時間制限つきの魔法とは似て非なるスキルである。
今回の場合、名前の通り身体能力を上げるものである。
そこからは一方的だった。
カイトの拳は的確に傭兵達の腹部や顔面に吸い込まれていく。剣戟の尽くを避けきり、最後の一人は胸に蹴りを食らわせダウンさせた。
「……すげえ、あの数を一人で……」
「しかも全部一撃だったわよ……どこがFランクよ……」
圧倒的な展開にギャラリーは静まり返る。
カイトは【身体強化】を解除し、カザンの方へ向かう。
「これでいいだろ?」
「あぁ、十分だ。むしろやりすぎかもな。
それとこれは詫びの印だ。受け取れ」
カザンはカイトに筒状に丸められた紙を渡した。
「これは……
……!?」
カイトが紙を開くと、紙は発光し霧散した。
「特殊な付与魔法でな。お前のランクが上がった印だ。
ギルドカードを見てみるといい」
言われたとおりにギルドカードを見てみると、Fの文字が消えEの文字が刻まれていた。
「規定で決められているからランクは一つしか上がらんが、史上最速記録だ。
おめでとう、カイト。これからも活躍してくれよ?」
そう言い残しカザンは去っていった。
その後カイトは「何で強いのに黙っていた?」とパーティーメンバーに問い詰められた。
カイトは適当に流し、自分にレベルがあるのに驕るのはいけないと思い始めていた。
何故なら、カザンからは自分より強い気迫を感じていたからだ。
カイトは一つ戦う者として成長した。