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天使と悪魔

「あれ?ここどこだ?」

気がつくと公正は辺り一面真っ暗の不思議な空間にいた。何も見えないし、何も聞こえない。まさに漆黒の闇…。と厨二ちっくに決められる位の闇だった。

だが、その沈黙は突如破られることになった。

「やぁ、初めましてだね。」

「っつ!誰だ!?」

どこからか聞こえる声に公正は体を強張らせた。その声は口調が軽いにもかかわらず、まるで地響きのように威圧感がある低い声だった。

「あ、そうだった。いまの君には私の姿は見えないんだったね。私の名前はアモン。あーあぁ、ちゃんと君の目の前にいるんだけどなぁー。」

バイクのエンジン音より低いんじゃなかろうかというような声で一人称が私だと威厳もへったくれもねぇな!と公正が心で呟くと、

「あれ?声もちゃんと聞こえてないの!?おっかしーな?私の声って悪魔界でも一二を争うくらいの美しさなのにぃー!」

あれ?こいつ人の心を読みやがる…。どーなってんだ?


よーし。落ち着け。取り敢えず整理しよう。


いま俺は暗い不思議な空間にいる。

まあ、夢か何かだろう。よし、OK。


いきなり聞こえた超低音ボイス。

まあ、ダンディーなおっさんがおれの夢に出てきたのだろう。んーまあ、OK。


そのおっさんの声は心を読んできた。

ん?エスパーなのかな?マジックのひとつかな?まあ、いいや。OK。


悪魔界。


うん、無理だわ。

アモンなんて悪魔っぽい名前つけちゃったみたいだけど信じられる訳がないよ!

しかももう一回言うけど一人称私だからね!?口調もまんま女の子だし!!あっち系の近寄りがたいおっさんだよね!?需要ないからね!?

公正の頭はオーバーヒート寸前だった。


「おいおい!私はおっさんじゃないしエスパーでもないよぉー!しかも悪魔界ちゃんとあるし!!てか私が悪魔だし!!」

「いやだぁー!!俺の心を読むなぁー!!話しかけてくんなぁー!!」


ーーーーーーーーーーーーーー


「ぃやめろぉー!!」

「きゃあ!!!」

聞こえたのは超低音ボイスではなく、聞き馴染みのある声だった。そして辺り一面の暗闇はなく、赤みがかった朝日が部屋に差していた。そこはマンションの一室のようだった。公正がいた部屋にはベットしかなく、なかなかに殺風景な部屋だった。それでもあの暗闇よりはマシだと安心して息を整えた。

「はあっはあっ…よかった…。」

そんな部屋で起きた公正は先程まで見ていた悪夢の影響だろうか、汗だくだった。

「こ、こーせい…??」

「っ!律!よかった!無事だったんだな!」

公正は律を見つめ、昨日のことを思い出していた。幸いにも大怪我をしたのは公正だけで、律にはかすり傷程度の怪我しかしていなかったらしい。

そして看病をしてくれていたと思われる律を見るなり更に安心して、がばっ!と抱きついてしまった。

「ふぇっ…!?ち、ちょっ…!こーせい!?」

「ごめんな。俺が守ってやれなくて。俺が弱かったから…」

公正の顔が律の胸に埋まっているが公正は気づかない。

「んっ…あっ…!だ、大丈夫だからっ…!う、腕を…んぁっ…!!」

「俺が守ってやらないといけなかったのに…、男なのに…。」

「ふ、ふぁぁっ!お、おっぱいぃ…当たってるからぁ…。」

「えっ…あ!す、すまん…。」

公正は抱きしめた腕を離す。二人の間によそよそしい雰囲気が生まれ、気まずくなる。そんな中公正が手のひらをぐっぱぐっぱしていると、顔を真っ赤にした律が頬を膨らませ、ジト目で見てくる。律は怒るとよくこの表情をするのだが、それが何とも愛らしいのでたまにわざと律を怒らせることもある。

「やっぱりお前ら二人は仲いいんだねぇ。」

そんな雰囲気に割って入ってきたのはあの時助けてくれたあの男だった。

「さあて、反田君も起きたところで 改めて説明といこうか。」


「取り敢えず自己紹介をしよう。僕は詩島広大(しじまこうだい)。32歳の独身で、この組織のでは幹部の一人として働いている。まあ、気軽に名前で呼んでくれて構わないよ。」

「あ、じゃあ広大さんで…。」

「うん!よろしく!公正!」

広大はその強面に似合わずとても気さくな人だった。例えるならそう、お父さんのような感じだった。

広大が気さくな笑顔を公正に向ける中、律はひとり険しい顔をして広大に尋ねた。

「あのっ!組織って何なんですか?」

少し食い気味な律に広大は少し驚いた様子だった。そして気さくな笑顔をやめ、真剣な面持ちで公正と律を見つめた。

「興味を持ってくれて嬉しいよ。じゃあ少し長くなるけど、ちゃんと聞いておいてくれよ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


20年前のことだった。この頃、一部の人間の体に異変が起こるという現象が世界のあちこちで見られるようになった。その異変は異能と呼ばれ、異能を発現した人は"ハーム"とよばれ、恐れられるようになった。異能は感情の起伏によって安定したり、暴走して人を傷つけたりする。人々は触らぬ神に祟りなしと言うようにハームを避け、忌み嫌っていた。


広大もそのハームのうちの一人だった。

12歳で異能を発現した広大は例の如く避けられ、親にまで捨てられる始末。だが、自分が人の迷惑になることがわかっていた広大は一人になることを選び、人気の少ない森の中で生きていこうと思っていた。

しかし、その決意はある一人の男によって笑い者にされた。その男の名は桐島亜澪(きりしまあれい)といい、広大と同じくハームであり、広大の従兄弟だった。

「一人でひっそりと生きていくだぁ!?ぶわはははは!バカ言ってんじゃねーよ!!こんなにすげー力があるんだぜ!?生かさなきゃ損じゃねーか!!」

亜澪は明るく活発的だった。持ち前のその性格を生かして亜澪はハームを保護することの出来る施設をたった2年で作り上げてしまった。広大は14歳、そして亜澪は21歳での出来事だった。そこから亜澪は組織の代表として、そして広大はその下の地位に着き、今までに渡りハームを保護してきた。


「ーーーと、まあ組織の説明についてはこんなとこか。」

「広大さんにそんな過去が…。」

「そんな優しそうな性格も九分九厘ヤ○クミか金○先生の指導の賜物だと…。」

「…お前達絶対顔で判断したろ…?」

広大が二人をジト目で見つめる。顔が怖い割にいじられキャラが定着しているようだった。


「…んんっ!話を戻すぞ?」

逸れてしまった話を戻すために広大は小さく咳き込んだ。そして妙に神妙な面持ちで二人にこう話しかけた。

「今から話すのは異能の原因についてなんだが、話が飛躍しすぎてしまうからちゃんとついてきてほしいんだ。」

広大は少し顔を赤らめながら尚も神妙に語りかける。


「実は、異能の原因となっているのは…。」

公正と律はゴクリと唾を飲んだ。


「…女の子なんだっ!!」


……はっ???


公正と律の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。

異能の原因を女の子だと真剣な表情で言う32歳独身強面男性に、ある男は同情の視線を、そしてある女は軽蔑の視線を送るしか無かった。


「ね、ねぇ。こーせい?と、取り敢えず病院連れていった方がいいのかな…?精神科でいいのかな…?」

律が色を失った瞳で広大に視線を浴びせ、侮蔑の篭った口調で言う。

「お、おい!律!多分このおっさんは童貞こじらせて変な妄想してるだけだ!独身って言ってたしな!だからそんな汚いものを見る目で見てやんな!病院連れてくなら総合病院が一番いい気がする!知らんけど!」

「…さ、散々な言われようだね…。しかも童貞って…。」

二人に変態認定された強面のおっさんは斜め上を向きながら涙ぐんでいた。騒ぎが収束するには時間が必要と思われるほどだったが、


「はあ、お主はいつもいつも一言も二言も足りんのじゃ。いつも言っておるじゃろ?」


聞き覚えのない声によって一気に静まった。その声はとても透き通った上品な声で思わず聞き入ってしまいそうになる美声だった。

その声はやがて女の子の姿となり、ふわりと公正と律の目の前に降り立った。

「我が名はマルコシアス。ルシアと呼んでくれて構わんぞ?よろしゅうなぁ。」

二人は驚きを隠せない様子で口を餌を得た鯉のようにパクパクさせている。

現れた女の子、ルシアはさながら大人の女性という感じで、古風な喋り方からは想像もつかないほど綺麗な女の子だった。そして胸には何とも立派なメロンが二つ、堂々と鎮座していた。しかも女の子の格好はコスプレイヤーのような大胆な格好だった。自然と公正の目線が胸に釘付けになる。だがルシアはそんなのおかまいなしに踵を返して広大に詰め寄り、頰をつねった。

「お主はもう少し国語と言うものを勉強したほうがいいぞ。これでは妾達はただの変態じゃ。」

「い、いひゃい!いひゃい!やめへ!」


正直とてもシュールな光景だった。側から見たら強面のおっさんがグラマラスな女の子に躾されているようにしか見えなかったのだ。

するとルシアは頰をつねりながら、

「舌足らずな説明しか出来ない大ちゃんに代わり、妾が説明してやろう。」

あ、大ちゃんで呼ばれてるんだこのおっさん…と突っ込む間もなく、ルシアは公正の寝ているベットに腰掛け、話をしだす。

「先程紹介した通り、妾はマルコシアスという。そして妾はお主ら人間とは違う、悪魔じゃ。」

「「あくまぁ!?」」

二人して同じ反応をしてしまうのは幼馴染ならではのことだった。

「そう。妾は悪魔。ほら、ツノが生えておるじゃろ?」

「わわっ!ほんとだぁ〜!」

律がルシアのツノをまじまじと見る。ツノは仰々しい感じではなくなんというか可愛らしいと言った方が正確だった。公正から見ると如何にも怪しく思えた。

「まあ、ツノだけで悪魔と信じてもらえるかはわからんが、お主らが異能と呼ぶ力。あれらは妾達悪魔の力を人間が行使しているだけにすぎん。じゃから異能の原因というのは妾達悪魔が人間に取り憑くことなのじゃ。」

「ち、ちょっとまって。悪魔が本当にいたとして、悪魔はなんで人間なんかに取り憑くの!?」

律がルシアに尋ねる。ルシアは少し険しい顔をして、

「人間の持つ感情の豊かさ。これが問題なのじゃ。」

ルシアは続けて語る。

「悪魔というのは長年の間、天使と争いをしてきたんじゃ。じゃが天使と悪魔との間には大きな力の差があうったんじゃ。その原因は神の加護があるかないかじゃ。」

「神の加護?」

「そうじゃ。天使は神の使徒。加護を受けるのは当然じゃろう?神の加護というものはそれはそれは強力なものでな。加護を受けた天使は妾達悪魔の何倍も強かった。そのせいで天使の群勢は一向に数が減らないまま悪魔の群勢は約半分まで減らされてしまったんじゃ。」

「なるほど、そこから悪魔は神の加護に打ち勝つための手段として人間に取り憑いたんだな?」

「おおっ!理解が早いな!大ちゃんとは大違いじゃぞ!!」

公正はめちゃくちゃに頭を撫でられた。しかも抱き寄せる感じで撫でられたので、顔を胸に埋める形になってしまった。満更でもない顔をしている公正を見つめて少し不機嫌になって頰を膨らませる律はマルコに、

「こーせいまだ完治してないんで!離れてくださいっ!」

と、叫ぶとルシアは察したかのように公正と律をニヤニヤと見つめる。

「わかったわかった。嫉妬は見苦しいぞよ、律よ。」

「んなっ…!しっ、嫉妬なんかしてません!!」

律はまるで完熟トマトのように顔を真っ赤にして目を(><)のようにして叫んだ。

公正は口論になるといけないと思い、話題を戻した。

「で、でも人間に神の加護に対抗できるようなものがあるのか?」

「それがあるんじゃよ。悪魔の秘密兵器が人間にな。さっき人間の持つ感情の豊かさが原因と言ったじゃろ?悪魔は人間が負の感情を抱く時に生まれるエネルギーを体内に取り込んで力を手に入れるのじゃ。異能を持つものに犯罪を犯すものが多いのもこれが理由じゃな。」

「で、でも広大さんは普通にいい人じゃないっすか!」

公正が食い気味に主張する。

「くっふっふっふ!かくいう妾もちゃーんと負のエネルギーを取り込むために大ちゃんに取り付いたんじゃぞ?まあ、エネルギー取り込む前に大ちゃんの熱い説得でエネルギーを取り込むのを止めてしまったんじゃがな。」

「そ、そうだったんすか…。」

「ま、まあそんなこともあったな…。」

なんだか気まずそうに広大は目線を逸らす。その仕草に公正が首を傾げていると、

「くっふっふ…大ちゃんが妾を説得する時のセリフ…かっこよかったのぉ…。」

ルシアは目をかまぼこのようにして笑う。

「お、おいルシア!それ以上言うなよ!絶対だぞ!俺の威厳が保てなくなる!」

「その点に関してはもう手遅れかと思うが…まあいいじゃろう。」

え…手遅れ…?と膝から崩れ落ちる広大を無視して続ける。

「一応じゃが、お主ら二人の中にも悪魔はいるんじゃぞ?」

その言葉に公正は公正は何故か心当たりがあった。そう、朝見ていた夢だった。胡散臭いとは思っていたものの、ルシアが存在している以上可能性はないことは無いとおもったのだ。

「なあ、その悪魔って夢に出てきたりすんのか?」

「無論じゃ。むしろ夢の中が悪魔と取り憑かれた人間とのファーストコンタクトだと言ってもいい。まあ、こんなことを聞いてきたということはもう公正は自分の中の悪魔に既に会っているという解釈で構わないかの?」

「あ、ああ。会ってる…と思う…。けど俺が会ったのは多分男だぞ?声とか超低音だったし。」

「むむ…?おい公正。その悪魔からは名前とか聞いておるか?」

「え…?確か…アモン。そう!アモン!」

「な…な…なんじゃとぉぉぉぉぉ!!??」

ルシアは目を見開いて驚く。その光景と叫び声に広大と公正と律はさらに驚いた。

「ほ、本当にそう名乗ったのか!?」

「え?あ、ああ。なんかすっげーぶりっ子みてーな話し方だったぞ。声おっさんなのに。」

「モノホンじゃぁー!モノホンの魔王様じゃぁー!」

「はぁ!?魔王様!?」

「そうじゃ!まさか魔王様まで人間に取り憑いていたとは…世も末じゃな…。」

「な、なあ一つ聞きたいことがあるんだけど。」

「うん?なんじゃ?」

「アモンってさ…おっさんだよね?」

「戯けた事を抜かすでない!!」

ルシアは血相を変えて怒鳴った。

「魔王様はな!それはそれは美しいんじゃ!!お主なんかとは全くもって釣り合わんほどにな!お主にお声もお姿も捉えられないのは魔王様の魔力が強すぎて常人には捉えきれんからなのじゃ。」

「そうだったのか…。すまん。お前の主人を悪く言っちまって。」

「ふん!分かれば良いのじゃ!」

広大も必死に宥めていたのが功を奏したのかルシアは意外と素直に許してくれた。

「じゃが、流石に声くらいはちゃんと聞こえるはずなんじゃが…。魔王様があれ以上強くなることは有り得んしのう。ともすればこーちゃん、お主の魔力適性がとてつもなく低いのかもしれんのう。」

「さり気なくこーちゃんって呼ばれたのも気になるけど…。魔力適性ってなんだよ。」

「お主ら人間が扱える魔力の絶対量ってとこかの。そんでこーちゃんって呼んだのは呼びやすいからじゃ。」

公正は二つに対して納得をした。後者は無理矢理だったが。


と、そこに割って入ったのは律だった。

「あ、あのー。私も夢に出てきたんですけどー。」

「そうなのか!?誰じゃ誰じゃ!?」

うわ…グイグイくる…と律が思ったのは言うまでもない。

「え、ええと…確か…サタンとか…。」

「前魔王様じゃぁー!!なんなのじゃ!お前ら二人どーなっとるんじゃ!」

「どーなっとるっていわれても…。」

ルシアが床でじたばたしているが、ベットに寝ている公正には見えない。あとちょっとで淫らな姿が見えるのに…と唇を噛む公正に律は頬を膨らませていた。

そこに今まで黙っていた広大が入ってくる。

「公正、律。超恐ろしい悪魔を宿す君たちにお願いがあるんだけど聞いてもらっていいかな?」

「お願い?あ、あの時言ってたやつですか?」

「そうそう。」

そうすると広大は頭をぺこりと下げて、

「うちの組織の"異能犯罪対策部(PHI)"に入って欲しいんだ。」

「「PHI??」」

二人は揃えて頭を傾げた。

「ああ、異能に目覚めた犯罪者がいつ一般人を襲うかわからないからな。時には相当手強い犯罪者もいるかもしれない。そんな奴らをまとめて退治して保護するのがPHI、Protect Harm Institutionの仕事だ。」

広大が簡潔に説明してくれた。

「ってことは、俺たちがそれに入ったら俺たちがあの時みたいな犯罪者を退治するってことっすか?」

「そういうことになるね。」


公正と律は黙ってしまった。広大がこのような相談を持ち掛けてきたという事は、公正と律の実力を買っているという事だと二人は分かっていた。しかし、二人は即答できなかった。

昨日までずっと普通の高校生をやっていた二人でもこの案件が命に関わる事だと理解出来たからだ。

「戸惑うのも無理はないよ。僕達のいるこの界隈は恐ろしいことで溢れてる。だから無理にとは言わない。」

広大が気遣い、黙りこくってた二人に言葉を掛けた。だが、公正はこの命に関わるかもしれない案件を受けるつもりでいた。なぜなら、

「やります。私、異能犯罪者はとっても怖いけど、二度とあんな思いしたくない。あんな思いしなくて済むような力が欲しいです。」

律がやるって言うと思っていたから。

公正には"あんな思い"というものがどんな思いかはよく分からなかったが、律がやる確信はあったのだ。

「公正。おまえは?」

「俺もやります。正直怖いですし、律にはやって欲しくないと思ってたけど。律はすぐに無茶をしやがりますから。」

公正はがしがしと頭をかいてそう言うと律が頬を膨らませ、ジト目で睨んでくる。その視線に気づかない振りをしていると、

「決まりだな!今日から二人はPHIの仲間入りだ!」

広大が何とも安心した顔で言った。

「で、俺たちって何やればいいんすか?」

「二日後にPHIの新人で能力テストってのがあるんだがそれを受けてもらうことになるな。まあ、それまでは自由時間だ。あ!でも公正は絶対安静な。」

「まあ、分かってましたけど…。でもあと二日で俺の傷治るんすか?肋が吹っ飛んだって聞きましたけど。」

「普通は無理だな。けど、おまえは特別だよ。」

「特別?何がっすか?」

「お前の悪魔の力だな。治りが早くなってる。てか、肋吹っ飛んでたら普通まだ喋れてないぞ。」

「まあ、そうっすよね。」

「てことで、二日後の正午にはここに来いよ。午後一時位にはテスト始まるからな。」

あーい。と気の抜けた返事をする公正を他所に律が大事なことに気づいた。

「ん?二日後って平日ですよね?学校はどうするんですか?」

「あー言うの忘れてたな。やらかした…。」

広大は額に手を当てて俯く。

「色々面倒だしこれから忙しくなるってこともあるから…言いにくいんだけど学校は辞めてくれると助かるなぁ。」

公正と律にとって学校は正直どうでもよかった。二人いつも仲が良く、一緒にいることもあってかからかわれることが多く、決して居心地がいいとは言えなかったのだ。

「分かりました。勉強にもうんざりしてたところですし、ぱっぱと辞めてきますわ。」

公正がそう言うと律が続けて、

「戦う覚悟も出来ましたし、後悔はありません。」

そう言うと、広大は破顔した。


ーーーーーーーーーーーーー


「そういえば組織のトップの人に挨拶とかしなくていいんですか?桐島亜澪さんでしたっけ。」

普段から礼儀正しい律がふとそんなことを思い出す。

「……ああ、大丈夫だよ。礼儀なんてクソ喰らえみたいな人だからね。それに近いうちに会えると思うよ……。」


少し広大の表情が暗くなった気がした。

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