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謎の男

 自分が自分じゃない感覚に囚われていた。

 まるで自分の体を他人が操作しているかのようだった。

 自分はただ、薄暗い海の中にゆっくり沈んでいく感覚だった。


 律は予感していた。この薄暗い海の底についてしまったら、もう正気に戻ることはないのだろうと。

 律は考えていた。自分の体を誰が好き好んで動かしているのだろうと。

 律は怒っていた。私の体は私のものだと。誰かの力で動いているこの体を私が奪い返してやると。

 律は決心していた。私が公正を守ると。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 薄れゆく意識の中、公正はその光景を必死に見つめていた。涙を流し、鋭い目つきで大男を睨む律のその表情を公正は今まで目にしたことがなかった。だが、大男が見つめていたのは律の表情でなく、律の纏う青黒いオーラだった。大男は先ほどの表情から打って変わって、焦りや困惑の表情を浮かべていた。公正の目から見ても禍々しいオーラは周りの空気を一瞬で緊張させた。律はそんな青黒いオーラをなびかせて、大男との距離を一気に縮めた。それはまるで時間が飛んだかのように一瞬のできごとだった。

「ひっ…!」

 間抜けな声を漏らしながらのけぞる大男の鳩尾にすかさず律はパンチを入れる。ズンッとパンチの音とは思えないような音を響かせる。のけぞっていた大男はくの字に折れ曲がり、呼吸ができなくなって苦悶の表情を浮かべていた。律はうずくまっている大男の髪の毛を持ち、体を起こすと、拳に力を集中させて大男の顔面をこれでもかというほどにぶん殴った。メキョッという嫌な音と共に大男は10メートルほど飛ばされ、地面に突っ伏していた。白目を剥き、ただビクビクと痙攣することしかできなくなったそれに律が止めを刺そうとしていた。

 公正は大男を派手に殴りつける律の表情を見つめていた。顔が腫れてしまってうまく目を開けられないのだが、その表情は冷酷であることは確認できた。公正は今まで見たこともない表情に驚きながらもなぜか()()()を覚えていた。

 律が右手に力を籠め、まさに止めを刺す瞬間だった。それを止めようとしたかのように一台の黒塗りの高級車が現れたのだ。

「派手にやってるねぇ。僕も混ぜてくれないかな?」

ドアが開いて現れたのは黒いスーツを着た強面の男だった。ヤクザの一員だと言われたらすぐに納得してしまいそうなほどの威圧感だったが、その声からは少し優しそうな雰囲気も感じ取れるような不思議な男だった。

 すると律は力を込めた右手の拳を解き、

「あんタもカ…」

律が濁った声で男に話しかけ、そして大声で威嚇する。

「あんタもコーセイヲきずツけるノか!!!」

「違うさ。僕は君たちを助けに来たんだよ」

律は大男に向けていた表情と同じものを男に向ける。しかし、男は全く動じることなく淡々と律に話しかけた。

「僕はある組織の責任者でね。君のように特別な能力に目覚めてしまった子を保護したり、能力を悪用する犯罪者を取り締まったりしているんだ。けど君を保護するのもは骨が折れそうだね。まさかあそこまで悪魔に体を支配されていながら、自我を取り戻すとは思わなかったよ」

男はスーツのジャケットを脱ぎ、袖をまくった。すると男は全身から紅色のオーラを出し、律を見据えた。男のオーラは律と比べ、殺意がなく落ち着いているような印象を受ける。

 男がオーラを出したことに反応してか、律は男の顔面に拳を入れようと懐に入り込み、大きく振りかぶってぶん殴った。

 …が、男は先ほどの大男のように吹っ飛ぶことはなかった。それどころか人差し指一本で受け止めてしまったのだ。男はその様子にひるんだ律の首の後ろを手刀でトンと叩いて気絶させてしまい、律の青黒いオーラは律が気絶するとともに霧散してしまった。あまりにも衝撃的なことが短時間で起きてしまったせいか、息をするのも大変であるにもかかわらず公正は息をするのを忘れていた。その反動でせき込んでいると気を失った律を抱えた男が公正のもとへと近づいてきた。もちろん今は男もオーラを纏っていない。

「君とこの子は僕たちの組織へ来てもらうよ。君の怪我をすぐ治せるし、いろいろと説明しないといけないしね。実際わからないことだらけだろう?それにお願いしたいこともあるからね。」

公正はすべてを聞き終える前に体の限界を迎えたのか、意識を失ってしまった。



ここまでがプロローグでもいい気がしてきました。

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