全ての始まりの朝
俺は後悔を繰り返していた。
もっと力があれば、あいつがあんなに体を張る必要は無かった。
もっと力があれば、あいつにあんな思いをさせることはなかった。
最初はあいつを守るために必死に力を求めてた。
いつからだろう、俺が力に溺れていったのは。
いつからだろう、力が俺を蝕んでいったのは。
俺はあの日の過ちを思い返した。
そう、あの全ての始まりの朝のことを。
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「・・・きて・・。・・・こーせい・・・。・・・起きろぉ!!」
「ごはぁっ!?」
すやすやと寝ていた高校二年生の反田公正は怒号の主と思われる可憐な少女によって起こされた。そのあとに聞こえる嗚咽から察するに可憐な少女に似つかわしくない起こし方だったようだが。
「あっ!やっとおきたぁ~!早く準備しないと遅刻するよ?」
「ぐっふっ…相変わらずひどい起こし方だよな…」
公正は顔を青くしておなかをさすっている。
「それは公正がすぐに起きないからでしょ?」
ベットに寝ている公正にきれいなかかと落としを炸裂させたこの少女は津島律といい、いつも公正を起こしに来てくれる幼馴染だ。面倒見がよく、律が毎朝起こしてくれなければ公正は相当な遅刻魔になっていただろう。しかし今日ばかりは起きるのが遅れていたようだった。
「…ってやっっべ!!もうこんな時間かよ!おい律! 俺の事なんか気にしてないで早く学校行ったらどうだ?」
「大丈夫だよ。まだ間に合うし。それに二人で準備したほうが早く終わるでしょ?」
「それもそうだけど…」
「ご飯用意してあるから早く着替えて降りてきてね?後の準備は私やっとくから」
「…なんかお母さんみたいだな」
「う…うるさい!早く降りてこないと朝ごはん抜きだからねっ!!」
まさにツンデレのテンプレートのような口調で照れ隠しして、部屋の扉が勢いよく閉まる。
公正の家には両親はいない。そのため、家事全般を行うのは公正なのだが、よく律が手伝いに来てくれる。しかし公正は律がいないと遅刻してしまうほど寝起きが悪いので律が朝公正を起こしに来るついでにぱぱっと朝ごはんを作ってしまうのだ。
公正は急いで制服に着替え、ダイニングへと向かう。朝日の差し込むテーブルには白いご飯とみそ汁、そしてハムエッグが白い湯気を上げていた。
「「いただきます」」
二人同時に挨拶を交わす。遅刻寸前という今の状況を忘れてしまいそうなほどうまい。ふうふうとみそ汁の熱を飛ばしているとテレビを見ていた律があるニュースをじっと見て箸を止めていた。
「…律?」
「……え?」
「遅刻するぞ?」
「あっ…そうだったね」
何事もなかったかのように箸を動かし始める律に少し違和感を感じた。親の次に一緒にいる時間が長いのだ。わずかな表情の曇りもすぐにわかってしまう。
「なんかあったのか?」
「ふぇっ!?」
意表を突かれたのか人間とは思えないような声を出す。
「なんかあるなら言えよ?ちゃんと相談乗るから」
「う…うん…。あのね?なんかあのニュース見てたら嫌な予感がして…」
「嫌な予感?」
律が見ていたニュースというのは今世界で起きている異変のことだ。その異変とはある刑務所での脱獄囚の増加のことである。しかしただの脱獄ではない。どれもこれも人間ができないような方法で脱獄が起きているという点が問題なのだ。
最近の事件では鉄格子が無理矢理破られ、道具を用いた形跡がなかったという。そんな異変に反応してか、凶悪な犯罪者も増えているというのだ。
「なんだか私たちもこんな事件に巻き込まれる気がしてさぁ…」
「どういうことだよ」
「脱獄してきた囚人に襲われる…とか?」
「そんなことあるわけないよ。考えすぎだって」
「そうかなぁ…」
「ってか時間やばいぞ!?早くいかないと遅刻しちまう!」
「あ…!うん!」
公正と律は白いご飯をみそ汁で流し込み、学校へと急いだ。
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「ほら、はやく!遅刻しちゃうよ!?」
「わ、わかってるよ!」
律の制服のスカートがひらひらと舞う。見えそうで見えないのがなんとももどかしい。そう思いながら公正は律の下半身に目線ちらちらと送っていると、律がいやらしい視線に気づいたのか冷ややかな目線を送り返してくる。気まずそうに目線をそらせば、なぜか律は公正の隣を真っ赤な顔で頬をパンパンに張って走っていた。冷静を装って公正は「どしたの?」と聞くと、
「前走ってるとパンツ見られちゃうから…」
「あ…あの…すまん…」
どこからどう見ても幸せそうな光景。この光景に悪の手が首根っこをつかもうとしていることなど二人は知る由もなかった。
初投稿です。今はまだタイトルと内容がかみ合いませんが次もみていただいければ幸いです。