死の森の惨劇
「・・・巡回していた村人はここで襲撃された。」
村を出立してから一時間ほど経った場所。村人が襲撃された地点に討伐隊は到着した。
「村からかなり近いな。・・・これは早く見つけないとマズいことになるかもな。」
「・・・でも、どこに行ったのか・・・。」
周囲を見渡しても、賊に関する手掛かりなど何もなかった。討伐隊を重苦しい空気が包む。
「・・・隠れられそうな場所と言えば、死の森しかないよね。」
ティックは何気なしに、賊が潜伏しそうな場所を呟く。
「ああ。賊がまだこの近くにいるのなら、の話だけどな。」
「・・・死の森・・・か。確かに、隠れるにはもってこいの場所ではあるが・・・。」
「だが、あそこを探すとなると、他の動物にも気を付けなければいけなくなる。・・・厳しくないか?」
死の森には危険な野生動物が生息している。獲物を獲りに行くのでさえ細心の注意を払わねばならないのに、腕の立つ賊を探すとなると色々な意味で神経を使う。村人の一人が不安を口にするのも当然だった。それだけ死の森の探索は厳しいのである。
「そうだぜ。あんな危険な場所に逃げ込むなんてしないと思うぞ。どこか別の場所に逃げたか、もし森に逃げ込んだとしても、とっくに他の動物にやられてるかもしれないぞ?」
「いや、逆にそんな危険な場所だからこそ、潜伏場所にしている可能性もある。・・・賊は、腕も立つ上、統制も取れた連中だ。簡単に死ぬとは思えない。」
「・・・。」
沈黙が一同を支配する。しばらくして、意を決してミーアは言葉を発する。
「・・・死の森を探索しましょう。ただし、日が暮れる前に撤退すること。これは絶対です。」
ミーアは死の森の探索を決断し、全員にそれを伝える。それを聞いた村人達は、険しかった表情が更に険しくなるのだった。
「・・・これは・・・!」
森に入った討伐隊は、その惨状に絶句した。森の中には、動物や凶暴な生物の死骸で溢れていたのだ。
「・・・ウルフにコブラ・・・それに、大熊も・・・!こんな危険な動物が、こんな大量に・・・?」
「・・・ザックス、これ・・・食人虫・・・だよね・・・?」
「・・・ああ。・・・しかも、あそこには軍隊蟻の死骸もある。」
軍隊蟻は、食人虫並みの大きさの蟻である。食人虫ほど頑丈ではないものの、食人虫より大量の群れで行動して襲ってくる危険な虫である。村の人間も、軍隊蟻を見かけたら逃げろとまで言うほどなのだ。
「・・・どうやら、賊はこの森にいると見て間違いないな。・・・しかし、これは・・・。」
「想像以上・・・ですね。私達でも、これだけの数を狩るのは・・・。」
ミーアとリクは、森の動物達の虐殺された姿を見、改めて恐ろしさを感じていた。自分達が力を合わせれば、狩ること自体はできなくはない。だが、それは単体であったり、数が少ないことが前提である。これほどの数を狩るなど、彼らでも不可能である。
「・・・ミーアさん。このまま探索をするのは危険だと思います。政府に連絡を取って、部隊を派遣してもらいましょう。」
「それは・・・。」
ミーアは悩んだ。村人の意見ももっともである。これほどの敵を自分達だけで相手などできない可能性が高い。だが、政府の部隊を待っている間に村を襲撃してきたら、防ぎ切れる自信はない。それに、いくら村長のアムンゼンが大統領と友人だからといって、来てくれるかどうかは分からない。それだけ政府は人手が足りていないのだ。
「・・・。」
討伐隊の被害を出したくないという想いと自分達だけで解決しなければいけないという想いで板挟みになるミーア。そんなミーアの姿に、誰も言葉をかけられる者はいなかった。