番外編 悲しきキメラフレンダー
本編とは関係ない話です。あのボスキメラが何だったのか、それが少しだけ分かります。
【きょう、キメラがうまれた!かわいい!なまえをつける!なまえはね、フレンダー!】
【フレンダーはあたまがいい!ぼくのいうことわかるんだ!ほかのこともなかよくなりたいな。】
【おとうさんに、キメラとあそんじゃだめだっていわれた。どうして?フレンダーはあんなにいいこなのに?おとうさんなんてきらいだ!】
【おとうさんのいうとおりだった。ほかのこは、ぼくをたべようとした。でも、フレンダーがぼくをまもってくれた。いっぱいけがしたのに。おとうさんがきて、たすかったけど、すっごくおこられた。キメラはみんなころすっていわれたけど、フレンダーだけはころさないでってひっしにたのんだ。フレンダーはぼくをまもってくれたから。いろいろいわれたけど、フレンダーはころさないでもらえた。ごめんなさい、おとうさん。ありがとう、フレンダー。】
【フレンダーのけががなおった。ごめんね、フレンダー。でも、フレンダーはやさしくぼくをなめてくれた。くすぐったいよ。おとうさんもおじさんたちも、わらってる。なんだかくうきがあたたかくなったきがする。】
【フレンダーはみんなのにんきもの!おとうさんもおじさんたちも、みんなフレンダーがだいすき!ぼくもだいすき!フレンダーも、みんながだいすきみたい。なかよくなれて、よかった。】
【フレンダーは、いま、おとうさんのおしごとてつだってるの。えらいね。ぼくもてつだいたいな・・・。でも、ぼくはこどもだからまだだめだって。フレンダーがうらやましいな~。】
【フレンダーがおじさんたちにおやつをもらっていた。そしたら、ぼくにわけてくれた。フレンダーはだいじなともだち!ずっといっしょにいたいな。】
【おとうさんがしょちょうさんにほめられたんだって!だから、きょうはフレンダーといっしょにごちそうたべるんだ!おとうさん、だいすき!】
【きょう、あたらしいおじさんがきた。おとうさんたちのおしごとのおてつだいにきたんだって。でも、フレンダーがおびえている。どうしてだろう?】
【おとうさんのおしごと、うまくいってないんだって。だいじょうぶかな・・・?あたらしくきたおじさん、フレンダーとなかよくなろうといろいろしてる。でも、フレンダーはなついてない。どうして?】
【しょちょうさん、しばらくかえってこないんだって。だから、カーツおじさんがしょちょうさんになるの。でも、カーツおじさんはいつもイライラしてて、こわいな・・・。】
【・・・なんだかフレンダーのようすがおかしい。おちつかないみたい。どうしたんだろう?】
【フレンダーがおかしくなっちゃった!あんなにおおきくなって!あばれて!どうして!?おとうさんは、しせつをばくはするっていってた!そんなのいやだ!フレンダーをころさないで!・・・ねえ、フレンダー、ぼく、もっといいこになるから・・・だから、めをさまして!】
【息子が、新しく生まれたプラントキメラの子供を可愛がっている。プラントキメラは温厚なキメラだが、実験動物であることに変わりはない。息子には近付かないよう注意しなければ。】
【息子が実験用のキメラに殺されかけた!あんなに言ったのに!キメラを殺処分しようとしたら、息子に泣いて止められた。プラントキメラの子供を殺さないでほしいと。・・・このプラントキメラの子供は、息子を守ったらしい。不安はあるが・・・息子を助けてくれたのは事実だ。プラントキメラの子供は殺さないこととする。】
【息子はフレンダーと呼ぶプラントキメラの子供は、本当に息子に懐いている。まるで、ペット用キメラのようだ。どうしてこのようになったのか興味が湧いた。実験の合間に観察するとしよう。】
【フレンダーは息子ばかりか、施設内の人間とも仲良くなっている。繁殖用のキメラでありながら、ここまで人間に友好的なのは驚きだ。研究対象としてだけではなく、個人的にも興味が湧く。キメラでないのなら、息子の友達にしたいものだ。】
【フレンダーは、簡単な実験の手伝い程度ならできるようだ。もっとも、オメガ線はキメラに毒性が強いから、範囲は限られるが、それでも、助かることに変わりない。息子も懐いているし、この実験が終了すれば、我が家に引き取るのも悪くないかもしれない。・・・避妊手術が必要になりそうだ。】
【シールドが不調で被曝者が出た。幸い、私や息子は被曝しなかった。もちろん、フレンダーもだ。だが、これでは研究が進まない。どうしたものか・・・。悩んでいると、フレンダーが励ましてくれる。本当に優しい子だ。】
【所長がしばらく出張で不在となる。他の施設と情報共有を行うそうだ。研究の足掛かりになれば幸いだ。・・・だが、ここ最近、何か不穏な空気が漂っている。不安だな。】
【カーツ助手が、不審な人物と会っているようだ。カーツ助手は何でもないと言っていたが・・・嫌な予感がする。警備を強化するよう、警備部に頼んでおくとしよう。】
【・・・最悪だ!フレンダーが暴走した!あいつら!私達のデータが目的で・・・挙句、口封じにフレンダーを利用するとは!だが、今はそんなことを言っている場合ではない!フレンダーを何とかしなければ・・・・!幸い、フレンダーは暗所では活動を停止する性質を持つ。これを利用し、フレンダーを殺処分する!施設の自爆装置を起動させれば、あれも終わりだろう。・・・フレンダーには可哀そうだが、変異したキメラを救う術はない。・・・許してくれ・・・。】
【・・・息子が・・・死んだ・・・。・・・フレンダーを・・・最期まで・・・信じていた・・・。・・・息子を殺した忌々しいキメラだというのに・・・私は何故か、フレンダーを殺せなかった・・・。・・・この施設は、電源を完全に落として放棄する。入り口も閉鎖して、封印する。・・・さようなら、フレンダー・・・。】
「・・・。」
二次調査を行い、キメラに関する情報のある携帯端末を複数発見したメイスンは、内容を読んで複雑な様子を見せる。
(・・・あのキメラは・・・この遺跡がまだ使われていた時、飼育されていたようですね。内容を見ると、この端末の持ち主だけでなく、遺跡にいた人間達に可愛がられていたのが窺えます。だから殺処分ではなく、無力化した。・・・愛されていたのですね。)
メイスンは、物言わぬ屍と化したキメラ-かつてフレンダーと呼ばれていた-を見、自然と黙祷を捧げるのだった。