村の子供達
フードへの報告を終えた二人は、ミーアの許へ向かっていた。
「報告も終わったし、早く帰ってご飯にしよう。」
「今日は、どんなご飯かな?カレーかな?それともシチューかな?」
「楽しみだな。姉さんの料理は、最高だからな。」
「あら、ザックスじゃない。今帰ったの?」
今日の夕飯のことを考えていた二人は、突然声をかけられた。二人は、声のした方を向く。
そこには、金色のショートヘアの少女がいた。歳は、ザックス達とだいたい同じくらいであろうか。
「リリー。ああ、今帰ったところだよ。」
「お疲れ様。いつもご苦労様。」
リリーと呼ばれた少女は、ザックスに微笑む。
「・・・リリー、僕は?」
「あ、ティックもいたの?気付かなかった。」
「ひどいよ!」
ティックは、不満げに言うが、リリーはそれを無視し、ザックスに近寄る。
「ザックス。私、とうとうやったわよ。」
「やったって?」
「ふふふ!これよ!これ!」
リリーは自慢げに、自身の右腕をザックスに見せる。彼女の腕には、金属の籠手のようなものが装着されていた。
「それは・・・収束術を使うための収束機?」
「ああ・・・さすがにそこまで高価なものじゃないわ。これは、簡易型収束機よ。」
「ギャザーを付けてるってことは・・・リリー、もしかして、収束術を使えるようになったのか?」
「そうよ!これで、私もザックスの手伝いができるようになったわ!頼りにしてよね!」
リリーは、嬉しそうにザックスに告げる。
「・・・大丈夫?収束術って、大人でもかなり難しいものだって聞くけど・・・。」
「何よ、ティック。私じゃ使えないとでも言いたいの?」
リリーは、ムッとした表情で苦言を呈する。
「だって、この間まで、ミーアさんに収束術のこと聞いてたばかりじゃない。」
「失礼ね!ちゃんと、ミーアさんの許可もらってるわ!なんなら、ここで見せてあげるわ!」
憤慨したリリーは、簡易型収束機を操作しようとする。
「!リリー、駄目だ!」
それを見たザックスは、慌ててリリーを制止する。
「収束術は、今の技術じゃ安定して使うのは難しいんだ!もし暴走したら、村が吹き飛ぶ!それに、非常事態以外に使ったら駄目だって、姉さんが・・・!」
「!・・・そうだった。それ以外で使ったら、没収するって言われてたんだった・・・。あーあ・・・ザックスに見せたかったのに・・・。」
リリーは、残念そうに呟くと、操作する手を止めた。
「・・・じゃあ、今度外に行った時にでも見せてもらうよ。外なら、万が一暴走しても、村に被害はないだろうし。」
ザックスの提案に、リリーは先ほどまでの残念そうな表情から一転して目を輝かせた。
「分かったわ!じゃあ、明日でどうかしら!?」
「あ・・・明日は・・・駄目なんだ。・・・予定があるから・・・。」
「えー?いいじゃない!どうせ、明日から暇なんでしょ?」
「そ・・・それは・・・。」
明日は、ティックとこっそり遺跡に行くとは言えず、ザックスは困惑した。
「・・・リリー。ザックスが困ってる・・・。」
「!?」
突然、声をかけられ、リリーは思わず硬直する。ザックスは、リリーの後ろを覗く。
「・・・セシリアじゃないか。」
「・・・お帰り・・・ザックス・・・。」
いつ来たのか、リリーの後ろに、金色のロングヘアの少女がいた。少女は、顔半分に包帯を巻いていて、表情を窺い知ることはできなかった。
「・・・あんた・・・そのいつ来たか分かんないような登場の仕方止めなさいって言ってるじゃない!寿命が縮むかと思ったわ!」
リリーは、セシリアと呼ばれた少女に怒りを露わにする。
「・・・リリーには関係ない・・・。」
セシリアは、素っ気無い態度でリリーを袖にすると、ザックスの許に寄る。
「・・・ザックス・・・ご苦労様。・・・今日は・・・どうだった・・・?」
「大漁だよ。当分は、狩をしなくていいって。」
「・・・そう・・・じゃあ・・・しばらくは・・・フリーなんだ・・・。」
「ああ。当分は、ゆっくりさせてもらうつもりだよ。」
「ちょっと!私を無視してザックスと話さないでよ!」
我に返ったリリーは、セシリアに語気を強めて詰め寄る。
「・・・なら・・・休むのにいい場所があるの・・・。・・・明日、そこに行かない・・・?」
しかし、セシリアは、そんなことはお構いなしにザックスと会話を続けようとする。
「この根暗!無視してるんじゃないわよ!」
「リリー、そんなに怒ることないだろ。セシリアは、俺を気遣ってくれてるんだから。」
怒るリリーを、ザックスは制する。
「むー・・・!」
リリーは黙り込むも、その表情からは、不満が見て取れた。
「・・・ごめん。明日は、ティックと遊びに行く予定なんだ。・・・また今度にするよ。」
ザックスは、申し訳なさそうに、セシリアの提案を断った。
「・・・そう・・・分かった・・・。・・・ごめんなさい・・・引き留めて・・・。」
セシリアは、残念そうに肩を落とすと、すごすごと去って行った。
(・・・悪いことしたかな・・・?)
その様子を見たザックスは、彼女を傷付けてしまったと思い、表情を曇らせた。
「・・・何?明日はティックと遊びに行くつもりだったの?だったら、私も連れて行ってくれればいいじゃない。」
リリーは、セシリアのことなど全く気にせず、先ほどのザックスの発言に対して文句を言い出した。
「り・・・リリー。明日は、ちょっと駄目なんだって・・・。」
「あんたには聞いてないわ。私は、ザックスと話しているの。」
「・・・。」
「ねー、ザックス。いいでしょ?ティックなんかと二人っきりなんて、つまらないわよ。私がいた方が、断然面白いわよ。」
リリーは、ティックを無視してザックスに詰め寄る。
「・・・ティック・・・悪い・・・リリーも一緒に来させてもいいかな?」
「・・・うん・・・どうせ、はいって言うまで付き纏ってくるだろうし・・・。」
「・・・分かったよ、リリー。リリーも連れて行くよ。」
「やったー!」
「・・・ごめん、ティック。つい、口が滑った・・・。」
嬉しそうにはしゃぐリリーを尻目に、ザックスは、ティックに謝る。
「いいよ・・・それに、言ったのはリリーに対してじゃなくて、セシリアに言ったんだから。」
ティックも別に、ザックスを責めるつもりはなく、気にしない様言った。
「・・・じゃあ、明日の朝、村の入り口に集合しよう。それでいいかな、二人共?」
「うん。僕は、それでいいよ。」
「私もいいわ。じゃあ、明日ね!」
リリーはそう言うと、そのまま自分の家のある方向へ駆け出して行った。
「・・・リリーって、村で大人しくしているイメージがあったけど、意外とアウトドア派だよな。」
「・・・ザックスがいるからだよ。僕だけ行くって聞いたら、絶対行きたいなんて言わないよ。」
「そうかな?」
「・・・それより、早くミーアさんの所に行こうよ。リリーの相手してたら、折角トマト食べたのに、またお腹ペコペコだよ・・・。」
「ははは・・・じゃあ、早く姉さんの所に行こう。」
「うん!」