村からの急報
「じゃあ、あの時、急に暗くなったのは、あのキメラを大人しくさせるためだったんですか。」
動力室に戻ったザックス達は、メイスンから動力を止め、部屋を暗くした理由を聞かされていた。
「はい。この遺跡は、灯りが消えているというのに、何故か動力炉は無事でした。最初は、事件が起きたことが原因で止められたとも考えていましたが、あのキメラの存在を知ったことで、もしかしたら、あのキメラを封じるために、動力炉を止めたのではないかと思ったのです。」
「じゃあ、あのキメラは、強い光を浴びないと活動できない性質だったってことですか?」
「ええ、おそらくは。」
「なるほど・・・。我々が動力を動かし、強い光を浴び続けたために、復活してしまったのか・・・。」
「はた迷惑だよな。弱点が分かってるなら、さっさと殺しておいてくれればいいのに・・・。」
調査員の一人が、親キメラに止めを刺さなかった当時の人間を非難する。それを聞いたメイスンは、また考え込む。
「・・・そうですね。活動を停止すれば、ザックス君たちでも討伐が可能だったのに、どうして当時の人間は、殺処分しなかったのでしょうか?・・・気になりますね。」
「・・・メイスンさん。あのキメラのいた部屋、調べてみませんか?」
「駄目よ!あんな怪物がいた部屋を調べるなんて、危ないわ!」
「・・・うん・・・。」
ザックスは、メイスンに親キメラのいた部屋を調査するよう提案する。それを聞いたリリーとセシリアは、猛反対する。
「そうですね。ここからは、私達大人の仕事です。これ以上、君達を連れ回すのはよくないでしょう。」
「・・・そう・・・ですか・・・。」
メイスンからそう言われ、ザックスはガックリと肩を落とす。
「ザックス。さすがにこれ以上は僕達は無理だよ。あんなのが生きていたんなら、他にもいるかもしれないし。」
「・・・ああ。」
「安心しろ。その部屋の調査は、俺達大人がしっかりやっておく。」
「・・・分かりました。」
「さて、今回の調査は、このくらいにしましょう。帰りましょう、皆さん。」
こうして、第一次遺跡探索は、終了し、メイスン達はレイクの町へと戻るのだった。
「リク!」
町に戻ったザックス達に、一人の男性が駆け寄ってくる。その男性に、ザックス達は見覚えがあった。レムの村の村人カイである。
「何だ、カイじゃないか。どうしてここに?」
「村長から、大至急戻ってこいとのことだ。俺は、それを伝えるために来た。」
「大至急?何かあったのか?」
「・・・村の周囲で、盗賊や不審な動物が目撃されているのは知っているな?」
「ああ。」
「・・・とうとう犠牲者が出た。村の周囲を巡回していた数人がやられた。」
「何だと!?」
カイからの報告に、リクは戦慄する。こんな世界、いつ誰が死んでもおかしくない。だが、やはり身近な人間が死ぬということはショックがある。
「やったのはどっちだ!?盗賊か!?それとも動物か!?」
「生き残った人間の話によると、盗賊に襲われたらしいんだが・・・そいつらはただの盗賊じゃないみたいらしい。人数は、こちらの方が多かったらしく、油断もしていなかったらしいが・・・異様に強かったらしい。しかも、妙に、統制が執れた動きをしていたらしい。」
「盗賊がそんな動きを?しかも、異様に強い?何かの間違いだろ?」
盗賊は、確かに恐れられているが、所詮は無法者の集まりにすぎず、実は、強さも村人と大して変わらない程度なのである。おまけに仲間意識などほとんどない、烏合の衆にすぎないため、こちらの人数が多ければ、武装の差があれば分からないが、基本的に負けたりはしないのだ。だが、今回の盗賊は、人数に差があったにも関わらず、こちらがやられてしまったのだという。リクの経験から、あり得ないことだった。
「俺もそう思うんだけどな・・・。だが、放置はできない。だから、村の戦力をかき集めて、盗賊狩りを行うことに決まったんだ。」
「カイさん、それじゃあ、メイスンさん達の手伝いは?」
「それに関しては、町の人間に話を付けておいた。明日、帰るってな。」
「急だな。まあ、仕方ないか。ザックス、ティック、リリー、セシリア。遺跡探索の手伝いは、一旦おしまいだ。明日、速攻でレムの村に帰るぞ。」
「「「「は~い。」」」」
ザックス達は、村の危機を救うため、メイスンの手伝いを中断して村に戻ることになった。
だが、この盗賊退治が、自分達を過酷な運命に誘うことになると、ザックスはまだ、知る由もなかった。