開かれた入口
遺跡の入口を発見して数日後、メイスン率いる調査隊は、遺跡の入口前に集まっていた。そこには、リクとザックス、ティック、さらにはリリーとセシリアまでいた。
「・・・あの・・・リクさん。俺達がここにいるのは場違いなんじゃ・・・?」
「そうそう・・・僕達、ただの子供だし・・・おまけに・・・前科が・・・。」
「・・・俺もそう言ったんだが・・・メイスンさんが是非ってな。」
「メイスンさんが?」
「ああ。『あの遺跡を見つけたのは、ザックス君達です。彼らにも立ち会う権利があります』ってな。それに、未来を担う子供達に、もっと自分達の仕事を知ってほしいとも言ってた。だから、お前達も呼ばれたんだ。」
(・・・その僕達が、森の遺跡を壊したんだけどな・・・。)
(・・・参ったな。そこまで期待されているなんて・・・余計に悪い気が・・・。)
メイスンの期待とは裏腹に、自分達の仕出かしたことを考えると、ザックスとティックは気が重くなるのを感じた。
そんな二人とは対照的に、リリーは直接遺跡を見ることができるということで、ワクワクしていた。セシリアも、包帯に隠れた表情の裏で、ワクワクしていた。
「・・・さて、皆さん。今日は、この遺跡の入口の封印を解き、その中を調べに行こうと思います。」
(封印なんて大げさだな。単に、扉を開けるだけじゃないか。)
「九号機を起動。扉を開けてください。・・・もちろん、慎重にお願いします。」
「了解。九号機を起動します。」
メイスンの指示を受けた隊員が、金属の箱を操作する。すると、先の調査の時の一号機の時のように、大きな足音を立てて、ロボットがゆっくり歩いてきた。ロボットの外観は、一号機と似ていたが、カラーは所々剥げた黒色をしていた。
九号機は、扉の取っ手を掴むと、それを引っ張り始める。扉から軋むような音が響き渡る。だが、扉はビクともしなかった。
「え・・・?開かない!?」
扉を開けることだと簡単に思っていたザックスは、扉が開かないことに困惑していた。もちろん、ティック達もである。
「・・・やはり、丈夫ですね。出力を徐々に上げて引っ張ってください。」
「了解。」
隊員が箱を操作すると、ロボットから大きな音がし出した。そして、軋む音は、更に大きくなる。
どれだけ時間が経過しただろうか。徐々に、扉は開き始めていた。
「・・・もう少しですね・・・。」
だが、突然、ロボットの身体から黒い煙が上がり出す。
「!」
「な・・・何が・・・!?」
「ロボットから煙が出てるよ!?」
突然のことに、ザックス達は驚く。
「・・・メイスンさん!九号機の稼働限界が近いです!このままでは・・・!」
操作している隊員は、メイスンにロボットが壊れる恐れがあると告げる。メイスンは、しばし熟考したのち、口を開く。
「・・・いえ、ここでやめるわけにはいきません。・・・続行を!」
「・・・了解。」
メイスンから続行を命じられ、隊員は悲痛そうな面持ちで操作を続ける。
ロボットから出る煙が、どんどん増えていく。だが、扉の方も、徐々に開いていく。
そして、ついにロボットは、扉を開放した。それと同時に、ロボットの身体は小さな爆発を起こし、その場に崩れるように倒れた。
「・・・やった・・・!」
「やったぞ!遺跡の入口が開いた!」
隊員達は、扉が開いたことを喜んだ。
「やったね!ザックス!」
「どうなるかと思ったけど、うまくいったわね!」
「・・・ああ。・・・?」
ティックとリリーも、扉が開いたことを喜ぶ。だが、ザックスは、リーダーのメイスンの姿が見えないことに気付き、目で追う。
すると、メイスンと操作していた隊員が、壊れたロボットの側にいることに気付いた。彼らは、とても悲しそうな表情でそれを見ていた。
「メイスンさん。」
ザックスは、メイスンの様子が気になり、彼らに近付く。
「・・・ザックス君。・・・どうしましたか?」
「その・・・メイスンさんと助手さんが気になって。・・・どうしたんですか?せっかく遺跡の扉が開いたのに?」
「・・・いえ・・・この九号機を壊してしまったことで・・・少し・・・。」
「?でも、これはメイスンさんが作ったんですよね?だったらまた直せば・・・。」
「それは、無理なんです。」
「え?」
「メイスンさんが作ったロボットは、あくまで元々あったロボットの残骸から、使える部品だけ利用して改造したものなんです。簡単な故障ならともかく、ここまで壊れてしまえば、もう、直すのは不可能なんです。」
「ええ!?」
「・・・ロボットの機械は、今の技術では作れません。ですから、こうなってしまえば、もう、どうしようもありません。」
「・・・分かっていて、最後までやらせたんですか?・・・どうして?」
「・・・人類の未来のためです。今の人類は、とても人らしい生き方をしているとは言い難いのです。今日の生活すらままならず、凶悪な動物や野盗に怯える日々。そんな人々を救うためにも、我々の研究は重要なのです。・・・だから、立ち止まる訳にはいかないのです。・・・私達の先輩達も、そうやってきたのです。」
「・・・。」
悲痛な面持ちながらも、力強く語るメイスンに、ザックスは言葉が出なかった。しばらくしたのち、メイスンはまた、いつもの穏やかな表情に戻ると、ザックスに言う。
「・・・ザックス君。確かに、自分の子供の様に作ったロボットが壊れてしまったのは悲しいことですけど、この悲しみが、君達の明るい未来のために役立てるのなら・・・私も嬉しいんです。だから、気にしないでください。」
「・・・。」
メイスンは、ロボットに向き直ると、労わる様にボディを撫でた。
「・・・九号機・・・ありがとうございます・・・。」
「・・・ご苦労様。」
「・・・。」
ザックスは、メイスンの想いを知り、大人とはこういうものなのだと感じた。