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緑の鍵 少年と少女の物語  作者: レイス
第二章 先代文明の遺産
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村長アムンゼン

 「・・・なるほど・・・あの遺跡に眠っていた少女か・・・。」

 ザックスの家から少し離れた場所にある大き目の建物-大き目といっても、ザックスの家二軒分くらいの大きさだが-の一室で、ミーアと老人が話をしていた。老人は、豊かな白髭を蓄えた、六十代くらいの男性で、眉間に皺を寄せた険しい表情をしていた。この老人は、このレムの村の村長、アムンゼンである。

 「はい、おじいさん。・・・にわかには信じ難いですけど・・・ザックスが嘘を吐いているようには見えませんでしたから・・・。」

 「うむ・・・。」

 このアムンゼン村長は、ミーアとザックスの祖父に当たる人物である。だから、二人は村長のことを、おじいさん・・・・・おじいちゃん・・・・・と呼んでいるのだ。

 だが、アムンゼンは、村長としての職務に追われているため、二人と同じ家には住まず、この『村長の屋敷』と呼ばれている大きな家で、数名の村人と共に暮らしていた。

 「分かった。あの娘に関しては、既に看病している者がいるが、今日から監視役の若者を就けるとしよう。」

 「私も監視役にしてください。万が一のために。」

 「それは構わないが・・・そうなると村の警備が・・・。」

 「大丈夫です。既に、補充の人員は充てています。私が抜けても、問題はありません。」

 「そうか・・・。それならいい。任せよう。」

 「ありがとうございます。」

 「・・・すまんな、ミーアよ・・・。」

 アムンゼンは、先ほどまでの険しい表情から一転、とても悲しそうな表情になった。

 「どうしたんですか?」

 「お前をこの村に縛り付けてしまっていることだ。お前は、村で唯一・・・いや、今ではリリーがおったな。だが、村一番の術士だ。首都キャピタルに行けば、新しい道がいくらでもある。・・・それを、こんな僻地の守り手に留めてしまっている・・・。儂は、それが情けない・・・。孫の将来を狭めておるのだからな。」


 首都キャピタル。オーテク文明時代、首都であった都市の跡地に作られた町である。当時の最先端技術の粋を集めて作られた都市の跡地を利用したためか、荒廃した世界において最も復興が早く進み、文明的な生活が送れるようになるに至っていた。いつしか人々は、この町に臨時政府を設立し、首都として定めた。

 首都として機能するため、キャピタルは様々な制度を施行、部隊を設立した。開拓助成のための法律の制定、治安維持のための軍の設立、枚挙に遑がない。

 ちなみに、キャピタルという名は、オーテク文明時代の首都の名前である。まさに、かつての首都を復興させるという意味もあったのだ。・・・当時のキャピタルの足元にも及ばないが。

 かくして、この世界の復興を牽引することとなった臨時政府だったが、世界全てを統治するには至らなかった。世界はあまりに広く、それに対し、政府の人員、物資、技術はあまりに少なかったからだ。

 そのため、臨時政府は世界中から優れた人間をスカウトし、組織機能を強化することにしたのだ。科学者、戦士、医師、そして、収束術士。様々な分野の優秀な人間が、この町に集められることになった。

 ミーアもそのスカウトを受けていた人間であった。現大統領のスコットは、アムンゼンの親友であり、彼は、遠く離れたこのレムの村を影ながら支援していた。ミーアの件に関しても、スコットが提案してきたものだった。だがそれは、決して親友の孫だからというわけではない。ミーアの腕が、それだけ優れているからである。事実、彼女の実力は、軍の収束術士部隊の一員として十分に通用するほどだったのだ。もっとも、この近辺には他に術士がいなかったため、村人達は、ミーアがそこまですごいとは気付いていなかったが。

 だが、ミーアはそのスカウトを断った。自身の故郷を守るために。

 「そんなこと・・・私は、自分の意思でここにいるんです。この村が大切だから、ここにいるんです。おじいさんが気にすることはありません。」

 ミーアは、笑顔でアムンゼンに言う。とても穏やかで、優しそうな笑顔である。

 「・・・そうか。」

 それだけ言うと、アムンゼンはそれ以上何も言わなかった。だが、その表情は、複雑そうであった。

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