村への帰還
ここから新章突入です。日常回とシリアス回の混合回となります。
「・・・ん・・・。・・・ここは・・・?」
気が付くと、ザックスは、ベッドの上で目を覚ましていた。
ぼんやりと周りを見渡すザックスだが、次第に意識がはっきりしていき、ここがどこだか思い出す。ここは、レムの村。そして、自分の家であると。
「・・・ここは・・・俺の家・・・?・・・俺は確か・・・森の遺跡に・・・。」
ザックスは怪訝な顔をする。自分達は、森の遺跡にいたはずである。なのに何故、家で寝ているのか。そして、ティック達はどうしたのか。
「!ザックス!よかった・・・目が覚めたんだな・・・!」
目を覚ましたザックスの視界に、心配そうに見つめる青年の姿が入った。その青年に、ザックスは見覚えがあった。
「・・・あなたは・・・自警団の・・・。」
「リクだ。心配したんだぞ。いきなり爆発が起こって、ミーアさんと一緒に爆心地に行ったら、お前達が倒れていたんだから。」
「・・・爆心地・・・?」
「本当に心配したんだぞ。見た感じ、怪我はなかったみたいだけど、全然目を覚まさないから・・・。」
「・・・ティック達は・・・?」
「ティック達は、自分の家で寝ているよ。目を覚ましたのは、お前が一番最初だ。」
「・・・どのくらい寝ていたんです・・・?」
「もう、三日は眠ったままだったんだ。」
「・・・三日・・・。」
「何があったんだ?あの場所は、立ち入り禁止の場所だったはず・・・。」
「・・・!」
その時、ザックスの脳裏に、意識を失う寸前の光景が過る。自分達を追い詰めるロボット、謎の力を使う少女、崩壊し生き埋めにされそうになるティック達、そして、遺跡を破壊しようとする少女を止めようと切りかかった・・・あの時の光景が。
「・・・あの子は・・・!?あの子はどうしたんですか!?」
「?あの子?あの子って・・・ピンク色の髪の子かい?ザックス達の側に倒れていた?」
「そうです!あの子は今どこに!?」
「村長の屋敷にいるよ。何であんな所にいたのか聞かないといけないから・・・。」
「その子は危険です!すぐに拘束してください!」
「!?・・・いや・・・その子も眠っていて、今でも目を覚ましていないから、大丈夫だと・・・。」
「駄目です!今すぐにあの子を!」
「お・・・おい、ザックス・・・少し落ちつ・・・。」
「ザックス!」
突然、女性の大きな怒鳴り声が部屋に響き渡る。
いついたのか、部屋の入口に見覚えのある女性がいた。ザックスの姉、ミーアだ。彼女は、険しい表情で、ザックスを睨むように見ていた。
「・・・ミーア姉さん・・・。」
「ミーアさん・・・いつの間に・・・!?」
「さっき来たばかりよ。・・・ザックス。」
ミーアは、険しい表情を崩すことなく部屋に入って来る。その様子を見て、ザックスは委縮し出す。明らかに姉は、怒っている。
「・・・あなた達のいた場所は、立ち入り禁止にしていた所よ。何であんな所にいたの・・・?」
「・・・ごめんなさい・・・。見つかったばかりの遺跡だったから・・・気になって・・・探検してみたくて・・・。」
「・・・遺跡は、危険がいっぱいあることは知っていたはずよ。なのに、行ったの?」
口調こそ、穏やかであったが、彼女が怒りを押し殺していることは明白であった。それが尚更、ザックスを委縮させる。
「・・・好奇心が・・・抑えられなくって・・・。」
「好奇心が抑えられないのは分かるけど、大人の言うことはちゃんと聞きなさいといつも言っているはずよ?・・・それに、ティック達まで巻き込んで・・・。」
「・・・。」
「分かっているの!?あなたの勝手な行動で、他の子達も・・・!」
「み・・・ミーアさん・・・まだ、ザックスは目が覚めたばかりなんです!それに、あんな所にいたんですから、きっと怖い目に遭っているはずです!そんなに厳しく言わなくても・・・!」
リクは、思わずミーアを制止する。
確かに、言いつけを破ったザックスは悪い。だが、爆心地の状況から、ザックス達が恐ろしい目に遭ったのは察することができた。そんな惨状から生還したのに、いきなり怒鳴って叱責するのはさすがに行き過ぎだと、リクは思ったのだ。
「・・・ごめんなさい、リクさん。・・・少し気が立っていました。・・・ザックス、ごめんなさい。でも、本当に心配したのよ。ただでさえ、最近は物騒なのに、遺跡が爆発して、そこにあなた達が倒れていたから気が気じゃなくて・・・。」
リクに制されたことで冷静さを取り戻したミーアは、一転して心配そうな面持ちになり、リクとザックスに謝る。
「そんな・・・姉さんは悪くない。・・・悪いのは、言いつけを守らなかった俺のせい・・・。」
「俺達だろう?大方、ティックに行こうと言われて行きたくなって、リリーが付いて行きたいって言って、連れて行くことにしたんだろう?」
「う・・・!」
図星を突かれて、ザックスは黙り込んでしまう。
このリクという青年は、村の子供達を弟か妹のように思い、よく見ていた。だから、子供達がどんな性格か、大よそは分かるのだ。だから、ザックスがこんなことをしたのかを何となくだが察したのだ。
「ザックス。確かに、好奇心に負けて言いつけを破ったお前は悪い。でも、ティック達も同罪だぞ。お前に行くことを勧めたんだからな。仮に、お前が言い出しっぺでも、止めなかったんだからな。だから、庇う必要なんてないぞ。寧ろ、庇うのは本人のためにならない。」
「・・・ごめんなさい・・・。」
「もういい。・・・ミーアさん、ザックスはこんなに反省しているんです。もう、怒らないでやってください。」
「・・・そうね。でも、ちゃんとティック達が目を覚ましたら、罰を与えるわ。覚えておいて。」
「・・・うん。」
「・・・さて。落ち着いたところで、ザックス。何があったか説明してくれないか?それとあの女の子についてもだ。」
「・・・実は・・・。」
ザックスは、遺跡での出来事をミーアとリクに話した。まだ稼働していた遺跡内部。見たことのないロボットに、強力な警備ロボットの数々。そして、あの少女のことも。
特に、その少女については、自分の見ていたままを全て伝えた。
「・・・なるほど。それで、そんな強そうなロボットや遺跡を見たことのない力で破壊したから、危ない・・・そう言うわけね。」
「・・・うん・・・。」
「・・・にわかには信じられないな。見た感じ、ただの女の子にしか見えないし・・・。」
「でも、発見時あの子だけが、何も着ていなかったわ。何も着ないであんな場所にいるなんて、確かに不自然ね。」
「姉さん、早くあの子を隔離して・・・!」
「落ち着いて、ザックス。・・・リクさん。念のため、その子に24時間見張りを付ける手配をお願いします。」
「分かりました。」
「・・・ザックス。私はあなたの話を、おじいさんに報告しておくわ。今は、身体を休めておきなさい。」
「・・・分かったよ、姉さん。」
「じゃあ、私達は行くわね。」
「ゆっくり休めよ。」
そう言うと、ミーアとリクは、部屋を出て行く。
一人残されたザックスは、そのままベッドに倒れるように寝転ぶ。
(・・・やめておけばよかったな・・・遺跡探検なんて・・・。姉さんや村の人達に迷惑をかけてしまったし・・・。)
ザックスは、探検に行ったことを後悔した。まさか、こんなことになるなど、思ってもみなかったからだ。
そして、そのままザックスの意識は、暗い闇の中へと落ちていく。