地下遺跡の崩壊
殺到するロボット達。このままでは、少女はロボット達の圧倒的な数と重量に押し潰されてしまうだろう。
にも関わらず、少女は顔色一つ変えずにロボット達を見据えていた。まるで、ロボット達が脅威ではない・・・いや、そもそも気にも留めない存在であるかのように。
「・・・。」
少女は、ロボット達に掌を見せるような形で右手を向ける。すると、少女の掌に、球体の様なものが出現する。
「・・・トールハンマー・・・。」
突如として、凄まじい電撃が周囲に放たれる。それは、リリーの使ったサンダーショックとは比較にならないほどの規模と威力であった。少女を取り押さえようとしたロボット達は、一瞬で破壊されていく。
その電撃は、ザックス達の方にも向かっていくが、ここでもザックス達は、目の前にある壁のような見えない何かで守られ、当たることはなかった。
ほんの数秒-ザックス達にはそれ以上に長く感じた-で、少女はロボット達を全滅させていた。ロボット達は、装甲は完全に破壊され、内部の機械も完全に使い物にならないほど黒焦げになり、熔解していた。もう、修復は不可能であるといえるレベルの破壊の跡であった。
「・・・何なんだ・・・これは・・・!?・・・あの子が・・・やったのか・・・!?」
「・・・今の・・・収束術・・・?」
「・・・違う・・・収束術じゃない・・・!・・・収束術は、属性元素が必要なのよ・・・!・・でも・・・簡易型収束機には何の反応もなかった・・・!・・・収束術なら反応があるはずなのに・・・!」
「・・・じゃあ・・・あれは・・・何・・・?」
あまりに常識外れした光景に、ザックス達は絶句していた。無理もない。自分達があれだけ苦労したロボットを、しかも、その大軍を一瞬で残骸に変えてしまったのだ。自分達の知りえない力で。目の前の光景を信じられなくて当然である。
「・・・。」
そんなザックス達を、水槽から出た少女は見つめていた。少女は、完全に無表情で、何を考えているかはまったく窺い知ることはできなかった。その様は、まるで人形のようであった。
「・・・君は・・・だ・・・。」
『ガードマシーン全滅ヲ検知!ガーディアンヲ投入スル!ガーディアンヲ投入スル!』
ザックスの言葉を遮るかのように、機械音声が室内に響き渡る。同時に、天井からまたロボットが降下した。今度のロボットは、先ほどのガードマシーンよりも重装甲の人型の機体で、手には巨大な剣が握られていた。
「な・・・!まだあんなロボットが・・・!」
「危ないよ、あの子!早く、助けないと・・・!」
「・・・。」
『ガーディアン!鍵ヲ確保セヨ!』
『・・・了解・・・!」
ガーディアンと呼ばれたロボットは、その巨大な身体からは想像もつかないほどのスピードで少女に肉薄する。
「!速い!」
「嘘でしょう!?あんな大きくて重そうなロボットが!」
「・・・!駄目・・・あれじゃあ・・・間に合わない・・・!」
ガーディアンはその勢いのまま、少女に剣を振り下ろす。
「・・・。」
だが、命の危険が迫ろうというのに、少女は全く表情を変えていなかった。少女は、球体が出現している右手をガーディアンに向ける。
「・・・エナジープロージョン・・・。」
ガーディアンの身体が、突如として爆発した。その爆発は、外側ではなく、内部からの爆発であった。内部からガーディアンは突然爆発し、その場でスクラップと化したのだ。
「!?な・・・何だ!?・・・何があった・・・!?」
「あのロボット・・・突然爆発したよ・・・!?」
「整備不良?・・・いや、他のロボット達は、問題なく動いていた。あいつだけ整備不良で故障なんて・・・。」
「まさか・・・あれもあの子がやったっていうの・・・!?・・・あり得ないわ!」
「・・・エナジープロージョン・・・。」
ガーディアンを破壊した少女は、今度は天井に右手を向ける。手を向けた先の天井は、先ほどのガーディアン同様、突然爆発を起こす。
『施設ニ対スルダメージヲ感知!再度、ガーディアンヲ投・・・!』
「・・・エナジープロージョン・・・。」
機械音声の言葉を遮るかのように、天井が爆発を起こす。今度は、連続で。天井が崩れ、小さな瓦礫がザックス達に降り注ぐ。
「うわ!天井が・・・!」
「・・・まずいわよ・・・これ・・・!」
「このままじゃ崩れるぞ!」
「・・・あの子・・・もしかしたら・・・この遺跡を・・・壊す・・・気・・・!?」
「そんなことされたら、僕達生き埋めだよ!逃げなきゃ!」
「どうやって!?そもそも、どうやってここに来たのかも分からないのに!?」
「・・・待ってくれ!攻撃をやめてくれ!このままじゃ・・・!」
「・・・エナジープロージョン・・・。」
少女は、ザックスの制止の言葉を無視し、遺跡への攻撃を続ける。爆発は天井だけでなく、壁や床にまで及び始めていた。
「もう駄目だ!このまま僕達死んじゃうんだ!」
「いや!死にたくない!」
「・・・!」
「・・・この・・・もうやめろ!」
あくまで攻撃をやめない少女に、ザックスの怒りは頂点に達する。ザックスは、ロボットとの戦いでボロボロになった剣を手に、少女に向かっていく。
「やめろ!もうやめるんだ!」
「・・・。」
少女は、無表情で向かって来るザックスを見ていた。少女が何を思っているのか、ザックスには分からなかった。だが、このままでは、自分達は生き埋めになってしまうであろう。可哀想かもしれないが、彼女を殺してでも止めようと、ザックスは剣を手に突っ込んでいく。
「・・・。」
自分に危害を加えんとする者の接近。だが、少女はまるで意に介さず、手を上げる。
「・・・パーフェクトエクスプロージョン・・・。」
少女を突き倒さんとするザックスだったが、突如として激しい閃光に包まれていく。その光は、ティック達、そして、崩壊していく室内も包み込んでいく。
「きゃあ!?」
「何だぁ!?」
ザックス達が光に包まれたのと同時刻、レムの村では、揺れと爆発音を感知していた。村で畑仕事を行っていたミーアと村人達は、突然の事態に驚愕していた。
「・・・これは・・・。」
「・・・ミーアさん・・・あれを・・・!」
村人の一人が、森の方を指差さす。彼らの目に、巨大な爆発の際に生じる雲が入ってきた。
「・・・あれは・・・爆発の跡・・・!?相当大きいぞ!」
「・・・あれは・・・森の方からじゃ・・・?」
村人達が、心配そうな面持ちでミーアを見る。揺れ自体は大したことはなかったが、あの雲の大きさと場所からから、村の近くで大きな爆発が起こったことは明白であった。不安になるのも当然である。
「・・・様子を見に行きます。皆さんは、ここの守りをお願いします。」
「ミーアさんだけ行くのは危険です!自警団の若い者を何人か連れて行ってください!」
「ミーアさんにも何かあったら、村はおしまいです!」
「・・・分かりました。」
(・・・嫌な予感がするわ。・・・もしかして・・・ザックス達が・・・。)
ミーアは、遊びに行ったザックス達が巻き込まれていないか不安を覚えるも、それを決して見せず、爆心地へと向かうことにした。