遺跡の地下に眠る者
「・・・ここが一番奥だな。」
ロボット達を通り過ぎ、ザックス達は廊下の一番奥に来ていた。
そこには、『自動ドア』に似たドアがあった。だが、唯一の違いは、壁に何やらボタンのようなものが付いていたことであった。もっとも、ザックス達には、このボタンが何なのか、まったく分からなかったのだが。
「・・・で、また自動ドアみたいなドアがあるね。」
「でも、近付いても開かないわよ?」
リリーがドアに手を触れながら言う。ドアは、先ほどの自動ドアとは違い、まったく動く気配がなかった。
「・・・何か・・・開ける方法がある・・・?」
「開ける方法なんて分からないよ。先代文明の情報は、まだ研究中のものが多くて、村長の本にある程度のものしか僕達知らないんだよ。分かるわけないよ。」
(・・・もっとも、僕はあんまり本読まないから、本に書いてあっても知らないけど。)
「参ったな・・・ここまでか・・・。」
ザックスは悔しそうに呟くと、何気なしに壁に手を付く。そこには、ボタンのようなものがある部分だが、ザックスはそんなことには気付かなかった。
ザックスがボタンに触れたと同時に、今までピクリとも動かなかったドアが何の前触れもなく開いた。
「うわ!?」
突然のことに、ザックス達は驚いた。無理もない。今まで開く素振りも見せなかったドアがいきなり開いたのだから。
「・・・どうして・・・ドアがいきなり・・・!?」
「・・・ザックス、何かしたの・・・?」
「別に何も・・・俺は、ドアに触れてさえいないんだ。開けられるわけ・・・。」
「・・・中・・・何もない・・・。」
三人が困惑している最中、セシリアは開いたドアから顔を出し、中を覗き込む。中は、個室のようなもので、特に何もなかった。
「・・・本当だ。何もない。」
「というか、個室?いやに厳重な扉だったのは、そういうことだったのかな?」
「でも、セシリアの言う通り何もないわね。」
ザックス達は、少しガッカリした様子で、室内を見ていた。まだ稼働している遺跡なのだから、まだ何がありそうに思っていたのに、最後の部屋が何もないなんて、あまりに呆気なかった。
「・・・一応、入ってみるか。何もないだろうけど。」
「あーあ・・・冒険の終わりがこんな形なんて・・・ちょっとガッカリだな。」
ザックス達は、個室に入る。そこには、やはり何もなかった。
「・・・やっぱり何もないね。」
「ああ。・・・結局、この遺跡は何のために作られたんだ?」
何もないのだから、部屋を出るかと思ったその時、突然、扉が閉まった。
「!扉が!」
「閉まった!?どうして急に!?」
そのまま、室内が揺れると同時に、ザックス達は、身体が重くなるように感じた。
「な・・・何!?何が起きてるの・・・!?」
「と・・・とにかく外へ・・・!」
ザックスは、扉を開けようとする。だが、扉はピクリとも動かなかった。
「・・・どうして・・・!?さっきは簡単に・・・!」
困惑するザックス達。そんな彼らの様子を、天井に仕掛けられているレンズの付いた球体が見ていた。それは、廊下の天井に設置されていたものと同様のものであった。
『・・・侵入者、重要エリアニ接近中。警戒モードヲレベル2カラレベル3ニ移行。』
そうこうしている間に、ザックス達の身体は急に軽くなった。それと同時に、今まで開かなかった扉は、あっさり開いた。
「!?どうなっているんだ?いきなり閉じたり開いたり・・・?」
「・・・ねえ、ザックス。扉は開いたけど・・・何だかおかしくない?」
「・・・!」
「さっきまでいた廊下じゃないよ!」
「・・・この部屋・・・移動してた・・・。」
「移動?部屋が?」
「・・・あの時の揺れ・・・部屋が移動してたからだと思う・・・。」
「・・・これも、先代文明の技術なのかな?」
「だろうな。・・・でも、どこに連れて行かれたんだろう?」
「とりあえず、出てみる?」
「・・・ああ。」
このままここにいてもどうにもならないのは分かっていたザックス達は、外に出ることにした。個室の外は、様々な計器類がある大きな部屋であった。
「うわぁ・・・機械がいっぱいだ・・・。」
「何の機械かしら?」
リリーは興味津々に機械に近付く。
「下手に触っちゃ駄目だ。この機械が、この遺跡を維持しているのかもしれない。」
「分かってるわよ。・・・でも、気になるわね。」
「・・・!ザックス!・・・あれ・・・!」
そんな時、セシリアは部屋の奥の方を指差す。そこには、上部と下部を機械に接続された、縦に細長い巨大な水槽のようなものがあった。水槽内は、透明な溶液に満たされていた。そして、その中には・・・。
「!!!誰かいる!?」
ザックス達は、水槽の中に何かが入っているのを見、驚愕した。それは、一人の少女であった。少女は、まるで眠っているかのように、水槽内を漂っていた。年齢は、ザックス達と同い年くらいだろうか。ピンク色の長髪の可愛らしい子である。
「女の子だ!どうしてこんな所に・・・?」
「・・・!ザックス!ティック!駄目!」
突然、リリーはザックスの目を塞いだ。突然のことに、ザックスは困惑する。
「り・・・リリー!?何を・・・!?」
「ティック!あんたも目を逸らしなさい!」
「ど・・・どうしたの、急に!?」
「あの子、裸なのよ!」
「!!!!」
そう言われたティックは、急いで目を逸らす。そう、水槽の中にいた少女は、全裸であった。女性の恥ずかしい部分を惜しげもなく晒していたのだ。
「な・・・何で女の子が裸でこんな所に・・・!?」
「さ・・・さあ・・・。・・・ここ、お風呂か何かだったとか?」
「いくら先代文明のこと全然知らない私でも、これがお風呂だとは思えないわ。あれじゃああの子、息ができないじゃない。」
「・・・それに・・・ここは昔の遺跡・・・人間が生きているわけ・・・ない・・・。」
「・・・じゃあ、死んでいるのかな?」
「分からないわ。ここからじゃ、何も。」
「・・・じゃあ、リリーとセシリアが様子を見に行ってよ。・・・僕達じゃ、間違って見ちゃうかもしれないし。」
「・・・セシリアと一緒っていうのが気に入らないけど、仕方ないわね。・・・行くわよ、セシリア。」
「・・・うん・・・。」
リリーとセシリアは、水槽に近付く。そして、水槽まであと2、3m程の距離まで来た時、けたたましい音が室内に響き渡った。
「!?」
「な・・・何・・・!?」
「二人共!何か触ったのか!?」
「さ・・・触ってないわよ!突然鳴り出して・・・!」
『侵入者ガ重要エリアニ侵入!及ビ、最重要機密ニ接近!警戒モードヲ最大ノレベル5ニ移行!排除セヨ!排除セヨ!』
大きな音と共に、機械的な音声が室内に響く。すると、天井が開き、そこから何かが下りてきた。下りてきたものは、三角型の胴体のロボットで、大きさはザックス達と同じくらいか。脚部はなく、代わりに銃器のようなものが付き、床の上を若干浮遊していた。
『侵入者、排除!排除!排除!』
突如現れたロボットは、先ほど聞こえた機械的な音声を発し、銃を発砲した。
「!」
「くっ!」
反応できず棒立ちしていたリリーの手をセシリアは引き、計器類の裏に隠れる。銃撃の音を聞いたザックスとティックも、咄嗟に別の計器類の裏に隠れた。
「な・・・何なんだ!?何でいきなり銃声が!?」
「リリー!やっぱり何か変な所触ったんじゃ・・・!?」
「触ってないわよ!いきなり変なのが銃を撃ってきたのよ!」
「・・・あれ・・・ロボット・・・たぶん・・・戦闘用・・・!」
「遺跡がまだ活きていて、掃除しているロボットがいるなら、警備用のロボットもいて当然か・・・!」
「でも、どうして急に!?今まで出て来なかったのよ・・・!」
「・・・分からない・・・。」
「・・・ひょっとして俺達・・・まずい所に来てしまったのかもしれないな・・・!」
警備用ロボットは、絶え間なく銃撃を続ける。なんとしても、ザックス達を排除せんと。そんなロボットの背後には、水槽の中で眠り続ける一人の少女。しかし、その少女が、薄っすらと目を開けたことに、気付く者はいなかった。