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桜花神社の妖狐伝説  作者: 夏影雅
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【第三章】覚悟


鎌鼬「ヒッヒッヒ…神ともあろうお前が、こんな最後とはなぁ…」

帆楼「貴様には分かるまい、あの子の素質が」

鎌鼬「はっ、あのガキか?素質もクソもない、何故なら……」


神社の前の階段、そこで帆楼は力尽きてしまった。

鎌鼬のほうはそうなると知っていたのか、今まで手加減をしていたように思える。

鎌鼬の口が吊り上がり、聞く者を不快にさせる声で嗤う。


鎌鼬「……お前も気付いているんだろう、その事に」

帆楼「さてな、儂には分からん」


鎌鼬「もういい宵じゃ、そろそろ貴様を切り裂いて」


…ザッ


鎌鼬・帆楼「「!?」」


それは、土を踏む音だった。

この道の先は八桜家が所有する山で、特に何か特別なものがあるわけではない。

秋には紅葉が綺麗でハイキングに訪れる者も少なくないが、今は冬の夜だ。

こんな所をわざわざ訪れるものなど…一人しかいない


…『彼』は、すでに鎌鼬の真後ろまで迫っていた。


鎌鼬「…へぇ」

帆楼「お主…何故来た!?」


帆楼「霧!!」


退妖の術など何一つ持たない、少し運動が出来るだけの青年。

今日、神や妖怪が実在すると知ったごく普通の一般人。


八桜霧が、そこに居た。


霧「…よぉ、鎌鼬」

鎌鼬「よくここまで近づけたのぉ…気付かんかったわ」


帆楼「さっさと逃げれば良かったのじゃ…何故!」

霧「逃げろだと?あり得ないな…言うのならもっと言葉を選べ」


逃げろ、と言われて素直に逃げる霧ではない。

あるいは、助けを呼べ、と言われたなら違ったかもしれないが…霧は決して『逃げない』。

絶対的な力などない、奇跡を呼ぶ幸運なんて持ち合わせてない、漫画の主人公のように、突然なにかの力に目覚めるなんてもっとありえない。

もっと現実的な、それでいて逆転しうる手段。


霧「テメェの行動パターン…攻撃だが、ずいぶんおかしな点がある」

帆楼「喋ってないで早く…」

霧「俺たちが逃げる時…なぜ俺じゃなく、木を狙った?」

鎌鼬「ッ!」


鎌鼬の顔色が変わる。

証拠を見つけられたサスペンスドラマの犯人の様に青ざめる鎌鼬を、ただ霧は嘲る。

完全な…むしろ青ざめた鎌鼬も相まって、どちらが悪役か分からない笑顔で。


霧「テメェは『動いている対象』に向けてなら鎌を飛ばせるが、動いてねェなら別だ…違うかよ?」

鎌鼬「…それがどうした」

霧「分からねェのかよ…今、お前は」


霧「真正面に俺、で、真後ろに帆楼が居るんだぜ」

鎌鼬・帆楼「「!!」」

霧「テメェの『詰み』だ、もうお前はこれ以上足掻けねェ」


絶対的な力などなくても、絶対的な勝利は導きだせる。

鎌鼬の行動パターンと発動した時の条件から、霧はある法則を導き出した。

条件は回数ではなかった…ならば、別の条件がある。


霧「俺に放った最初の一撃以外は、俺を狙ってなかった…走って逃げようとした時も、俺は走り出して無かったしな」

霧「テメェの起こした風で、木だけが揺れ動いていたしな…そもそも木を狙う必要もねぇもんな?」

鎌鼬「うぐ…」


帆楼「あの…すまんのじゃが…」


なんとも情けない声が聞こえた。

まるで鳥のさえずるような声だったが、霧も大声を出していなかったのでちゃんと聞こえた。

しかし…霧はとても嫌な予感がした。


帆楼「もう動けそうになくての…儂は手伝えそうにない…」

霧「……」


霧「先走った上に役に立たねぇとか…」

帆楼「ふぎゅ!」

鎌鼬「お前ら仲間じゃないのか…?」


緊迫した空気は一気に消え失せ、緊張感は力尽きた。

彼らはここまでのようだ、今までご愛読ありがとう…


…という訳にもいかない、何故なら霧には成すべき事が二つもあるのだから。


霧「まぁいい…俺をコケにしたこと、後悔させてやる」

鎌鼬「へぇ…やってみろッ!!」


バッ、と腕を広げて襲いかかる。

その手には鋭い爪があり、人など簡単に引き裂いてしまいそうな鋭利さでギラギラと輝いている。

高く掲げられた右腕に、霧は為す術なく…


…ガシィ!!


鎌鼬「!?」

霧「どうした?まさか引っ掻こうとするので終わりか?」


簡単な事だ、と呟いた。

動く物を標的とするなら、相手が認識する前に止まればいい、と軽く言ってのけた。


霧「大した事じゃない、腕を掴むだけ…簡単だろ?」


簡単かもしれない…だが実際に動けるだろうか?

振り上げた腕を掴むならば、体ごと前のめりにならなくてはならない、だがそれは体が動く事を意味する。

もし失敗すれば、胴を切断される…それをプレッシャーと取らないのは彼の『覚悟』だろう。


霧「テメェは俺を殺しに来たんだろう?」

鎌鼬「…そうだが?」


霧「人を殺そうってヤツは、当然自分が殺される覚悟もあるはずだよな…覚悟はいいか?」

鎌鼬「━━、」


ブチッ、と乾いたものが千切れる事が聞こえる気がした。


鎌鼬「人間ごときが!!調子に乗るなァァッ!!!」


風より早く鋭い爪が空気を切り裂く。

風の鎌には劣っても、人の肌ならば容易く切り裂く爪だ。

0.1秒にも満たない速度で霧の首へ触れる。その柔肌を…


切り裂く前に、鎌鼬は吹き飛んでいた。

体格で霧に負けている鎌鼬は、腕のリーチで負けていた。

鎌を振り切る前に、喧嘩慣れした拳に打たれていた。

霧はゆっくりと、ため息を付くかのように喋り出す。


霧「お前みたいな野郎はな…大体挑発に弱いんだよ…」

霧「絶対にキレると思った…だから、だ」

鎌鼬「なに…を…?」


あれほど凶悪に叫んでいた鎌鼬が、今や立つこともおぼつかないほどにボロボロになっている。

殴られて2メートル程吹き飛んだ体は、驚くほど軽かった。


霧「お前の鎌は散々見てきた…なら次は、って感じに奥の手を出してくるタイプだろ」

鎌鼬「…クソみてぇな観察、しやがって」


そう言うと鎌鼬は地面に倒れ込んだ。

痩せてヒョロヒョロの体なのは、風の鎌に頼っていたせいだろうか、一撃で倒れ込んだのも頷ける。

思う事もなく鎌鼬を見つめ、それから帆楼に近付く。


帆楼「お主は…心配をかけおって!」

帆楼「逃げろと言ったじゃろう!それを…むぎゅ!?」

霧「な・に・が・心配かけただアホ狐ェ!!」


ぎゅうう!と帆楼の両頬をつねる。

引っ張られてモガモガ言っているのも構わず霧は続ける。


霧「第一お前は俺が来てなかったらどうなってた!?馬鹿狐には難しい質問か!?」

帆楼「で、でおおぬひでは…」

霧「何言ってるかわかんねーよ!」

帆楼「はなひぇ!!」


夜も更けてきた宵頃に、二人の声が響く。

互いを心配しあう、不器用な二人の想いが。


帆楼「へへい!ひいかげんにはなへ!」

霧「おらよ」

帆楼「あうっ」


寄り掛かるように抗議していたため、帆楼はバランスを崩して霧の方へ倒れこむ。

疲労しきった霧は帆楼を支えきれず、倒れてしまう。


霧「うおっ!?」


柔らかい土が霧をキャッチする。帆楼は霧の上に座り込み、俯いたまま動こうとしない。


霧「お前…少しは動こうと…!?」


一言言おうとして、霧は黙りこんでしまった。

帆楼の頬を涙が伝っているのが分かったからだ。


霧「お前…」

帆楼「お主が来たとき…とても怖かった…」

帆楼「人では妖怪に勝てぬ…お主が殺されれば…」

霧「…」


ポツリ、ポツリと零れる言葉は、紛れもない本音だろう。

霧は優しく帆楼を抱き、そして…


霧「アホ狐が」

帆楼「あいたぁ!?」


ズビシッ、と鋭いチョップを叩き込んだ。

突然で困惑しながら頭を抱える帆楼に、霧は告げる。


霧「人は妖怪に勝てないって…勝ったじゃねぇか」

帆楼「そ、それは…」

霧「偶然なんて言わせねぇぞ、実際に勝ったんだ」

霧「俺以外の全員が弱かっただけだ、誰かが負けたからって俺も一緒にするな」


霧はふてぶてしくいい放つ。

理不尽この上なく無茶苦茶な物言いだが、根拠は行動で既に示した後なのだ。

表情は怒っている様にも、困っている様にも見える。


霧「もっとさ…信用してくれよ、俺は強いから…」


言葉とは裏腹に態度は弱々しくなっていく。

まるで、不安を打ち明ける子供のような表情で見つめる。

どれほどの偉業を成し遂げようとも、勇気があろうとも。

霧は、まだ子供なのだと帆楼は理解した。


帆楼 (なんという…)


少年なのだ、と帆楼は思った。

何千年と生き、世界を見てきた自分にも分からぬ事。

『勇気とは何か』それにこの少年は近付いていると感じた。


帆楼「…くふふ、阿呆が」

霧「なんっ…!?」


自分よりずっと大きい霧を抱き留める。

この幼い子供は、自分よりずっと勇気がある…それでも。

どれほど勇敢でも、まだ幼いのだ。嫌われることを恐れる。


帆楼 (将来大物になるだろうよ、この仔は)


伝える事もなく、ただ霧の頭を撫でる。

仕事を成し遂げた子供を褒めるように、優しく撫で続けた。

その姿は我が子を称える母親の様だった、それは母親を知らない霧にとって最上級の称賛だった。


霧「…!」

霧「へへ…俺、アンタの役に立てただろ?」

帆楼「たわけが、年上の者には甘えるものじゃ」

霧「こうして撫でてもらうので十分だよ…」


それは霧を深い眠りに落としていった。

幸福で、暖かく心地よい闇に包まれて…霧は意識を手放した。

信頼、なんて言葉がある。

信じて頼る、なんて都合のいい言葉だろう。

相手に責任を押し付け、仕事を押し付けるのを美化した言葉に、何人が心を響かせるのだろう。

…いや、分かってる。自分がひねくれている。

でも、そういう言葉を聞くたびにボクは思う。

「君は本当にそう思っているのか?」と。

「愛してる」「信じてる」「約束だよ」「絶対」「友達」「恋人」いずれも証明出来ない物だ。

なぜ証明出来ないのか…それが出来れば本当に信用できるだろうに。


思うに、大切な物は目に見えないのではないだろうか。

大事にしているものは、現実ではなく心に生まれるのだとボクは思う。

結局何が言いたいかと言うと…

スマホの機種変のせいで長年やってたゲームのアカ消えた心折れそう (涙)。

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