序章・青年と神
誰だって平凡の中に生まれ、そこから様々な世界に触れていくのだろう。
非日常を望んだり、安定を望んだり…でも結局は、平凡な幸せが一番なのだと思う。
超能力に目覚めたり、突然異世界に迷い込む事に憧れても、実際にそうなれば大変だと思う。
だから俺は、例えどれ程憧れても非日常なんて望まない―――。
妖狐「何をしておる、人の仔よ。酒は無いのか?」
…少なくとも、昨日まではそう思っていた。
妖狐「何じゃ人の仔よ、儂に変な物でも付いておるかの?」
俺の名前は八桜霧、いたって平凡な高校生だ
親父は桜花神社…つまりウチの神社だが、その神主をしている。
母親は昔に死んだとかで、実際に会った事も無い。写真嫌いな人だったらしく、顔すら見たことがない。
霧「…いや、アンタ自体が変な物だよ」
妖狐「失礼なヤツじゃの、お主が赤子の頃から見ておったと言うのに」
霧「……」
見た目はどう見てもただの狐だが、信じられない程の存在感を放っている。
しかも人が近付いても離れず、喋りかけてさえきたようなヤツだ。例え妖怪の類でも疑わない。
ただ今は親父が北海道まで出張っていて、俺一人だ。退魔の基本すら知らない一般人と何ら変わらない。
妖狐「…何を考えておる」
霧「いや、別に…今なら親父も居ないし、食い殺そうとしても抵抗出来ないなんて思ってないぞ」
妖狐「ダダ漏れではないか!?」
しまった、つい本音が…まぁ問題無いだろう。
何せここは神社だ、結界やら何やらで守られてるに違いない。
妖狐「何を企んでおるかは知らんがの、これだけ古い社じゃ、既に加護は消えておるぞ」
霧「…何だって?」
神主の息子だが、神社に関わる事は何一つ教えられてない。
普段は馬鹿で頭ン中がお花畑の親父だが、神主として仕事をする時と、俺の将来の話になった時は
様子が変わる。
絶対に神主を継がせようとはしないし、仕事中の親父は…何処か、怖い。
いつもの馬鹿そうな雰囲気も忘れて、何かと殺し合うような顔をしていて…それが嫌いだった。
妖狐「そりゃ邪悪なモノと戦っておるんじゃろうよ、お主の勘は当たっておる」
霧「……?」
おかしい…今、口に出して喋っていたか?まるで心を読まれたような…。
…いや、聞いたことがある。親父は滅多に仕事の話をしないが、小さな頃に…
…そう、確か神様は人の感情を読める、とか何とか。
妖狐「理解したかの?お主の感情に不安と恐怖が混ざる時は、大体父親絡みの事じゃからな」
霧「…お前、一体何者だ?」
神様と同じ力…いや、まさかな。そんな事があるわけない。
こんなちっぽけな狐が神様だなんて――
桜狐「いかにも。儂はこの神社の神、“桜狐”じゃよ」
霧「…桜狐ォ?」
桜狐「といっても、桜狐、というのが儂の名ではない。お主も人じゃが、“人”という名ではなかろ?」
霧「…じゃあ、何て言うんだよ?」
…ああ、駄目だ。
名前なんて聞いてしまったら、俺はきっと元の生活には戻れない。そんなのは嫌だ。
今からでも遅くない、さぁ、取り消せ……―――
『大切なのは、疑問を持ち続けることだ。
神聖な好奇心を失ってはならない。 アルベルト・アインシュタイン』
しかし、人間の好奇心というものは厄介だ…
いつだって、どれ程危険であろうともその欲には忠実なのだから。
霧「―――」
桜狐「儂か?儂はな…」
帆楼「帆楼じゃ、よろしく頼むぞ」
やぁ、この物語を読んだって事は、キミも物語が好きなんだね?
ボクの事は『吟遊詩人』と呼んでくれ、作者とは別の人って考えてもらって構わないよ。
ボクはこの作者の物語の前書きにいつも登場してたんだけど、このサイトで投降する時は後書きに
出させてもらえるらしいね。
あ、メタい話が嫌いだって人は読まなくてもいいよ、物語には関わらない、ただの後書きだからさ。
…おや、時間も押してるし、今日はこの辺かな。
もしキミがまたこの作者の物語を見たくなれば、探してみるといい。
物語や本って言うのは、『読む側』ではなく『読まれる側』が選ぶ…キミが望めば、この作者の
作品は喜んでキミの元へ駆けつけるだろう。
何故なら、彼や彼の作品は、誰かに読まれたくて生まれてきたんだからね。