夜会の後に1
お楽しみ頂けたら幸いです。
ミッシェルとケヴィンが去ったホールではジャクが思いっきり怪訝な顔をしていた。
「まさか…。ミッシェルって男色家なの?ケヴィンを見る目は明らかに恋する乙女の様だった」
ジャクはゾワリと身震いしながらアイザックの方を見やる。
「いや…。あれは、そう尊敬する幼馴染に対する。うん照れだな」
それさっきも聞いた。とジャクは遠い目をする。
そう睨むなよ。とアイザックは苦笑した。
うん…。
もしそうなら正確には、ミッシェルは『近親相姦ホモ』と言うべきなのでは…。
そう思うと頭痛がしてきた。
ジャクには本当の事は言わないでおこう。アイザックはそう硬く心に誓う。
「しかし見た目だけは女性そのものだったな。男だって知ってなかったら騙されていたよ」
確かにジャクの言う通りだ。
今日の衣装にしたって男だとバレない様に谷間が見えないローブ・デコルテにしてある。
「あの似せ胸…良く出来ていたよな。一見、嫌、良く見ても偽物とは到底思えなかったよ」
ジャクは感心する様に呟いた。
確かに…。
アイザックはさっきまでのミッシェルを思い浮かべ…顔を赤くした。
何を思い出させるんだジャク!と文句を言いたくなる。
大体お前はそんなにじっくりと見ていたのか?と問い質したい。
ムッとする自分に気付き否定する。
あれは男だから。
そう男!男!男!
アイザックは何度も心の中で呟いた。
ペレッタ公爵家の夜会を無事終えたミッシェルは兄ケヴィンと共に家路についていた。
帰りの馬車の中で兄が今日着けていたサファイアのストーン・カメオが無い事にミッシェルが気付く。
「お兄様クラヴァットに着けておりましたカメオはどうされたのですか?」
兄はクラヴァットを手で触りカメオが無い事に気付くと
「悪戯好きの友人に取られたんだ」
素っ気なくそう言う兄に
今気付くとか可笑しくないですか?とミッシェルは思った。
訝しげな眼差しを向けると
「今日は折角可愛いのにそんな顔をしては駄目だよ」
とミッシェルの髪に手をやりケヴィンは優しく、そして甘く囁いた。
マジ鼻血でます。
とミッシェルが悶えたている脇でケヴィンが口許を抑えて何やら思案していた。
そして各々にとって今日が分岐点になってしまった事に誰も気付かないでいた。
邸に着くとケヴィンは優雅にミッシェルの手を取る。
馭者に労いの言葉を掛けると邸の中へと入っていった。
家令のサムを初めとした数名の侍従と侍女が出迎える。
ケヴィンはサムに遅くなった事を詫び労りの言葉掛けた。
こういう気の使い方が出来る兄をいつも尊敬してしまう。
ふとケヴィンのクラヴァットに目が行く。
そんなミッシェルの様子に気付いたケヴィンは、ミッシェルにお休みのキスを額に落とすとそのまま自室へと戻って行った。
『ぼん』
と音が出そうな位顔を赤くしたミッシェルは侍女に傅かれながら自室へと戻って行ったのは言うまでもない。
翌日ゆっくりと眠っていたミッシェルの元に一通の手紙が届いた。
差出人は『ケイティ・ペレッタ』
ミッシェルはぼーっとする頭のままその手紙を開封する。
『昨夜はわざわざ我父の生誕祝にいらして頂き誠にありがとうございます。
折角お越し頂いたのにあまりお構い出来ず申し訳ございません。
色々お話したい事がありましたが、公の場では気が引けてしまい不愉快な思いをさせたのではと心が痛みます。
宜しければ本日の午後から御挨拶を兼ねてお伺い致したいのですがご都合宜しいでしょうか?
お返事は我が家の侍従へお願い致します。
ケイティ・ペレッタ』
読み終わるとミッシェルはペレッタ公爵家の侍従がまだ要るかを確認し、了承の返事をした。
何かしら?
どう考えても友好的になれるとは思えないのだけど…。
しかし、ペレッタ公爵家はラハン公爵と並ぶ名門中の名門。
政治的に派閥を効かせる両家が仲が良かったとは聞いた事がない。
また逆も然りだが…。
ケイティは何の意図があり私に合いに来るのか…。
取り敢えず本日の召し物はドレスという事になり少しだけ減なりした。
男装し初めてから気付いた事だが男性の服は兎に角楽である。
コルセットを巻かなくて良い事はさる事ながら動き安く自分で着る事も出来る。
最近では何故あんなキチキチのドレスを毎日着なければならないのかと本気で思った程だ。
私はため息を吐きつつ時計を見た。
既に10時を過ぎており思いっきり頭を抱えた。
「アン。悪いけど適当なドレス持って来て欲しいの。今日の午後ペレッタ公爵家の令嬢が訪問して来る事になったから」
ミッシェルは長年自分の身の回りの世話をしている侍女へ声を掛けるとあからさまに残念な顔をした。
うん。
知っている。
男装した私はケヴィンお兄様を中性的にした感じで、侍女達に人気がある事。
そんなに残念がってもらって兄大好きの私としては嬉しいけどね。
ミッシェルはそう思うと重い腰を上げた。
身支度を終えると昼食には少し早めだったが食堂へと足を向けた。
本日の装いはドローストリングの襟にAラインの濃い水色のドレスと少し落ち着いた物だった。
階下へ降りようと階段に差し掛かると階段を上がるケヴィンと遭遇した。
「おはようミッシェル。もう直ぐ昼食になるよ」
兄は私を冷やかした様にそう告げる。
「分かっております」
ぷん。と顔を赤くしながらそっぽを向く私に
「何だ珍しくドレスなど着て。さては昨日殿下と踊って女に目覚めたのか?」
兄のからかう様な声。
そんな訳ないだろう。と内心冷ややかな目になる。
これ以上は不毛戦になる事が見てとれた為に私は最初からネタばらしをする。
「昼食後ケイティ嬢がお茶をしにいらっしゃいますの。先程連絡が来ましたのでお受けしましたが、不味かったでしょうか?」
あまり両家は仲が良くない。少し軽率だったかと兄に問えば
「そうだね。けど、大人の事情に子供がそんなに気を使う事もないと思うよ。仲が良くないとは言っても仲が悪い訳ではないからね。中庭のサロンなどはどうかな。あそこなら本宅から離れているから落ち着いてお茶が出来ると思うけど。初めての来訪だから私も同席しようか?」
ミッシェルは兄の助言と申し出を有り難く受ける。
「可愛い妹の初めてのお友達だからな、兄として頑張らなければね」
兄は意気揚々とミッシェルを促し食堂へと向かった。
お読み頂きありがとうございます。
また読んで頂けたら幸いです。