間休 アイザック1
普通の暮らしと言うものに憧れた。
若い騎士達が話す他愛ない会話に……。
「友人と馬鹿やりました」
そう言って話す内容に……。
多分自分が経験出来ない事なんだと半ば諦めてもいた。
その中の一つに騎士仲間と休日の前の晩に酒盛りをしてそのまま翌日の昼間で皆と雑魚寝してしまった話があった。
どんちゃん騒ぎ。
アルコールの入ったそこは無礼講。
面白そうだな。
そう思い数少ない友人の泊まる今夜、それを決行した。
元々夜にアルコールを飲む習慣のなかった私の部屋には直轄地から毎回初物の酒が届いていた。
ズラリと並ぶ大量のボトル。
消費も出来て一石二鳥だ。
「こうやって酒を交わし合うのは初めてだな」
そう言ってミッシェルにグラスを差し出す。
ミッシェルは困った様に微笑みボトルを手にすると慣れた手付きで御酌する。
誰かと飲んだ事があるのか?
そう思うとムッとしてしまう。
自分にはそんな経験すらないのに。
これが王族と諸侯の違いなのか……そう思うと何か残念にも思う。
「では、我々の友情に」
ワイングラスを上に掲げ乾杯をする。
グラスに口をつけたミッシェルが花ほころぶ様な顔をする。
「美味しい。それに、なんて飲みやすいんだろう」
目を輝かせてそう言うミッシェルに思わず胸がほっこりする。
「美味しいだろう。私の直轄地自慢の新商品だからな」
確か今年の新作だったはず。
結構な売れ行きで今年の納税額も相当上がるだろう。
領地経営にもそろそ本腰を入れなければならないな何せ……
「一応成人して婚姻を済ませたら臣下に降る事になっているからな」
ミッシェルをみながらそう言いと何か胸がチクリとして思わずジャックの方を見てしまった。
すると私の意を汲んだのか
「私は嫡男ではないが、父が持っている伯爵位を貰う事になっている。領地は少ないからアイザックの補佐をしながらという話になっているんだが、ミッシェルはどうする?」
そうミッシェルに問い掛けていた。
ジャックの何の含みもないその問い掛けにミッシェルは複雑な顔をする。
そんなに私といるのが嫌なのか?
そう勘繰ってしまうには十分な間があった。
私の補佐をするか否かの話なのにな……。
そう思うと何故か悲しくなって来る。
「私と共にとは言わないから安心して良い。ミッシェルはミッシェルの道を進めば良いよ。私に捕らわれる事なんてないんだから」
そう言うとその後の言葉を飲み込む様にグラスを傾けた。
「ミッシェル。もう一杯」
「はいはい」
苦笑いしながらミッシェルは私のグラスにワインを注ぐ。
その液体を見ていたらふと先日のレイモンドが脳裏をかすめた。
「ところでミッシェル。レイモンドはあの試合以降何か言って来ているかな?」
本当なら『言い寄る』と質問したい所だった。
「いえ。私に敗れたのがよほど効いたのか何の音沙汰もないです」
苦笑混じりにそう言うミッシェルは何処か残念がっている様にも見えた。
だから、警告のつもりも兼ねてレイモンドの別の噂話もしてやる事にする。
「実はレイモンドは女性との噂もさる事ながら男性とも少し噂があるんだ」
目を見開きこちらを見るミッシェルがとても可愛く見える。
多分これは飼い犬が可愛いってヤツなんだろう。
その可愛い犬をあんな獣に奪われたくない。
「そう言う集まりがあるらしいのだが、そこに良く行くらしい」
「男性が男性を……ですか?」
唖然とそう言うミッシェルはやはりそう言う事には理解がないのだろうか。
「ミッシェルはそう言う人種をやはり差別するのか?」
切実にそう問い掛けてしまう。
「そう言うって、つまり同性愛の事ですよね」
微妙に言葉をひきつらせながらそう言うミッシェル。
何故か更に胸が苦しい。
「男が男を?有り得ないだろう。なぁアイザック」
半ば私とミッシェルの会話に入って来るジャックをこの時程うざく感じた事はなかったと思う。
そして、そんな自分のあさましい気持ちを知られたくなく会話を無理矢理終わらせた。
「いや、気にしないでくれ」
ミッシェルを見ていられずそっと視線を反らした。
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