忍び寄る敵10
「殿下、夜分申し訳ございません。宜しいでしょうか?」
壮年の男の声が扉の外から聞こえた。
一瞬で目が覚醒して行く。
「チャーリーか?どうした?」
「火急の用件がありまして」
切羽詰った様な声にジャックがノロリと立ち上がる。
そんなジャックにアイザックは軽く頷いた。
チャーリーってまさか魔術師団副団長の?
周辺の気配を探るが近くには他の人の気配はない。
完全に酔った状態のジャックが扉を開けると素早くチャーリーが部屋に滑り込む。
「火急とはただ事ではないな。何があったんだ?」
アイザックの問い掛けにチャーリーは剣呑な空気を醸し出した。
そして、その不穏な空気は部屋中に充満する。
「まずは確認をしたいのですが」
スッと目を細めながらチャーリーはアイザックを見た。
「本日中央塔に登られたとか……何をしに行かれたのですか?」
「流石に情報が早いな。ミッシェルに絶景を見せる為に登ったのだが」
半分本当、半分方便。
アイザックは嘘は言ってない。
「それだけでしょうか?」
チャーリーは納得いかないと更に食い付いて来る。
「他に何があると?」
「私の結界魔法に干渉してはいませんか?」
ああ。
あの継ぎ接ぎだらけの結界ね。
「そんな事はしてはいない」
はい。
これも半分本当、半分方便。
するとチャーリーは苛ただし気に私の方を見る。
「ミッシェル殿ですよね」
私を見たチャーリーの目が一瞬にして鋭くなる。
「私の結界に干渉しませんでしたか?」
「ありえませんね」
そんなヘマしていないし。
「どうも質問が悪い様ですね。あの塔の上で魔術を使いませんでしたか?」
今度は何も覆い隠す事なく、ダイレクトに質問して来る。
そうこれは嘘が言えない魔法。
チャーリーは入室すると共にこの魔法を発動させている。
「ええ。使いましたね。それが何か不都合でも?」
これは相当切迫しているな。
窮鼠猫を噛むって言う言葉があるが、まさにそんな感じだ。
「その魔術は私の張っている結界に悪影響をおよぼしています。直ぐに解いては頂けないでしょうか」
お願いと言うよりは命令に近い口調。
「影響はないですし、もし私が何かの魔術を張っていたとしても、この国で2番手になる貴方が、学生の身の未熟な私の魔術を破れないなんて、まさか言いませんよね」
挑発する様なそんな台詞にチャーリーの怒りが沸点を迎えた。
「この糞餓鬼がーーーっ」
そう言うやチャーリーから迸る魔力がピークを迎える。
「我が業火をその身に受けよ」
チャーリーから発した魔力が焔を形どる。
「ミッシェルーーー!!」
私とチャーリーの間にアイザックが駆け込もうとするのを見て思わず結界を張ってしまう。
そして、その燃える焔はミッシェル目掛けて走り出す。
「後がないんですかね」
そう言うと軽く手を掲げて焔へと息を吹き掛けた。
一瞬にして焔を包む氷結にチャーリー諸とも包み込む。
判断力の低下した状態の私は手加減なんて出来ない。
「馬鹿。生け捕りだぞ!!」
ジャックの声に目が覚めた様に頭がクリアになる。
一瞬にして凍ったチャーリーに、その場の空気も一瞬で凍った。
えっと………………。
「やり過ぎてしまった……」
そう言えば叔父から生理中とお酒を飲んだ時は極力魔術は使うなって懇願されていたんだっけ……。
私の張った結界を何とかこじ開けたアイザックがチャーリーの安否を確認している。
「あの……まだ生きていますよね」
そう言ってチャーリーの様子を伺うアイザックを見る。
「多分まだ間に合うと思う。直ぐにこれの解除を」
アイザックの言葉に私は急いでルーンを唱えた。
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