忍び寄る敵5
後半アイザック視点になっております。
宜しくお願いします。
食後、アイザックに誘われて中央塔の中でも一番高い塔へ登っていた。
螺旋階段は薄暗く所々に光を取り入れる為の窓があり、そこからの月明かりを頼りに階段を登っている。
アイザックの背を見ながら後に続く。
正直言うと生理終盤とは言え、この運動量はお腹に来るな……。
こういう生理現象に魔力は一番影響されるけんだけど、私の場合は色々と過剰反応してしまい。
その分体への影響も多い。
多分他の人とは魔力量が違う事と何か関係があるのかもしれない。
ボソリと、そんな事を思いながらアイザックについて行く。
既に登り初めてから一時間。
『身体強化』
『体重軽減』
の魔法を使っても膝が疲れてしまう。
並みの淑女ならもう既にバテていると思う。
そう思いため息をつくと
「ミッシェル。もう直ぐだ」
そう言ってアイザックは手を差し伸べて来る。
繋がれた手の温かみで冷えていた手が温もりを取り戻す。
「随分冷えているな」
アイザックが立ち止まり私の手を両手で温めてくれる。
思わず瞬きを何度もしてしまった。
「持病があるのに急がせてしまったからか?気が利かなくて申し訳ない」
アイザックが苦笑しながら私を気遣う。
正直いつものアイザックらしくない。
「大丈夫ですから。先を急ぎましょう」
思わずアイザックの手を振りほどき先を促す。
一瞬アイザックが渋い顔をするが、そんな事に構ってはいられない。
なんだ。
この動悸は!!
一瞬にしてトクンと跳ねる心臓に『私、本当に持病があるのでは?』と思ってしまう程だ。
しかし、私も騎士の端くれ。
これが何かなんて直ぐに分かる。
多分これは暗やみでよくある心の不安に人の温もりを求めてしまうヤツですよ。
生まれたばかりの雛鳥が親を求めるのと同じで『刷り込み』だ。
そうに違いない。
危なかった……あのまま手を繋いだままだったらアイザックを親鳥と勘違いする所だったよ。
そう当たりをつけた。
そんな事を考え更に10分程登ると塔の頂きにたどり着く。
一瞬にして夜風が髪を舞わせ視界を遮った。
「どうだ。凄いだろう」
アイザックの声に髪を掻き分けて周囲を見れば、城の全貌が見渡せる程だった。
「なっ。凄い。滅茶苦茶絶景だね」
思わず身を乗り出し城の細部を眺める。
「それに、城の結界も良く見える」
そう言うとうっすらと目を細めた。
「基本的に結界の中から結界を張る時は、既に張られている結界の内側に張るのがセオリーなんだけど」
「『けど』なんだ?」
「結構な綻びが出来ているから、そこから魔方陣を巡らして張り直しするね」
私はそう言いながらアイザックに笑いかけた。
「出来るのか?」
怪訝そうにアイザックが問い掛ける。
「多分大丈夫」
張ることに問題はない。
あるとしたらこの腹痛絡みだけど、今回は攻撃系魔法じゃないから大丈夫。
「この規模の結界魔法は初めてだから、魔力切れで倒れたら今度はおんぶでお願いします」
そう言うとアイザックが「お前な~」と呆れた声を出す。
「前回のが恥ずかしかったからお願いしているのであって、別に他意はないから」
そう言うとプイっとそっぽを向いた。
「分かった。今夜は私が保護者なのだから安心して張ってくれ」
少し困った様な笑いを見せアイザックは了承する。
「じゃあ。行きますか」
私はそう言うと城の敷地を見回し魔力を放出し初めた。
*******
ミッシェルから放出されるけたたましいまでの魔力は、意思を持つかの様に結界の無数の綻びがから外へと新たな結界を張り巡らして行った。
「凄い魔力だ」
多分自分がやったら完成出来るかどうかが怪しい。
何せ今張り巡らされている結界より一回りも大きな結界を側面から張り直しているのだから。
「内側に作れば今使用している魔力の半分で形成出来るだろうに」
中にいる敵に知られない様にだろうが、本当に面倒な術式になっている。
『魔力の隠匿』
『条件ツキ結界』
結界は5分程で完成するが、完成と同時にミッシェルがその場に崩れ落ちてしまった。
私は空かさずミッシェルを支える。
「約束だけどね」
そう言うとミッシェルを胸に抱き寄せて持ち上げる。
「今はどうしても君の温もりを手で感じたいんだ。寝ている君には判らないだろうから。……ごめんね」
そう言うとミッシェルの髪にそっも顔を埋めた。
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