模範試合12
昼食を堪能?
デザートを堪能?
無理です。
薬湯を下さい。
先程から暖かいスープをチビリ……チビリ……と飲んでいます。
「どうしたんだミッシェル。君の好きなデザートが沢山あるよ」
ジャックが指を指した先にはフワッフワの生クリームにチョコや果物のトッピングされた美味しそうなデザート達がひしめいていた。
「ジャック……ご厚意は嬉しいのですが……」
軽く下腹部を押さえて唸る私に
「お前、腹でも下ったのか?」
と、下品な事を言って来るジャック。
今食事中だから。
そう思いキリリと睨み付けてやる。
それに、花も恥じらう乙女に向かって『腹でも下ったのか』なんて、なんて失礼なんでしょう。
かと言って「生理だよ」とも言えず悶々とする私。
いや……我慢していたら脂汗も出てきたよ。
痛みでうーっうーっと唸る私の体が一瞬で宙に浮いた。
何事?
と思うとアイザックの顔が間近にあり、お姫様抱っこをして医務室目掛けて歩きだしている所だった。
「なっなななな……っ」
思いっきり赤面してしまう。
「あまり動くな。試合前に体調を整えるのも騎士の努めだぞ」
窘める様にアイザックに言われるが
「そ……それも、そうなのですが……何故にお姫様抱っこ?」
この体制って心臓に悪いよ。
アイザックの唇に丁度目が行くと言うか……。
意識していなくても意識してしまうと言うか。
うっ……ありえん。
何でしょうか?これは?
何か変な動悸が……生理痛のせいでしょうか?
そう思っている私の前でアイザックは大きな溜め息を吐く。
「お腹が痛いのだろう?そんなやつをおんぶしたら益々お腹が痛くなるだろう?これはそういった考慮から導き出した最良の移動手段だ」
えっと……何か面倒臭い説明だな。
頭の片隅でそんな事を考えてしまう。
「しかし……」
アイザックが怪訝そえに言葉を紡いだので、私はアイザックの方を見た。
「ミッシェルは男のくせに軽いな、こんなんじゃ立派な騎士になれないぞ」
「余計なお世話です」
「それに少し体も柔らかい」
アイザックはそう言うと抱き上げている手に力を入れる。
どさくさに紛れて何感心しているだ。
って言うか腕や手に変な力を入れないで欲しい。
「少し筋肉をつけないといけないな」
そっちかい。
文句の一つでも言おうと口をハクハクさせているとアイザックが困った様に笑った。
「そうやっていると何故か誘われている様に見えて困ってしまう。これでも私は衆道ではないと思っていたんだが……困ったな……」
本当に困った様にするアイザック。
「いえ……アイザックは至って普通の男子だと思います。大丈夫です。あんなに美しい婚約者だっているのですから」
「……」
一瞬アイザックが私をじっと見つめる。
「何でだろうな。ミッシェルから他の女の事を言われると胸がチクリとする」
心底困った様に言うアイザックだが、
「何バカな事を言っているんですか。アイザックの婚約者の話ですよ。他の女とか他人行儀は良くありません」
私はピシャリと言い放つ。
「そうか?」
その時丁度医務室まで付いたらしく自動で扉が開く。
「何だ?話し声が聞こえると思っていたらアイザック殿下ではありませんか?それも女子生徒を抱き上げて……有らぬ噂が立っても知りませんよ」
校医の先生がアイザックにウインクしながら注意をする。
ってお兄様?
「リアン殿。ミッシェルは貴方の弟でしょう。冗談はそれくらいに」
はぁ……弟……ね。
まぁ、アイザックは私を男だと思っているんだから当たり前の反応か。
……って。
それより何故お兄様がここに?
王宮で文官をしているんだよね?
思わず胡乱な目で兄でありラハン公爵家の嫡男のリアンを見てしまった。
するとリアンはニコリとして私達の方へと足を向ける。
「私のミッシェルは重いでしょう。そろそろ返して頂きたいな」
「何?」
一瞬アイザックの声に不機嫌なものが混じった様に思うのは……気のせいかしら?
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