模範試合10
多分普通の貴族なら王族に勝つような事はしないのだろう。
けど、私は違う。
王族を差し置いて総代を努めた一市民だ。
そう自負している。
それも、事務局長であり王弟殿下でもあるウィル殿下にあれほど言われたのだから。
「甥のアイザックは手抜きやおべっかが大嫌いなんだ。君にお情けで総代を譲って貰ったと知ったら、その怒りは火を見るより明らかだ。これは後々に君の兄君達の出世の妨げにもなるだろう」
と。
故に総代も嫌々引き受けたのだ。
そして、本日王家縁のジャックと最初の試合になる。
続いてアイザックとレイモンド。
次がレイモンドとジャック。
最後に私とアイザックとなっている。
私が一番休めるが、そこは女性と言う事で勘弁して貰いたい。
だって、先生方は私の本当の素性は知らないけれど、性別は知っているんだから。
それを敢えて皆に教えない所は、貴族の下手ないざこざに巻き込まれたくないからだろう。
屋外の訓練場の中央に並んだ私とジャックは軽く礼を取ると、所定の距離を取り先生の合図を待つ。
「ミッシェルと打ち合うのは初めてだよな」
そう言われればその通りである。
「総代を努めたと言う事はアイザックより腕が上という事かな?」
嫌味たっぷりにジャックは問い掛けて来る。
確かにこいつは最初から無礼な態度だったよな。
アイザックだけしか見えていない様な節もあるし。
「『兄と互角位には』と、自負していますよ」
敢えて魔法騎士団長をしている兄を引き合いに出してみると、ジャックが私を睨み付けて来る。
「団長クラスを引き合いに出すとは、とんだハッタリも良いところだ」
あくまでも相手にしない言い種。
まぁ、そうだろうとは思っていたけどね。
そんな私達の会話を聞いていた先生が大きく溜め息を吐いた。
『またこのパターンか』
と。
先生の胸の内我知らずと私はジャックを見据える。
そんな二人の間に先生の号令が響いた。
「それでは試合を開始する。はじめ」
開始の合図と共にジャックが一足早く動く。
一瞬で間合いを詰めたと思うや激しい一合を合わせた。
ギリギリと刃の音をさせながら一歩も動かない。
「貴方の本気はこの程度ですか?」
そう問えば、嫌味に聞こえたらしいジャックが『重圧』の魔法を掛けて更に力押しして来る。
一瞬にして私が一歩下がると
「これでもそんな減らず口が叩けるか?」
口角を上げながらジャックはミッシェルに嫌味を言う。
更に『重圧』を掛けて来るが、それにはもう対処済。
剣と剣が触れ合った所から『重力遮断』の魔法を掛ける。
勿論ジャックには気付かれない様に隠匿魔法を忍ばせて
「伊達に今までアイザックの側近をしていた訳ではないのだよ」
ジャックは勝機とばかりに大きく踏み込んで来た。
『何て浅はかな行動なのだろうか?』
私は不適に笑うと軽く一振りしジャックをいなす。
ジャックはその功いのまま地に倒れて行った。
「勝者ミッシェル」
先生の言葉が無情に響き渡る。
握り拳を作ったジャックが悔しそうに地面を叩いた。
『本当に困った人だな。でも、いつも食事を頂いているし』
そう思いジャックの方へと足を向け、そっと手を差し出した。
ジャックは一瞬嫌な顔をしたが、ミッシェルの手を取り立ち上がる。
「今日は完敗だ。これからはアイザックを補佐する側近同士として頑張ろう」
そう言いながら固く握手をする。
……って言うか、私側近じゃなくって云わば小間使いの方だと思うんですが。
そう思っていると次の試合に出るべくアイザックが私の所までやって来て
「験担ぎだ」
そう言ってジャックの手を離させると自身も固く握手をして来た。
験担ぎ……そうか、勝った私にあやかるという事だな。
そう思いアイザックにされるがまま握手に応じた。
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