模範試合7
「アイザック。お疲れ様です」
レイモンドと話し初めてからこちら、ずっとアイザックに睨まれていた様に思う。
「アクセル辺境伯の嫡男と仲が良かったか?」
怪訝そうにそう尋ねられれば答えは「否」だろう。
「初めてお話するのに妙に馴れ馴れしい方のようですね」
私が困った様にそう言うと
「あいつも悪い奴ではないのだが、色々と困った男なんだ」
苦笑気味にアイザックはそういうが『悪い奴ではないのに困った男』とは何だろう?
私の考えが分かってかアイザックが溜め息を付きながら「話が長くなるから昼食にしようか」と私達を促す。
勿論戦の前の腹拵え。
私は素直に同意するといつもの場所へと移動した。
*******
本日もラウンジの一角を陣取りロイティ公爵家の料理を頂く。
相変わらずの美食振りな料理に舌鼓を打つ。
そして、今日も相変わらずデザートが充実している。
「ミッシェルは相変わらず主食よりデザートだな」
ジャックが呆れる様にそう言う。
何せ我が家は育ち盛りが多いから主食に力が入っている。
デザートなんて休みの日のお茶の時間位しかお目にかかれないよ。
「すみませんね。甘い物は大好きなもので」
慇懃にそう言えばアイザックが珍しくホークを落とす。
「アイザック。大丈夫ですか?代わりのホークです」
私はそそくさとアイザックに新しいホークを握らせると落ちたホークを拾い侍女に渡す。
侍女は深々とお辞儀をして受けとるとさっと後ろへ退く。
私は席に戻るとアイザックへ水を向けた。
「先程のお話の続きをそろそろ聞きたいのですが」
そう言うと三人の前にお茶を出した侍女達がさっと距離をとった。
ロイティ公爵家の侍女は随分出来た侍女の様だ。
「そうだな」
そう言うとアイザックは一口お茶を口にする。
「騎士にありがちなのだが、色と酒が多いに好きでな、夜会では色々と浮き名を響かせている」
色と酒……なんか嫌な予感しかしない。
「あの。レイモンド様は私達と同い年ですよね」
「ああ。ここへ入学した月に成人し、夜会へ出席するようになった」
「それって、まだ3ヶ月やそこらですよね」
「そう。最初の夜会から豪快にやらかしてくれたんだ」
アイザックは項垂れる様にし頭をかきむしる。
「次期辺境伯なのに婚約者もいずあの見た目の為に、多くの令嬢が入れ食い状態だったと聞く」
ジャックが額に手を当てながらそう呟く。
「次々と会う約束を取り付けたレイモンドは毎夜令嬢をとっかえひっかえし春を謳歌したようだね」
そういいながらジャックは更に溜め息を吐いた。
「お陰でその事後処理を何故か我々がさせられたんだ」
「何故です?」
「以前にも話していたと思うが、内政の事は全て私が取り仕切っている。今回の件は被害者貴族達から辺境伯の監督不行き届きでレイモンドを廃嫡させるべきだという意見が多くてね」
「被害が甚大だったんだよ。手を出した令嬢の中から誰か婚約者を選ばせようとしたのだが、レイモンドは本気になれる女がいないとごねてね」
「伯にはもう一人子供がいるのだが、今はまだ7歳で体が弱い。とても国境沿いの領地を任せられない」
「伯には多額の慰謝料を払って貰い。その後は仕方なく我々がレイモンドを監視する事で被害にあった貴族と一端は話がついたんだ」
「弟が体が丈夫なら廃嫡もありだったんだが、なかなか難しいんだよ」
『アホか……』
そう思いさっきのレイモンドを思い浮かべる。
「それで、レイモンドとどんな話をしていたんだ」
アイザックが核心をついて来る。
「そうですね。ペレッタ公爵家の夜会で私を見たらしく、挙げ句ケヴィン殿の婚約者だと勘違いして、ケヴィン殿から自分に乗り替えないか?とのお話がありました」
再びアイザックがホークを落とす。
今度はテーブルの上だった為にそのままアイザックが拾う。
「それで何と答えたんだ」
「自分より弱い男は嫌いだと言っておきました」
再びアイザックがホークを落とす。
「大丈夫ですか?アイザック」
とうとう手に来たか?
そう思い心配気にアイザックを見る。
「いや。大丈夫だ」
と静に言われた。
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